特集

エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

北海道メンバー懇談会
北海道に暮らすメンバーたちと考えるエネルギー

ETTでは2020年に迎えた設立30年を機に、神津カンナ代表が各地域を訪問し、メンバーの皆さまとともに地域のエネルギーの歴史や課題などを議論・意見交換する懇談会を実施しています。2021年12月1日、第5回目となる北海道メンバー懇談会を開催しました。





上村 正子氏(北海道札幌市在住) とかち・くらし塾代表/ファイナンシャルプランナー/

                 消費生活専門相談員
橋本登代子氏(北海道札幌市在住)(有)ボイスオブサッポロ代表取締役/

                  フリーアナウンサー/

                  NPO法人 雪氷環境プロジェクト副会長
山口 博美氏(北海道小樽市在住) Ene Female21(エネ・フィーメール21)

                 運営メンバー/消費生活アドバイザー/消費生活相談員

マイナス30℃になる冬の暖房は命に関わる問題

神津 本日は札幌にお集まりいただきありがとうございます。まずは自己紹介からお願いします。

橋本 本職はアナウンサーです。STV札幌テレビ放送を退職後、現在はボイスオブサッポロという会社を経営しています。ETTには2005年にお誘いを受けて入会させていただきました。驚いたのは、全国から集まる女性のパワーです。年齢に関係なく、自分を良く見せようでもなく、生活の中のエネルギーについて素直に疑問に思ったことを質問し、いきいきと発言する様子を見て「これからは私もただ年を取っている場合ではないぞ!」と思いました。今は神津代表のお話を聞くたびに「物の見方、感じ方がなんてしなやかなんだろう」と影響を受けています。

山口 学生時代、橋本さんがパーソナリティを勤めていたラジオ深夜放送を聞いていました。私は専業主婦だった20代に消費生活相談員と消費生活アドバイザーの資格を取り、消費生活センターで働いてきました。今日も先程まで電話相談を受けていたところです。20年程前、雑誌の『オレンジページ』に掲載されていた「エネメイト」という女性モニター募集に応募したことからエネルギー問題に興味を持ちました。それまで消費者問題=衣食住というイメージが強かったので、「エネルギーは消費者に関わっているのに何も知らなかったな」と考えるきっかけになりました。ETTでは疑問に思うこと、何回話を聞いてもわからないこと、聞いてから年月を経て考えさせられることもあり、答えのないエネルギーの世界のおもしろさを感じます。また、メンバーの皆さんのお話を伺うのもおもしろくて、いい会に入れていただいて本当に良かったと思っています。

上村 北海道消費者協会会長を務めていた母(三宅嘉子氏)がETT創設時のメンバーだったことから、話を聞いているうちに興味を持ち、20年前に入会しました。私はお金の運用や使い方に関心があったのでFP(ファイナンシャルプランナー)の資格を取りました。私が住む十勝には「クミカン:農協組合員勘定制度」があるが故に金勘定をJAにまかせきりになりがちなので、お金の管理に役立つ勉強会を10年位前から開いていて、これからも続けていきたいと思っています。十勝の人は良く言えば大らかですが大雑把とも言えます。

橋本 私は札幌ですが、十勝は年間の気温差が60℃位になりますよね?

上村 十勝の冬はマイナス20〜30℃、夏は30℃になります。マイナス20℃以下になると息をするのも苦しくなりますが、放射冷却で空が真っ青に晴れるので気持ち的には明るいですし、そんな中でもお年寄りは外でゲートボールをやっています。そういう暮らしが当たり前になっているのですね。

神津 なるほど。東京にいると考えられない寒さですね。皆さんのお宅では、冬の暖房費はやはり大きいのでしょうか?

上村 冬場の暖房は北海道民にとって命に関わる問題で、どれ位暖房費がかかるかは切実です。昔、公務員や大手の企業などでは8月末位にまとめて「暖房手当」「石炭手当」が出ていました。

橋本 道内最大の灯油共同購入団体である「コープさっぽろ」が毎年秋口に発表する灯油の価格がその年の基準になり、ニュースになります。

上村 「北海道価格」と言われますよね。

山口 北海道内は広く地域によって、価格差があります。札幌は競争が激しいので平均よりは安いと思います。

上村 実家はオール電化で、今は誰も住んでいないので最低限必要な保温のために暖房を点けていますが、先月(10月)の電気代は5万円でした。

山口 融雪のためロードヒーティング*を設置している家や、屋根に電熱線を付けている家もありますから、冬は光熱費がかかります。
*道路や玄関前、駐車場などに積もる雪を溶かして凍結を防ぐ放熱設備。

神津 うーん、都会に住んでいる私が初めて知ったこともたくさんあります。そうすると、北海道の方たちはエネルギーに関心があってもおかしくないですね?

