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くらしとエネルギーを考える西日本女性ネットワーク会議

《日 時》
2013年12月11日(水)15:00〜18:10
《会 場》
中之島センタービル内リーガロイヤルNCB会議室(大阪市北区中之島6-2-27)
《テーマ》
「エネルギー問題と私たちの暮らし」
福島第一原子力発電所の事故後、原因の検証と対策が進められる一方で、停止している国内すべての原子力発電所は、今後、再稼働への道筋をどのようにつけていけばいいのでしょうか? 2013年7月に施行された新規制基準を参考に、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所の周辺住民の暮らしの変遷などを含め、日本の取るべきエネルギー政策について、奈良林 直 氏(北海道大学大学院工学研究院教授)にお話しいただきました。後半は、神津カンナ代表との対談をご紹介します。

講演
「地球環境とエネルギー問題を考える~新規制基準と原子力再稼働の動向をふまえて~」 世界の情勢と地球環境から考えるエネルギー問題

福島第一原子力発電所の事故以降、日本では脱原発が当然のように言われていますが、原子力を含めエネルギー問題は、世界の情勢や地球環境に配慮しながら考えていくべきだと思います。一例を挙げると、砂漠の国、サウジアラビアは大規模な都市開発が進み、5車線の高速道路と、冷房がよく効いた高層ビルが林立し、海水淡水化など、石油需要が増加して、産油量を2030年には上回ると予測されています。石油輸出による国家財源を確保するために、原子力導入による発電と造水にシフトしようとしています。サウジアラビアとアラブ首長国連邦から原油の50%以上を輸入している日本は、石油が輸入できなくなる危機にあります。米国のシェールガス、シェールオイルに期待を寄せていますが、シェールガス採掘にはガスが閉じ込められている頁岩を水圧で砕くために、岩を柔らかくする化学薬品を使います。この薬品による地下水汚染を懸念し、アメリカ・ニューヨーク州などでは住民による反対運動が起きています。

CO2排出がもたらす地球温暖化については、イギリスのジェームズ・ラブロック博士が著書「ガイアの復讐」の中で、世界の平均気温が5℃上昇すると、北極南極を除いた地球は砂漠化すると警告を発しています。近年、アメリカ西海岸やオーストラリアで山火事が多発し、ヨーロッパでは熱波で数万人が亡くなっています。南極大陸に深さ3kmの鉄パイプを入れアイス(氷床)コアの成分を分析し、過去65万年も昔からの地球の大気成分を調べると、過去100年の間に起こったCO2やメタンの濃度の急上昇は、かつて地球が体験したことのないほど異常なレベルにあるということがわかっています。海水温度が2℃上昇しただけで台風やハリケーンの規模は2倍になります。11月にフィリピンを襲った史上最大の台風をはじめ、ニューヨークを襲ったハリケーン、インドのサイクロンなど、約2万人が命を落としています。これらの異常気象による死者は原発事故よりもはるかに大きいと言えます。現在70億人の世界人口が、2050年には90〜100億人に膨れ上がります。エネルギー需要は新興国を中心に急増し、地球環境の危機はさらに高まります。これを食い止めるためにも、ヨーロッパ、中国、ベトナム、トルコ、アラブ諸国を中心に、3.11以降も100基以上の原子力発電所の計画・建設が予定されています。


福島第一原子力発電所の事故から学んだ対策と「新規制基準」

原子力については、まず福島第一原子力発電所の事故がなぜ深刻化したのか、その原因究明と安全対策強化が推進されています。地震による外部電源喪失と津波による非常用電源と直流電源喪失が起こりました。このため、原子炉の冷却停止→炉心損傷→過熱による格納容器損傷→水素爆発→放射性物質の飛散という一連の過酷事故の拡大を食い止めることができませんでした。安全確保の原則「止める・冷やす・閉じ込める」のうち、「冷やす・閉じ込める」に失敗したのです。この対策としては5層からなる「深層防護」の強化が必要です。「深層防護」とは、異なる仕組みを組み合わせた、多種多様な多層の鉄壁の守りを構築することです。第1層は余裕ある設計、第2層は異常の拡大を「止める」、第3層は非常用炉心冷却系の「冷やす」と格納容器による「閉じ込める」の確保、第4層は過酷事故進展防止のための資機材と人的アクションによる冷却と放射性物質の漏えい抑制、第5層は防災(緊急避難)と復興です。3.11では第3層が津波で直撃されて機能喪失、第4層と第5層は十分な備えがありませんでした。津波対策も防潮堤(防ぐ)、建屋や重要機器室の水密扉(耐える)、津波を避けて高台に設置する電源車(避ける)などの深層防護の考え方が必要です。第4層では、フィルターベントや資機材の充実とそれを使いこなす人たちの訓練が必要です。

