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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

四国地域(本川発電所&佐賀取水堰&四万十市郷土博物館)見学レポート
 

これまで見学の機会が無かった四国のエネルギー事情はどうなっているのでしょうか。今回は水力発電が盛んな高知県にスポットを当て、四国最大の揚水発電所や、ダムの無い四万十川にある取水堰のナゾ、“川とともに生きるまち”の歴史と文化を学べる郷土博物館などを、2019年12月18日〜19日の2日間にかけて神津カンナ氏(ETT代表)が見学しました。

四国最大の揚水発電を誇る「本川発電所」

1日目は高知龍馬空港から車で約2時間、四国のほぼ中央に位置する四国電力の本川(ほんがわ)発電所へ向かいました。車中では資料を見ながら、四国の電力事情などについて四国電力の職員の方から話を伺いました。四国の大規模な電源は、西端/愛媛県に伊方発電所(原子力)、東端/徳島県に橘湾火力発電所(石炭)があり、そのほかの火力発電所としては愛媛県に西条(石炭等)、香川県に坂出(LNG、石油等)、徳島県に阿南(石油)が瀬戸内〜紀伊水道にあります。風力は風が強い四国西部に、太陽光は全域に分布し、近年は大量導入が進んでいます。一方、水力発電所は降水量が多い南側に集中しており、総数約100カ所うち57カ所が四国電力の管轄で、31カ所は山が険しく川の水量が豊富な高知県につくられています。 

気になる防災対策について質問すると、台風については電柱を深く埋めるなどの対策を講じてきたため、今では復旧に長期間を要するような被害はほとんど無いとのことです。東南海・南海地震(約100年〜200年に一度、マグニチュード8クラス)や南海トラフ巨大地震(約1,000年に一度、マグニチュード9クラス)の巨大地震については市町村により10〜30m以上の津波被害や、高知県では約7割が停電、高知市では約1.5m地盤が沈降し、市の約1割が長期浸水すると想定されています。四国電力では減災・早期復旧のため、ハードとソフトの両面の対策を順次講じていますが、主力電源が東南海・南海地震の震源から遠い瀬戸内側に分散配置されていることや、中国電力や関西電力との連系線がそれぞれ設けられていることから、大規模停電になる可能性は低いと考えているそうです。1998年に豪雨水害で高知市を中心に床上浸水約12,000棟の被害が発生した際には、3日後に送電を完了したとのことでした。


■四国の主要送電系統図(図)


本川発電所は、四国で最大の水力発電能力(最大出力615,000kW)を持つ揚水発電所です。高知県と徳島県を流れる雄大な吉野川支流の瀬戸川にある「稲村ダム」を上池、吉野川本流にある「大橋ダム」を下池とし、最大使用水量140㎥/秒、総落差567mを利用して発電します。元々大橋ダムは昭和初期に吉野川の水を仁淀(によど)川水系に分水し、分水第一〜第四発電所を計画した際、分水後の吉野川の水量減少に対応するため建設されたダムだそうです。車が山道を上る途中、車窓から“仁淀ブルー”と言われる透明な水色の仁淀川も見ることができました。

PR館「エネルギープラザ本川」に着き、スライドを見ながら発電所の概要について説明を受けました。揚水式とは、夜間や休日に原子力・火力発電所の余剰電力を使って上池に水を汲み上げておき、昼間に下池に水を落とすことで発電し、ピーク時の電力需要増加に対応する“蓄電池”の役割を果たします。しかし近年では太陽光発電が増加したため、昼間に太陽光発電の余剰電力を吸収するため揚水を、悪天候時や夕方に発電を行い、安定供給のための“調整力”の役割を果たしています。揚水の運転回数が2009年は昼間4回:夜間154回だったのに対し、2018年は昼間145回:夜間72回と、昼間の起動停止が著しく増加しています。また、本川発電所は最速10分程度で最大出力に達することから、大規模停電時には、その即応力により緊急発電を行う役割もあります。ブラックスタート*についても、定期的に訓練を実施しているとのことです。12階建てのビルがすっぽり入る大きさ(幅96.4m×深さ46.4m)の地下建屋の中には、1,2号機の水力発電機などが設置されています。PR館では、ナレーション付きのジオラマ模型などでわかりやすく説明されていました。
*広範囲におよぶ停電が発生した場合でも、外部電源により発電された電気を受電することなく、停電解消のための発電を行うこと。

再び車に乗り、大橋ダムを眼下に眺めた後にトンネルに入り、本川発電所に到着しました。広い建屋内には予備水車が置かれています。これは1号機で2003年まで運転に使用していた水車で、現在は最新技術で設計された「高効率水車」を導入し、出力が15,000kW増強しているそうです。 水車の直径は5mもありますが、機器で一番重いのは主要部、赤い色をした「回転子」で約510トンもあると伺い、驚きました。地下3階に降り、水車の回転力を電気エネルギーに変える、1号機の発電機が設置された部屋に入りました。こちらも停止中のため、耳栓無しで、上の水車とつながっているしくみを見ることができました。さらに地下に降り、水車室を見学しました。水車は発電の際は時計回り、揚水の際は反時計回りに回るそうです。部屋を出て、実際に使用されていた巨大な水車と、数多くの分解組立工具が展示されているのを見て、これほど大きな機器なのに、点検・修理の際は一つひとつのパーツに緻密な調整が求められることがよくわかりました。

