ETTの企画委員が企画した第二回メンバー勉強会では、午前の部で「どうなる?! 日本のエネルギー政策と私たちの暮らし」をテーマに、中上英俊氏(省エネルギー小委員会委員長)による「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー小委員会の動向」、山地憲治氏(新エネルギー小委員会委員長)による「再生可能エネルギー政策について」、日景弥生氏(原子力小委員会委員)による「なんで私が…原子力小委員会委員」という、3つの講演が行われました。 午後の部では、「私たちの暮らしにどのような影響があるのか」をテーマに、企画委員メンバーの石窪奈穂美氏(消費生活アドバイザー/鹿児島大学非常勤講師)による「再稼動を踏まえ思うこと(自治体の避難計画などは…)」、歌代勝子氏(くらしをみつめる…柏桃の輪代表)による「3・11以降 立地地域は今…」、また森田浩司氏(電気事業連合会広報部部長)による「電力自由化・発送電分離、再エネ接続保留など電力事業者としての課題、取り組みは…」という3つのお話がありました。ここでは、午前午後の登壇者を含め、神津代表をコーディネーターに迎えて行われた、質疑応答トークを紹介します。
ETTメンバーからはじめに、「太陽光発電への投資勧誘広告を見て、温暖化防止や脱原子力のための再エネ促進ではなく、投資の対象になっていることに違和感を感じます」という意見が出ました。これに対し山地氏は、「投資者の利益追求は政策で想定されていたことです。ただし、太陽光発電においては過剰な「レント」(=不労所得、権利を所有していることで出る利益)が発生しているのではないかという疑念があり、それが賦課金として全国民の負担を招くことになるので、改善する方向に進んでいます。再エネのみならず電力自由化においても、電力供給という公益的事業では、私的な利益が不当に過大にならないように注視し調整すべきでしょう」と返答されました。
開始から2年が経ち、既存の電力系統に再生可能エネルギーの電力を受け入れる際の安定供給の問題などが数多くあるFIT(固定買取制度)の課題に関して、「法を改正できるまでの間、課題に対する当面の対応は、どこが、どのように行っていますか」という質問に対しては、「たとえば、設備が認定されたあとで勝手に設備を拡大するなどの変更を行った業者に対しては、再認定によって買取価格を低くするとか、資源エネルギー庁が設備の建設状況を精査し、意図的に運転開始を遅らせているような場合には認定取り消しを行う場合もあり、業者名は公表されませんが取り消し件数は公表されています」と、山地氏から返答がありました。
省エネに関してはスマートメーターの有効性についての質問に対し、中上氏は、「電力事業者が目指していたのは、まず検針の人件費削減です。またガス、水道と併せたスマートメーターによる効率性も考えられ、アメリカでは大きな経費削減が実現しています。スマートメーターの導入により、ビッグデータの中から個人データを取り出して他の家と比較しながら、各家庭で電力消費を調整できるようになりましたが、あくまで消費者が最終判断をして省エネを実行するわけです。一方で、電力自由化により新規参入する電気事業者との調整も、消費者に混乱を招かないようにすべきです」と答えられました。
「人口減など社会変化が予測される中で、エネルギー消費の今後の傾向をどのように考えていますか」という質問に対し、中上氏は、「経産省は国民を失望させないように、右肩上がりの将来計画を提出しており、衰退が予測されるような産業の名指しはできません。従って思い切った省エネルギーシナリオが出しにくい状況があるのも確かです。世帯数の減少は人口減少より遅れて起こってきますので、しばらくは増加傾向ですが、やがて減少傾向に転じます。一世帯当たりのエネルギー消費の伸びも止まって近年では減少傾向がうかがえます。家庭用では今後はエネルギー消費量も減少傾向に転ずると思われます。それでもなお、家庭内には無駄なエネルギー消費がありそうですので点検してみてください」との意見でした。山地氏も同様に、「あまり遠い将来について、政策目標を立てることは意味がないと思います」と答え、「一方で、日本における一人当たりの所得は、アジア圏ではシンガポール、香港にすでに追い抜かれ、韓国、台湾にも追いつかれつつある現況をかんがみて、このまま成長のない、つまりエネルギー消費も低下するままで満足する社会になることが、本当にいいのか疑問が残ります」と話されました。