今から27年前に起きたチェルノブイリ原発の事故では、成層圏まで上昇した放射性物質がヨーロッパ中に降り注ぎました。事故後、フランス、ドイツ、スイス、フィンランド、スウェーデンのほぼすべての原発にはフィルターベントが設置され、格納容器から漏れ出た放射性物質をフィルターで除去してから大気に放出する対策が取られました。しかし、我が国では、フィルターベントが取り付けられていなかったため、福島第一では、放射性物質が拡散してしまいました。

2013年7月には、原子力規制委員会が安全性向上のための「新規制基準」を策定し、これに従って申請順に適合審査を実施中です。その中には、フィルターベント取り付けのような放射性物質の拡散抑制対策をはじめ、格納容器破損防止対策、炉心損傷防止対策が強化されています。また、意図的な航空機衝突への対応として、2001年の米国同時多発テロのように航空機が安全上重要な施設に衝突しても、破損しないような対策が求められています。自然現象に対しても、竜巻防御のために非常用電源車を鎖で固定したり、森林火災の延焼防止のために、敷地境界の森林を幅35mで伐採するなどの対策が取られています。


チェルノブイリの体験と復興を福島に生かすために

深層防護の第5層とは、放射性物質の影響から人と環境を守る、防災・復興です。福島の人たちとともにウクライナを訪問し、チェルノブイリ被災者の住民が今、どのような暮らしをしているのか、実際に話を聞くことができました。恐怖を煽るマスコミ報道によって「放射能による健康被害」よりも、原発停止後の停電の多発、工場の操業率が落ちたための経済破綻、その結果、失業によってうつやアルコール中毒になるという「情報による心の被害」の方が、はるかに厳しかったそうです。また、チェルノブイリの北4kmの町プリピャチは、住民は補償金給付により全員が避難したためゴーストタウンになってしまいましたが、チェルノブイリから鉄道で50km離れた地域に、事故後、わずか1年8カ月で2万4千人が住めるニュータウン、スラブチッチ市が建設されています。その町は子どもたちが楽しく暮らせるおとぎの国を目指した多くの市民行事が行われ、高層住宅の建設のみならず幼稚園や病院の完備、日用品や手工芸品の工場建設による雇用確保、さらに子ども3人以上の家族には一戸建てが無料で用意されるなどの少子化対策が取られました。

マスコミが流す情報によって、放射能について正確な知識を持たない人が恐怖心を抱き、他国よりも厳格な基準さえあれば守られるという幻想を持ち、逆に、福島の人たちは、放射線被害以上に風評被害に悩まされていると思います。チェルノブイリ事故後の現地でも、放射能汚染より情報汚染の方が被災者にとってはるかに厳しいものだったという話を伺いました。また、日本各地の原子力発電所では、事故の教訓を生かした安全対策が着実に進められている現在、進捗状況など正確な情報を共有できるよう、電力会社のみならず、政府やマスコミが一般人向けに説明すべきだと思います。


対談
エネルギー問題と私たちの暮らしなぜ事故防止対策の取り組みが遅れてしまったのか?

神津 原子力発電にかかわる重大な事故が起きたあとに、諸外国で行われていた対策を知りながら、日本ではなぜ取り組みが遅れてしまったのでしょうか?

奈良林 まず日本の原子力開発の歴史を振り返ってみると、初期は鉄腕アトムに代表される夢の技術であったが、次第に推進側と反対側が完全に分かれてしまい、話し合いの場が持てませんでした。立地地域の人たちは、安全対策など詳しい情報を聞きたいのに、外部から来た反対派が、議論ができないほどの野次怒号による混乱を起こし、安全性を高める議論が妨害されていたためです。

神津 対立的な議論の中で安全対策が埋没してしまうというようなこれまでの状況が、これからも懸念されるのでしょうか。それを打開する手だてはありますか?

奈良林 北海道でシンポジウムが行われた際、「これは我々の問題であり、専門家の話を真剣に聞きたいから、反対するだけの風評被害を起こす外部の人は出て行ってほしい」という発言が出たように、地元民が中心になって冷静な対話ができる場を作る必要があります。また、チェルノブイリ事故後にフィルターベントを設置する提案が出ていたにもかかわらず行われなかった原因は、電力会社が、ベント設置をする提案をすると、「では原発は事故を起こすのですね」と反原発の根拠に使われるため、「いえ、原発は絶対に事故を起こしません」という安全神話につながったわけです。全国各地で原発停止の裁判が起こされていて、事故を起こす可能性の話は、「裁判を不利にする」という考えにつながりました。テロ対策の基準について、アメリカでの講習会に参加した保安院の人が、日本に戻って何のアクションも起こさなかったというのも、テロの話をするだけで大騒ぎになるから、「寝た子を起こすな」という理由でした。私は、「規制が反対派の虜になっていた」と思います。

神津 先ほど、放射線汚染より情報汚染の方が深刻とおっしゃいましたが、マスコミは放射能というとすべて危険物扱いし、医療用、工業用などさまざまな分野において幅広い活用がなされていることについては解説せず、いたずらに不安を煽っているようにも思います。与えられる情報によって、ともすると偏った方向に進みがちな私たちは、どう対処したらいいのでしょうか?

