近年、世界中で多発している異常気象。2012年にはアジアからアフリカ、ヨーロッパにかけて広範囲で冷害が起こりました。アメリカでは干ばつによりトウモロコシ、大豆の収穫が激減し、食用油やパスタ・麺類の価格が上昇。ブラジルも干ばつでコーヒー豆の収穫が激減し価格が上昇するなど、食料面で世界中に大きな影響が出ました。このように、世界の異常気象は日本にも影響を与えています。昨年もまた、世界の至るところで異常気象が発生しましたが、特に高温になる地域が激増しています。日本各地でも台風被害が大きく、気象災害は皆さんの住んでいる地域でもいつ起こるかわからない、そんな時代になっています。
■2016年の世界の異常気象
今年の夏を振り返ると、関東地方から北では日照時間が少なく、東京では3週間連続して毎日雨が降りました。東北地方では8月中旬の日照時間はほぼゼロで、青森県六ヶ所村にあるメガソーラーは太陽光発電がほとんどできませんでした。また10月には九州から本州にかけて台風の影響で雨が多かったものの、本来、日照時間が短ければ気温が下がるはずなのに、気温は平年並みか、もしくは高いというように、これまでにないような気象現象になっています。
この100年の間に、日本では都市化の影響でヒートアイランド現象が起きている東京、大阪、名古屋の平均気温が3℃も上がっており、都市化の影響をそれほど受けない東北地方でさえ、1℃ほど上昇しています。気温上昇により起こるのがゲリラ豪雨。温度が上昇するほど雲の原料になる水蒸気の量が多くなるため大雨になりやすいですが、それに加え、水は蒸発する時に周囲から熱を奪って気化熱が発生します。海面から水蒸気が蒸発する時に熱を持ったまま上空に上がり、低気圧や台風が近づいて雨粒になると、熱=エネルギーを出します。つまり空気中の水蒸気が増えるほど、大気中の低気圧、台風がもらうエネルギーが増え、大型に発達するのです。
近年、巨大化する台風が注目されています。台風が発生する条件は、海水温が27℃以上であること。はるか南の海洋で発生すると思われている台風ですが、実は夏の日本周辺海域は熱帯と同じくらい海水温が高くなっており、台風がいつ発生してもおかしくない状況です。これまで日本に上陸した台風の中で最大の被害をもたらした1959年の伊勢湾台風は、上陸時の気圧が929ヘクトパスカル(hPa)でした。2013年にフィリピンに上陸した台風は900hPaで甚大な被害をもたらしましたが、温暖化がこのまま進めば、将来は同じレベルの猛烈な台風が頻発する危険性があります。台風による風速が強まれば、民家の屋根は吹き飛ばされ、コンクリートの電柱や高圧線の鉄塔さえ折れ曲がるなど、震度7の地震に相当する被害も予測されます。また短時間に降る大雨は、下水管の下水処理能力を超えてマンホールから下水が噴き上がる事態を引き起こし、街は瞬時に冠水状態に陥ります。
■海水温の上昇が台風の発生や強さ、雨量に関係する
台風の進路についても、初めて経験するようなことが頻繁に起きています。昨年、日本に上陸した台風6個のうち、3個が北海道に、1個が関東に、1個は迷走した挙句、観測史上初めて東北に直接上陸しました。今年最強の台風5号も迷走し、長い時間をかけて進み、かつ進路予測が困難でした。最大限に発達した積乱雲が同じところに停滞する気象現象=線状降水帯もまた、ピンポイントの予測が困難です。気象報道でも、「経験したことのない大雨」や「命を守るためにすぐに避難してください」など、土砂災害による被害を避けるための緊急的表現を使わざるを得ない状況になっています。そのような中、今夏の秋田では、過去最大の大雨により雄物川が氾濫しましたが、自治体が早めに出した避難情報を受けた住民がすぐに行動したため、人命被害はゼロで済みました。一方、九州北部豪雨で特に被害がひどかった朝倉市では、日本の年間平均雨量の3カ月分が丸一日で降り、未だに復旧作業が続いています。
異常気象は、大雨のみならず大雪も引き起こします。2014年には関東や東北、甲信に大雪が降り、27㎝の積雪は45年ぶりだった東京。しかも1週間後に再び大雪に見舞われ、甲府では観測史上最多の1m14cmの積雪を記録しました。こうした両極端な現象が起こるのは、地球がバランスを取ろうとしているからだと考えられます。地球の温度は平均15℃で、地球上のある地域で高温になれば他の地域で低温になり、ある地域で大雨になれば必ず他で少雨になります。そして大雨も干ばつも、それ自体が気象災害であるのみならず、食料不足や水不足を引き起こすため、問題が深刻化しています。
このまま温暖化が続くと100年後の日本はどうなるでしょうか? 日本全国の年平均気温はさらに3℃上昇し、猛暑日は10日増加、熱帯夜は25日増加、また真夏日が一カ月増加する予測になっています。年間を通して平均的に雨が降ってくれれば水源になるのですが、豪雨が増加するばかりで年間の水資源は減少すると予測されています。また冬日が減少するので暖冬化で降雪も少なくなり、雪解け水も減って、これもまた水不足の原因になります。
◼100年後の予測 猛暑日は10日、熱帯夜は25日増加
