北海道胆振東部地震後に起きた、日本で初めてのブラックアウト。原因を検証する中、北海道のエネルギー事情の特徴や、地震発生の時間帯など複合的な原因が明らかになってきました。近年の日本では、地震のみならず台風などの自然災害による大規模で長期にわたる停電が頻繁に起きています。早期復旧あるいは事前防止のために、供給側のみならず私たち需要側でもできることは何かについて、岩船由美子氏(東京大学生産技術研究所特任教授)にお話を伺ったのち、神津カンナETT代表との対談が行われました。
北海道のエネルギーの特徴といえば、年間で冬季の暖房に最もエネルギーが使用され、そのうち石油系の消費量が全国で一番多いことです。ただ家庭部門の場合、同じように寒い東北に比べ断熱性、気密性が優れているため、室内なら真冬にTシャツ一枚でも平気だと言われます。また冬場の電力需要は、東京などでは夕方の需要が突出しているのに、北海道は時間帯のカーブが比較的なだらかで、ピークといえば電気温水器と蓄熱暖房のため夜中の3〜6時にかけてと見られています。
2018年9月6日3時7分、北海道胆振中東部を震源とする最大震度7の地震が発生し、それから18分後の3時25分に北海道全域で停電しました。ブラックアウト後に、原因の究明や電力会社等の対応を検証するための委員会が開かれ、同時に電力のレジリエンスについての議論なども他の委員会で並行して行われました。レジリエンスとは電力議論の場で頻繁に登場する言葉で、地震、台風など災害があった場合、それに対する復元力という意味です。しかし最近では、地震があっても停電を絶対に起こさないといった強靭化の意味合いで使われています。
ブラックアウトの原因を理解するために、電力の需要供給について図で説明します。電気は貯めることができないため、常に需要増減に合わせて発電する電気の同時同量でバランスさせています。系統運用で、同時同量のバランスが崩れると、周波数が上下します。北海道の周波数は50Hz。図のように重りの高さを維持するため電力需要の量に応じて、中央給電指令所(中給)が大きな発電所に発電の量の指令を出し周波数を一定(=同時同量)に保ちます。
ところが、事故などで大きな発電所が停止した場合、需要を支えられず、急激に周波数低下が起こります。この時、即時に動作するのは、隣のエリアと供給エリアがつながっている送電線の連系線です。連系線にある自動周波数制御装置(AFC)が動作し、隣のエリアの電力を流し需要を支えようとします。北海道と本州をつなぐ連系線は北本連系線(連系設備)と呼ばれています。
それでも発電側の発電量(供給力)が足りず、周波数低下が一定期間、一定周波数以下となった場合には、周波数低下リレー(UFR)が動作します。これはあらかじめ定められた条件で自動で発電機や負荷(需要)などを系統から切り離す装置であり、系統から切り離された需要は停電することになります。
地震発生後、苫東厚真発電所の2,4号機が停止、1号機も出力が落ち、その結果周波数が下がっていったため、AFCが作動し、UFRの作動により需要を切りましたが、それでも足りずに周波数は落ち続けました。地震が発生したのは真夜中で、太陽光発電は使えず風力発電も自らを守るために自動的に系統から離れましたが、北本連系線による隣エリアからの電力の増加により、一時的に周波数が50Hzでバランスしました。その後、北本連系線から電力が届いても北海道の皆さんが地震で慌てて一気に照明やテレビを付けたことにより需要が増え周波数が低下し、周波数を上げる機能もなくなる中、苫東厚真の1号機も完全に停止。また狩勝幹線など主要送電線の事故によって水力発電所が停止したことなどもあり、複合要因でブラックアウトになりました。
しかしブラックアウトからの復活=ブラックスタートは、一度失敗したものの、45時間で北海道全域に電力供給されました。地震発生後からは経済産業省などによるメディアを使った情報発信が盛んに行われ、道内全域の家庭・業務・産業各部門に節電要請が出され、全体で10%以上の需要削減ができました。地震発生は9月だったので、電力需要が大きくなる冬に向けた供給側の対策がシミュレーションされ、調整力を持った揚水発電所の運用の見直しや、18年度末には石狩湾新港発電所1号機や新北本連系設備も運転開始されたため、現在は問題なく運用されています。
地震発生直後の再生可能エネルギーについて、風力発電は北海道電力の系統連系要件に基づいて保護装置が設置されているため、系統全体の周波数が運転限界を超えると、自動的に解列しました。また太陽光に関しては、蓄電池付きのものは動かしたかったのですが、事業者側の都合で運転開始が遅れたりする事態も発生しました。一方、コージェネレーション*は、東日本大震災後に改良され自立運転できるため、設置した85%の家庭で停電時に電力利用ができました。屋根置きの太陽光発電も活用されました。
*コージェネレーション 天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステム
地震だけではなく、近年では異常気象による災害が多発しており、今年9月の台風15号襲来により、千葉県では停電解消まで250時間近くかかっています。地震の影響は発電所など局所的ですが、台風は倒木、断線などがあちこちで起き、停電個所の特定や大きな修理車の通行可能まで時間がかかります。自然災害による大規模停電を踏まえて、早期復旧に向けた取り組み、重要な電力設備の総点検、国民への迅速かつ正確な情報発信が課題になっています。
災害時の発電の継続や早急な復旧対策については、総合資源エネルギー調査会において、再エネのレジリエンス対策の強化や需要家・地域のレジリエンスにつながる自立電源等の導入支援などが議論されています。一方で考えなければならないのがリスクとコストのバランスです。例えば電線地中化議論が盛んだった時期もありましたが、架空電線よりコストが10倍もかかり宅地開発時に住戸が負担するしかなく、また水害で地中に水が入ると復旧に時間もコストもかかるため、現在では地中化議論は静まりつつあります。