奈良林 たとえ真実の取材をしても、各社の方針というフィルターがかけられて情報がストップしてしまうこともあり、一概には言えませんが、大量の情報を上から投下するマスコミに対して、FacebookのようなSNSを利用して、草の根的に正確な情報を広めていく手があると思います。


安全対策とエネルギー政策における優先順位

神津 電力各社の安全対策、あるいは国の安全規制については、いささか過剰と思えるようなことまで要求しているような気もするのですが。

奈良林 原子力規制においては、活断層に過剰な規制が設けられています。厖大(ぼうだい)な時間と費用を使って、40万年前にさかのぼる証拠を探し出すよりも、津波に対する安全対策、放射能の飛散防止対策、事故発生時の緊急対策機材の整備と使用技術の徹底の方が、はるかに重要なはずです。

神津 福島の事故原因の究明とともに、安全対策については優先順位をよく吟味した上で、実施した結果を、国もしくは首相が国民に提示し、わかりやすく説明する責任がありますね。ところで、もしこのまま原子力発電が停止したままだと、私たちの暮らしはどうなってしまうのでしょうか?

奈良林 チェルノブイリ事故後のウクライナでは、原発停止で、産業への影響から何万人も失業しました。またドイツのように再生可能エネルギーの負担増により、経済格差が広がることも必至です。日本は今、化石燃料の輸入増加で、貿易赤字が続いています。差し迫る経済の破たんは、活断層問題よりずっと怖いことではないでしょうか。

神津 「エネルギー基本計画案」に対して、先生のご評価はいかがですか?

奈良林 原子力をエネルギーのベースと明記しているところは、60点をつけられますが、発送電分離については非常に懸念しています。2003年夏、ニューヨークからカナダまで大停電が1日以上続きましたが、電力自由化が原因でした。利益優先で送電線の管理システムのメンテナンスをしなかったため、電力需要増加に対応しきれず停電の連鎖反応が起きたのです。たとえば病院の非常用ディーゼル電源は数時間のみ稼働しますが、一日以上停電が続いたら、医療器具の機能が停止し生命にかかわる問題になります。現在の日本の体制では、供給責任がある電力会社は必死で供給していますが、自由化になったら、果たして人の命に誰が責任を持つのか、危惧しています。


再稼働する前と後にすべきこととは何か?

神津 「エネルギー基本計画案」では、核燃料サイクル推進についても触れていますね。

奈良林 高レベル放射性廃棄物の最終処分場が決まらないなどの問題もあり、原発が再稼働していない現状で、なおかつ今のような国民感情の中にあっては、この問題は慎重に考えるべきだと考えます。

神津 日本の原子力関係者は、福島事故を踏まえて技術力はもとより、損害リスクに備えた国としての法整備や緊急時のオペレーションシステムなどを高度化させ、原子力をより進歩させてほしいと思います。それがきちんと進めば、既設プラントのリプレースを目指すことも可能ではないでしょうか?

奈良林 福島の事故から得た教訓や反省を世界各国が共有し、地震、津波、洪水などさまざまな要因に対する対策を進め、フィルターベントなど精度を高めた部品に交換しています。一方、新規に計画や建設が進められており、新タイプの原発を稼働してわかる初期のさまざまな不具合の原因解明と、日本の再稼働の行程が順調に進めば、リプレースはその段階で見極めればいいと思います。原発は超音波で検査ができますし、ポンプや配管、圧力容器そのものも交換可能ですから、寿命は延ばせるはずです。原発停止が続くと、これまでメンテナンスを担ってきた会社の人たちが失職し、高度の技術が失われることになり、今後のリスクが高まる心配もあります。

神津 原子力発電を含めたエネルギー問題については、私たちは「汚染」されていない正確な情報をきちんと把握する能力を普段から備えていなければならないと思います。そして、賛成反対といった二極論でとらえて感覚的に善しあしを決めつけるのではなく、冷静に議論できる場を持ち、相手の意見にも耳を傾けながら答えを出すことこそ、私たち国民の務めなのではないでしょうか。今日のお話を伺って、切実に感じました。


奈良林直(ならばやしただし)氏プロフィール

北海道大学大学院工学研究院教授
1952年、東京都生まれ。工学博士。東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学専攻修了後、(株)東芝入社。原子力技術研究所、電力・社会システム技術開発センター主幹などを経て、2005年、北海道大学大学院工学研究科助教授、07年、原子炉工学研究室教授・連携推進部ディレクター、10年からエネルギー環境システム部門長。現在、工学部機械知能工学科学科長。

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