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松江エネルギー研究会

《日 時》
2020年12月1日(火)13:30〜15:30
《会 場》
島根県民会館(松江市殿町158)
《テーマ》
がん専門医が語る「コロナと最先端予防と放射線」

「松江エネルギー研究会」は原子力発電所立地地域の市民の立場で、原子力について正確に知ることを目的として勉強会・講演会を中心に活動しています。今回は「環境とエネルギーを考える消費者の会」との共催で中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科准教授/放射線治療部門長)の講演会を催し、放射線、がん、コロナについて正しく理解する機会を得ました。


講演
がん専門医が語る「コロナと最先端予防と放射線」

世界一のがん大国、日本に必要なのは「がん教育」

私は福島第一原子力発電所の事故以来、飯館村など福島の支援を行っていますが、放射線に対する当時の状況と今のコロナ禍が似通っていると感じています。放射線もコロナもどちらも目に見えません。私は放射線医療に35年携わってきましたが、社会の認識では放射線も「新型」です。放射線もコロナも「新しくて、わからなくて、怖い」のですね。私の専門は放射線治療です。例えば前立腺がんではその部分に80,000ミリシーベルト(等価線量*)、白血病で骨髄移植をすると全身に12,000ミリシーベルト(実効線量**)の放射線をかけます。私は膀胱がんになり、1回7ミリシーベルトのCTスキャンを5回、合計35ミリシーベルト被ばくしました。福島の一般住民の方で全身5ミリシーベルトの被ばく線量を越える人は一人もいませんが、長く避難を続けている相馬市、南相馬市の避難者は糖尿病が6割も増えていました。糖尿病にかかると膵臓がん、肝臓がんを発症するリスクが2倍になり、がん全体でも2割増えることがわかっています。

*等価線量:放射線を受けた組織・臓器ごとに、放射線の種類やエネルギーを考虜した上で算出された線量。
**実効線量:全身被ばくに換算したもの。

今はがんになっても6割の方が治っていますし、生活習慣に気をつければがんになるリスクを半分位下げることができます。大事なのは早期発見して完治させること。そのためにはがん検診が必要ですが、日本のがん検診受診率は先進国のなかで最低水準です。また「がん家系」とよく言われますが、がんのなかで遺伝が占める割合はたった5%しかありません。内閣府のがん対策に関する世論調査(2009年)で「がんを予防するために実践していること」の1位は「焦げた部分は避ける」でしたが、焦げは日に10トン食べるとがんが増えるかもしれないという程度で、現実の生活では全く問題無いのです。リスクは焦げという「名前」ではなく、「量」として考えないといけません。

一方、日本人にとってがんは極めて大きなリスクです。日本人の男性は3人に2人、女性は2人に1人、2017年のデータで男性は65.5%、女性は50.2%ががんになります。なぜ男性のほうががんになりやすいかというと、喫煙や飲酒など生活習慣が悪いからなのですね。3人に2人の男性ががんになる国や、がんで亡くなる人が増えている国は先進国のなかで日本しかありません。日本人は世界一長生きだからという理由もありますが、それにしても多過ぎます。日米の10万人当たりのがんの死亡者数は1995年ではほぼ等しかったのですが、2004年では日本はアメリカの約1.5倍、今は1.9倍と差が開いています。日本人はがんというリスクにきちんと向き合うべきです。

日本人の男性のがんで一番多いのは前立腺がん、女性は乳がん、どちらも性ホルモンの刺激で増えるがんです。男女合わせると大腸がんが一番多く、これらは皆、欧米型のがんです。これまで日本人のがんで一番多いのは胃がんでしたが、今は減っています。冷蔵庫が普及して衛生的になったからです。胃がんの原因の99%は子どもの頃に感染したピロリ菌ですが、80歳以上の人の感染率が8割以上に対し、佐賀県のデータでは中学3年生で5%。これから胃がんになる人はほとんどいなくなるでしょう。一方、大腸がんで亡くなる人の年間数が、人口3億2,000万人のアメリカよりも日本のほうが多いという驚くべき事実は知られていません。日本はがんについては劣等生で、WHOも「日本の受動喫煙対策は前世紀並に遅れている」と言っています。日本のがん検診率はアメリカの半分で、韓国よりも少ないのです。

