地域活動紹介

最新情報

2024年度
8月24日
えひめエネルギーの会
7月19日
Ene Female
(エネ・フィーメール)21
7月17日
第14回オンライン勉強会
6月19・20日
NPO法人
あすかエネルギーフォーラム
6月12日
第13回オンライン勉強会
6月1日
中部エナジー探検隊
5月24日
NPO法人
あすかエネルギーフォーラム
4月10日
2024年度 メンバー会議
2023年度の活動紹介はこちら
2022年度の活動紹介はこちら
2021年度の活動紹介はこちら
2020年度の活動紹介はこちら
2019年度の活動紹介はこちら
2018年度の活動紹介はこちら
2017年度の活動紹介はこちら
2016年度の活動紹介はこちら
2015年度の活動紹介はこちら
2014年度の活動紹介はこちら
2013年度の活動紹介はこちら
2012年度の活動紹介はこちら

   

第14回オンライン勉強会

《日 時》
2024年7月17日(水)14:00〜15:35

地球温暖化による災害の激甚化は本当に起きているのでしょうか –– 温暖化対策としてCO2削減を目指してきた日本ですが、世界情勢の変化や日本のエネルギーへの影響を考えて、第7次エネルギー基本計画策定において何を優先すべきなのか、杉山大志氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)に客観的な事実に基づいたお話を伺い、その後、質疑応答を行いました。

講演
地球温暖化のファクトフルネスと日本のエネルギー政策のありかた 

フェイク情報が拡散する地球温暖化の真実とは

「災害は激甚化しており将来もっと悪化するのは地球温暖化のせい」とよく言われていますが、結論から言うと過去の観測データと比較して激甚化はしていません。確かに大気中のCO2濃度は150年前と比べて約1.5倍増加しており、化石燃料を燃やしたから増加したのも間違いありません。とはいえCO2濃度そのものより問題があるのは気温の上昇であり、世界の平均気温が上昇しているのも確かです。日本の平均気温は過去100年以上にわたり上昇していますが、とはいっても0.7°Cで、過去30年だと0.2°Cとごくわずかです。それでも暑くなったと感じる理由は何か。一つは自然変動で、もっと大きな理由はヒートアイランド現象です。東京は過去100年で2°Cも気温が上昇しており、都市部ではアスファルトの地表面やコンクリートの建物からの照り返しとともに風通しが悪くなり熱がこもりやすくなっているからです。

台風は過去70年の間、年間発生数は20〜25個と変化がありません。中心気圧が低い猛烈な台風も1951-2019年までのデータによると、1950、60年代には毎年のように来ていましたが、93年以降の30年間では来なくなっています。理由は不明ですが、このデータは気象庁のHPに掲載されています。雨量についても、確かに過去45年間は増えていますが、過去130年以上にわたる日本の年降水量を平年と比べると、台風と同じように1950年代が多かったことがわかっています。雨量は50年くらいの単位で大きく変動するので、長期的な傾向で判断しなければなりません。気象庁の「気候変動監視レポート2022」にもこの点について説明書きがあります。にもかかわらず、マスコミは短期のデータだけを切り取り、豪雨が増えた、災害が激甚化したという情報を流しています。

世界の環境に目を移すと、北極の氷が溶けてシロクマの生息域がなくなり絶滅するといった発表がありますが、以前より保護活動が盛んになったおかげで、絶滅動物に関するデータを集めている公的機関IUCNが公表しているデータでは、シロクマの個体数は過去50年で増えています。また南の島が沈むという話もよく聞かれましたが、確かに海面は20cmくらい上昇しているけれど、マーシャル諸島は過去70年の間に面積が13%増大しており、その原因は、海面が上昇すれば生物の生息域も上昇し、サンゴが育って砕け白い砂ができるからです。他の島々でも同様で、10年くらい前にはツバルやキリバスが沈むと言われていましたが、沈まないことがわかっています。  

