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三好由純氏インタビュー
オーロラの観測を通して「宇宙天気」を予測する

宇宙空間プラズマ物理学がご専門の三好由純氏は、オーロラの観測を通して、宇宙空間の環境「宇宙天気」の変化を研究されています。2024年2月7日、神津カンナ氏(ETT代表)は、三好氏が教授を務められている名古屋大学宇宙地球環境研究所を訪れ、貴重な観測映像・音声記録などを視聴させていただきながらお話をお伺いしました。

オーロラは宇宙の電子が高さ100km位で大気と衝突する発光現象

神津 三好さんはどういうきっかけでオーロラの研究を始められたのですか?

三好 私は元々、宇宙環境の変化に興味があり、宇宙空間プラズマ物理学の研究をしていました。「宇宙」と言うとよく、遠いアンドロメダ星雲などをイメージされるのですが、高さ100kmより上がいわゆる「宇宙空間」と呼ばれる領域になります。私は、この宇宙空間プラズマ物理学を専門とし、ジオスペースと呼ばれる地球に比較的近い宇宙空間や、太陽と地球・惑星の間の研究などを行っています。ジオスペースは、私たちに一番身近な宇宙ですが、高度数百kmでは国際宇宙ステーションが、また高度数百kmから高度数万kmでは多くの人工衛星も運用されています。オーロラの研究の入り方は人それぞれと思いますが、私は宇宙環境の研究を進めていく中で、「宇宙空間の電波」と「オーロラが瞬く現象」がつながっているのではないかと考え、明滅するオーロラの研究をしようと考えました。

神津 「プラズマ」とは何ですか?

三好 温度を上げていくと「固体」が「液体」になり、さらに「気体」になりますが、もっと温度を上げていくと「プラズマ」になります。酸素や窒素には真ん中に原子核があって周りを電子が回っていますが、プラズマになると電子と原子核が切り離された状態(電離)になります。

神津 プラズマは、「固体」、「液体」、「気体」に次ぐ「第4の状態」なのですね。

三好 太陽からは太陽風と呼ばれるプラズマの風が起きていて、たまに太陽表面で爆発が起こります。そのとき、プラズマの塊が太陽系に放出され、そこにたまたま地球がいるとプラズマの塊がぶつかります。すると、地球の宇宙環境が乱れて宇宙嵐という状態になり、オーロラが激しく光ります。これは一例ですが、私たちはそのような「太陽と地球のつながり」を理解するためにオーロラを見てるとも言えます。

神津 そもそもオーロラとはどのような現象なのですか?

三好 オーロラとは、宇宙空間から降って来る電子が、高さ100km位の薄い大気にぶつかって生まれる発光現象です。太陽面での爆発に伴って、電子がいっぱい降って来るとオーロラも明るくなり、電子が変化するとオーロラも変化するので、オーロラを通して宇宙環境の変化を調べているとも言えます。

神津 オーロラはとても幻想的でロマンティックに見えるのですが、三好さんは研究対象として見ていらっしゃるのですね。

三好 オーロラは色や動きなど、一つとして同じものはありません。観測して、データを分析あるいは理論研究やコンピュータシミュレーションを行って、プラズマ物理学などの物理学の法則にもとづいて理解しようとしていますが、オーロラのダイナミックな変化を見るたびに、何が起こっているのかを知るのはとても難しいなと感じています。

神津 海外にオーロラを見に行くならいつがいいですか?

三好 よく聞かれるのですが、日本のような緯度が低い所で明るいオーロラを見るなら、太陽面での大爆発に伴った宇宙嵐の時になりますが、オーロラそのものは北米や北欧、また南極などの極地方では、基本的に毎日どこかで見られます。雲に隠れると見えないので、まずは晴れそうな所に行くことが最優先です。「どんなカメラがいいか」もよく聞かれますが、最近はスマホのカメラの性能がとてもよくなっていますので十分撮れます。三脚を持って行かれること、またしっかりと防寒対策をされることをお勧めします。

神津 そういえば昨年、日本でもオーロラが見えたと話題になりましたが?