神津代表からは森田氏に対して、「原油高は少し是正されましたが、円安によって燃料コストが大幅に上昇している中で、フル稼働している火力発電所はこれから修繕費が益々かさみそうですが、どのように対処するのでしょうか」という質問が出ました。森田氏は、「東京電力の例ですと、修繕費をはじめとした設備投資を抑制することで、収支を改善しようとしています。ただやみくもにコストダウンしているのではなく、修繕の方法など可能な限りの工夫を重ねて、安定供給には影響が出ないようにしているところです」と答えられました。
神津代表から日景氏に対しては、その動向が最も注目されている原子力の方向性を議論する小委員会委員に任命されてから、大学での学生の反応はどうなのかとの問いかけがあり、「学生たちに小委員会委員であることを伝えていないので、反応は特にありません。しかし、小委員会では毎回膨大な情報が提示されるため、これを授業で活用することで、学生たちが原子力についての問題を学んだり考えたりする機会にしたいと思います」と答えられました。
原子力発電所の立地地域内と周辺に住む二人の企画委員に対しては、「原子力に対する関心が少しずつ薄らいでいるような気がする中で、地域における原子力防災計画はどのように進んでいますか」という質問がありました。石窪氏からは九州電力川内原子力発電所の再稼働に向けた概要説明があり、「2014年3月に1、2号機を優先して審査するプラントに選定し、11月には県が再稼働に同意しています。規制委員会による工事計画の認可や設備の検査などが必要ですが、書類提出が難航しており、再稼働は今夏以降になる可能性はあります。県知事は、承認を得るのは県と立地の薩摩川内市のみと早くから地元における範囲を明確にしていたこともあり、承認までの流れがスムーズに進んだと思われます。もちろん再稼働に対する反対運動もあり、地元の新聞などには日々情報が詳しく掲載されています。一方、国は、避難計画の支援要員として経産省の職員を派遣するなどしています」と話し、現地における防災避難訓練については、「実効性についてまだまだ不安視されており、課題が山積しています」と話されました。
歌代氏は、中越地震、中越沖地震発生時に柏崎刈羽原子力発電所に大きなトラブルが起こらなかったため、地元では原子力との共生が続いて来たことを前提としながら、「3.11以後、共生という概念は薄らぎ、再稼働についてはほとんど誰も口に出さなくなりました。そのような環境の中で、それでも私たちはシンポジウムの開催を続行し、立地地域にいる住民が知りたい放射線に関する情報提供などを続けてきたため、少しずつではありますが一般の参加者も増えていると感じています。防災計画については、実効性のある避難計画にならない限り再稼働は承認できないと新潟県知事は発言しており、各自治体でも訓練をしていますが、国からの防災計画を県が受け、さらに各市町村に降りて来るので、30キロ圏内における地域防災計画をこれから立て、研修会を開く予定です。とはいえ、安全対策が完了しても、事業者との信頼関係があってこそ初めて安心につながり、再び原子力との共存共栄ということになるかと思います」と話されました。
会場からは原子力事故の防災訓練については、「実際に福島から避難した経験からいうと、最も困ったのは弱者です。在宅高齢者、障害者や老人ホーム入居者が、一般の人と一緒に避難するのは極めて困難で、居住地からの避難経路など詳細で具体的な避難計画を考えてほしいと思います」という意見が寄せられました。日景氏からは、青森県男女共同参画センターでは、実際に原子力事故が起こった場合の避難所の運営について「安心できる避難所づくり訓練ヒント集」を作成しているという情報が寄せられ、石窪氏からは「防災計画に完結版はないのではないでしょうか。計画は常に更新しながら防災力を高めていくべきだと思います」との意見も出されました。
ETTのメンバーには、それぞれの分野・立場で活躍されている方々が大勢いらっしゃるが、今回の勉強会は、国のエネルギー政策の議論に参画されている先生方と、原子力の立地地域においてエネルギー問題や消費生活活動に積極的に向き合っている方々のお話を伺い、メンバーとの率直な意見交換をさせていただいた。
国のエネルギー政策に関わる議論は一般の人たちにはなかなか分かりにくい面も多いだけに、政策議論の当事者の先生から直接伺う話は、メディアなどを通じて得られる情報とはひと味違い、大変貴重な勉強の場になったと思う。また、立地地域の方々からは、先生方やメンバーに地域の実情や原子力を巡るさまざまな思いをじかに伝える機会でもあり、まさに双方向のコミュニケーションを通じて、暮らしや経済の現実を踏まえてエネルギー問題を考える貴重なとっかかりになったのではないかと思う。
神津 カンナ