日本の環境白書には今日、皆さんにお見せしたデータのほとんどが掲載されておらず、必ず掲載されているのは、1970-2018年の大災害による保険損害額の推移です。過去50年間の世界のハリケーンなどによる災害被害の金額が示されていますが、損害額上昇の理由は、脆弱な土地での人口や道路、建物などの増加であり、温暖化による災害激甚化のグラフとはいえません。にもかかかわらず世界中の政治家やリーダーが気候変動による災害激甚化と言っているため、誤情報を撒き散らしていると反駁する学者もおり、私もそう思います。  


シミュレーションによる将来予測のわな

根拠がないにもかかわらず、なぜ温暖化による気候危機が叫ばれてきたかというと、シミュレーションによる将来予測をしているからです。地球の大気をサイコロ状に切って気候システムをコンピュータで計算する地球気候モデルがありますが、気温上昇の計算結果は計算する人によって異なってしまいます。例えば雲がどこでどのようにできるかを、複雑な地球を大幅に簡略化した状態で計算しています。雲のパラメーター(媒介変数)を一つ変えるだけでいくらでも変わりうるわけで、その結果、地球温暖化の数値も大幅に変わってしまいます。しかも適切なパラメータの設置数は理論でも実験でも全くわからないという問題があるため、CO2により過去の気温の上昇が起きたことを前提にチューニング(調整)しているので、将来予測は科学とはみなされていません。それでもこの予測が公になるから、これを将来の姿だとみんなが信じてしまうわけです。実験・観測とシミュレーション、どちらが本物かといえば、間違いなく前者です。

2050年にCO2ゼロ目標を掲げている日本では、目標達成で気温がどのくらい下がるのでしょうか? CO2を累積で1兆トン出すと地球の気温が0.5°C上昇するというIPCCの見解に基づくと、現在の日本のCO2排出量は年間0.001兆トンなので、2050年までにゼロにするには累積で0.015兆トン減らしますが、その結果の気温低下はたった0.007°Cです。CO2ゼロ達成の努力やコストはものすごく大変だけれど、わずか0.007°Cの気温低下でしかありません。Nature誌などの有名な科学雑誌には気候危機というストーリーに沿った論文だけが掲載されるようになり、「50年に1度の猛暑の頻度が2倍になる」といった気候変動を煽るテクニックを使った論文を発表した学者は、その後、論文が虚偽であり、そうしなければ論文が掲載されなかったと告白しています。  


環境政策重視はリスクが高い

3年に一度改定されるエネルギー基本計画ですが、日本政府は年末に向けて第7次エネルギー基本計画を検討中です。現行の基本計画においては、2019年の菅首相宣言「2050年にCO2ゼロ」以来、脱炭素が最優先になっています。目標に対して順調にCO2が減ってきたとはいえ、排出量が減った理由は原子力や再エネ使用による低炭素化や省エネはあるものの、最大の理由は産業の空洞化です。例えば鉄鋼会社は国内の高炉を閉鎖し代わりにインドに建設したり、アメリカの製鉄会社を買収しています。日本のみならず、ドイツやイギリスなど欧州は脱炭素を優先してきたせいで、産業が海外へ脱出しているのです。


■CO2削減の主因は産業空洞化  図 


このような危機的な状態なのに、次のエネルギー基本計画でもCO2削減目標にだけ向かっていくと、ますます産業空洞化が進んでしまいます。目標数値を設けるべきは電気料金だと提言したいです。電気料金はこの10年でどんどん上昇してきましたが、これを東日本大震災以前の水準に戻すことを政府が目標として掲げたらいいと思います。そのためには電気代上昇の要因である再エネの大量導入の見直しがあるでしょう。再エネは根本的に二重投資だから金額が高くなるからです。例えば家庭で太陽光パネルを設置したからといって自給自足できるわけではなく、発電するのは1年のうちの約17%しかなく、残り83%は火力発電や原子力発電を使い、そのための送電線も必要です。だから再エネ普及率が高いドイツ、アイルランド、デンマークなどは、家庭用の電気料金が欧州の中でとても高くなっています。 

