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H27年度メンバー会議

《日 時》
2015年4月23日(水) 13:30〜18:45
《会 場》
経団連会館2階(東京都千代田区大手町1-3-2)
《テーマ》
講演「ウクライナ情勢について」坂田東一氏
(前ウクライナ駐箚日本国特命全権大使)
ウクライナ危機が起こった背景とは何だったのか、その後の経緯、そして今、ウクライナはどうなっているのか。世界にとって、日本にとって、ウクライナ危機の及ぼす影響について、坂田東一氏(前ウクライナ駐箚日本国特命全権大使)に詳しく語っていただきました。

講演
ウクライナ情勢について なぜウクライナ危機は起こったのか

2011年から3年余にわたりウクライナ大使に任命されました。私は大学時代に工学を勉強し、当時の科学技術庁に入庁し、省庁再編で文部科学省になってからも、特に原子力技術関連の業務を務める期間が長かったのです。そのことから、チェルノブイリ事故を経験したウクライナの協力を仰ぎ、少しでも福島第一原子力発電所の事故対策に役立てるために大使に任命されたと思います。二国間の原子力関連の協力は順調に進んでいますが、2013年11月から、ウクライナは想像もつかない事態に陥りました。

ウクライナは、東にロシア連邦、西にはポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアといったEU加盟国とモルドバがあり、北にはベラルーシ、バルト3国、そして南には黒海をはさんでトルコというように、東西南北諸国の交流路にあるため、地政学的に極めて重要な国です。17世紀半ばにウクライナコサックによる国家が、ポーランドとの闘いのためロシアに保護を求めて以来、数百年にわたりロシアの傘下にあったため、ロシアとは歴史的文化的にも深いつながりがありました。1991年のソ連崩壊によって独立し、共和制国家になったウクライナは、日本の1.6倍にあたる60万㎡の国土を有し、その2/3が小麦やトウモロコシなどの穀倉地帯であり、また、ひまわりから作った油は世界一の輸出を誇っています。そして人口4,557万人のうち、ウクライナ人が78%、ロシア人が17%を占めています。


ウクライナと周辺国の地図

私が大使に赴任した時には、ウクライナにとってEU加盟の前段階にあたる連合協定の署名が、最も重要な内外政の課題として協議されていました。EUは冷戦崩壊時には12カ国でしたが、現在は28カ国に拡大しており、隣国ポーランド、スロバキアなど、EU加盟後に経済的に豊かになっているため、ウクライナは、将来を見据えて西側に向かう方向性を考えていました。2013年11月末には、汚職の根絶などの政治的な諸問題、貿易・投資面などの経済改革、また政治的動機による逮捕・裁判で刑務所に収かんされていたティモシェンコ元首相の解放といった問題をクリアできれば、連合協定に署名する予定でした。ところが、ロシアから大規模な財政支援の申し出があり、当面の経済的苦境をしのげると考えたのか、ヤヌーコヴィチ前大統領はEUとの連合協定の署名作業を中断します。このため12月から2014年2月にかけて、野党や市民による反政府抗議行動が激化し、特殊警察部隊からの発砲等により反政府派の犠牲者は100人を超えました。これをきっかけに2月下旬、独仏露ポーランドの仲介により与野党間で国家の進路について合意書を締結しましたが、翌日大統領はロシアへ逃亡、2月末ヤツェニューク首相による親欧州派の暫定政権が誕生します。これは革命的な政権交代と言えます。1月下旬以降、反政府派の築いたバリケードのため、首都キエフ中心部にある日本大使館にアクセスできなくなり、私たちは、2カ月間ホテルの部屋を借りて仕事を続けました。


ウクライナ問題に深くかかわるロシアの存在

2月末までは国内の政権派と反政権派との抗争だったのですが、その頃、ロシアによるクリミア半島への侵攻が始まり、武力を背景として3月にはロシアへの編入を決める住民投票が行われ、クリミアはウクライナの領土から分断されます。ロシアとNATO(北大西洋条約機構)との国境線はポーランド等東欧ですが、緩衝地帯にあるのがウクライナとベラルーシです。もしウクライナが西側につき、NATOの加盟国となれば、ロシアはNATOの国と直接国境を接することになります。従って、そうならないようロシアはウクライナへの介入をしたのだろうと思います。ロシアにはもう一つ、ロシア国内や周辺国において、ウクライナで起こったような反政権運動の発生を未然に防止しようという考えもありました。国際社会はロシアによるクリミア併合を国際法違反として容認せず、米EU日などによる対露経済制裁も始まり、その結果ロシアは、2014年には通貨ルーブルの大幅な価値下落のほか、1,600億ドルの海外資本流失、200億ドルもの経済的直接損失を被ったと言われています。

