東日本大震災後に起こった福島第一原子力発電所の事故により、原子力を巡る様々な議論が交わされていますが、マスコミでは原発賛成の意見はほとんど取り上げられず、過度に原発反対を煽る傾向にあり、本当のことが言えない、多様性を認めない風潮にあると実感しています。また日本人は、一人ひとりが優秀でも、まとまって組織になると誤った論理で突き進もうとする傾向があります。歴史を振り返ると、大東亜戦争では、日本軍のエリート幹部たちの判断によって開戦、そして敗戦に至りました。現代では、トップエリートが集まる財務省が、増税しないと日本は財政破綻すると言って増税を演出していますが、現在の債務残高から日本政府の保有資産を差し引いた純債務は、諸外国と比較して少ないのが現実です。(つまり、日本が財政破たんする確率は限りなくゼロということです。)
同じように、原子力発電による電気がなくても生きていけるという持論を展開する人たちがいます。しかしエネルギーがなければ経済はストップし、人々の生活や生命維持や安全も成り立たなくなります。現在のところ、再エネは原子力の代替えになるほどのエネルギー生産力はなく、だからといって化石燃料に依存し続けていいのでしょうか。根拠のない精神論で原発反対を唱えるのは、無謀ではないでしょうか。電力供給の現状を見ると、2014年の火力の割合が90%近くもあり、オイルショック時の80%を超えて依存度が高く、世界の中でも日本だけが極端に偏った電力構成になっています。
「石油は経済の血液」ともいわれますが、原油価格は変動リスクが大きく、例えば、ドル安ドル高で価格が上下したり、あるいはアメリカの金融政策によっても上下します。またリスク要因は市場にとどまらず、日本が輸入の8割を依存している中東の不安定な国際情勢にもあります。中東では「アラブの春」以降政府の力が弱まり、宗教原理主義勢力が台頭し、戦争状態がずっと続いています。シリアの内戦、トルコ、イラン、サウジアラビアなど大国の衝突もあり、特にサウジアラビアでは原油価格の暴落により国の資産が減少、さらにアメリカの支援がなくなり国家が崩壊すれば、新たなテロが勃発するかもしれません。一方でアルカイダやイスラム国(IS)は、正統的なイスラム原理主義に立ち返ろうとジハード(聖戦)を繰り返し、テロをフランチャイズして支配地域を拡大しています。中東地域の宗教を巡る戦争は、日本人にはなかなか理解できないものですが、かつてヨーロッパで起きた宗教戦争と同じように、終結までに長い年月がかかるかもしれません。
価格の変動リスクが大きく、その上、戦争やテロのリスクも大きい中東から、海賊の出没する海域を抜け、さらに、国際ルールに従わない中国が武装漁民と海軍まで進出させている南シナ海、東シナ海という危険なシーレーン(海上交通路)を通る輸送に依存しているというのは、エネルギー安全保障上リスクが高すぎます。今、日本のエネルギーには4つの選択肢しかありません。今後も原油に頼り続けるならば、中東依存を続けるのか、脱却するのか。原油に頼らないならば、原子力なのか、それとも再生可能エネルギーなのか。厳しい現実を明らかにし、限られた選択肢から日本の取るべき道筋について、私たちに考えさせる報道があるべきだと思います。
日本のエネルギー問題にとっての3つのポイントとは、その1. 政情不安地域からの輸入に頼らず自国でまかなえる資源を使って自給率を上げること、その2. 家庭用、産業用の電気料金の上昇を抑えること、その3. 発電に伴って出るCO2の排出量を抑制することです。日本のエネルギー自給率は、再稼働した一部の原子力を含んでもわずか6%という異常な数値であり、さらに資源の輸入は途絶えるリスクを抱えています。電力コストについては、原子力発電が停止後に火力発電が増加し輸入燃料費が増加したことが大きな原因となり、震災前と比べ家庭用では25%、産業用で38%も上昇しています。ただし、今後、アメリカ西海岸、カナダからのシェールガスの輸入、また温暖化の影響で氷解した北極海経由で北海油田から、あるいはまたロシアからの輸入によって、輸入燃料費が下がる可能性もあります。
ポイントのその3について、CO2排出量が過去最悪になっていることは、あまりマスコミに取り上げられていません。原発のゴミ、つまり放射性廃棄物は、確実な管理下でコンパクトに保管できるので、ある意味では安全といえますが、CO2は空気中に撒き散らされてしまうと、目に見えないために、まるで消えてしまったような印象があります。しかし近年、世界中で起きている異常気象の原因として、CO2による地球の温度上昇が挙げられており、日本でも熱帯のスコールのようなゲリラ豪雨が多発しています。
日本のエネルギー事情を広い視野でよく考察した上で、リスクを分散する方策として、エネルギーミックスがあります。先進国で最低レベルのエネルギー自給率を震災前(20%)もしくはそれ以上にするために、ドイツをお手本にして、原子力ではなく再生可能エネルギーを増やしてエネルギー自給率を高めようという意見がよく聞かれます。ところがドイツでは、再エネの固定価格買取制度が2000年にスタートしてから再エネの発電設備が急速に増え、電力の買い取りにかかる費用を電気料金に上乗せする賦課金は、14年間で約30倍に高騰、実は来年には買取制度が廃止され、制度そのものが破綻します。日本でも今後、一家庭当たりの負担額が10倍に上ると予想され、電力コストを下げる目標の達成は見通しがつかなくなります。
日本の抱えるエネルギー問題を解決するために最も有効な手段は、結局のところ原子力発電所の再稼動ではないでしょうか。私たちが原子力を危険ととらえ排除しようとするのは、人間の本能が働くからであり、やむをえません。しかし、冷静になって、本当に必要なのは何かを理性で考えてみれば、原子力の必要性が認識されると思います。また、福島のみならず今後日本のすべての原子力発電所を廃炉にする場合にも、そして現在も続く除染作業にも、莫大なコストがかかります。と同時に、原子力発電と同程度のエネルギーを生むような再エネ技術の開発の財源も必要です。であるならば、未来のために今、原子力発電所を再稼動させ、少しでも財源を生み出すべきだと思います。またこれまでに築き上げてきた日本の高度な技術力を、今後、原子力発電所の新設が増加する世界の国々でも活用できるように、維持し続ける必要があると考えています。いずれにしても、間違った選択が引き起こした悲劇を過去の歴史から学び取り、未来のために備えをすることこそ重要ではないでしょうか。
経済評論家
1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業後に日本長期信用銀行、臨海セミナーに勤務、その後独立。2007年、勝間和代氏と『株式会社監査と分析』を設立し、取締役・共同事業パートナーに就任。2011年の東日本大震災を受け、勝間氏と共に『デフレ脱却国民会議』を設立し、事務局長に就任した。著書に『経済で読み解く大東亜戦争』(ベストセラーズ)、『「日本ダメ論」のウソ《完全版》』(イースト新書)、『2030年の世界エネルギー覇権図』(飛鳥新社)、『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済(講談社+α新書)』など。テレビでは、テレビ朝日「TVタックル」などにも出演。ラジオでは、ニッポン放送や文化放送にてコメンテイターとして出演している。