日本はがんが多いのに、なぜ学校で「大人になったらがん検診を受けよう」と教えないのでしょうか。唯一の被爆国にも関わらず、放射線のこともほとんど教えてきませんでした。放射線治療を受けるがん患者さんの割合は、アメリカは約6割ですが日本では約3割です。また、亡くなる直前の痛みを取る医療用の麻薬、モルヒネなどの一人当たりの使用量も、日本はドイツの20分の1です。そもそも日本人は体のことを知りません。「ヘルスリテラシー」とは健康についての情報を入手、理解、活用する能力のことですが、「医者から言われたことを理解するのが難しいか」との質問に日本人は44%が難しいと答え、EUでは15%、オランダでは9%でした。「ヘルスリテラシー」の平均点を国際比較するとオランダがトップ、日本は最下位で、ミャンマー、カザフスタン、ベトナム以下でしたが、日本人は体のことを習わないので仕方ありません。国立高校では保健の授業が毎週ありますが、ある私立のエリート校では年0回です。これは問題だと思い、私は全国150カ所位の学校でがんのボランティア授業を行ってきました。そうしたなか私も作成に関わった保健体育の学習指導要領に「がん教育」が明記され、今後は全国の小中高校でがんを知ることになりましたが「大人のがん教育」も必要です。がんは遺伝子の老化が原因なので高齢者の病気ですが、サラリーマンの死因の半分はがんで、働く人の病死原因の9割はがんというデータもあります。がんは54歳までは女性のほうが多く、子宮頸がんのピークは30代、乳がんのピークが40代後半です。定年が伸びて女性も働き、「働く人ががんになる社会」は日本しかありません。日本は総人口における65歳以上の割合が世界ダントツの13%という高齢化社会で一億総活躍社会、つまり死ぬまで働く社会になっているからです。全従業員に「がん教育」を受けさせる企業もありますが、今後も増えていくでしょう。



コロナ禍のがん対策で起きた3つの問題とは

コロナだけを見るのではなく、さまざまな方面に目を向けてバランスを考えないといけないというのが、私が福島から受けた教訓です。コロナで亡くなった人は2,165人、平均年齢は75.3歳(2020年11月30日現在)。コロナを軽視するつもりはありませんが、男性の平均寿命は80歳ですから、コロナが無ければ80歳で亡くなったお爺さんが79.3歳で亡くなってもコロナの死亡者数にカウントされます。一方で2019年、がんに罹患した人は102万人、亡くなった人は38万人です。スペイン風邪が約3年で終息したように、コロナも流行性のウイルス性感染症なのであと2年位で終わるかもしれませんが、がんは今後20年間増え続けます。インフルエンザの死亡者数は1999年で約37,000人、今は少なくなって年間5,000人位です。コロナとインフルエンザの同時流行が懸念されていますが、先に冬を迎えた南半球ではそのような事態になりませんでした。2020年2月〜8月の総死亡数(コロナ含む)は、前年より約9,000人も減少しています。平均年齢75.3歳のコロナの死亡数よりも多いのが働き盛りの人や女性、子どもの自殺です。

コロナ禍のがん対策には3つの問題があります。1つ目は「在宅勤務による生活習慣の悪化」。元々日本人は世界一座り過ぎ(7時間)ですが、通勤が無くなりさらに座る時間が増えています。アメリカのがんセンターが比較調査したところ、最も座るグループは最も座らないグループよりも10万人当たりがんが82%増進しました。この影響は10〜20年後に出てきます。座り過ぎ対策には1日60分以上の運動が必要ですが、在宅でおすすめなのが太ももの筋肉を動かす貧乏揺すりです。また、コロナ太りで糖尿病を発症するとがんのリスクも増えます。

2つ目の問題は「がんの早期発見の遅れ」。この影響は早く現れ、来年、再来年から進行がんが増えるでしょう。免疫力をかいくぐったたった1つのがん細胞が30回分裂を繰り返すと1cm、細胞の数は10億個になります。だいたい20年かかりますが、我々は1cmになってようやくがん細胞を見つけられます。ざっくり言うと2cmまでが「早期がん」で、症状を出すことはありません。しかし1cmのがんが2cmになるのに細胞分裂は3回、かかる時間は1年です。ですから肺がんのように進行が早いものは毎年、胃がんや乳がんなど進行が遅いものは2年に1回の検査が推奨されているのです。しかし2020年はコロナの自粛でがん検診が一時中止されるという大問題が起きました。私は2018年にたまたま膀胱がんを見つけて内視鏡切除を受け、検査で筋肉まで広がっていなかったので3泊4日で退院、仕事に復帰しました。早期に見つけるとはこういうことですが、それまでは何の症状も無く、自分ががんになるとは思っていませんでした。最も早期のがんの5年生存率は98%で、これは治癒率に相当します。最も転移のあるがんの5年生存率は8%で、10年ではほぼゼロになります。


●がんは、進行・末期にならないと症状を出さない


3つめの問題は「がん治療への影響」。2020年はがん検診で早期発見する機会が失われたためがん患者さんが減り、なかでも胃がんの入院患者数は2割減少しています。国立がん研究センターでは4月〜10月の胃がんの外科手術が前年の41%減、東大病院では43%減でした。早期発見で治療できなかったぶん、来年以降は進行がんの末期がんが増えるでしょうが、くれぐれも福島の影響とマスコミに言わせないことが大事です。胃がんが減る理由は、コロナのリスクで胃カメラが敬遠されるからです。また、がん患者さんの受診が国内で最も多いがん研有明病院では院内感染により、手術の8割が休止された期間もありました。

