東日本大震災で震源地に一番近かった女川原子力発電所の現状をはじめ、震災から7年半が経った今、東北の電力供給の現場はどのように変化しているのか? あすかエネルギーフォーラムのメンバーは、さらなる安全対策に取り組む女川原子力発電所、最新鋭の新仙台火力発電所、電力供給の中枢を担う中央給電指令所へと足を運びました。
参加メンバー28人のうち、これまで女川原子力発電所を訪問したのは5人、そのうち3人が震災後に訪れていますが、現在はどのような状況になっているのでしょうか?仙台駅から女川へ向かうバスの中で、最初に東北電力における東日本大震災(以下、震災)からの復興・復旧に向けた取り組みに関するビデオで、当時の町の被害状況などの説明を受けました。同行してくださった東北電力の社員の方からは「女川原子力発電所も震災後から今なお、さまざまな安全対策工事が進行中なので、変化している様子をぜひ見てください」と伝えられました。
途中石巻の道路の復興状況などを車中から見た後、バスを一旦降りて、津波に遭い災害に強い設計につくり直された変電所を見学。次に、現在行っている安全対策についてのビデオを見て、説明を受けているうちに発電所に到着しました。
女川原子力PRセンターにて、女川原子力発電所長からお話を伺いました。女川原子力発電所は震災時、「止める・冷やす・閉じ込める」が正常に機能し、全3機とも安全に自動停止しました。津波はこれまでの知見から安全性が確認されていた14.8mの敷地高さを超えること無く、耐震工事を約6,600 カ所実施済だったことなどが功を奏しました。また、外部電源は5回線のうち1回線を確保することができました。その後、福島の事故を踏まえた「緊急的な安全対策」を施し、現在は2号機が新規制基準への適合性審査を受けている段階で、発電所では最新の知見を踏まえた「さらなる安全対策」を実施中です。PRセンターで、原子力発電のしくみについて模型で説明を受けた後、いよいよバスに乗り込み、現場見学に出発です。あいにく当日は雨で降車できませんでしたが、日曜だったため工事用車両が少なく、要所要所でバスを停めて「さらなる安全対策」を重点的に見学するチャンスに恵まれました。
海抜60mの地点の駐車場に見えたのは、冷却機能確保として配備された、赤×黄が目立つ「大容量送水ポンプ車」(9台)。原子炉や使用済燃料プールなどの冷却機能を、より強化します。ホースの直径が30cmもあるため、専用のホース巻き取り車も用意します。その近くでは「ガスタービン発電設備」を設置する掘削が行われていました。地下に電気室をつくり、設置済の空冷式ディーゼル発電機としくみが異なる「ガスタービン発電機車」を1階に配備し、電源供給の信頼性をさらに高めます。その隣には、震災の教訓と、今後起こるかもしれない竜巻対策として、「地下式の軽油タンク」(110kl×3台)をコンクリート枡でつくっていました。これで2号機は7日間の電源確保が見込めます。またメンテナンスを行う協力企業が入る保修センターの隣では、東西54m×南北42m×深さ10m、貯水量1万m3の巨大なコンクリート製の「淡水貯水槽」が設置されています。復水貯蔵タンクなど既存の水源に加え、事故時には「大容量送水ポンプ車」を用いて復水貯蔵タンクに冷却水を補給するほか、直接原子炉などに注水する能力も。これで2号機は7日間、事故対応可能な水を確保できるようになります。これらの特殊車両は社員が直接運転することとしており、免許の取得や訓練を進めているそうです。
原子炉から約600m離れた海抜60mの高台には、新たに「緊急時対策建屋」を建設中です。今は約17m掘り下げた岩盤に鉄筋の基礎打ちをしているところで、3層構造になる予定。災害時対応要員は約200人ですが、約1,000人入れる建物をつくろうとしています。耐震工事を施していたため震災時も被害が無かった旧事務棟は現在、協力会社が使用。その向かいには、震災時に近隣住民の避難所として3カ月使われた体育館が見えました。
