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あすかエネルギーフォーラム

《日 時》
2020年9月4日(金)15:00〜16:30
《会 場》
ホテルグランドヒル市ヶ谷(東京都新宿区市谷本村町4−1)
《テーマ》
海と女とメタンハイドレート

今回は、資源が少ないと言われてきた日本にとって自前のエネルギー資源として期待されるメタンハイドレートの研究調査、普及活動をエネルギッシュに推進しておられる青山千春氏(国立大学法人東京海洋大学学術研究院海洋資源エネルギー学部門准教授)をお招きし、昨今の研究成果や今後の展望などについてスライドや映像を見ながらお話を伺いました。

講演 
小見出し1 わが国自前のエネルギー資源、メタンハイドレートとは?

まず、“燃える氷”メタンハイドレートとはどういうものかをご説明します。メタンハイドレートは高い圧力と低い温度の状況下で固体になります。保有するには−182℃位の液体窒素の保冷瓶に入れますから、とても冷たいものです。瓶から取り出すと水とメタンにどんどん分かれていき、耳を近づけるとシューシューと音がします。火を近づけるとメタンが燃えて炎が上がり、最後に水が残ります。メタンハイドレートを模型で見ると、水分子の中にメタン分子が入っているカゴ状のクラスター構造になっています。


クラスター構造(水和物)


次に、メタンハイドレートはどこにあるかというと、日本周辺の深い海の底にたくさんあります。秋田周辺などの日本海側にもありますが、調査データが一番揃っている愛知県の南の海域では、日本の天然ガス年間消費量1,055億㎥(2011年)の11年分のメタンハイドレートが賦存(ふぞん)していると試算されています。さらに日本の排他的経済水域、つまり沿岸から200海里以内の日本の陣地には、天然ガス年間消費量の100年分以上のメタンハイドレートが賦存していると推察されます。

*天然資源が利用の可否に関係なく、理論上産出されたある量として存在すること。

さて、メタンハイドレートはなぜ海の底にあるのでしょうか?「メタンハイドレート安定領域曲線」のグラフでは、横軸は右に行くほど水温が高く、縦軸は下に行くほど圧力が高く、すなわち水深が深くなります。赤色の曲線はメタンハイドレートの安定領域を表しています。私が調査によく行く新潟県沖は水深約1,000mで水温は約0.5℃、グラフでは二コちゃんマークの所になるので、海底面ではメタンハイドレートとして存在しています。しかし回収して船に上げると赤色の曲線(安定領域)を越え、メタンガスと水に分かれてしまいます。このように条件の変化によって様子が変わるのが、メタンハイドレートのおもしろいところです。その性質を考えて、回収や開発をしないといけないということです。


メタンハイドレート安定領域曲線


日本周辺のメタンハイドレートの賦存状態ですが、日本海側には「表層型」が多く、深くても海底下100m位までの所に白い結晶として泥の中に埋まっています。一方、太平洋側には「砂層型」が多く、海底100m〜300m位の所の砂粒と砂粒の間にいっぱい入っていますが肉眼では確認できません。


小見出し2 メタンハイドレートの目印となるメタンプルームを発見

私がメタンハイドレートを研究するようになったきっかけは、1977年に日本海で座礁したナホトカ号沈没重油流出事故の影響調査の帰りに、魚群探知機の画面で島根県沖の海底に高さ300mはある出っ張りを見つけたことでした。これは何なのか、地質学の先生に見せたところ、「地質調査船の測深機では、海中の様子はわからない。魚群探知機を使うとこんなによく海中の様子がわかるのですね。目からウロコです」と驚かれ、両方のデータを比較して初めて海底面から何かが出ているとわかったのです。そこで海中に詳しい水産分野の私と、海底下の地層に詳しい地質分野の先生とで共同研究を始めたのですが、これらの経緯から「自分の分野の常識は異分野の非常識。だから異分野の人と意見交換をするなど、コラボをすることはとても大事」だと思いました。

魚群探知機で出っ張りを発見してから7年後の2004年、東京水産大学(現・東京海洋大学)海鷹丸から、魚群探知機に映る出っ張りの根元をめがけてピストンコアラーという採泥器を打ち、引き上げて中を割って見ると、泥にまみれたメタンハイドレートの結晶が採取できました。出っ張りはメタンプルーム(海底面から湧出するメタン粒の集まり)であることがわかったので、その後はメタンプルームを目印にメタンハイドレートの調査研究のペースが早まったのです。さらに無人探査機を使って映像からメタンプルームの正体を知る、あるいはメタン粒を捕集して計量するなどさまざまな調査実験も行いました。メタン粒の浮上速度は時速800mと算出できたのも、世界初で得られた成果です。


