日本における石油の年間消費量は約2億キロリットル、ドラム缶約10億本で、自動車や飛行機などの輸送用をはじめ、火力発電や灯油ストーブといった熱源として、またペットボトル、化学繊維などの化学製品として活用されており、石油はさまざまな分野で国民生活や経済活動に不可欠です。
かつて懸念されていた埋蔵量は、地質解析や採掘の技術進歩と原油価格の上昇により採掘可能量が増加し、可採年数はIEA(国際エネルギー機関)の試算によると約200年分あります。アメリカでは、これまで採掘できなかった
埋蔵量は安心でも、その後のサプライチェーン=供給連鎖がうまくつながらないと、エネルギーセキュリティに支障が出てきます。今年初め、イランの核開発疑惑でアメリカ、EUがかけた金融制裁に対し、イランによるホルムズ海峡閉鎖が危惧され、原油輸入の85%が中東頼みという日本では危機感をつのらせました。
一方で、中東からのタンカー輸送が20日かかる日本では、万が一に備えて官民による石油備蓄が義務づけられ、およそ200日分備蓄されています。また各国間での融通など緊急対応処置の国際協調も取り決められているため、70年代のようなオイルショック危機は回避でき、エネルギーセキュリティは格段に高まっていると考えられます。
このように安定供給に対する取り組みを図る石油業界にとって一番の問題は、歯止めがかからない国内の需要減少です。2010年度には1994年度のピーク時に比べ20%需要減となり、経産省の予測によると2020年度にはピーク時から半減します。若者の車離れや軽自動車への買い替えといったライフスタイルの変化や、燃費の向上、省エネの進展、燃料転換も一因です。
原油は製油所でガソリンや石油製品に加工されていますが、国内に27カ所ある製 油所の整理・集約が今後も加速すると思われます。
ガソリンスタンドは1994年度の全国6万軒をピークに、2012年度には3万8,000軒にまで減少。この傾向は今後も続くと思われ、自動車が生活必需品である山間地や僻地のガソリンスタンド閉店が深刻な社会問題になっています。特に北国では灯油の宅配が冬場の命綱であるため、生活拠点としてのガソリンスタンド減少については石油業界としても注視していかなければなりません。
1990年代から2000年代の規制緩和により、石油業界はすでに自由化が完了しており、経営合理化は避けられない現実で、生活必需品であるエネルギーの安定供給は業界の使命とはいえ、サプライチェーン維持のためのコスト負担や石油需要の確保が課題となっています。
ところで1973年度の第一次オイルショック時には、発電電力量構成比の7割近くを占め、過度ともいえる石油依存でしたが、2010年度には1/10にまで比率を下げています。エネルギーのベストミックスにおける石油の位置づけについては、今後も長所・短所をふまえて考えていただきたいですし、同時に日常生活でも有効に石油を使っていただきたいと考えています。
神津 石油は、使うときはガソリンや灯油のように身近ですが、大元は中東という遙か遠いところにあるせいか、実は石油産業の歴史や経緯、あるいは最新の情報を見逃していることがたくさんあるように思います。石油の枯渇問題や中東情勢など刻々と変化していく情報に対して、常に知識を更新しておく必要がありますね。
橋爪 たとえば、資源の枯渇について言えば、かつての日本で油田生産をやめ炭坑を閉山せざるをえなかったのは、経済性が見合わなくなったためで、燃料価格が上昇したり、技術進歩によりコストが下がれば埋蔵量は拡大するわけです。極東の島国という地勢の宿命があるからこそ、日本は知恵をしぼり技術開発を進めてゆくことが大切です。
神津 東日本大震災の被災地では、電気や都市ガスのように系統化されていない独立型エネルギー、石油の有効性が発揮されましたね。
橋爪 被災地に物流を届けるための交通手段が寸断された中、石油は日本海側や首都圏からタンクローリーや貨車で届けられました。熱量が大きく、輸送や貯蔵の点においても、緊急時の石油の価値が再認識されたと思います。しかし、石油需要の減少によりサプライチェーン縮小が止まらず設備廃棄が進んでしまうと、緊急時の対応が十分にできなくなっていくわけです。
神津 ライフラインであることと、自由化は両立できるのでしょうか?
橋爪 経営の合理化にとって、たとえば備蓄は重荷ですが、エネルギー供給事業者としての社会的な義務と役割もあります。ただし、自由競争を続けながらの安定供給は、コスト負担の面を含めて極めて難しい問題です。そして、国が掲げてきた「脱石油政策」が安全保障にとってマイナスになりかねない事実が、今回の3.11で明らかになったのではないでしょうか。
神津 日本は資源がない国だから、エネルギーのどれか一つに依存しまうのは危険です。純国産の再生可能エネルギーについても、現在の技術レベルで安定した電力を確保するのは困難なのだから、頼みの綱にするのはリスクが高いですね。一方で、化石燃料については温暖化対策に反するという厳しい視線があります。
橋爪 化石燃料の性質としてCO2排出は避けられませんが、火力発電所などでは排出低減技術がかなり進歩しています。
各エネルギーは最も力を発揮する分野で分散して使われることが大事だと思います。2030年のエネルギー政策を考える上では、経済や環境、あるいは国家戦略、外交問題など、さまざまな関連性を鑑み、選択における判断の基軸を客観的に熟慮した方がいいでしょう。そして各エネルギー業界は、選択に役立つ基礎情報を積極的に発信すべきです。石油業界としても石油のポテンシャルを再認識してもらえるよう広報活動を続けるとともに、サプライチェーンを健全に維持してゆくためには皆さんにも平時から石油を使っていただく必要があると思っています。
神津 後年になって取り返しがつかない状況に陥らないために、効率優先だけではなく、もしものために残しておくこと、たとえば出番が少なくなった古い火力発電所の稼働準備なども大切ですね。
石油連盟広報グループ長
三重県生まれ。中央大学法学部卒。1982年石油連盟入局。88年外務省出向(在サウジアラビア大使館書記官石油担当)。91年石油連盟総務部、調査部流通課長、企画部財務課長、企画部企画課長、企画渉外グループ長を経て、現在に至る。