今後ますます激化する異常気象を食い止めるためには、温暖化防止策を早急に取らなければなりません。そのためにCO2排出の抑制を徹底すると同時に、既出分のCO2減少も目指すべきだと考えます。私たちの生活に欠かせない電気をつくるエネルギーも、CO2排出の少ないものを選択する必要があります。国は、2030年度に温室効果ガス排出量を13年度比で26%削減する目標を立て、電源構成を、再エネ22~24%、原子力20~22%、LNG火力27%、石炭火力26%、石油火力3%とすることにしています。しかし数値設定のみにとどまり、具体的な方策は民間任せになっているのが現状です。
エネルギーの3E(安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)を解決する手段として、再エネを増加させようとしても、天気に左右されることが大きな課題です。日照時間が減少すれば太陽光発電はできません。また地球上では高緯度の昇温が大きくなっており、南北の温度差が小さくなると気象変化が穏やかになって風力も弱まってしまうため、風力発電による電力も減少します。また、大雨が頻発しても年間の雨量はあまり変化せず、少雨化に伴う河川流とダム貯水量減少で、水力による発電量も低下していくと思われます。つまり温暖化は、将来的には再エネのポテンシャルを奪う心配があります。
電源をバランスよく構成する観点からみて、原子力発電所の再稼動が進んでいないことも課題です。現在の日本の電源構成を見ると、火力が80%を超えています。2030年、今からたった13年後に国の目標を達成するには具体的にどうしたらいいでしょうか —— 不安定な電源である再エネを支えるバックアップ体制を整えることが第一だと思います。それは、安定電源である火力発電の熱効率を上げる、すなわちCO2排出の少ないコンバインドサイクル方式のLNG火力発電に転換することです。その作業スケジュールがわかれば、不安定電源の再エネをどこまで増やせるか見通しも立てやすくなり、さらには原子力についても、いつまでどのくらいの割合で必要になるのかもわかってきます。
気象予報は電力需要予測に欠かせないもので、主に気温から予測して供給計画を立てますが、太陽光発電では日照時間、風力発電ならばピンポイントで10分刻みの風速を出し、翌日の発電量を積算するというように、極めて細かく予測しなければ再エネを効率的に使えません。しかしそのような予測は、気象庁が現在使用しているコンピュータの8倍近くの精度でなければ不可能です。実際、想定外の異常気象の増加により、予想が外れる場合が増えています。今後、地球温暖化による影響がますますひどくなると考えられ、皆さん自身もこれまでにない被害に見舞われるかもしれません。そのためにも自分の身は自分で守る。そして温暖化防止について考え、行動に移すようにしていただきたいと思います。
講演後にはグループディスカッションを行い、その後、各グループから出た質問に対して、村山氏に答えていただきました。
Q. 海流の蛇行は地球温暖化に関係があるのか。
A. 海水は暖かい方が軽く、冷たい海域を避けるように流れるので、近年、蛇行が大きくなっている。ヨーロッパが温暖化対策に積極的なのは、高緯度でも比較的穏やかな気候をもたらしているメキシコ湾流がヨーロッパに来なくなる恐れがあるからで、そうなれば寒冷化による農業被害が拡大するから。
Q. 火力発電のコンバインド化について、国の政策の中で目標時期は設定されているのか。
A. 中部電力上越火力発電所や東北電力新仙台火力発電所など、電気事業者はすでに進めている。一方で、電気事業者間の連携ができていないために、義務付けられた再エネ買取量の予測が立てづらい問題があり、また日本の東西で異なる電圧のためエネルギー全体のネットワーク整備ができていない。
Q. 新しい火力発電所でCO2排出量が多い石炭をまだ使うのは、温暖化対策に矛盾していないか。またバイオマスの原料になる木材チップを輸入しているのでは、資源の再利用にならないのではないか。
A. 新しい石炭火力はガスタービンと蒸気タービンを組み合わせるコンバインドサイクル方式で、従来式と比較して熱効率が向上し、CO2排出量を抑制できる。石炭は政情が安定している国から輸入しており安価というメリットがあり、熱効率を改良すれば有効に使える。バイオマスについては、日本の林業が廃れて国産の材木が使われなくなっていることが問題。
勉強会の最後に神津代表によるまとめがありました。
「私たちは、魚やお米など食卓に上がる身近な食品から、地球温暖化による気候変動の影響を感じとることができます。一方、世界に目を向けると、一人当たりのCO2排出量が3位の日本と比べ、5位の中国、6位のインドが今後も経済発展を続けていけば膨大な排出量になることも予測できます。温暖化が進むと再エネ発電が減少するかもしれない、という今日のお話を伺い、原子力発電の適切な扱い方、火力発電依存と環境負荷の問題など、エネルギー全体を俯瞰する目を持ち考えていかなければならないと思いました」
(一財)気象業務支援センター専任主任技師・気象予報士
1949年、東京都生まれ。東京教育大学農学部卒。1972年、日本気象協会入社。96年に気象予報士資格を取得。2003年に日本気象協会を退社し、気象業務支援センターに入社。1987〜2007年までNHKで気象解説を担当。気象、気象と経済、生気象、地球環境が専門分野で、花粉症の専門家としても著名。『花粉症の化学』『猛暑厳寒で株価は上がるか?』『健康気象学入門』など著書多数。