身近で頻繁に起こるようになった気象災害は私たちの生活にどのような影響を与えているのか、また、その原因と言われている地球温暖化を抑止するためのエネルギーの選択について、村山貢司氏((一財)気象業務支援センター専任主任技師・気象予報士)にお話しいただいた後、石窪奈穂美氏(消費生活アドバイザー)との対談が行われました。
ひと月前の2019年9月に関東を襲った台風15号は甚大な被害をもたらしましたが、事前の天気図では台風が小さかったため大きな被害にならないだろうとの油断から、政府や自治体の対応が遅れました。千葉市では最大瞬間風速57.5mが記録されています。しかし計測していない地点では実際には60mを越えていたため鉄塔さえ倒れてしまったのです。強風による局地的なダメージを受けた千葉県では、一時60万世帯もの大停電が起きました。電線が切れ電柱が倒れていても倒木で道がふさがれ車がたどり着けず、情報も遮断された苦しい状況の中、復旧までおおむね3週間かかりました。長期にわたり電気がない生活を経験したことのない私たちにとって、現地の方たちがどれほど苦労されたのか想像もできません。しかし、台風のコースが少しずれていればここ鹿児島に来ていた可能性もあるのです。今週末には今年最強の台風19号が再び関東に襲来すると言われています。これまでは数年に一回レベルだった大型台風をこれからは毎年経験しなければならない、そういう非常に危険な時代に私たちは生きていると言えます。
2018年には梅雨の中盤に北陸から近畿、中国、四国地方の広い範囲で記録的な大雨が降りました。24時間で400ミリ以上降った地域もあり、これは日本の年間雨量1,600〜1,700ミリの3カ月分にも相当します。この時は近畿から九州にかけて11の府県に大雨特別警報が出ましたが、避難を呼びかけても現実には2,000万人全員が避難できる場所などありません。九州でも今年の8月末に豪雨になったのは記憶に新しいと思います。しかし皆さんは実際に大きな被害に遭わない限り、こうした気象災害の記憶を忘れてしまいがちです。
ここ数年、気象災害は世界でも激しくなっていますが、自然災害による経済損失が過去20年で最も大きい国は、ハリケーンや干ばつによる損失が大きいアメリカで、2位が中国、3位が日本で42兆円に上ります。そして異常気象による作物への被害は、食料不足と価格の高騰など世界レベルで影響を与えています。なぜこのように災害が巨大化したのかというと、温暖化により温度が上昇した海水から熱を奪って水蒸気が大量に発生し、それが集まり雲となりますが、それが戻る時に大量のエネルギーを持って低気圧や台風に発達するからです。ですから、海面温度が上がって水蒸気量が増えれば増えるほど、そのエネルギーを大量に蓄えて台風や低気圧が巨大化するのです。
鹿児島の気温の変化を見てみると、ここ40年で平均気温が1.5℃ほど上昇しています。そして2100年の最新予測によると、日本全国の年平均気温は4.5℃上昇、鹿児島などの西日本太平洋側は4.1℃上昇し、鹿児島の8月平均最高気温は36℃を超え、真夏日は140日近くにも上る予測になっています。
温暖化を防止するためにはこれ以上CO2を出さない方策が必要です。そのために太陽光や風力といった再生可能エネルギーの推進が世界で叫ばれていますが、日本では具体的な対策のスケジュールがよく見えていません。一方、このまま温暖化が進むと、再生可能エネルギーそのものにも大きな影響が出てきます。というのは、緯度が高い地域と低い地域の南北温度差が小さくなるため、風が弱まり風力発電の出力が小さくなることや、雲の増加で日照時間が減少し太陽光発電の出力も小さくなるからです。日本はエネルギー基本計画で2030年度の電源構成目標を、火力56%、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%に設定しています。しかし2016年現在、再生可能エネルギーの比率は15%に止まり、そのうち太陽光と風力はわずか5%しかありません。自然に左右される供給不安定な再生可能エネルギーを増やすためには、施設を倍増したり、送電など系統の見直し、あるいはバックアップとなる火力発電の増加も必要になってきます。この先あと10数年でどうすればいいのでしょうか。他にも消費者の私たちにとって賦課金の増加負担という課題もあります。
気象予報士にとってはまた、別の問題があります。再生可能エネルギーによる発電量は気象の変動影響が大きく、「くもり、ところにより晴れ」などという曖昧な表現ではなくピンポイントの場所を示し、10分間隔程度の正確な予報が求められるにもかかわらず、詳細な予報を出すための人員や精密な機器、そのコストが考慮されていないからです。
