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九州電力 天山発電所見学レポート【九州メンバー視察編】
太陽光発電の余剰電力吸収に欠かせない揚水発電所

九州電力天山(てんざん)発電所は佐賀県のほぼ中央部、唐津市厳木町(きゅうらぎまち)に1986年に営業運転を開始した純揚水式発電所で、近年では大量導入された太陽光発電の余剰電力を吸収する“電力需給の調整力”として重要な役割を担っています。2022年12月7日、ETT九州メンバーは、巨大な地下発電所や天山ダム(上ダム)の内部を見学し、その実態を知る機会を得ました。

太陽光の大量導入以降、昼夜逆で運転回数が年々増大

JR博多駅から貸切バスで1時間半、トンネルを下って地下約500mの天山発電所に着きました。高さ48m(12階建てビル相当)×幅24m×奥行89mの巨大な地下発電所です。メンバーはまず地上4階(地下発電所は地上4階、地下4階の構成)に設けられたスペースで、パネルや資料を見ながら担当者の方から概要説明を伺いました。九州電力の揚水発電所は大平発電所(熊本県八代市:1975年〜)、天山発電所(佐賀県唐津市:1986年〜)、小丸川発電所(宮崎県児湯郡:2007年〜)の3カ所で、計8台のポンプ水車・発電電動機(以下、揚水機)を保有しています(合計出力230万kW)。ここ天山発電所は30万kW×2台の揚水機を据え付け、最大出力60万kWで約6時間の発電が可能です。揚水発電所は水力発電所と同じく“水の力で水車を回して電気をつくる”しくみですが、違うのは発電所を挟んで上下にダムを築き、“発電のために使う水を下ダムから上ダムへ汲み上げて(揚水して)貯めておく”ことです。つまり電気を水の形で貯める大規模な「蓄電設備」で、必要な時に上ダムに貯めた水を下ダムに落として発電することができます。


■天山発電所の概要 

(図)


揚水機は上に発電電動機、下にポンプ水車を主軸でつないでいます。発電時には、上ダムから落とした水が導水路+水圧管路(1,400m)を通ってポンプ水車に流れ込んで「水車」を回し、発電電動機の回転子(ローター)を上から見て時計回りに回転させて「発電機」として発電し、つくった電気は送電線へと送られます。発電に使われた後の水は放水路(1,900m)を通って下ダムに貯えられます。そして揚水時には、送電線から送られた電気で発電電動機の回転子を反時計周りに逆回転させて電動機(モータ)として使い、ポンプ水車を「ポンプ」として使って下ダムの水を上ダムへ揚水し、次の発電に備えます。回転子の回転速度は400回転/分で、起動操作から最大出力に至るまでの立ち上がり時間も短く、石油火力が4時間程度かかるのに対し、天山発電所は約5分と短時間で発電できるため、大型電源の事故停止時や負荷急増時などにおける「緊急発電」運転に対応できるメリットもあります。元々、揚水発電所の役割は「ピーク需要対応用電源」、「緊急発電」、「経済揚水」でした。経済揚水とは、例えば夜間に発電原価の安い石炭などで揚水し、昼間に発電することで発電原価の高い石油火力やLNGの出力を抑制して燃料費を抑制します。これらに加えて現在、揚水発電所は「LFC*(負荷周波数調整)」や「電圧調整」、「ブラックスタート」などの役割もあります。九州全域がブラックアウト(大停電)した場合、九州電力は関門海峡の送電線でしか他電力とつながっておらず、外部の電源だけに頼るのは困難なため、天山発電所は水の落差を使って自力で立ち上げた電気を順々に他の発電所の立ち上げ用の電源として送る役割を担っています。
*Load Frequency Control

天山発電所が36年前につくられた当時は、石炭火力や地熱・原子力発電がベースロード電源、LNGや石油火力発電が昼夜の発電量を調整し、揚水発電は電力需要の大きい昼間に発電して火力発電を補う役割を担っていました。しかし2012年のFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)施行以降、九州では再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及が急速に進み、九州本土(離島除く)の太陽光の接続量(接続済)が2010年度末:56万kW→2021年度末:1,127万kWと右肩上がりに増えたため、近年では主に昼間に太陽光発電の余剰電力を吸収するために揚水を行い、朝や夕方の太陽光が発電しない時間帯に発電するという「今までとは逆の使い方をしている」とのことです。太陽光連系量の増加に伴い、九州3カ所の揚水発電所の揚水回数も年々増加しています。2010年度の昼間揚水の運転回数は約30回でしたが、2019年度は約2,000回昨年2021年度も約1,900回を数えました。天山発電所においても、発電・揚水運転回数とそれに伴う電力量が増大しています。


■揚水発電の役割 

(図)


夏季など電気使用量が多い時は、火力発電量を調整することで太陽光発電も含めた発電量と使用量のバランスを取ることができますが、春や秋の電気使用量が少ない時期の晴天時の昼間はそれでも吸収できず、太陽光発電量が九州全域の使用量に近づいたり、上回ったりして電気が余る事態が発生しているそうです。電気が余ると周波数の適正値が保てなくなり、大規模停電に至る恐れもあります。電力の余剰対策として揚水で需要をつくり出しますが、それでも余る場合は九州以外の地域へ電気を融通します。2018年5月のGWは昼間の太陽光出力増に対して、揚水動力(最大8台並列)の活用や、火力発電所の抑制・停止により対応できましたが、2018年10月の休日はそれでも吸収できず、需給バランスが維持できないことから、全国初(離島を除く)で再エネの出力制御をお願いしたとのことです。「再エネを最大限受け入れているため、九州の3カ所の揚水発電所はなくてはならないものだが、余剰電力を吸収するには限界がきている」とのお話に納得せざるを得ませんでした。





