日本の現状を踏まえ、いまや世界的な課題となっているエネルギーの安定供給や脱炭素に向けて私たちはどう考えていくべきか、エネルギー問題に詳しい石川和男氏(社会保障経済研究所代表)による講演が行われました。
ここ山口県の人口は1958年:約162万人をピークに1985年:約160万人から減り続け、推計では2045年:約104万人になる見込みです。日本全国の人口推移と比べて山口県の減り方は早く、東京・大阪・福岡など大都市以外の多くの都道府県でも同じ傾向が見られます。山口県の地域別の人口移動の状況を見ると東京圏への移動が一番多く、他の地方都市でも同じ状況が見られます。1973年の出生数を100とすると、2018年には山口県:34.4%で、全国:43.9%より減少率も多くなっています。日本の平均寿命は2023年現在、男性:81.05歳、女性:87.09歳で、健康寿命との差が男性:マイナス約9年、女性:マイナス約12年あり、ここに年金・医療・介護のために多くの消費税が投入されています。税金の主な使い道は、以前は公共事業、今は社会保障です。消費税に加え、財源に国債をどんどん発行して借金をつくっています。しかしそのおかげで日本は世界最高水準の医療・食料・衛生的な環境が整備され、平均寿命も健康寿命も高くなっているとも言えます。人口が減り続け、高齢者が多くなっている地域や国に住んでいることを踏まえ、エネルギーについて見ていきましょう。
私たちはエネルギーにコストを払っています。電気・ガス・水道、車にはガソリン代がかかります。日本はEVへの移行が遅れていると言われるのは日本のガソリン車の技術が素晴らしいからですが、地方でも大都市でも後継者不足でガソリンスタンドが年々減少しているため、将来的にはEVに頼らざるを得なくなるのではないでしょうか。ところで、自宅に太陽光パネルを付けている方、手を上げてください(→167名中7,8人挙手)。私は自宅に9.4kWの太陽光発電システムを設置し、東京都から1kWあたり10万円の補助がありました。パネルは買わず「屋根貸し」しているので、太陽光発電事業者から支払われる家賃と、自分が支払う電気代で相殺すると年間16万円程度になります。パソコンで使用電力量がわかるなど、太陽光発電をやってみるのは自分でエネルギーを体感できるいいチャンスだと思います。
世界のエネルギー消費量の推移を見ると、オイルショックで世界的に省エネが進んだ1973年と、リーマンショックで不景気になった2008年には一瞬減ったものの、増加し続けています。ちなみにオイルショック以降、省エネが進んだ国は日本・イギリス・ドイツです。2011年、日本では東日本大震災で原子力が止まりましたが、世界の消費量はおかまいなしに増加し、2020年のコロナ禍には落ち込みましたが2021年には再び増加しています。2021年の消費量は化石燃料(ガス24.4%、石油31.0%、石炭26.9%)で8割以上を占め、再生可能エネルギーは6.7%しかありません。「脱炭素」と言われますが、これだけ人類が使っているエネルギーを一朝一夕で替えられるわけがありません。しかし化石燃料をほぼ輸入に頼っている日本では第2次オイルショック以降、石油の代替として、特に発電部門は原子力と天然ガスの拡大に力を入れてきました。先進諸国でも、石油火力から原子力と天然ガスへという流れになっています。
世界のエネルギー需要の内訳(2020年)は、産業用:30.0%、輸送用:26.2%、民生用:33.9%となっています。石炭、石油、天然ガスの炭素(C)の含有量はおよそ5:4:3の割合になるので、炭素を一番多く含む石炭をやめて脱炭素化しようと言われています。【石炭】いまだに重要なエネルギーで、消費量は近年横ばいです。中国・インドで多く使われていますが、日本の使用量は数%に過ぎず、やめる必要はないと考えます。なぜなら日本の石炭火力は世界有数の高効率で、硫黄酸化物も窒素酸化物もCO2もほとんど出ません。この技術を中国やインドに輸出して使われるようになればCO2低減になり、日本の企業も儲かると思うのですが、日本政府は石炭火力の輸出支援をしないとしています。【石油】これからも消費量は伸びていくでしょう。ガソリン車が減っていくと需要は減ることになりますが、EVの燃料に必要な電気は再生可能エネルギーでは足りないという課題があります。【天然ガス】消費量は増えていますが、埋蔵量も年々増えています。世界全体の化石燃料の確認埋蔵量(2020年末)は原油53.5年、天然ガス48.8年、石炭139年なので、仮に石油と天然ガスが約50年でなくなったとしても石炭はプラス約80年もあります。ですから石炭を加工し、CO2を削減して高効率で発電できる技術を捨てるのは愚かなことで、脱石炭に与する必要はありません。日本が世界最高水準の石炭火力技術を持っていることは、皆さんも地域の発電所を見学して説明を受けるとわかると思います。
