近年、地球温暖化、中東情勢、資源国ロシアのウクライナ侵攻などによりエネルギーセキュリティが脅かされていますが、資源がなく外国に頼るしかない日本に解決策はあるのでしょうか? 地球温暖化対策おおいた市民会議 普及啓発部会 地球温暖化対策講演(勉強会)として、金田武司氏(株式会社ユニバーサルエネルギー研究所代表取締役社長)にお話を伺い、質疑応答も行われました。
まずここ数年、世界で何が変わったか、エネルギーセキュリティの観点からお話ししたいと思います。2021年1〜2月、アメリカのテキサス州で380万軒以上の大停電が発生しました。マイナス18℃の寒波が襲来し、州の電力の約1/4を供給する風力発電のタービンが凍結したのが原因です。同州はアメリカ最大の天然ガス採掘地帯でもあり、エネルギーが豊富なため、アメリカで唯一独自の送電網を敷き、独自で運用しています。そのため周りから電気の供給を受けられませんでした。また、同州はアメリカで初めて電力の自由化を行い、全米一安い電気代(3セント/kWh )となっていましたが、2021年の冬は約100倍に跳ね上がることになり、通常200〜250ドル/月の家庭に約180万円の請求書が来ました。これはすべての電力会社の電気代が上がり、選択肢がなくなった時に自由化が引き起こす典型的な例と言えます。その半年後、2021年6〜7月には、カナダ西部のブリティッシュコロンビア州が49.5℃の熱波に襲われ、500人もの方が亡くなりました。この時はアメリカ北西部でも同様に歴史的熱波に襲われましたが、東部のニューヨーク市でも大停電を防ぐため節電が要請されました。今や地球温暖化の影響により、北緯50度(樺太の真ん中)で50℃まで気温が上昇する時代となっています。
巨大な台風、ハリケーンの脅威もあります。台風19号(2019年10月12日)では千葉県のほとんどのエリアが大停電しました。視察に行ったところ、風速60m(時速200km)という前代未聞の風によって、電線が刃物で切ったようにスパッと切断されていることに驚きました。その1カ月前のハリケーン・ドリアン(2019年9月2日)では風速80m(時速300km)が観測されましたが、それは新幹線のぞみの上に立っているようなもので、すべてが吹き飛ばされてしまう威力でした。
さて皆さんは、2019年6月13日、当時の安倍首相とイラン最高指導者ハメネイ師の会談中に、ホルムズ海峡で日本のタンカーが攻撃を受けた大事件をご存知でしょうか? 我々日本は中東の油に依存していますが、その中東の方々が西側諸国、日本人をどう見ているか無関心ではいられないと考えさせられた事件でした。9.11以降、アメリカはサウジアラビアに油の供給や増産を頼もうとしても、大統領でさえ会ってもらえません。おそらく日本の首相も同じでしょう。きちんと世界の情勢や真の姿を見ないと、エネルギーセキュリティについては理解できないと思います。
次に、エネルギーの価格についても触れたいと思います。昨今の化石燃料の暴騰は、ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まる前の秋から急激に高騰し、エネルギー価格の高騰が戦争を引き起こしたと言っても過言ではありません。中国がオリンピック期間中に石炭火力を止めて天然ガスを求め、ヨーロッパで風力発電に必要な風があまり吹かなくなって天然ガスを求めるなど、さまざまな要因で天然ガスの価格が高騰し、天然ガスを供給しているロシアの立場が強くなりました。2021年10月にはLNGのスポット価格は昨年同時期の10倍、風車大国スペインの電気代も同年4月以降10倍になりました。しかし日本は電気代が10倍にはなっていませんね。エネルギー資源がなく、外国に頼るしかない日本は、割高になるものの固定価格で売ってもらえる長期契約を結んでいるからで、私は正しい選択だったと思っています。ヨーロッパの中でもドイツは危機的な状況で、燃料がないため、森林を伐採して暖炉で燃やしてよいという政策に舵を切りました。環境保全どころではなく、人の命がかかっているからです。そのドイツは脱原子力と言いながらフランスから原子力の電気を買い、電力不足をしのいでいます。ロシアに厳しいイギリスはドイツから天然ガスを買い、そのドイツはロシアから買っているため、実はイギリスはロシアの天然ガスで生活していることになります。
日本の歴史を振り返ると、1853年、ペリーの黒船が浦賀水道(横須賀市)に来航し、鯨油を取るために捕鯨船の燃料に使う「石炭」を要求されました。これが最初のエネルギー争奪戦です。「薪や炭」を使っていた江戸時代を「石炭」が終焉させ、明治時代は「石炭」で近代化が進み、大正時代は「水力」で電気の時代が始まり、昭和になると「石油」の争奪戦が始まりますが、日本はアメリカから原子力の技術提供を受けたおかげで、オイルショック後に世界に先駆けて経済の回復を実現できました。そして現在は「LNG」へとエネルギーシフトしています。日本は元号とともにエネルギー源も変わる歴史を持っている国なのです。また、日本はラッキーなことに北海道・九州に豊かな石炭資源があり、急峻な山、急流な川のおかげで水力資源も豊富で、世界でも稀に良好な港が多かったため石油・天然ガスの輸送ができました。日本固有の自然環境が豊かさを支えてくれたのです。
オイルショックが起きた1970年以降も、原油の価格は大きく変動しています。産油国の多くが所属している石油輸出国機構(OPEC)が談合で生産調整をして価格を決めているのに対し、西側諸国は発言力を持ちません。つまり政治的背景によってエネルギーの価格は変わるのです。日本のようにエネルギー資源のない国は従うしかないことを、このグラフは雄弁に物語っています。