4月になると、親露派武装集団(分離派)がウクライナ東部のハリコフ、ドネツク、ルハンスク各州の行政府庁舎等を占拠し、それに対しウクライナ政府による反攻が始まり、米、EU、ウクライナ、露による停戦のためのジュネーブ宣言が採択されました。6月には大統領選によって選ばれたポロシェンコ大統領が就任し和平計画を進め、G7サミットやノルマンディ上陸70周年記念式典での独仏仲介による初のウクライナ露の首脳会談(ノルマンディ方式協議)もありました。しかし、停戦は実現されず、一方では、中断されていたEUとの連合協定の署名が6月末に行われ、ウクライナは欧州への統合に向け重要な一歩を踏み出しました。7、8月には東部における戦闘が激化、またマレーシア航空機の撃墜という最悪の事態が起こりました。ウクライナは状況証拠から親露分離派か、ロシア軍がミサイルで撃墜したと主張していますが、真相はいまだ解明されていません。

9月に入り、ウクライナと露、親露分離派の代表に加え、OSCE(欧州安全保障協力機構)が、停戦のための諸項目を中心に、現在、東部地域に平和と安定を実現するための最も重要な文書である「ミンスク合意」をします。また連合協定も批准され、11月にはその暫定適用が始まりウクライナの欧州統合路線がより確かな歩みを進めます。ウクライナ国内では西側の基準にのっとった民主主義社会を構築しようという国民意志が10月の最高会議選挙によって明確になり、12月には親欧州派の連立内閣、第二次ヤツェニューク内閣が発足しました。さらに2015年1月には、ロシアにとって最も受け入れ難いウクライナのNATO加盟を可能とする法律が発効します。一方、昨年の9月の「ミンスク合意」があるにもかかわらず、2月にかけて東部での戦闘が再び急激に悪化し、国内外への避難民は約150万人にも上りました。強い危機感を持った独仏首脳は事態解決に向けたギリギリの仲介努力を行い、2月半ばに新たなミンスク合意Ⅱが締結されます。


国際社会への影響と今後の問題点

ウクライナ危機は、ハイ・ブリッド戦争とも言われ4つの戦争の側面があります。一つ目は通常の武器を使った武力戦争、二つ目はエネルギーをめぐる争いです。ロシアは今回、ウクライナ向けの天然ガスの供給を昨年6月から約半年間ストップし、ウクライナ経由で天然ガスが送られるEU諸国にとっては、過去にも供給が滞った経験があり、大きな懸念要因でした。三つ目は貿易戦争です。ロシアへの工業製品等の輸出が禁止され、ウクライナは経済的に大きな影響を受けています。そして最後は情報戦争です。西側は、ロシアのメディアが国家統制下にあり、ウクライナ紛争について作られた虚偽の情報が流されていることに危惧を感じています。逆にロシア側は自国の立場の正当性を強調し、国民からの支持を得るための情報を流しています。

日本にとっては、8,000キロ離れ、地政学的な利害は相対的に薄いウクライナの問題ではありますが、紛争は平和的に解決すべきであり、国際ルールや法の支配が重要という原理・原則に基づいて対処しています。これは国際社会における日本の国家としての生き方の問題でもあります。日本はロシアとの関係も維持する必要がありますが、ウクライナ危機に伴い、これまでウクライナに対し18億ドル以上の支援を表明し、ウクライナにとってアジアで唯一の最も信頼できる支援国になっています。

4月にドイツで行われたG7外相サミットで出された共同コミュニケにおいて、今の世界の平和と安定にかかわる再重要項目がウクライナ問題でした。国際社会にとってウクライナ危機は、安全保障システム全体の信認の危機を示す警鐘です。ロシアによるクリミア併合や、東部への侵略および分離派への資金や武器、傭兵の供給などの支援は、ウクライナの主権と領土一体性を侵すもので、第二次大戦後に制定された国際法、国連憲章、二国間条約等に違反しているわけです。今後、ウクライナ危機をどのように解決できるかが、21世紀の世界の平和と安定を守るための試金石になると思います。

また、ウクライナ自身も、避難民対策、破壊された東部のインフラ再建や疲弊した産業復旧、国内の経済回復への取り組みが必要です。そのために、東部の平和と安定の回復とともに、国際社会からの政治的、経済的支援が必要不可欠です。またその前提として、ウクライナは旧ソ連的体質からの脱却のため、政治・経済・司法等の各分野で諸改革を断行する必要があります。

他方、ロシアは、ウクライナ危機によって何を得て、何を失ったのでしょうか。彼らはクリミアを領土に組み入れ、プーチン大統領の支持率が上昇し、東部を不安定化させてウクライナを疲弊させたものの、ウクライナの民意も政治もすっかりロシアに背を向けてしまったと言えます。また、欧州とのパートナーシップも壊れ、欧米からの経済制裁も受け、国際社会における信用も低下しました。NATOとの関係の不確実性も増しています。ウクライナ危機以前よりもロシアの「安定」「安全」が増しているとは言えません。冷戦時代と異なり、世界は国際ルールを守って相互に依存し協力しながら、一緒に経済発展する時代になっています。G8からも除外されているロシアは、中国やアジアとの協力を強化しようとしていますが、その先行きがどうなるか明確には見通せません。今後、国際社会と協力しながらウクライナ問題の解決に向けた具体的な姿勢を示さなければ、中長期的なロシアの発展もないと思われます。


