経済や経済学は難しいと思われがちですが、スーパーマーケットで買物をしたり、家計簿をつけたりといった、皆さんが日常生活で行っていることが経済活動で、限られたお金や時間、エネルギーをどのように配分すれば、私たちみんなが幸せになれるのかを追求するのが経済学の目的です。経済学はお金を稼ぐためにあるのではなく、幸せ感をお金の尺度を用いて計れるようにしているのです。たとえば、100円で買ったペットボトルの飲み物がおいしくて100円以上の満足度を得られたら、そのプラス分を「消費者余剰」といい、100円以下の原価で製造した飲料メーカーにとって、1本売れるごとに出る利益を「生産者余剰」といいます。人気商品は消費者も生産者も幸せにしてくれるので、市場においては自然に増加していきます。また生産者余剰を集約したものが「GDP(国内総生産)」で、日本のGDPは約500兆円あり、GDPの1年間の伸び率を表したものが、「経済成長率」です。
一方、エネルギーというのは、どのように消費すると私たちが幸せになれるのかを計りづらいものです。国などが介在し大規模な投資で建設された施設でつくられるエネルギーは、男女問わず安価で享受できるといえますが、エネルギー問題については、とかく男性によってのみ議論される場合が多いように思います。しかし私は女性の意見をもっと反映させる方がいいと考えます。というのは、日本男性の幸福度は女性よりも低いという調査結果があり、個人差があるので一概にはいえませんが、男性は長時間労働を強いられ、頑張り過ぎるせいでストレスをためて病気になるというように、将来の影響をあまり考えない傾向が見受けられるからです。10年、20年、もっと先のエネルギーをどうしたらいいのか考えるとしたら、男性よりのんびりと考え行動する女性の方が適していると思っています。
昨年、安倍首相が打ち出したアベノミクス(=安倍首相の経済学)は、「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」という「3本の矢」の経済政策で成り立っています。一つ目の金融緩和については、バブル崩壊後にお金の供給量を抑制し過ぎたためにデフレが20年近くも続き、私は人災だったと思っていますが、昨年12月に日銀が供給量を一気に2倍にしたことで、株価が上昇しました。次の財政出動については、長引くデフレで、物を買わない、投資をしない、従って税収が下がり、新規の公共投資も縮小という悪循環が続いてきました。しかし、公共投資は数10年先の需要創出まで見越して行われるものであり、たとえば北陸新幹線(長野経由)がようやく2014年度末に長野から金沢まで延伸開業し、また松本市から福井市までの中部縦貫自動車道が2016度に全線開通することにより、ものや人の流れが増えて、北陸地方の経済が今後、活性化するのは明らかです。デフレの20年の間に、安価なものやサービスを扱う企業、商店などはデフレに適応していたものの、経済成長は低迷し、たとえば公共事業削減によって技術者や輸送トラックまで減少が波及しました。今後は、デフレ脱却とともに、民間投資を増加させ供給力を強化することが、三つ目の成長戦略といえます。
アベノミクスによる経済効果は、株や為替といったマーケットにおける数字に如実に表れています。最新のGDP速報値(9/9発表)によると、今年4〜6月期は前期比0.9%増で、年率に換算すると3.8%増になります。経済成長率が約4%という数字がどのような意味を持つかというと、70という数字を年率数値で割ると、所得が倍になるまでの年数がわかる仕組みになっています。4%なら17.5年かかり、たとえば中国は年率約10%上昇していた時期には、70÷10=7年と、日本の高度経済成長期と同じスピードで所得が倍増していました。もし仮に年1%の伸びならば70年もかかってしまいます。経済学の目的は、みんなを幸せにすることと、もう一つ、やる気を出させることです。所得が上がれば、やる気も出ますから、デフレでどんなに頑張ってもせいぜい横ばい、もし頑張らなければ生活水準がもっと下がるといった報われない状況から抜け出せるように、企業は収益増加分を内部留保せず給料体系の見直しを図ることが必要です。
また、最近の生産現場では出荷増で在庫減少、生産増の好循環になりつつあります。もちろん、私たちが景気回復を実感できるまでには時間がかかりますが、長引く節約疲れから、最近は少しぜいたくをするようになってきたと思います。また株価上昇は株保有者でなければ恩恵がないわけではなく、企業年金、国民年金も株を大量に買い付け運用しているので、株は私たちの老後の生活を支えるためにも大切です。景気の変動に大きな影響を与える投資においては、住宅着工が増加するなど、少しずつ改善されています。これまで将来設計ができず家を買わなかった人、あるいはローンを組めず購入が不可能だった人も、失業率の減少や有効求人倍率の上昇といった雇用の改善によって、住宅購入に目を向けつつあるようです。