小見出し3 2027年の商業化に向けた政府の取り組みが進んでいる

わが国のメタンハイドレート開発について、ここ2、3年の新しい取り組みをご紹介します。「砂層型」については2017年4月7日〜6月28日、愛知県沖で第2回目の試掘が行われました。「表層型」については2015年から3年間、資源量把握調査(どこにどのくらい埋まっているかという基礎調査)が行われ、上越沖・海鷹海脚の一つのマウンドで、メタンガス換算約6億㎥(約2日分)に相当するメタンハイドレートの存在が推定されました。2016年後半からは回収技術に関する調査検討が始まり、私が所属する海洋大チーム(東京海洋大・新潟大・九州大・太陽工業)の「ドーム状の膜構造物利用による回収技術の検討」も6提案の一つに採択されました。私が共同開発を持ちかけた太陽工業(株)は、東京ドームの屋根膜をつくったテントの会社です。メタンハイドレートが賦存する海底面にドーム状の膜構造物を設置し、回収時などに湧出するメタンガスを効率良く回収するとともに、泥や砂などの拡散を低減して環境面に配慮することもできます。

2018年5月15日、第3次海洋基本計画が閣議決定されました。2027年頃までに民間企業主導の商業生産を目指して国主導で技術開発を進めることになり、表層型と砂層型それぞれのメタンハイドレートの開発に向けた工程表が示されたのです。その中で海洋大チームの回収技術は2020年度から3年間、メタンハイドレートに限らず使える「共通基盤技術」として採択されて国から予算が付き、2020年4月から実際に開発していく段階に来ました。同時にメタンプルームについても2020年度から3年間、海洋調査が実施されることになり、私もアドバイザリーボードのメンバーに入りました。この3年間でいろいろなことがわかると期待しています。

一方、海底から掘り出す「採掘技術」、メタンハイドレートからメタンを取り出す「分離技術」、海底から海上に持ち上げる「揚収技術」は、三井E&S造船グループと三菱造船グループにより、それぞれ異なる方式で並行して開発が行われています。国が主導した後に民間に技術を移すわけですが、現段階ではメタンハイドレートの回収後にどうやって使うのかは検討が始まっていないので、今から考えておかねばならないと考え学生と研究を進めているところです。

わが国のメタンハイドレート開発が進むにあたり、経済効果も現れています。まず、インド東方沖のメタンハイドレート調査の世界入札を日本が落札しました。新聞では小さい記事にしかならなかったのですが、これは日本がメタンハイドレート回収技術のリーディングカントリーであると証明したことになります。また、ロシアと3年に1回行われる天然ガス価格交渉では、メタンハイドレート開発が日本のナショナルプロジェクトだと明らかになった途端、交渉が日本に有利に働いたと資源エネルギー庁の関係者が言及されていました。


小見出し4「日本海連合」で、メタンハイドレートの地産地消を見据える

私は、メタンハイドレートは地産地消が良いのではと考えています。地元で回収したものをパイプラインで首都圏に送るとコストがかかります。ならば、地元にある天然ガスの火力発電所でメタンガスとして発電に利用する、あるいは天然ガスで走るバスやトラックに使う。「メタンハイドレートで走っています」と宣伝をすれば地元の人への認知度も高まるのではないでしょうか。当初は表層型メタンハイドレート調査研究には国から予算が付かなかったので、兵庫県・京都府・新潟県の3知事に理解を求め、2012年に海洋エネルギー資源開発促進日本海連合(1府9県)を発足していただきました。政府への提言、地元の人との促進対話、雇用促進や地方活性化などを目的としています。漁業従事者との連携も将来必要になるでしょう。

日本海連合の活動の中で地元の人の理解を深めるために「表層型メタンハイドレート採掘技術アイデアコンテスト」を開いたところ、発破工法や太陽エネルギーを使うなど、一般の人や学生からおもしろいアイデアが集まりました。また、地元のものづくりの会社と何かコラボできないかとやり取りもしているところで、新潟県の水中スピーカーの会社と共同研究を始めました。皆さんの中でも、何か使えそうな技術を持つ会社などをご存知でしたら教えてください。

最後に私についてお話しします。私は大学を出てずっと研究者をやっていたわけではなく、壁と決断の連続でした。最初は南極に行きたくて大学で航海士免許を取ろうとしたのですが、当時、そのために女子でも受験できたのは東京水産大学だけで、航海科初の女子学生となりました。卒業後は結婚、子育てに12年間専念し、大学に再入学して遠洋航海実習に出るには今しかないと腹をくくったのが35歳、次男が小学2年生になった時でした。1997年にメタンプルームを発見して以来、研究を続けてきましたが、最初は国に表層型メタンハイドレートの必要性をアピールするも門前払いでした。今では理解を得られ、技術開発の予算が付いています。私が皆さんに伝えたいのは「ぶれない心とあきらめない気持ちがあれば夢は必ず叶う!」ということです。今の私の夢は、官民みんなで連携してメタンハイドレートをわが国の自前の資源にすることです。



青山千春(あおやまちはる)氏プロフィール

国立大学法人東京海洋大学学術研究院海洋資源エネルギー学部門
准教授

1978年東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業。結婚後専業主婦、12年間育児に専念。1997年東京水産大学大学院博士課程修了、博士(水産学)。アジア航測株式会社総合研究所、株式会社三洋テクノマリン、株式会社独立総合研究所取締役・自然科学部長を経て、2016年から現職。著書に『科学者の話ってなんて面白いんだろう』『氷の燃える国ニッポン』などがある。

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