1971年8月15日、ニクソン大統領が日本に対して「円-ドル為替レート固定化廃止」と「金本位制の廃止」の緊急声明を出しました。当時、アメリカはベトナム戦争を背景にドル札を刷りまくっていましたが、ドルの価値が下がらないよう、ドルでしか中東の石油が売り買いできない国際ルールをつくったのです。また、アメリカ軍を油田を守るために常駐させることも決めました。これに産油国は反発し、石油の値段を4倍に上げ、第1次オイルショックが起こり、日本経済も大混乱に陥りました。しかし、日本政府は自給率アップのために「新エネ、省エネ、原子力」の政策をとり、この3本の矢で〝災い転じて福〟としました。電化製品や自動車の「省エネ」ブランドが世界を席巻し、世界で最初に「新エネ」政策をつくり、自前のエネルギーとして「原子力」を始めて経済復興を遂げたのを見て、東南アジア各国も原子力を始めました。アメリカもハリケーン・カトリーナ(2005年)で輸入原油の陸上パイプラインの大半を失ったことにより、自国の原油を採掘し、エネルギー自給を推進するシェール革命へと大転換しました。
ヨーロッパはロシアの天然ガスに年間20兆円も払っていますが、ロシアはウクライナ侵攻にそれ程多額の費用を使っているわけではありません。また、プーチンは経済制裁を受けた後、以前アメリカがドルでしか石油を売り買いできないルールをつくったように、ロシアのルーブルでないと天然ガスを売り買いできないようにしたため、ルーブルの価値は上がり、現在ロシアのエネルギー業界は空前の好景気となっています。一方、日本は5兆3,748億円の貿易赤字に苦しんでいる中で、エネルギー価格の高騰前でも「原油」に年間10兆円弱、「天然ガス」に約5兆円、「石炭」に約3兆円、計約18兆円も外国に支払っています(世界1位)。これでは国が豊かになるはずがありません。一方、我々は「再エネ」に年間約3兆円(1世帯約1万円)支払っていますが、そのお金はどこに流れているかがポイントです。太陽光パネルでも、今や日本のメーカーは1社もありません。マスクの紐と不織布が中国製でも、日本国内でつなぎ合わせると「国産」と言えるのと同様に、太陽光パネルが中国製でも、日本で箱詰めをすれば日本製となります。日本の社名を付けても出資者は外国の企業なので、我々が支払う約3兆円のほとんどは諸外国に流れるしくみができあがっているのです。今日ここに来るまでも山の木が伐採され、外国製の太陽光パネルが敷き詰められている光景を見ました。
今の日本は「石炭」への逆風が吹き、「原子力」は停止し、「新エネ」産業は衰退し、マイナス162℃で液化して1週間しか貯められない「LNG」に支えられているのが現実です。供給不安のつきまとう完全輸入資源1本に絞って、日本は豊かになるのでしょうか。「新エネ」は武器になりえると評価しますが、日本にお金が落ちるしくみをつくらないといけません。資源に恵まれず、他国とエネルギーインフラもつながっていないという日本の特殊性を踏まえ、外国の真似をするのではなく、これまで奇跡の復興を遂げてきた歴史に学び、選択肢を手放さないことが解決策だと考えます。
Q:日本の石炭火力の技術水準は高いと言われているが?
A:日本の新しい石炭技術によって高温・高圧で燃焼すると、石炭燃料の使用量が少なくて済み、CO2排出量を削減できる。国が支援して普及させ、もっと海外に売り込むべきと思うが、残念ながらそうなっていない。
Q:小型原子炉の開発状況は?
A:原子炉は小型になる程連鎖反応をゆっくり進めるなどの方法により安全性が高くなる。また、冷却に大量の海水を必要とせず、どこでも設置が可能となる原子炉も設計されている。近い将来、小型原子炉は世界に普及すると思われる。
Q:大分市でも「おおいた水素シティビジョン」を掲げているが、水素政策については?
A:水素は何からでも生成できるが、今の水素の99%は天然ガスから生成している。その過程でCO2を排出するが、CO2分離回収技術によって埋めたり、使ったりすることもできる。CO2からメタンも生成できるが(メタネーション)、今はコストが高い。しかしCO2を埋める・使うことを地域産業にしていくと日本経済の発展にもなるので、夢を持ち続け、技術開発を進めていただきたい。
Q:ITER(イーター:国際熱核融合実験炉)はどのような状況か?
A:炉内では高温により、原子核が高速で飛び交うため核融合反応を起こす。1億℃を維持できる設備が必要など、世界で実証しようとしているが技術的に難しい。しかし実現できれば無限のエネルギーを手に入れることができるので、エネルギーの奪い合いを目的としていた戦争がなくなるだろう。
株式会社ユニバーサルエネルギー研究所代表取締役社長
1962年、東京生まれ。85年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業。90年、東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了(工学博士)。同年、(株)三菱総合研究所に入社。同研究所エネルギー技術研究部次世代エネルギー事業推進室長を経て、2004年より現職。東京工業大学大学院、東京大学大学院、立命館大学大学院、芝浦工業大学非常勤講師、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術委員、八戸市地域再生政策顧問、世界エネルギー会議(WEC)など歴任。ニュース番組にてコメンテーター、YouTube出演など多数。