三好 2023年12月1日、北海道で20年ぶりに肉眼でオーロラが観測されました。江戸時代には愛知県でも北の空に放射状の赤い光が見えたことも記録されています。地球の磁力線に沿って、電子が降って来る構造が見えたのでしょう。驚いたことに、同日に日本各地や中国などでも同様の記録があります。人工衛星を用いたオーロラの観測が始まって50年位経ち、オーロラは太陽と地球のつながりの中で起こっていることがわかってきています。一方、古典籍の研究からは、今よりももっと激しいオーロラ活動が起こっていることもわかってきました。そのような過去の宇宙嵐や、太陽での大爆発に伴う宇宙環境の現象についても、私たちの名古屋大学宇宙地球環境研究所で研究が進められています。

神津 オーロラの研究にはいろいろな連携が必要そうですね。

三好 通常、日本では、ほぼオーロラが見えません。一方、オーロラは国をまたいで発生するグローバルな現象ですので、元々、国際連携が盛んな分野です。いろいろな国のいろいろな研究者が様々な手段でオーロラや宇宙環境の研究を行っており、それぞれのデータや知見を持ち寄ることが重要です。私たちの分野では、観測データは人類共通の財産という考えがあり、観測したデータを無償で世界に公開するという取り組みが何十年以上も続いていますし、私たちの名古屋大学宇宙地球環境研究所でも様々なデータを公開しています。

明滅オーロラの正体は宇宙のさえずり(コーラス電波)

神津 なるほど。三好さんの研究チームは2022年、NASAのオーロラ観測ロケットを打ち上げましたが、それでどのようなことがわかったのでしょう?

三好 氷点下38度のアラスカで、明滅するオーロラへNASAのロケットを打ち込み、約10分間、オーロラを起こしている電子や高度数百kmからのオーロラの観測などに成功しました。

神津 オーロラの研究にはロケットが適しているのですか?

三好 人工衛星は200km位までしか下がることができず、気球は50km位しか上がらないので、高さ100km位で光るオーロラを直接観測する手法は、今のところロケットしかありません。光を見るだけなら地上でもできますが、オーロラを起こしている電子や、オーロラが光っている高さで起きている磁場の変化などは、オーロラが光っている場所に行かないとわからないので、観測ロケットを打ち上げ、データを分析することはとても重要です。

神津 オーロラ観測では2005年にAXAの小型科学衛星「れいめい」も打ち上げられましたよね。

三好 「れいめい」は世界で初めて、高さ650km位からの衛星カメラから、高さ100km位のオーロラを観測しながら、オーロラを起こしている電子の同時観測に成功しました。例えばクッキリしたオーロラにはこういう電子が対応しているといった一対一の対応がわかりました。また、2016年にはJAXA宇宙科学研究所が探査衛星「あらせ」を打ち上げ、オーロラの明滅を起こしているメカニズムは、「宇宙のさえずり」と呼ばれる宇宙空間のコーラス電波であることを世界で初めて明らかにしました。コーラス電波を再生したものを聞いてみてください。
〈参照サイト〉 https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp/outreach/sound.shtml.ja

神津 本当ですね! 電波を音波に変えたのですね。まさに小鳥のさえずりのようですが、宇宙では音は聞こえませんよね?

三好  そうです。今聞いていただいているのは、宇宙で観測した電波を記録して、そのままスピーカーに流している音です。音が高くなっているように聞こえるのは、電波の周波数が変わっているからです。このような詳細な観測は、私たちがまさに待ち望んでいたものです。さらになぜ周波数が変わるのかなどについても、理論的な研究も大きく進んできています。この「宇宙のさえずり」は、第一次世界大戦中、戦場の通信機から明け方になると小鳥の声が聞こえることから、「ドーン(dawn)・コーラス」と呼ばれていました。

神津 「宇宙のさえずり」は地球に何か影響するのでしょうか?

三好 これも最近の私たちの研究から、オーロラを光らせているのは1万ボルト位の電子(1万電子ボルト)で、同時に1千万ボルト位の高いエネルギーの電子も一緒に降って来ていることを発見しました。高いエネルギーを持つ電子は、オーロラが光っている高さ100km付近を突き抜けて高さ60km位まで降り込んで来て、オゾンを破壊することがわかってきています。オゾンの破壊、すなわち宇宙が地球の大気を変えるということで、宇宙と地球の新たなつながりとして注目されています。また、活発なオーロラが起こると宇宙空間に大電流が流れます。地上の送電網に過剰に電流が流れたことで、1989年には北米で大停電が起きて数百万人が影響を受けたこともあります。

神津 オーロラはきれいですが、実は怖いことも起きるということですか?