 “最後の清流” 四万十川にダムが無い理由

次に車で西の四万十町へ向かい、四万十川にある佐賀取水堰(しゅすいぜき)を見学しました。全長196kmの四万十川にはダムが無く、“最後の清流”と言われる理由の一つとされています。法律で高さ15m以上のものがダム、15m未満のものは堰(せき)、堰堤(えんてい)などと呼ばれています。四万十川の水を使う水力発電所である佐賀発電所のためにつくられた佐賀取水堰は、高さ8mしかないため、法律上ダムではないというわけです。堰の周辺には、ここから12km離れた場所にある「佐賀発電所のあらまし」を解説したパネルや、発電所で使われていた小さい水車が展示されていました。佐賀発電所の最大出力は15,700kW、先に訪れた本川発電所は615,000kWです。出力の違いが水車のサイズにも現れていました。ちなみにこの佐賀発電所は、県作成のハザードマップで地震による津波浸水予測区域に入っておらず、影響を受けず稼働できるとされています。

堰の上を歩くと、穏やかに流れる四万十川の端に「階段式魚道(ぎょどう)」が見えました。四万十川に棲む鮎などが堰き止められることなく、上流へ遡上できるようにつくった魚の通り道です。「魚が階段の水たまりを一段ずつ上って行きますよ」と、所員の方が目を細めて教えてくださいました。また、構内には、堰に流れ着く流木を活用して木炭をつくる炭窯が設けられており、袋には立派な木炭がぎっしり詰められていました。堰周辺の300本もの桜並木を楽しむ“桜まつり”が行われる毎年3月に来場者にプレゼントしたり、地元小学生を対象に炭焼き体験学習も開催したりしているそうです。佐賀取水堰が四万十川とともに、地域の方々に親しまれていることを感じました。

“川とともに生きるまち”の歴史と文化を知る

2日目は、沈下橋(ちんかばし)の中で四万十川最下流かつ最長(全長291.6m)の「佐田沈下橋」や、1935年に建設され、四万十川に現存する沈下橋の中で最も古い沈下橋として2000年に国の有形文化財に登録されている一斗俵(いっとひょう)沈下橋を歩いて渡りました。沈下橋とは、増水時に水中に沈下することを想定して設計された、欄干の無い橋です。緑の山々を背景に悠々と流れる大河にかかる沈下橋という、四万十川の代表的な景色を堪能した後に「四万十市郷土博物館」を訪れました。
中村城跡の中にあるというお城の形をした館の中を、市の教育委員会の川村慎也氏にガイダンスしていただきました。

四万十市は“川とともに生きるまち”をコンセプトに掲げています。かつて国土交通省の定めた四万十川の正式名称は「渡川(わたりがわ)」でしたが、テレビ番組で「日本最後の清流・四万十川」と紹介されたことなどをきっかけに、1994年に「四万十川」に改名されました。長く緩い勾配の四万十川は山間を縫うように流れ、上流は谷あいを流れる川、中流は大きな蛇行を何度も繰り返す川、下流は水流の多い大きな川という3つの顔を持っています。特に中流域は、南海トラフからせりあがった固い大地に阻まれて南下できず、西に蛇行したと考えられるという興味深いお話を伺いました。また、四万十川は汽水域が広いため多様な生き物が生息し、川の漁が盛んであることや、流域にはたくさんの集落が点在し、特に河口は港町として発展したという歴史など、川とともに生きる暮らしや文化が今もなお続いていることを数多くの展示物によって知りました。「川とともに生きる暮らしは、良いことも悪いこともセットになります。水害も織り込み済みで、昔から川とどう上手につき合っていくかを考え、環境に応じた暮らしを続けてきたのです」とのお話に、それぞれの川の特性に応じた水力発電で電気を供給し続けてきた四国電力の歩みもまた然りと感じつつ、2日間にわたる高知での見学の旅を終えました。 

視察を終えて

視察を終え、あらためて四国4県の地図や気候・地理的条件などと照らし合わせてみた。すると、四国に於ける発電所立地の特色が実によくわかってくる。
四国は中央を東西に貫く四国山地で大きく分断されているが、その山地を境に地形や気候条件が著しく異なることが大きな特徴である。
香川、愛媛などの瀬戸内側は温暖・少雨の気候で古くから水不足に悩まされ、渇水対策に苦労してきたところも多い一方で、太平洋側は対照的に一日の降水量の日本記録が出るほど降水量が多く、水資源に恵まれている。くわえて太平洋や紀伊水道に流れ込む河川は、暴れ川「四国三郎」の異名を持つ吉野川、標高差が数百メートルという険しいV字谷を刻みながら土佐湾に南下する仁淀川、日本で11番目に長い四万十川など、水量豊かで流路が長い川が多い。
今回訪れた高知県は、その豊富な降水量と急峻な地形を利用して早くから水力開発が行われ、現在、高知県内に於ける四国電力の水力発電所は31ヵ所。これは四国電力全体の認可出力の約8割を占めている。一方で、平地が少なく森林面積の割合が日本一多い83%という地理的条件もあって、高知県には四国電力の火力発電設備は立地されていないのも特徴的である。
日本のような小さな島国でも、地域によってさまざまに異なる自然環境があり、その自然と背中合わせに共存しながら人々は暮らし、そしてそれを支える電力インフラ設備があるのだと、深く心に刻み込まれる視察であった。

神津 カンナ

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