橋本 北海道の冬のエネルギー消費量は東京の倍ですが、それが当たり前になってしまっているのと、元々の大らかさが出て人まかせになってしまっているように思います。

上村 エネルギーへの関心は、単に電気代が高い安いといった「価格」にフォーカスされてしまっていますね。

神津 北海道胆振東部地震(2018年)の後、ブラックアウト*が起きた時に「泊原子力発電所が動いていればもう少し電気が行き渡ったのではないか。原子力発電を動かすことは命とリンクしている」という意見があるということを新聞で見たのですが、地元ではエネルギーや命の問題、北海道特有の事情などについて話題になりましたか?
*大規模な全域停電。

橋本 地元紙は取り上げましたが、関心のない人は他人事でした。3年経った今ではほとんど話題にもなりません。

山口 何か備えをしなきゃと、ポータブルストーブを買い求める人のニュースは何回か見ました。ただ、エネルギーの構造や北海道特有の問題まで掘り下げて考える人がどの位いたかは疑問です。

上村 「だから原子力を残しておいたほうがいい」という意見は、私は聞いていません。 

橋本 冬場にブラックアウトになっていたら命に直結するので関心が増したかもしれませんが、9月でしたものね。あと、エネルギーは暖房だけでなく、いろいろな問題に結び付いていると思います。

山口 北海道ではガソリンスタンドの過疎化も問題です。地方では自動車の利用が不可欠ですが、小規模スタンドでは経営的に難しいといった声も聞かれます。

上村 高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定の文献調査に寿都町(すっつちょう)が応募しましたが、「町が生き残るためには交付金が必要」という理由に賛成反対の意見が分かれていて、難しいなと思います。

橋本 ほかの地域で最終処分場が話題になることはまずないですね。

上村 意見を言うと賛成か反対かになってしまうので、話題にしようとはならないのです。

山口 様々な団体が「北海道に設置は反対」と声をあげましたが、「最終処分を消費者問題としてきちんと考えよう、掘り下げて解決しよう」という声はあまり聞いていません。

上村 母が50年位消費者問題に関わっていたのですが、泊原子力発電所誘致に揺れた1960年代、消費者協会の会合では、意見が割れて紛糾してしまうから話題にしないようにと決めていたようです。その頃に比べると今はやっと声が出せるようになってきたなあと感じます。

神津 それでは、北海道をもう少し底上げするためには何が一番必要だと思いますか? 

橋本 よく言われるのは「北海道は国土の約20%を占める程広いのに、経済力は約3〜4%しかないのはいかがなものか」ということです。「自立した経済力」が大きなテーマではないでしょうか?

山口 「北海道は資源がたくさんあっても売るのがヘタ」と言われます。せっかくいいものを持っているのだから、ブランド化するなど付加価値を付けて売る力が必要だと思います。

橋本 辛子明太子は稚内でもつくっていますが、福岡のほうが有名です。九州出身の私から見ると、北海道の人たちは皆で一緒に開拓をしてきた歴史があるせいか、「私が私が」と抜きんでる感じがないのです。良いところでもありますが、もっと誇ればいいのに!と歯がゆく思います。

上村 私は沖縄や鹿児島にも住んだことがありますが、北海道にずっと住んでいる人は自然に恵まれ、自然からいろいろなものをもらって暮らしていることを当たり前だと思っていて、あまり良さをわかっていないのではないでしょうか。自然の大切さ、良さ、ここに暮らせる幸せをもっと知るべきだと感じます。

橋本 北海道の講演会では質疑応答になっても、皆さんあまり疑問に思わないのか、あるいは恥ずかしいのか、手を挙げないのです。ほかの県では講演者を引き止め、車座になって意見を戦わせる様子も見ましたが…。

雪のエネルギーを夏に利用する「雪冷房」

神津 ETTが30年経つ中で時代の価値観も有り様も変わりましたが、今のETTにどんなことを求めますか?