女川原子力発電所のある牡鹿半島は全域が三陸復興国立公園に指定され、発電所も自然豊かな山の中ですが、所々、山を削る工事が施されているのが目に付きました。土砂崩れや森林火災の延焼を予防するため、斜面にモルタルを吹き付け、防火帯を設置しているのです。平地が無いため、駐車場など新たな設備をつくるのも山を切り崩すしか無いと聞き、思わずため息が…。同行した社員の方の「3カ月前にはここに山があったのに、風景が違っています!」との説明にメンバーから驚きの声が上がりました。発電所建屋の付近も、大きな車両が通れる幅広の道を山側と海側に2ルートつくるので、また景色が変わりそうです。
最後に、海抜29mにかさ上げされた、総延長約800mの防潮堤へ。実際に下から見上げるとその高さに圧倒されます。「なぜ29mになったのか?」との質問には、最新の知見で津波の最大遡上水位が海抜約23.1mとの評価に対し、今の技術でできる最大の高さ(29m)までのかさ上げを目指したとの答え。現在は沈下対策として設計を一部見直し、防潮堤直下の岩盤に達する部分までの地盤を強固にする、地盤改良の追加工事の施工方法を検討しているとのことでした。
このほかにも耐震の「さらなる安全対策」として、基準地震動を580→1,000ガルに見直したため、建屋に鉄骨を追加するなどの各種工事を実施しているとのことです。地元に電力を供給し、雇用を生むなどして、地元と共に歩んできた女川原子力発電所。地元に根付き、多くの被災の経験を元に培われてきた“震災に対する想像力”で、震災前から安全対策をきめ細やかに施してきた結果、発電所を安全に停止できたのだろうと確信しました。現在は原子力発電に対する信頼回復に向け、地元の方・協力会社の方・社員の方が“心を一つに”、今は無いが今後あるかもしれないという観点で多重の安全対策を準備しています。「マンパワーには限りがありますが、地道な対話活動を今後も進めていきたい。多くの方々に一度は発電所に見学に来ていただき、原子力もエネルギーミックスにおける電源の選択肢の一つにあると考えていただければ」というお話に、参加者から「さらに大勢の方々と密度の濃いコミュニケーションを取るのは大変だと思いますが、今後も地道な活動をぜひお願いします!」と声が上がり、この日の見学を終えました。
翌日は午前中、最新鋭の技術を極めた新仙台火力発電所(仙台市)へ。概要説明ビデオを見た後、所長から説明を伺いました。新仙台火力発電所は、1970年代に運転を開始した1・2号機が震災で被災し、リプレース工事を経て2015年12月に3-1号が、2016年7月に3-2号がそれぞれ営業運転を開始。東北電力の2017年度の発電電力量は約720億キロワット時(約2,300万世帯分)。2018年3月時点で管内の発電の約7割は火力が担っており、新仙台火力も重要な役割を果たしています。特長の一つは「ガスタービン+蒸気タービン+発電機を組み合わせたコンバインドサイクル発電」方式に、最新鋭の高効率ガスタービンを導入したことで、世界最高水準の60%超の熱効率を実現。もう一つの特長は「災害に強く、環境に優しい発電所」。発電コストの低減や、これまでの1・2号機と比べて年間のCO2排出量を3割程削減するなど低炭素社会の実現に貢献しています。
ガラス越しに中央制御室を見た後、タービンフロアへ入室。右に発電機、中央に蒸気タービン、左の大きな箱の中のガスタービンを同一軸に配置した、コンバインドサイクル発電設備が導入されていました。タンカーで海上輸送されたLNG(液化天然ガス)は、タンクで貯蔵し、気化器で気化してこのタービンフロアへ送り、燃焼ガスでガスタービンを回して発電し、さらにガスタービンから出る排ガスで蒸気をつくって蒸気タービンを回して発電しています。