三好 太陽面で大きな爆発が起こると、宇宙嵐と呼ばれる宇宙環境が大きく乱れた状態になります。宇宙嵐の時には、オーロラが激しく変化し、地上にも様々な影響が起こります。2003年には人工衛星が壊れて、機能を喪失することもありました。日本でも、江戸時代には愛知県(尾張地方)でオーロラが見えたことが記録から明らかになっています。これは、将来に同様の大きな宇宙環境変化が起こることを意味しています。

「宇宙天気予報」によって宇宙防災を考える時代に

神津  では、地球への影響を予測する研究も始まっているわけですね?

三好 「宇宙天気予報(スペースウェザー・フォーキャスト)」と言って、宇宙環境の変動の予測研究も進められています。宇宙天気は太陽が起点なので、太陽面での爆発はいつ起こるか、どの位の規模か、いつ地球に影響が来るか、その結果、どんな影響がどこに出るかを理解し予測していくことが重要です。日本では、2002年に総務省が報告書をまとめました。また、欧米でも盛んに宇宙環境に関する防災計画がつくられています。太陽面の爆発は止められませんが、あらかじめ起きたときに影響を評価し様々な対策を考えることによって、インフラへの影響を小さくする必要性が高まっています。

神津  人工衛星を利用して現在地を測定するGPSも便利に使っていますからね。

三好 今や宇宙インフラがないと社会が成り立たなくなってきています。江戸時代に太陽が今までにないほど大爆発した時には、”空に赤い何かが見えた”で済みましたが、今、同じことが起こると社会に大きな影響を与えます。そのため、宇宙天気に伴う災害は、文明進化型の災害とも呼ばれる新しいタイプの災害になっています。だからこそ台風や地震のような自然災害と、同じようなレベルで「宇宙天気予報」が欠かせません。

神津 「太陽が大爆発したので○日後に注意してください」と予報が出ることになるのですか?

三好 日本や世界には「宇宙天気予報」のウェブサイトが数多くあります。太陽面爆発や、地球周辺の宇宙環境変化に対する現況そして予測の情報が発信されています。日本でも、宇宙天気、宇宙天気予報の研究が、より精度の高い予測に向けた研究が続けられています。しかし、太陽が爆発をして、数日後にその影響が地球に到来するという予測を出したとしても、その時の太陽からのやって来るプラズマの流れ(太陽風)や含まれている磁場の状況によりますので、大きな変化が起きないこともしばしばあります。ウェブサイトをはじめとする宇宙天気、宇宙天気予報の情報は、民間企業でも活用を進めているところですが、今後さらにより規模の大きい宇宙天気現象が起きた場合の対策、さらには防災計画はまだこれからの議論かと思います。

神津 「宇宙天気予報」は地球天気予報と比べて、かなり遅れていますよね?

三好 歴史や観測体制の違いがありますので一概に言えませんが、一声50年遅れていると言われています。地球には至る所にアメダス(地域気象観測システム)があり、各国の気象衛星が地球全体を監視していますが、宇宙空間は広いのに観測地点は少なく、観測体制が十分とは言えません。また、私たちは、宇宙環境の変化をプラズマ物理学などの物理法則にもとづいて考える、また、そのような現象をシミュレーションしてどう変化するか予測につなげていこうとしています。物理法則の理解そのものも立ち後れています。今の天気予報は優れていて、15分後に雨が降ることもわかりますよね。でも、今の宇宙天気の現状では、たとえば「来週オーロラが見えやすい」とはお伝えできますが、オーロラが爆発的に輝く日時や場所まではわかりません。

神津 日本はとにかくまずは観測、監視体制を充実させることが必要ですね。

三好 太陽は何十億年という年齢を持つ星で、爆発する時もあれば穏やかになる時もあり、それに伴って宇宙環境も様々に変化します。その時間スケールに対して、近代的な太陽や宇宙環境の観測研究はとても短いので、これからどんな変化が起きていくかということはまだよくわかっていません。そのため、継続して観測すること、そのデータを蓄積すること、さらに観測自身の精度を上げていくことがすごく大事です。また、私たちは宇宙環境の研究を通して、「プラズマ」という現象も理解しようとしていて、宇宙の研究を進めながら、プラズマ物理学の研究の発展にも貢献していきたいと思っています。

神津 遠い宇宙よりも近い宇宙空間を研究することで何か苦労はありますか?