上村 小さな勉強会をETTに支援していただけていることがありがたく、これからもお願いしたいと思っています。以前、陸別という寒い所で勉強会を開いたら20名程しか集まらなかったのですが、雪で飛行機が欠航になり、東京からたいへんな思いをして来ていただきました。

山口 ETTには発信力のあるメンバーや、専門性を持つメンバーが全国にたくさんいるので、皆で集まって何か取り組むことができないかと思っています。

橋本 メンバーになっている大学の先生のゼミ生が入会するとか、若い人を取り込んでも良いのではないでしょうか。エネルギー政策が政治によって変わるという流れを知っておけば10年後、20年後に比較できるので、生活の中のエネルギーを考えた時に、より正しい選択ができるのではないかと思うのです。

神津 乳業協会の仕事をして初めて知ったのですが、牛乳の紙パックは針葉樹でつくっているから非常に質が高いのです。でも家庭での処理が大変なので回収はなかなか進まない。だから紙パックの代わりに瓶だったらいいのではないかという意見もありますが、牛乳瓶は必ずしも牛乳瓶に再生することができず、また、洗っても30回程度しか再利用できないため実は持続可能ではないのです。私たちは幻想を抱いていることや、知っているようで知らないことが山のようにある気がします。だからこそ勉強して実態をよく見ることが大切で、エネルギーについてもいろいろな角度から見られるようにしたいのですが、何か切り口になるヒントはないでしょうか?

上村 ラジオの英会話講座を聞いているのですが、例文で『電気自動車を買ったのよ。環境にいいことしているでしょ?』『でも電気自動車をつくる時にはCO2が発生しているのよ。それはどう思うの?』という会話がありました。時代が変わってきているな、エネルギー問題が話題として出るのは良いことだなと思いました。

橋本 今はSDGsに関する子ども向けの本がたくさんあって、教育の必要性を感じます。北海道では雪のすばらしさ、怖さ、雪のスポーツなどを「雪育(ゆきいく)」で学ぶように、エネルギーが生活に関わっていることを子どもの頃から教える「エネ育」が絶対必要だと思います。社会人になると教育の歯車から外れるので、興味のあることや結果しか見なくなりますから。

神津 ご自身はどういうことを切り口にして地域活動をしていらっしゃいますか?

山口 エネルギーの話は難しく、一方的に情報を与えても理解しづらいため、「Ene Female21」では生活者の目線で考えることを大事にしています。ETTのご支援で中川恵一先生の講演会を開いた後に、参加者の方が「エネルギーの会なのにがんの話でしたね。あ、放射線のことも伝えたかったんだ!」と、自問自答されていました。押し付けはしたくないので、なるべく生活に密着した切り口からつなげていきたいです。

上村 十勝は食料基地なので、作物をつくって食べることにエネルギーをからめるのがわかりやすいかなと思い、「作物を育てるためにどんなエネルギーが必要か」などを切り口にしています。

橋本 私はNPO法人「雪氷環境プロジェクト」のメンバーなのですが、ETTのご支援による親子バスツアーで「雪冷房」の施設を見学して喜ばれています。「雪冷房」は冬場の雪をためておいて夏場の冷房に使うシステムで、札幌市円山動物園や新千歳空港にも一部使われています。パソコンで熱がこもるデータサービスセンターを「雪冷房」にすると電気代が約10%で済むそうです。

上村 雪は匂いや音も吸収するのです。

山口 氷室ももっと普及するといいですね。

橋本 雪の多い美唄(びばい)市は、雪を売る町になろうとしています。ある方の試算では雪のエネルギー価値は1トン約800円位だそうです。1トンというと昔のファスナーがついた衣装ケース1個位でしょうか。札幌市の年間除雪費は約200億円と言われますから、もっと普及させればいいのにと思います。

神津 これからのETTについて、もっとこんなふうに展開していけばおもしろいというような提案はありますか?

橋本 これからはエネルギーの地産地消が大事になってくるかと思います。「雪冷房」などその地域らしいエネルギーを取り上げていただけると、ほかの地域の方にとっても勉強になるのではないでしょうか。

上村 先日の神戸でのメンバー見学会は半日行程だったので地方からも参加しやすく、少人数でフットワークも軽かったです。見学会や勉強会で、他県から来られる方々とお会いするとすごく刺激になりますし、助言をいただいて地域活動のエネルギーにもなりますのでこれからもお願いします。

山口 ETTは何かおもしろいことができそうなメンバーばかりなので、「皆で何をやったらいいのかを考える会」を開いたらどうでしょうか?