日本では再エネ賦課金が年間でトータル3兆円近くに上り、1人当たり2万円かかっています。そして世界の太陽光パネル生産の9割を占めているのが中国で、そのうち半分が作られている新疆ウイグル自治区の衛星画像には、太陽光パネル製造工場の隣に石炭火力発電所があり、さらにコンベアで炭鉱につながっている様子が見られました。CO2排出量が多い石炭火力で作った太陽光パネルを世界中に送り出している中国、しかもその半分を担っている新疆ウイグル自治区では強制労働などの人権問題がある可能性が濃厚と言われ、アメリカでは輸入を禁止しています。一方、日本では規制をつけながらですが導入し続けており、政府はこれに対する評価はしていません。

今後、政府はグリーン・トランスフォーメーションGXのために10年で150兆円の投資を行い、この金額はGDPの3%=国民一人あたり120万円に相当します。実現するために政府は「GX経済移行債」を20兆円発行し、排出量取引制度で企業の排出権の売却益と化石燃料輸入企業に燃料のCO2量に応じた課徴金で償還し、運用のために経産省の外郭団体である「GX推進機構」を作っています。これは経済へのマイナスの影響が大きい政策ではないかと個人的に批判しています。

GXのための技術にはCCSやアンモニア、水素などがありますが、どれもコストがかかるものばかりで、電力中央研究所の試算によると、CO2はある程度減るけれど発電コストは2倍もしくは3倍以上になります。こんな高コストな技術をもし無理やり導入したら電気料金が跳ね上がることが目に見えています。さらに、この技術を世界に売って経済成長すると政府は言っていますが、高コストの技術を誰も買うはずがありません。


環境より優先すべき日本のエネルギーを脅かす問題への対応

エネルギー政策を考える上で喫緊の課題は脱炭素ではありません。世界ではロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのパレスチナ攻撃が起こり、台湾有事も差し迫っています。歴史を振り返ると、気候変動が問題視されたのは米ソ冷戦終結後のことで、民主主義の勝利というユートピア的な高揚感があり、1992年に気候変動枠組条約ができました。しかし世界が協調してお金のかかる脱炭素を進めるのは幻想に過ぎなかったことがウクライナ侵攻ではっきりしました。ロシア経済は、石油、天然ガス、石炭の採掘と輸出により成り立ち、そのお金で軍事力も維持しているわけです。西側諸国がロシアからのエネルギー輸入を制限したせいで中国やインドは莫大な量の化石燃料をロシアから買い、石炭火力への投資を増加させる一方、世界ではエネルギー価格が高騰しています。今後、気候変動問題のために世界がCO2削減を進めるとは考えられなくなっています。

日本に関しては、より憂慮すべき問題があります。中国が海洋上の独自の軍事的防衛ラインである第一次、第二次列島線の間の航行を阻止すると、日本にはエネルギーを運ぶタンカーが入ってこられなくなります。化石燃料をほぼ全量輸入依存している日本では、エネルギー備蓄は石油が250日、ガスは2、3週間、石炭は1ヶ月分なので、3ヶ月もすれば日本の発電はほぼできなくなります。だからこそ、エネルギー政策において今優先順位を高めて解決しなければならないのが、安全保障と経済問題です。まずは原子力の再稼働を早め、原子力の燃料と石炭の備蓄増加を緊急の問題としてやらなければなりません。 