私の個人的な意見としては、供給側だけの対策では費用対効果が厳しいため、需要側の対策を組み合わせた検討として、太陽光発電の設置による自立電源の導入支援や、現在は高価格ではあるものの蓄電池設置の推進、そして電気自動車やプラグインハイブリッド自動車などの蓄電池としての活用が望ましいと思います。また停電は必ず起こるという前提で各自が電気関連の防災グッズの備えをした方がいいでしょう。それから節電要請と言っても、何をどこまですべきか具体的に不明であり、もっと需要を精査してほしい。長期的には部分的な需要抑制機能をつけたスマートメータの活用方法なども考えるべきです。一方、自由化された電力業界で、すべての人になくてはならないインフラ=電力を扱う企業が、どこまで矜持を持てるのかという問題も大きいと考えています。
神津 ブラックアウトからの復旧は、通常の停電の復旧とどのように違うのでしょうか。
岩船 種火がないのがブラックスタートの特徴で、一回発電量が戻ったら需要を戻す、また少し戻ったら需要を戻す、というように徐々に発電量を積み上げていき系統全体の需要を賄わなければなりません。
神津 各電力会社には一定量の種火となる発電所があるんですね。
岩船 水力発電所はブラックスタート機能を持っているので活用できます。そして周波数を維持するための火力発電所も重要ですが、再エネ導入によって発電できる量が減少し、調整力としてしか使わなくなると、設備利用率が落ちて経済的に見合わなくなります。だから存在しているだけで対価が得られ維持できる仕組みとして「容量市場」が2020年度に開設されます。しかし容量市場は、海外でも運用がうまくいっていない場合もあります。日本では特に再エネ導入と電力自由化の時期が重なり、自由化で送配電部門が発電部門と切り離されているので制度設計が大変です。
神津 制度設計が未成熟のところに災害が起きた。
岩船 今までは自由化で電気料金が安くなるからいい、再エネ利用でクリーンなエネルギーになるからいいと言っていたのに、今度はレジリエンスでお金もかかるし、複雑に絡み合っている状況です。
神津 かつての日本は水力が主で火力が次という水主火従、それが火主水従になり、でも今また水力発電の大切さを感じているというように、目まぐるしく変化していますね。
岩船 揚水式水力発電は電気の少ない時に上にくみ上げた水を落として発電するという、蓄電池のような役割を果たすので、太陽光や風力といった再エネとともに再び注目されています。
神津 太陽光、風力の効力はどうでしょうか。
岩船 野立ての太陽光は山を切り崩したり、ずさんな管理が問題視されていますが、一般の建物の屋根置きは進めたほうがいいと思います。風力は本来保持している周波数調整機能を発揮させ、太陽光も周波数維持機能のインバーター化など、オンラインで制御できる優れた機器の増加が望まれます。
神津 人類の進歩は制御の進歩と言われています。制御ができるようになれば、もちろん整備までにお金はかかるけれど、再エネは自立できて火力を減らすことができる。その中では出力が圧倒的に大きい原子力はどういう位置づけになるでしょうか。
岩船 今あるものを再稼動させて使うのは経済的にはいいわけですが、求められる安全対策にコストがかかりすぎて諦めざるをえなくなる。再エネや火力とのバランスが重要です。大規模停電検証委員会を立ち上げた電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、電力自由化に伴って作られた組織で日本全国の電力供給に責任を持つよう検証したり連系線の管理をしており、電力会社間のバランスのとれた取り決めを行っています。
神津 なるほど。しかし現実的には各発電所の制御や調整力、あるいは法的なルールなどが確立するには相当時間がかかりますね。
岩船 これまでの10電力会社の発電所数を仮に100とすると、自由化により数万、数100万の発電所管理に適したシステムにしなければならず、しかし再エネを増やすという国としての方針に従えば、チャレンジングな方向を目指していかざるをえません。
神津 リスクとコストのバランスも、どこで折り合いをつけるのかが問題ですね。
岩船 北海道電力はブラックアウトからの復旧に全力を注ぎましたが、他の電力会社に同じレベルを求めても応えられるのか、あるいは台風被害の千葉県に送配電部門の人が全国から集結して復旧したけれど、自由化が進めばあれほどのネットワークを維持できるかはわかりません。また費用対効果を考えると日本の隅々まで送電線を作り続けることはこれからは困難と言えます。ユニバーサルサービスだった電気事業は、人口が減少し都市が縮小していく中で、果たしてどうなるのでしょうか。都市計画とエネルギー政策の連動も考慮すべきでしょう。
神津 気候災害にしろエネルギーにしろ、これまで当たり前だったものがそうではなくなるとしたら、私たちも自分の生活を見直して考え方を柔軟に変えていく時代なんですね。
東京大学生産技術研究所特任教授
1968年、秋田県生まれ。1991年、北海道大学工学部電気工学科卒業、93年、同大学院工学研究科修士課程修了、2001年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了。工学博士。1993年〜98年まで(株)三菱総合研究所、2001年〜08年まで(株)住環境計画研究所勤務を経て、東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター講師、准教授を経て2015年より現職。専門はエネルギーデマンド工学。北海道大規模停電検証委員会他、複数の委員を務める。