バスに乗り構内を回ると、広大な敷地をぐるりと囲むように、県が設置した3.3mの防潮堤が完成していました。全景を眺めると、100mの煙突(排熱回収ボイラーの直上)が2本そびえ立っています。煙突の途中にはハヤブサの巣箱も設置され2羽巣立ったと聞き、メンバーの顔がほころびました。海側を見ると津波を減衰させるため5mの盛土がつくられ、24種類の植物が植えられています。燃料を入れるLNGタンク(16万㎥)は2基。本体の金属タンクは魔法瓶のような二重構造で、その外観をコンクリート製の防液堤で覆い、万が一の場合にLNGの流出を防ぐそうです。非常用として、燃料の種別を変えた軽油タンクも、強固なボルトで備え付けられていました。電気盤などの重要な設備は2階以上に設置し、3 階以上の建物には避難用に屋外階段が設置されています。目を遠くに移すと、桟橋には全長300m以上のタンカーが着桟し4本のローディングアームが接続、うち3本がLNGタンクへの受け入れ、残り1本がタンカー内の圧力を一定に保つためのガスをタンカーに戻す作業をしている様子が見えました。着桟して約1日で作業が完了すると聞き、そのスピード感にも驚きの声が上がりました。
構内をひと通り見て興味深かったのは、防災だけでなく「減災」をも考慮した設計です。津波が防潮堤を超えても発電所に直撃しないよう、減衰させるための盛土をつくる。また、機器を全て高台に移動させるのではなく、濡れても良いものは下に置くなどといった、災害に多く見舞われ、災害を知り尽くしてきた土地柄だからこそのフレキシブルな発想に、災害対策についての認識を新たにさせられました。
午後から東北電力中央給電指令所へ。会議室で業務内容紹介ビデオを見て、概要を伺いました。ここは東北6県と新潟県に電気を送るコントロールセンターです。指令課長の下に発電計画担当・系統監視担当・出力調整担当が班となり、3交代24時間体制で発電所→送電線→変電所の電気の流れを監視し、気候や時間帯などによって変化する電力需要を予測しながら各発電所の発電量を調整。需要と供給のバランスを取って周波数(50ヘルツ)を一定に保ち、質の高い電気を届ける役割を担っています。
実際の中央給電指令所とほぼ同じ設備を備えた、シミュレータ訓練室内を見学しました。大画面の系統監視盤には、主要送電網に沿って、各発電所の発電量がリアルタイムで表示されています。盤の右には、24時間の運用計画と、実際の発電量の変化を折れ線グラフで表示。この日はほとんどズレが無く推移していました。再び系統監視盤に目を向けると、発電所や変電所などの正常を示す赤色のランプが、停電を示す緑色にみるみるうちに変わり、数値も続々と0になり、「電源事故発生!」と自動音声が流れ出し、「えっ何事!?」とメンバーに緊張が走りました。これは震災発生時、瞬く間に停電が拡大していった状況を再現した訓練だったのです。当時の中央給電指令所の緊迫感がリアルに実感できました。と同時に、今後同様の事態が起きても冷静に対応するべく、震災の記録が生かされていることに感心しました。
2011年3月11日、東北電力管内で最大約466万戸(管内の約70%)の停電が発生したものの、全国の電力会社などからの応援により、3日後には約80%、8日後には約94%が復旧。東北電力の社員の方は皆、被災した経験を生かしていつか恩返ししたいと思っていたそうです。2018年9月6日に北海道胆振東部地震が発生し、ブラックアウト(広域停電)した際には、要請が来る前から応援部隊を準備。北海道電力の応援要請を受けて、停電当日に約250名がフェリーでいち早く現地に入り、電力復旧作業を手伝っているとのお話に胸が熱くなりました。
今回は2日間を通して、震災の経験と教訓を生かした東北電力の新たな取り組みや志を、さまざまな角度から知ることができた、たいへん有意義な見学会となりました。今後も引き続き女川原子力発電所の再稼働に向けた取り組みと東北地方の復興を見守っていきたいとの思いを胸に、メンバーは仙台を後にしました。