アメリカでは、11月の大統領選でトランプが大統領になった時のエネルギー政策ははっきりしています。「エネルギードミナンス」、すなわち豊富・安価・安定したエネルギーをどんどん供給し、自国も友好国も強くなり、安保と経済が支えられれば敵対国を圧倒し優勢を築くという考え方で、トランプ氏のHPにも公約としてはっきり書かれています。光熱費を下げて産業を強くするため、バイデン政権のグリーンディール政策は廃止、ESG投資も排除、その代わり石炭、石油、ガスはどんどん採掘すると言っているのです。さらにはパリ協定も即座に脱退すると言っています。日本の国益を考えた時、アメリカのようにエネルギードミナンスを達成した方が安全保障と経済上の要請に適っているのではないかと私は考えています。 





質疑応答

Q:諸外国に煽り立てられずに、日本はどのようなエネルギー政策を取ったらいいのか。
A
:安全保障問題の備えを最優先にすべき。海外からのエネルギーの供給が途絶すると食糧は日本では作れなくなり、飢餓状態に陥るからだ。日本はかつてアメリカから石油が禁輸され資源を得ようと南方に進出していったが、戦争に負けた理由も輸送船が沈められエネルギーも物資もなくなったからだ。今もこの脆弱性は変わっていない。電気に関しては原子力発電の再稼働、そして原子燃料、石炭の備蓄をもっと進めるべき。ウクライナ戦争で石油生成設備のドローン攻撃が起こっているので、火力発電所のテロ対策も必要だ。原子力と石炭火力を確保できれば、電気料金も安くできる。

Q:日本が辿ってきた歴史で見る限り、エネルギーが戦争を起こしており、原子力が戦後の復興を支え高度経済成長を実現してきたのに、なぜ政府は国民に対し解説しないのか。また今後の進路を決める時にも、日本独自の歴史を鑑み将来展望ができないのか。
A
:菅首相の「2050年CO2ゼロ宣言」の時はG7の中で日本だけ孤立するわけにはいかなかったからだと思う。当時経産省はCO2ゼロ対策に対し抵抗勢力だったが、結局、環境優先の政策に追従した。安全保障問題を重視していない法案では国民のためにならない。そもそも資源エネルギー庁ができたのは、オイルショック時のエネルギー安定供給のためだったと反省すべき。

Q:パリ協定が締結された時には、世界中が協力して温暖化対策をすると喜んでいたのが印象的だったが、これからどうなるのか。
A
:トランプ政権になったら就任初日に離脱するのが大方の見方だ。次に民主党政権になっても戻れないように、議会を通して否決を取るつもりだからパリ協定には今後参加しなくなる。日本も京都議定書の時のように来年数値目標を提出しなければ、パリ協定は事実上、消滅することになる。欧州はグリーンな政権が続いてきたが、今は選挙で右派が勝つようになり先行きは不透明。またパリ協定そのものが今の世界情勢にそぐわない。先進国がグローバルサウスに向かって2050年CO2ゼロという無理な呼びかけをしても最初から拒絶され、逆に今起きている気候変動と自然災害に対し年間5兆ドルの賠償をするよう無理な要求をされている。パリ協定に代表される気候変動問題そのものが国際的な優先順位ではなくなるだろう。


杉山 大志(すぎやま たいし)氏プロフィール

一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1969年北海道生まれ。91年東京大学理学部物理学科卒業、93年東京大学大学院工学研究科物理工学専攻修了後、一般財団法人電力中央研究所入所。95年から97年までオーストリアの国際応用システム分析研究所(IIASA)研究員。2017年よりキヤノングローバル戦略研究所上席研究員、19年より現職。温暖化問題およびエネルギー政策を専門とする。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、経産省産業構造審議会等の政府委員、米国ブレークスルー研究所フェロー、慶應義塾大学特任教授、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術委員、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)専門委員を歴任。産経新聞「正論」レギュラー執筆者。著書に「亡国のエコ」(ワニブックス)「15歳からの地球温暖化」(扶桑社)「SDGsエコバブルの終焉」(杉山大志(編集)、川口マーン惠美(著)、掛谷英紀(著)、有馬純(著)/宝島社)など。

ページトップへ