放射線治療はがんの進行を抑えるだけでなく、がん細胞が消えます。放射線によってがん細胞の性質がわずかながら変化して、免疫細胞が攻撃しやすくなるからです。最新の放射線治療の誤差は約1mm。放射線治療は手術と治癒率は同じですが、日本では欧米の半分で増えません。放射線治療を受けるために入院する必要は無く、保険も効きます。かかる時間もどんどん短くなっていて、前立腺がんなら5回×100ミリシーベルトなので仕事の合間に済みますし、肺がんなら4回、恐らく数年のうちに1回になるでしょう。日本では外科医の数が多いので手術も多くなっているのかもしれませんが、手術か放射線治療か、知識を持って選ぶことが大事です。


●がん患者のうち放射線治療(併用を含む)を実施している患者割合





100ミリシーベルト以下は少な過ぎて、がんのリスクはわからない

皆さんは5ミリシーベルトの内部被ばくと外部被ばくとでは、どちらが怖いですか? 「シーベルト」は人体への影響を表す単位なので、どちらも全く同じです。一方の「ベクレル」は人騒がせな単位なので私は忘れていいと思っています。例えば花火が1秒間に5発なら5ベクレルですが、遠くで見ているぶんには人体に影響ありません。その花火でどれだけ火傷したかを表す単位が「シーベルト」。雨の降り方が「ベクレル」、濡れ方が「シーベルト」です。「ベクレル」と「シーベルト」は直接関係ありませんが「シーベルト」のほうが大事です。福島第一原子力発電所で発生した処理水で最後に残るトリチウムは水素の遠い元素なので、水から抜くことができません。ただし海洋に排出して良い基準は1ℓ当たり6万ベクレルと定められています。実際このような濃い濃度になっていませんが、もしこの水を毎日2ℓ飲んだら人体への影響は0.8ミリシーベルト。トリチウムから出る弱いベータ線は細胞も透過しないものなので、6万ベクレルと言っても人体への影響は非常に少ないのです。

もう一つ質問です。平均的な日本人は年間5ミリシーベルト被ばくしていると思いますか?日本の自然被ばくは年間2.1ミリシーベルト、その半分は野菜や魚などの食べ物からで約1ミリシーベルトです。日本はウラン鉱石などの資源が少なく自然被ばくも少ないのですが、フィンランドは年間約8ミリシーベルトです。一方日本では放射線が怖いと言いながら、同意して受ける医療被ばくは世界一、平均6ミリシーベルトです。世界のCTスキャナーの3分の1は日本にあり、適切に使えば被ばくを上回る利益が得られます。なお福島では自然被ばくと医療被ばく以外で、年間1ミリシーベルトに抑えるために除染をしていましたが、この数字に根拠はありませんでした。

被ばくとがんの関係を示す唯一のデータは広島と長崎です。爆弾が炸裂した時にどこにいたか、その後も綿密な調査を行いがんの増加を観察した結果、100ミリシーベルトを超えると線量に比例してがんの死亡率が若干増えることがわかりました。飯舘村は福島第一原子力発電所から約30km離れていましたが、放射線を含む雲が風に乗って流れてきて雨が降ったので線量が高くなりました。とはいえ、福島の一般住民の方で全身5ミリシーベルトの被ばく線量を越える人は一人もいません。野菜不足でも100ミリシーベルト相当、喫煙は2,000ミリシーベルト並の発がんリスクになり、「100ミリシーベルト以下は影響が少な過ぎてがんとの関係がわからない」ことが科学的にわかっている、という話になります。

福島では事故翌年の2012年から全ての米と肉の放射能を検査していましたが、EUやアメリカの12分の1程度のキロ当たり100ベクレルという厳しい基準値を超えることなく、2015年以降は全量全袋検査ではなくサンプル検査に代わりました。一方で小児甲状腺がんは「発見」が増えました。無害の甲状腺がんは皆さんも持っていて、アメリカのデータでは亡くなった60歳以上の全員に甲状腺がんがありました。韓国では甲状腺がんの検診がブームになり、20年間で発見数が15倍に急増しましたが死亡者数は減りません。元々ほとんどゼロだったからです。日本でも事故当時18歳以下だった福島の全ての子どもたちに一生検査することになっていますが、韓国と同じことが起こるでしょう。過剰診断による不要な検査はやめるべきです。これからは適切ながん教育と放射線教育を行う必要があります。長時間のご静聴ありがとうございました。



中川 恵一(なかがわ けいいち)氏プロフィール

東京大学医学部附属病院放射線科准教授/放射線治療部門長
専門は放射線医学。東京大学医学部附属病院放射線科准教授、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長(兼任)として活躍するほか、がん対策推進協議会委員、がん対策推進企業アクション議長(厚生労働省)、がん教育検討委員会委員(文科省)を務める。さらに福島第一原子力発電所事故後は、一般の人への啓蒙活動も行う。『放射線医が語る 被ばくと発がんの真実』(ベスト新書)、『コロナとがん リスクが見えない日本人』(海竜社)など、著書多数。


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