三好 遠い星は目でも見えますが、プラズマは光らないので、地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)の全体像が見ることができません。人工衛星が集めてきたデータをつなぎ合わせて物理学の法則から考えていくのは、とてもおもしろい一方で、一望できないというジレンマもあります。ですから、二次元の面に映し出されるオーロラは貴重な研究対象なのです。アラスカでロケットを打ち上げた時の動画をお見せしましょう。オーロラの光がどんどん強くなり、激しく動き始めます。私たちも真下で見ていましたが、空が裂けて光の筋がバーッと溢れ、宇宙からたくさんのエネルギー、電子が降り注いでいることを感じて、皆「すごい!」としか言えませんでした。ちなみにオーロラは音を出しませんので、静寂な空間の中で激しい変化が起きているのは本当に不思議です。

神津 すごい映像ですねえ! 実際に見たり聞いたりするとわかるということはあるので、可視化・可聴化はとても大事なことだと思います。

三好 私たちは観測したものを数値化して分析していきますが、自然現象は数字の羅列ではありません。解析しているコンピューターだけで、データ分析するだけでなく、現場に行って五感で感じること、オーロラであればすごく寒い場所、暗い場所の上の超高層で、宇宙と地球がつながっているという感覚を持つことは、オーロラを理解するために大事だと思っています。そうでなければパソコンの中でゲームをやっているバーチャルとほぼ変わらなくなるので。一緒に研究している学生の皆さんも、できるだけ現場に一緒に行って、自然の中で起きている本物を実感してほしいと思っています。ちなみに、観測に行くと、日本人観光客の方に会うことも多く、うれしく思っています。とはいえ、現地に行くのも簡単ではありませんので、今の太陽や、地球の周りの宇宙環境、さらにオーロラがどうなっているのか、インターネットでライブ情報が発信されていますので、ぜひ見ていただきたいと思います。

神津 私たちは近視眼的にものを見がちですが、宇宙の中の一人だと感じることは大切ですね。

三好 これまで人間は、ずっと地球上にいて、宇宙は生活の外、風景みたいに感じていました。でも、これからは月や火星に行く、人が常駐する、生活する時代で、宇宙が人間の生活圏になっていくでしょう。私が若い頃には、月や火星に住むというのはまだSF的なところもありましたが、今の若い学生の皆さんは、自分の未来の道筋の中に、宇宙を見ていて、本当に羨ましい、頼もしいと思っています。

神津 私もこの目でオーロラを見て、宇宙とのつながりを感じてみたいと思います。本日はありがとうございました。


対談を終えて

三好先生の言葉で印象に残ったものがある。それは「自然現象は数字の羅列ではない。ディスプレイの中のデータを分析するだけではなく、現場に行き五感で感じなければいけない。厳しい寒さの中でオーロラを見たとき、宇宙とつながっているんだという感覚を持つことこそ大事です」というものだ。科学の最先端の一つである宇宙を研究している先生の口から、現場とか五感という単語が出てきたことに感動した。 もう一つ、心に残った言葉がある。「これまで人間はずっと地表にいたので、宇宙はまるで風景みたいに私たちはずっと感じていました」 という言葉である。これも宇宙と私たちとの関係を見事に言い表していると思った。 三好先生は、人間の小ささと未熟さを十分に承知している。けれどもだからこそ、人間に与えられた五感を駆使し、オーロラという扉の向こうにある宇宙を研究するだけでなく、つながる感覚を大切にしたいと言っていた。先生の言葉は、ものかきの端くれである私を凌駕するほど詩的で、ロマンに満ちあふれていた。こういう先生に説かれたら、見知らぬ世界もさぞかし魅力的だろう!オーロラという扉の向こうには、風景ではない「宇宙」が広がっている。五感を研ぎ澄ませ、一重一重とベールをめくっていったら、きっと私たちは何かに気づくかもしれない。その気づきを三好先生は待っているのだろう。

神津 カンナ


三好由純(みよしよしずみ)氏プロフィール

名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授
東北大学理学部宇宙地球物理学科卒業、東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻修了、博士(理学)、日本学術振興会特別研究員(PD)、米国ニューハンプシャー大学客員研究員、名古屋大学太陽地球環境研究所助手、助教、准教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所准教授を経て現職。研究内容●ジオスペースシステム科学、特に放射線帯、プラズマ波動粒子相互作用に関するデータ解析、コンピューターシミュレーション●EMCCD, sCMOSを用いたオーロラの高速撮像観測とデータ解析●データ同化、機械学習にもとづく放射線帯予測の研究●数値宇宙天気予報の基礎研究。主な著書『太陽地球圏』(共立出版)など。

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