エネルギー自給率が低い日本では、必要な時に必要な量を適切な価格で供給するため、石油石炭などの化石燃料による火力発電や、原子力発電などをバランスよくミックスさせた電源構成でしたが、原子力発電の停止によりそのバランスが崩れています。また2030年を目標に、原子力比率0%、15%、20~25%の3つのシナリオが示されており、今後は縮原発の方向に進むことが予想されます。
原子力の代替電源をどうするかという課題において、CO2を排出しない、また国際情勢などによって輸入量・価格が左右されない国産資源を使う再生可能エネルギーが注目されています。これまでコスト高などの理由で進まなかった普及拡大を目標に、2011年8月に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT=Feed in Tariff)が制定され、電気事業者は再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社に売ることができ、買取価格も施行後3年の間は優遇されています。また買取られた分については、消費者や企業の電気料金に賦課されています。地熱、中小水力、バイオマス、風力、太陽光という5つの再生可能エネルギーの中で、家庭で取り入れやすい太陽光発電の普及にとって、太陽光発電パネル購入時の補助金制度や、世界各国の競争による急激な価格低下は追い風になっています。
しかし、再生可能エネルギーについてコストより大きな問題は、天候に左右され供給が不安定なことです。電気というのは、必要時に必要量を安定的に需要供給しないと停電してしまうという性質があるため、不安定な電気を一度蓄電池にためて、量を一定にしてから供給しなければなりません。これまでのような安定的な基幹電源からの大規模集中型電力システムは、発電した電力を送電に適した電圧に変電所で変換し、送電線で送り出します。各地の変電所では必要な電圧にさらに落とし、その先にある各地域の変電所を通して街中の電線に送電します。末端では電柱上のトランス(変圧器)で変圧され契約電力にあわせた電力が各家庭に送られています。このように、同じ電源から送電されているため、必要に応じた電気量の制御がしやすかったのですが、たとえば太陽光発電による不安定な電気の割合が今後増えてくるとすれば、安定化させるための解決策が必要になってきます。
この解決策の一つがスマートグリッド構想、つまり再生可能エネルギーをうまく取り入れた分散型の電力システムです。その最小単位となるのが、スマートハウスです。これまでは電気を消費するだけだった住宅は電気をつくるようになり、天気が良い日に屋根の太陽光パネルでつくられた電気を家の中で使用し、余剰電力は天気が悪い時のために家庭用蓄電池にためておきます。スマートハウスには必ずスマートメーター(家庭内の電気使用量を管理し自動制御するデジタル電力メーター)が取り付けられ、太陽光発電と電力会社の電気のどちらを使用すると得か?といった判断をしてくれます。スマートメーターが家電製品と連係し、ICT(情報通信技術)を駆使することによって、エアコンの室温調整など電力消費のピーク時を避けた使用や、エネルギー消費を最適なレベルに保つことがができるなど、家電製品もいわゆるスマート家電になります。そして、家庭内のエネルギーや電化製品をすべてITで管理しコントロールする司令塔的な役割を果たすのが、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)です。
また、スマートハウスにおいて重要になってくるのが、電気をためておく蓄電池の役割です。リチウムイオン電池を使った蓄電システムのほかにも、電気自動車に充電しておけば、一般的な家庭の1~2日分の電力を供給できる機能があります。一方、蓄電池とともに注目されているのが、愛称エネファームで知られる家庭用燃料電池です。都市ガス・LPガス・灯油などから燃料となる水素を取り出し、空気中の酸素と反応させて発電し、熱と電力を同時に供給する、このコージェネレーションシステムは、住宅のみならずオフィスや病院、ホテルといった大型施設でも導入が始まっています。
スマートハウスによる街作りの実験は、すでに豊田市や北九州市などで進んでおり、北九州市では電力需要に応じて電気料金を変動させるダイナミックプライシングの実証実験も行われています。スマートグリッドやHEMSによるエネルギーの最適化とともに、交通システムなど公共性のあるインフラを統合して管理し、効率的に活用すること、もしくは家庭やオフィス、商業施設など6~8,000軒規模の範囲内で管理された地域のことを、スマートコミュニティあるいはスマートシティと呼んでいます。多様な電源から生まれる電気をICT により瞬時にセンターで管理し、電気を無駄なく使うこのシステムは、既存の大規模集中型電源とも共存ができます。エネルギー、家庭やオフィス、自動車という3つが密接に結びつくスマートコミュニティによって、大規模集中型のピーク電力を抑制したり、あるいは需要増に対応する新規設備コストも不要になり、さらに電力が自由化すれば、家庭でつくられた電気を電気自動車で運んだ先で売買できるといったエネルギーの新しい流通体系も期待されるところです。
一方で、IC 化により情報が一括管理されるため、個人情報流出のリスクは否めませんが、スマートコミュニティ構想は、閉塞感の漂う日本経済にとって景気回復や雇用創出の鍵になるはずです。そして電力関連機器を単体で海外に売り込むことはすでに困難な時代になっていますから、大規模電力と、自然エネルギーを取り込んだスマートコミュニティをパッケージにした電力インフラを輸出の柱にすることで、日本の成長戦略に結びつけられるのではないかとも思います。また、身近な超高齢化社会において、スマートメーターの動きを管理することで一人暮らしの高齢者の安全確認もできるようになり、安心な生活の基盤システムにもなります。ですから、これからのエネルギーを考える場合に選択肢の一つとなるスマートコミュニティ構想は、日本が抱えるエネルギー問題の解決の糸口になるのみならず、電力の自由化などの改革とともに、これからの私たちの生活スタイルに新しい価値を生みだすシステムになると考えているのです。
東京工業大学特命教授
1946年東京生まれ。70年東京工業大学工学部卒業、79年博士号取得。米国商務省NBS招聘研究員などを経て、88年東京農工大学工学部教授に就任。95年IPCC 第2作業部会の代表執筆者となる。2007年から現職。経済産業省の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長、日本エネルギー学会会長などを歴任。 09年から経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム協議会」のメンバーを務めるなど国のエネルギー政策づくりに深くかかわる。 著書に「スマート革命」(日経BP社)など。