エネルギーには価格も大事です。化石燃料の価格は、需要と供給によって上がったり下がったり日々変わります。2020年1月を100として2023年1月の消費者物価指数と比べると、【電気料金】日本は電気料金が高いと言われますが、補助金の効果もあり、128(約3割増)まで上がりましたが先進国の中では低い水準です。ヨーロッパは変動が大きく、イタリアでは358まで上がりました。【ガス料金】日本は131(約3割増)になりましたが、ロシアからガスパイプラインを引いているヨーロッパ諸国は軒並み高くなり、イタリアでは259まで上がりました。日本もサハリン(ロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト)から輸入していますが全体の1割弱なので、それほど影響はありません。【ガソリン料金】日本は119(約2割増)になりましたが、イギリスでは196まで上がりました。私が一昨日、東京でレギュラーガソリンを入れたら162円/ℓでした。補助金(30円位)があるので実際は192円/ℓ位かと思います。ガソリン価格は53円が税金で、そのうち半分が上乗せ税金(25.1円)です。トリガー条項を発動すればこの分を引き下げられますが、まだ発動したことはありません。2022年夏の補助金は42円で、トリガー条項を超えました。ガソリン税は道路整備に使われてきましたが、今は人口も車も減り、トラックドライバー不足が懸念される2024年問題があるほどです。重要なのは補助金だろうがトリガー条項だろうが、そもそもなぜ53円のガソリン税を維持する必要があるのか、根源的な問題を皆さんも考えていただきたいと思います。
大手電力10社の電気料金(直近5〜7月)を比較すると、原子力発電所が再稼働しつつある西日本と、まったく稼働していない東日本とで料金格差があります。2011年の震災後にすべての原子力発電所を止めてしまいましたよね。 関西電力と九州電力が安いのは原子力発電所を動かしているからで、関西電力には大飯・高浜・美浜(停止中)、九州電力には玄界・川内があります。原子力が安いというよりも、原子力も費用は掛かりますがそれ以上に化石燃料による火力が高いので、相殺するために原子力を使っています。これがオイルショック以降の日本および他の国で取られている脱石油政策です。
電気料金平均単価の推移(グラフ)をご覧ください。原子力発電所を止める前の2010年度は21.39円(家庭用)・14.33円(産業用)でしたが、直近の2021年度は28.09円(家庭用)・19.28円(産業用)まで上がっています。2011年に全国の原子力発電所を止めてすでに13年も経ちました。日本の政治は東京電力福島原子力発電所の事故の影響を引っ張り過ぎていると思いませんか? 福島の事故は停止中に津波が来て、燃料を冷却するための機能が失われたために起きました。そのほかの原子力発電所では稼働中でも事故は起きなかったのです。核燃料を入れているので安全性は確かに大事だと思いますが、原子力規制委員会がつくった規制は厳し過ぎますし、テロ対策や安全対策工事なども発電しながらやればよいではないですか。ここ山口県を管轄する中国電力でも島根原子力発電所がようやく14年経って2024年に再稼働するのは喜ばしいことですが、はっきり申し上げて遅過ぎです。電気料金は高いままで、雇用も相当失われているという現実もしっかり見るべきです。
Q:太陽光発電は活用した方がいいということだが、廃棄問題についてはどうお考えか?
A:エネルギーを身近に体感できるので太陽光発電はおすすめと申し上げたが、メガソーラー(大規模太陽光発電)は今後、廃棄が問題になると思う。各自治体や国は対策を立てないと、太陽光パネルの耐用年数20年が経ってFIT事業者が逃げる可能性もあるのではないか。
社会保障経済研究所代表
1965年福岡生まれ。84~89年東京大学工学部。89~2008年通商産業省・経済産業省、内閣官房 (電力・ガス自由化、再生可能エネルギー、環境アセスメント、国内石炭合理化、産業保安、産業金融・中小企業金融、割賦販売・クレジット、国家公務員制度改革などを担当)(退官前後より、内閣府規制改革委員会WG委員、同行政刷新会議WG委員、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、東京女子医科大学特任教授、専修大学客員教授などを歴任)。11年〜社会保障経済研究所代表(これ以降、多くの企業・団体の役員、顧問などに就き、現在に至る)。20年9月〜経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザー、21年4月〜北海道寿都町・神恵内村地域振興アドバイザー。現在、BSテレビ東京『石川和男の危機のカナリア』など、TV・ネット番組などでアンカー、コメンテーター、クイズ番組回答者として出演多数。実業として、幼児・小学生・高齢者向け脳育事業、ベンチャー投資など。著書に『原発の「正しいやめさせ方」』(PHP新書)など。