次世代のエネルギー体系を早急に作りつつ、火力の熱効率も上げながら再生可能エネルギーを増加させる方法が必要だと私は考えます。その過程において、あとどのくらいの割合で原子力発電が必要になるのかもわかってくると思います。原子力は東日本大震災後、2016年は電源構成の2%未満。CO2排出量ゼロというメリットを活かすことができていません。他にも推進されている電力自由化について考えると、先んじて実施されてきた海外では、電気料金の高騰や参入した会社の倒産、また停電など、多くの問題が挙げられています。そして電力が不足した時、一体誰が責任を負うのでしょうか。また気象予報士の立場からは、再生可能エネルギーはもちろん応援しているものの、日毎の変動が大きいという課題だけでなく、水力発電を抜かせば気象条件の問題で長期的にはマイナスになるかもしれないので、国が目指す電源構成の目標が果たして実現できるのか疑問に思っています。エネルギーについて、皆さんには是非、あらゆる角度から考えていただきたいと思います。
石窪 今年は鹿児島でも4月から熱中症になる人が出て驚いています。
村山 私たちの体は4〜6月にかけてはまだ暑さに慣れていないため、熱中症になりやすいのです。体温と異なり皮膚の温度の平均は32〜3℃と言われ、それ以上の気温になると体から熱が逃げていかなくなるので熱中症の危険度が増します。熱中症にかかるのは圧倒的に高齢者が多く、熱帯夜で眠りが浅くなり食欲がなくなり、一気に重症の熱中症になります。これまでの常識を捨てて、暑い時には必ずクーラーをつけるようにしないと命が危険です。
石窪 今日のお話で異常気象は世界各国で起こっていることがわかりましたが、温暖化の影響は途上国と先進国と差がありますか。
村山 途上国は人的被害が多く、海の防潮堤も川の堤防もない東南アジアなどの雨季には、人も家も流され直接被害を受けています。経済的側面の影響が大きい先進国でもここ5年ほどは人的被害が増加していますし、自分の身は自分で守ることをぜひ心がけてほしいです。そして大きな自然災害の直後は防災用品がよく売れるのですが、時が経つと災害の記憶が薄れて中身の確認をしなくなるので、定期的に水や食品を入れ替えていただきたい。また夜は必ず枕元に懐中電灯を置いて暗くてもすぐに動けるようにしてほしいですね。
石窪 今年鹿児島市では7月の豪雨で避難指示が全域に出ましたが、警報レベルがややわかりにくいのですが。
村山 5段階の警戒レベルのうち最も高いレベル5が大雨特別警報です。レベル4が土砂災害警戒情報、3が大雨警報などになっています。ただどのくらい危険度が高いのか判断できず避難が遅れやすいため、高齢者や子供は明るいうちから早めに避難してください。また普段から、避難場所まで歩いてどのくらい時間がかかるのかなど、散歩しながら確認しておくのも手ですね。
石窪 2100年の鹿児島の気温についての話はショッキングでしたが、100年後のことは想像つかないので、どのようにとらえればいいですか?
村山 100年後といっても、今や5年から7年ごとに一度発生する状況になっており、これがさらに2年に一回になり、毎年のようになるのが100年後です。これから10年の間にきっと経験しますし、もっとひどい異常気象が起こる可能性だってあります。
石窪 100年後なんて悠長な話ではないんですね! 温暖化が進むと再生可能エネルギーにもブレーキがかかるかもしれないという話にも驚きました。電気が安定供給されるためには、やはりベースになる電気を何割確保できるかがポイントだと思いました。
村山 災害が起きるリスクが高くなれば、停電になるリスクが今よりもっと高くなり、電気が足りなくても電圧が異なる東日本と西日本で大量の電気をやりとりできません。それから電力自由化で料金が安い電気会社にすぐに乗り換えたりせず、長期的に安定的な供給のことを考えると地域の電力会社から電気を買うのがベストではないかと私は考えます。
石窪 今回、川内原子力発電所を見学なさったそうですが、どのように感じられましたか。
村山 防潮堤を2倍以上の高さにして、基準を上回る安全性になっています。でもマスコミは発電所内でどのような取り組みがなされているか詳しく伝えようとしないから、その結果、皆さんにもよく伝わっていないようです。安全対策の強化をしているのに稼動できない原子力発電所があるのは本当にもったいないと思います。将来的に減らすとしても、どういうシナリオで減らしていくのか、そして火力や再生可能エネルギーをどの程度まで使って温暖化対策につなげていくのか考える必要があります。
石窪 島国で資源も少ない日本で、エネルギーなどのインフラを確実に維持するためにどうしたらいいのか、皆さんも自分の問題として、さまざまな観点から考えていただければと思います。
(一財)気象業務支援センター専任主任技師・気象予報士
1949年、東京都生まれ。東京教育大学農学部卒。72年、日本気象協会入社。96年に気象予報士資格を取得。2003年に日本気象協会を退社し、気象業務支援センターに入社。1987〜2007年までNHKで気象解説を担当。気象、気象と経済、生気象、地球環境が専門分野で、花粉症の専門家としても著名。『花粉症の化学』『猛暑厳寒で株価は上がるか?』『健康気象学入門』など著書多数。