橋本 今は工場やお寺など、めったに入れない所を見学して知的好奇心をくすぐる民間のツアーが人気ありますよね。ETTもメンバーが一般の方を同伴できるようにしてみてはいかがでしょうか? また、例えば北海道なら自然破壊という言葉がないアイヌの方の話を伺うなど、それぞれの土地が大事にしている文化を教えていただけたらおもしろいと思います。北海道に住む私たちでもアイヌの精神を知っている人はあまりいません。

上村 元々ここに住んでいたのはアイヌの方たちで、北海道民は移住者ばかりですから。うちも母方は岐阜、父方は新潟出身です。

橋本 うちも夫は香川出身です。

山口 私も夫も先祖は北陸からの移住者です。

上村 今は東京に住んでいた若い人たちが十勝に帰って酪農ベンチャーに挑戦しながら子育てをするなど、発想が変わってきていますし、北海道の自然に可能性を求める明るい兆しも見えます。北海道は子育て支援も充実しています。

山口 大手企業によるワーケーションも広がっています。

橋本 北海道の移住政策は成功していますし、受け入れる側も異端視しなくなりました。

上村 東京から帯広まで飛行機で1時間半位ですが、上から見る景色は違います。自然の中で暮らしている大らかさはありますね。

山口 私は、5月位に桜も梅も花が一気に咲いてエネルギーを出す、北海道の春が好きです。

橋本 私も「北海道の春はすごいよ」と言われて、来るまでわかりませんでした。色が鮮やかですよね。

上村 冬ごもりが長いから楽しみがあります。


子どもの頃から景色の中にいつも石炭があった

神津 先程「暖房手当」「石炭手当」の話が出ましたが、今のように脱炭素で石炭が悪く言われると嫌な感覚はありますか?

上村 北海道民の中では大事な生活の糧だった歴史があるため、一概に石炭はダメというのはどうなのかなという思いもあります。炭坑の町もありましたし、石炭で育ってきたという感じがします。

山口 子どもの頃から景色の中に石炭がありました。高校も石炭ストーブで、早く来た生徒が石炭当番になって石炭を取りに行ったり、マスクが真っ黒になったり、お弁当や靴を暖めたり…、懐かしい思い出です。

上村 郷愁のような、石炭に対しては良いイメージがあります。

橋本 北海道の家には煙突がありますしね。

山口 コークス*を使っている家は今もありますよね。
*石炭を蒸し焼きにして抽出した炭素の塊。

神津 皆さんのお話を伺って、北海道は大らかだからこそ、視野を広げて考えられる方が多いのでは?と心強く感じました。エネルギーも表や裏、いろいろな角度から見ることが大事だと思います。本日はありがとうございました。


懇談を終えて

日本はアメリカのカリフォルニア州の中にすっぽり入ってしまうような国土……と私はいつも言っている。北海道も仕事やプライベートで、何度も訪れているところだ。けれども今回、「石炭手当」「暖房手当」など、初めて聞く言葉を耳にし、石炭への郷愁や思い出などを聞くと、ああ、都会の人間はまだまだ知らないことがたくさんあるのだなあと、つくづく思った。少人数となってしまったが、それも北海道の広さを思う一端となった。
人間は一生が勉強なのだと感じる。世界の各地を旅してたくさんの知識を得られなくても、足元をきちんと見ることで視野は大きく広がり、思いがけない発見、初めて知ることに出会う。地面の下にたくさんの宝が埋まっていることを痛感した。
しかも各地のメンバーはみな勉強熱心で博学である。確かに職業は多岐に亘っている。けれどもそれぞれが置かれた立場で、その背景をきちんと背負いながら、たとえ自分とは関係のない世界のことでも、その立ち位置から見て把握する。決してご自分の立ち位置を忘れはしない。
そこだなあ……と思った。私たちはどんなに新しい知識を得ても、自分の立ち位置を忘れてはいけない。自分の居場所を認識してこそ、さまざまな発言の根がきちんとはれる。根無し草のようにふらふらしないのである。
ETTは「皆で何をやったらいいのかを考える会」にしたらいいのでは?という発言も、そうだなあと思った。根をきちんと張ったメンバーたちの力を借りて、大きな花を咲かせられたら……。俄然、夢が膨らむ。そんな気持ちにさせてくれるのは、やはり北海道の「おおらかさ」のおかげだろう。

神津 カンナ

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