経済成長が上向きになれば、生産活動、輸送、消費活動がより活発化していき、エネルギーは大量に消費されていきます。GDPとエネルギー消費は正比例するため、必要とされるエネルギーが調達できなければ経済成長はストップするという現実を、私たちはすでに1970年代のオイルショック時に経験済みです。ところで、3.11直後の東京では、大規模な計画停電や節電が行われ、街は暗く、飲食店なども臨時休業が多かったため、なんとなく不安で外出が控えられました。また電車の間引き運転により駅からあふれる通勤客の姿など、これまで経験しなかったような光景が見られました。世界のエネルギー状況において、新興国の消費激増により原油価格は高止まりしており、日本の火力発電依存により天然ガス価格も高止まりし、このままでは成長の足かせになりかねません。さらに過去10年間で1.3倍に増えた世界のエネルギー消費量は、今後20年間に同じ伸び率が予測され、海外からの資源獲得がうまくいかなければ、日本全土で震災後の東京よりも劣悪な生活環境にならないとは限らないのです。
そしてまた、原子力発電停止後、火力発電で大量使用している化石燃料は、燃焼時のみならず輸入時、国内運搬時にもCO2を発生させ、異常気象を起こしたり、作物が取れなくなったりするなど、温暖化問題に大きな影響を与えます。それならば自然エネルギーを選択といっても、発電効率が悪く、たとえば太陽光発電のパネルまたは蓄電するためのリチウム電池に100年に一度レベルの画期的技術革新が起きない限り、太陽光発電のみで必要な電気を賄うことは不可能です。原子力発電を廃止し自然を上手に利用してエネルギーをつくるというのは理想的ですが、現実を直視すれば、どこかで折り合いをつけなければいけないことに気づくはずです。
エネルギー問題の未来予測をするためには、過去に起きた出来事から学ぶことが有効です。南米チリから3,800キロメートルも離れた南太平洋の孤島、イースター島は1,000体もの巨大なモアイ像で有名ですが、西洋人によって島が発見された時には、文明があったとは思えないほど荒廃していました。かつてこの島は熱帯雨林が生い茂り、住民は森や海の恵みを食料にしていたにもかかわらず、首長たちが権力誇示のために名産の石を切り出し、運搬用に森林を切り崩し、ついには漁をするためのカヌー用木材まで使い切ったために、島の食料は食べ尽くされ、争いが起きて文明が崩壊してしまったのです。私たちは、さまざまな経験と知識によって、長期的、継続的な食料とエネルギーの生産計画をしていかないと、イースター島と同じ運命をたどる可能性があるということです。
原子力発電の事故を経験し学習した私たちが、これから破滅的な決断に向かわないためにはどうしたらいいのでしょうか。原子力発電を停止したままではエネルギー不足を起こし、輸出国の言い値で化石燃料を買わざるを得なくなり、経済成長を抑制します。さらに輸入もできなくなれば、生活レベルは50年前に戻りうるということです。また福島第一原子力発電所の事故後から盛り上がった反原発論の中には、誤った認識で成り立っているものもあり、メディアは、感情的攻撃的な批判を恐れずに、原子力発電がなぜ必要なのか、廃止するとどうなるのか、詳しく説明すべきだと思います。福島第一原子力発電所の事故原因は、地震ではなく津波によるものであり、現在、全国の原子力発電所で津波対策は行われており、リスクはコントロールされていると私は理解しています。一方で、フル稼働している火力発電は老朽化しているものもあり、深刻な事故を起こす前にメンテナンスのための定期的な停止が必要です。そして地球温暖化というコントロールできない問題もあります。リスクをよく理解し、どの程度バランス良くエネルギーを組み合わせて使えば、安全、安心かつ安価で、経済成長を妨げないようなエネルギー体制作りができるのか、慎重に考えるべき時だと思います。
経済評論家、中央大学ビジネススクール客員教授
1968年東京都生まれ。慶応大学商学部卒業後、早稲田大学ファイナンスMBAを取得。当時最年少の19才で会計士補の資格を取得、大学在学中から監査法人に勤務。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。現在、株式会社「監査と分析」取締役、内閣府男女共同参画会議議員、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央大学ビジネススクール客員教授。ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」選出。世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leadersも受賞。少子化問題、若者の雇用問題、ワークライフバランス、ITを活用した個人の生産性向上など、幅広い分野で発言をしており、ネットリテラシーの高い若年層を中心に高い支持を受けている。著作多数、著作累計発行部数は480万部を超える。