講演後、神津代表を迎えて、質疑応答が行われました。

神津 ウクライナによるEU連合協定署名は、ロシアにとって当初からどのような意味があったのでしょうか。

坂田 ロシアは、カザフスタン、ベラルーシと三国で関税同盟を作っており、その同盟にウクライナを加えたいと考えていました。従って、ウクライナの欧州統合路線を後押しするEU連合協定署名は反対でした。ウクライナ政府はロシアとの関係も考慮しなければならなかったのですが、関税同盟の加盟と連合協定の加盟は両立しないという問題がありました。そこで連合協定署名を追及したい同政府は、2013年ロシアに対して、関税同盟にオブザーバーとしてのみ入ることを認可してもらっています。興味深い動きとして、今年1月に創設されたユーラシア経済同盟(EEU)は、関税同盟の国にアルメニアを加え、さらにキルギスも加盟を予定していますが、その先にプーチン大統領が意識しているのは、EUのような、経済面のみならず政治的な同盟です。これは、いわば旧ソ連の形を変えた復活なのだろうと想像されます。

神津 欧州と大陸がつながっているロシアは資源国として影響力がありますが、欧州ではロシアへのエネルギー依存度を下げようとする動きがあると聞いています。

坂田 欧州は世界中から年間1,300億㎥もの天然ガスを輸入しており、その3割がロシアからなので、ウクライナ危機を見て、リスク軽減のためにロシアへの依存度を下げようとしています。具体的には、アフリカや中東諸国からのLNGによる輸入を増加させようとしており、欧州域内でのガスの輸出入も増やそうとしています。ロシアは今後、中国や他のアジア各国への輸出を増加させるでしょうが、市場でのロシアのガスの取り引きの状況如何によっては、日本を含め世界の様々な地域でのエネルギー政策に影響が出てくると思います。

神津 ウクライナの原子力発電は、現在15基稼働中で、2基を新設するそうですが、チェルノブイリ事故があった国なのに、原子力に対する国民の感覚が日本とは違うような気がするのですが。

坂田 1986年4月の事故当時、チェルノブイリはソ連でしたが、電力不足のため同年夏に1、2号炉は運転再開し、翌年には3号炉が運転再開しています。新規原子力発電所建設については90年に5年間凍結になりました。ところが91年のウクライナ独立後は、経済停滞による電力不足で、93年に凍結解除になり、現在、国内の原子力総出力規模は約1,380万KWで世界第8位になっています。ウクライナは9月になると寒くなるので、ロシアに天然ガス供給を止められると、文字通り国民にとって死活問題になります。だからこそ欧州からの輸入を増大させることなどにより、ロシアの天然ガスへの依存度を下げる動きを早めており、同時に2013年の新政策では、2030年までのエネルギー戦略として原子力発電の占める割合を50%にする方針になっています。数年前の世論調査でウクライナでは、国民の41%が原発賛成、反対が35%で、チェルノブイリからすでに立ち直っているといえるかもしれません。

茅 陽一 ウクライナ情勢はどのようにしたら収拾がつくと、個人的にはお考えですか?

坂田 大変難しい問題です。まずはミンスク合意の完全かつ全面的な履行なくして、ウクライナ危機の解決はありません。ウクライナにとっては、東部がウクライナの主権の下に戻り、ロシアのクリミア併合は認めず、取り戻さなければならないということです。しかし東部がどのような形で戻るのかまだわかりませんし、クリミアをロシアが手放す見通しも立ちません。ウクライナ政府にとって、東部もクリミアもそこに住む国民を見捨てるわけにはいきません。解決するまでには長い時間がかかるでしょう。一方のロシアにとっても東部の併合は経済的負担が大きく、その意志はないだろうと思います。だから当分の間ミンスク合意の実施を第一に考えて、ウクライナは避難民対策、インフラの回復、経済の立て直しを目指し、ロシアは、東部を占拠している親露分離派を通じてウクライナを牽制し影響力を保持していく ── こういった構図の中でミンスク合意の各項目等について折り合いをつけるために、米欧露ウクライナの間では、高度な政治的折衝が必要になってくると思います。

神津 世界で起こるすべての問題を掘り下げて理解するのは不可能ですが、今日はウクライナ問題について詳細にお話を伺えました。ウクライナのようにエネルギーが生きるか死ぬかの大問題にもなってしまう国があることも、あらためて感じました。


坂田東一(さかた とういち)氏プロフィール

前ウクライナ駐箚日本国特命全権大使
1972年東京大学工学部卒、74年東京大学大学院工学研究科修士課程修了、科学技術庁入庁。原子力局核燃料課長、原子力局政策課長、総務課長、文部科学省研究開発局長、理化学研究所理事、文部科学省官房長、文部科学審議官、文部科学事務次官などを経て、2010年9月からウクライナ駐箚特命全権大使兼モルドバ駐箚特命全権大使。14年2月からロシアのクリミア侵攻がなされ、同年10月31日付で依願退官し、現在は、一般社団法人日本原子力産業協会特任フェロー他。

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