私はこう思う!

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ゼロリスクは目指すべきなのか?時間の多様性とエネルギー消費

出光 一哉氏 kazuya idemitsu
東北大学金属材料研究所特任教授

私ごとながら、令和5年3月末に九州大学を定年退職し、4月から現職に再就職している。これまでよりもストレスの少ない生活を送っている。東北大と言いつつ、仙台ではなく、茨城県の大洗町に勤務している。

最近(令和6年3月12日)、大洗町全域で朝から断水が発生した。給水配管に漏えいが見つかり、非常に広域の断水が半日以上続いた。当日午後6時ごろには断水は解除されたが、濁り水が出るため飲料としては使わないよう連絡があり、その後数日は赤茶けた風呂に入ることになった。大洗町の対応は迅速で、飲料用の給水所だけでなく、仮設トイレも各地に設置されたが、影響は大きかった。翌日も、学校が休校となるなど影響は続いた。老朽箇所は直径40cmの太い管で、設置されたのが昭和46年で50年ものだとのこと。町内の総延長130kmの水道管のうち、24kmが漏水の起きた管と同時期に設置されたもので、今後も漏水のリスクは続く。

先日、ETTメンバー会議で、東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授の講演を拝聴し、生命は個として死ぬことで種としての進化を続け、生存戦略としていることを学んだ。思えば日本人は世界的にも特殊な所に住んでいる。自然災害の発生確率が非常に高い所に住み続けていて、災害に遭ってもすぐに復興していく。講演にあった生命の進化のように、破壊と復興を繰り返し、強靭化を繰り返していた。骨折したところが前よりも強くなる、筋トレで筋肉をいったん壊してより太くするのと同様である。しかし、新陳代謝が悪くなると、この速度感が下がってくる。老化によることが大きいが、楽な方に流れて、回復力が落ちているのではとも考えられる。

私はここ30年ほど、冷房も暖房も使わない生活を心がけている。夏は30℃以上、冬は一桁℃のところで寝ていた(良い子は真似しないように)。しかし、大洗の冬は福岡よりも寒く、ついに堕落の象徴である「こたつ」を導入した。「こたつ」を使うと足元が暖かく快適であったが、使わない時の寒さの感じ方がそれまで以上に耐え難かった。人類は楽を求めて技術を開発したが、生物としての強靭さを失いつつあるのではないだろうか?被害やストレスを減らすのは当然としても、全くのストレスフリーは回復力の低下をもたらすように感じる。ゼロリスクを目指すのではなく、小さなリスクは許し回復力を鍛える方が、正解のように感じる。

(2024年4月)

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