質疑応答

Q:運転回数が増えたことで機器への影響は?
A:2号機は2018年10月〜2019年4月、1号機は2019年9月〜2020年4月にオーバーホール(分解点検)を行ったが、運転回数、運転時間の増加により水車や付属部品の摩耗が顕著であったため、今後12年間の運転回数、運転時間と摩耗度合を想定し、部品の構造変更や入念な手入れにより、次回オーバーホールまでの12年間の運転に耐えられるように施工した。また、制御装置の中で開閉するスイッチ類の開閉回数も増加し、不具合が発生していることから、交換周期を短縮するなどの工夫を行っている。巡視点検も毎日行っている。

Q:運転指示はどこから?
A:九州電力の中央給電指令所が系統運用をコントロールしている。電力需要を見て、太陽光出力を監視しながら、揚水動力の活用・停止の指令を出している。

毎秒約140トンの水で水車を回し、約20万軒分を約6時間発電

説明を伺ったスペースの背面には、上ダム-発電所-下ダムを結ぶ水路トンネル(約3,300m)の管路で一番太い直径約5.5mの断面が原寸大で表示され、その前に立つと揚水発電所のスケールの大きさが実感できました。メンバーはヘルメットをかぶり、いよいよ所内の見学です。下を覗くと地上1階とは吹き抜けになっており、奥が1号機、手前が2号機、それぞれの発電電動機の上カバーだけが見えます。地上1階に降りると、上カバーの大きさがわかるよう、作業着姿のマネキンが置かれていました。通路脇にはパネルが置かれ、発電電動機とポンプ水車の「オーバーホールの工事進捗状況」を写真で順を追って見ることができます。上カバーだけでも重量が1体128トンあり、1/4に分けて30トンチェーンブロックを2台使用して吊り下げた写真もありました。全体を分解するのに約1カ月かかり、8カ月かけて手入れしたとのことです。また、「ポンプ水車・発電電動機断面図」を見ると、ポンプ水車には1秒間に約70トン、2台で約140トンの水が入りますが、これは25mプールの水を約4秒で満杯にする流量速度で、約20万軒分の電気をつくることができると書かれていました。

地下1階へ下り、さらに階段を数段降りた発電室に「発電電動機」が設置されています。見上げるほど大きい箱状の中に回転子が入っているとのことですが、外からは見えません。回転子(ローター)は外径約5.3m×高さ約3.3mで重量460トン、その周りを取り囲む固定子(ステーター)は外径約6.1mで重量350トンもあるそうです。熱を冷やすため、下部には6台のファンが付けられていました。

さらに地下2階へ下り、水車室に設置された大きな「ポンプ水車」を見学しました。中央に直径100cmの金属の主軸が見えますが、1つ上の階で見た発電電動機とつながっているそうです。水圧鉄管の弁が開いて水が流れて「水車」が回り、直結した発電電動機から電力が生まれるしくみで、水を多く流すと発電量を増やすことができます。また、逆回転すると「ポンプ」となり、下ダムから上ダムに揚水することができます。


天山ダムの内部の監査廊(点検用トンネル)の中へ

メンバーは発電所を出て再びバスに乗り込み、トンネルから外に出て、山道をどんどん上って天山ダムに着きました。全景写真や概要図のパネルを見ながら、ダムの設備管理をしている方に説明を伺いました。天山発電所は、上ダムが九州電力の天山ダム、下ダムが国土交通省管轄の厳木ダムを利用し、上ダムは有明海に注がれる六角川水系、下ダムは玄界灘に注がれる松浦川水系で、別々の川を水路で結んでいます。今いる上ダムが標高758m、下ダムが標高199m、その約500mの落差を利用して発電しています。鳥瞰図を見ると、先ほどバスから見えた上ダムの取水口から取った水は導水路トンネルを通り、途中から2本に分かれて発電所の2台の揚水機に入った後、放水路トンネルを通って下ダムにつながっています。

天山ダムは「ロックフィルダム」で、外からはわかりませんが、中心部に粘土質の水を通さないコア材(遮水壁)を入れ、周りをロック(岩)で固めて建設されています。約500万㎥掘削したうちの約160万㎥がダムの材料に使われたそうです。長さ380m×高さ69mで貯水容量は300万㎥、発電で使う利用水深は30mです。ダムの内部にはトンネルの監査廊(点検用通路)が対岸まで通っており、作業員の方が地震計の管理や、揚圧力の計測などを行っているそうです。天山発電所は「純揚水発電所」で、流域で降った雨は発電に使わず、下流に直接流します。一方、雨水や河川を流れる水などもダムで堰き止め活用する揚水発電所は「混合揚水発電所」と言います。また、下ダムの厳木ダムは「重力式コンクリートダム」で、長さ390m×高さ117mで貯水容量は1,360万㎥、発電のほか工業用水などにも使われる「多目的ダム」となっています。

ダム貯水池には青々とした水が貯えられ、周囲にはススキが生い茂り、対岸に目をやるとロック(岩)が見えました。草を食べるために飼っているヤギがいましたが、ここのヤギはススキを食べないのだそうです。ダムの脇の階段をどんどん下り、監査廊の狭いトンネルに入るとまもなく地下階段があり、対岸までつながっているそうです。「転落注意」と注意書きがあるように、目がくらむほどの深さに驚きの声が上がりました。聞くと、階段は見えている所よりもさらに深く続き、ダムの高さ69mのほぼ真下まで行けるそうです。ダムの大きさと、日常点検の大変さを肌で感じました。今回の見学では、九州に暮らすメンバーといえども普段は目にする機会がない揚水発電所のスケールや、増大する太陽光発電の余剰電力吸収という綱渡りの実態を知ることができ、学びの多い一日となりました。

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