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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

豊洲埠頭地区見学レポート
豊洲を拠点に拡張する、都市生活へのエネルギー供給の要

2018年10月に豊洲市場が開場し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目前に控え、再開発が急ピッチで進められている豊洲埠頭地区。2019年5月23日、ETT メンバーは、その新しいまちでスマートエネルギーネットワークを構築する「東京ガス豊洲スマートエネルギーセンター」と、世界初の50万ボルト地下式で都心に電力を供給する東京電力パワーグリッド「新豊洲変電所」を訪れ、豊洲を拠点に拡張するエネルギー供給の新たな要を今回特別に見学させていただきました。

産業用エネルギー基地からスマートシティ(最先端都市)へ

東京湾埋立地の中程に位置する、豊洲埠頭。「江戸湊」と呼ばれた昔は豊かな漁場で知られ、江戸時代から東京湾の埋め立てが、市街地の拡大や土砂の利用、ごみの処理を目的に始まりました。豊洲の埋め立ても大正期に始まり、関東大震災のがれきも用いられました。戦後には東京港の物流機能を高めるため豊洲埠頭が整備され、高度経済成長期(1950〜60年代)にかけてさらに埋め立てが進み、1956年には新東京火力発電所(〜1991)と東京ガス豊洲工場(〜1988)が操業し、エネルギー基地としての役割を果たしました。産業用地の役目を終えた1980年代以降は、東京駅から約4kmという利便性と、約110haもの広大な土地を生かし、“人の住むまち”として再開発が進められています。

夏本番を思わせる暑さになったこの日、メンバーは2班に分かれ、「東京ガス豊洲スマートエネルギーセンター」を訪問しました。最初に会議室で、豊洲埠頭地区のまちづくりや、エリアで使うエネルギーをつくる「スマートエネルギーネットワーク」について、ビデオや資料を見て学びました。豊洲埠頭地区は、江東区が2011年に策定した「豊洲グリーン・エコアイランド構想」に基づき、環境に最大限配慮したまちづくり、さらに防災時に自立できるまちづくりが官民協働で進められています。その中で東京ガスは区域2・4・8(地図参照)において、22世紀に引き継ぐ価値のあるスマートシティプロジェクトとして「TOYOSU22」を進めています。「TOYOSU22」は最先端のエネルギーシステムを導入する「スマートエネルギー」、水と緑を生かす「スマートグリーン」、安全・安心や地域のにぎわいを実現する「スマートコミュニティ」という3つのSMARTを柱としています。


豊洲埠頭地区のまちづくり

エリアで使うエネルギーをつくる「スマートエネルギーネットワーク」

「東京ガス豊洲スマートエネルギーセンター」は、エリア全体でエネルギーを有効活用して環境性と防災性の向上を目指す「スマートエネルギーネットワークシステム」の拠点です。世界最高水準の高効率ガスコージェネレーションシステム(CGS)を中心に、未利用エネルギーを最大限に活用し、情報通信技術(ICT)を用いSENEMS (セネムス)と呼ばれるエネルギーマネジメントシステムを導入してエリアのエネルギー需給をコントロールし、省エネ・省CO2を図ります。「CO2排出量の約40%削減を目指す」との説明に、感嘆の声が上がりました。オフィスやホテルなどが急ピッチで建設中の区域4に温冷水と蒸気を供給予定のほか、現在は豊洲市場(区域5・6・7)に電力と冷水を供給しています。供給した冷水は冷房用に使用されます。冷凍冷蔵用の電力は東京電力が供給するなど、エネルギーの棲み分けもされているそうです。豊洲の発展とともに「スマートエネルギーネットワーク」も拡張していくというお話でした。


豊洲埠頭地区におけるスマートエネルギーネットワーク

「スマートエネルギーネットワークシステム」の中心は「ガスエンジンCGS」(6,970kW)ですが、見学当日は30℃近い暑さになり、運転中の「ガスエンジン室」に入れず、ビデオでの紹介となりました。その特長は、熱や電気を供給するとともに廃熱も有効活用し、高い省エネ性を実現できることです。また、停電時などの非常時にも「ガスエンジンCGS」を自立起動させて電気・熱を継続供給できる、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)に対応して防災機能を高めています。機械の大きさは巨大で、機械の周囲に備え付けられた階段を上るほどの高さになります。廃熱を最大限有効活用する「廃熱投入型蒸気吸収冷凍機(蒸気ジェネリンク)」(7,040kW)は冷凍機室に設置されています。

ロビーに出て、「東京ガスの地震防災対策」のパネルで予防・緊急・復旧の3本柱の説明を伺った後、ジオラマ模型で豊洲埠頭地区全体を確認しました。周囲は全長4.8kmの「豊洲ぐるり公園」に囲まれており、ランニングも楽しまれているそうです。

1階に降りてさまざまな設備を見学して回りました。「ガス圧力差発電」(665kW) は、豊洲埠頭地区内にある、圧力が高めのガス導管・中圧Aから低めの中圧Bへ減圧する際の都市ガスの流れを利用し、タービンを回転させて発電するため、ガスを消費しない省エネ発電が実現できます。発電と同時に発生した冷熱は、熱供給に有効活用されます。このほか、蒸気ジェネリンクで足らない蒸気をつくり出す「蒸気ボイラ」(2.5トン/h×4台)や、冷水をつくり出す「ターボ冷凍機」(2,000RT×2台)も設置されていました。また、今後の機器増設に備え、機器搬入に使うマシンハッチのスペースも多く目に付きました。4階の展望デッキに出ると、目の前の晴海埠頭にはホテルやタワーマンションがそびえ立ち、東京オリンピック・パラリンピック選手村が今まさに建設されている様子も見えました。

「スマートエネルギーネットワークシステム」は全て自動運転ですが、「中央監視室」ではオペレーターなど担当者の方々が各種データのモニターを24時間監視しています。SENEMSが、さまざまな建物側の需要データとプラント側の供給データ、曜日特性や気象データなどの膨大な情報を瞬時に分析処理をして「中央監視システム」に最適運転指令を出し、その結果のデータもSENEMSにフィードバックされ、当日の補正や翌日の自動計算に生かし、精度を上げていくのです。とはいえ、「温度調整ひとつにしても、お客さまとのコミュニケーションを大事にしています」とのコメントに、機械だけに頼らず、人が主役のまちづくりなのだなとの思いも新たにしました。さらに今後は区域2にも新たなスマートエネルギーセンターを設置し、センター間を連携させてネットワークを拡大していく計画もあり、豊洲埠頭地区の「スマートエネルギーネットワーク」はさらに広域的に発展していくことでしょう。

世界初の50万ボルト円形地下式「新豊洲変電所」防震・防音・防火対策を施し、縮小化された装置を採用

午後は、東京電力パワーグリッドの「新豊洲変電所」を訪れました。まず会議室でビデオとスライドを見ながら、その役割や特長などについて説明を伺いました。発電所でつくられた電気は送電ロスが生じるため、あらかじめ50万Vや27万5千Vという高い電圧にして送り出し、各変電所で徐々に電圧を下げて工場や家庭などに届けられます。元々、都心部の電力は、東京圏を取り巻く50万V変電所を拠点として、27万5千V送電系統により供給されてきました。しかし都市の再開発が進む中、東京の電力需要をより安定的にまかなうため、大きな電力を効率よく50万V電源線(CVケーブル)で送れる50万V変電所を都心につくることになったのです。「新豊洲変電所」は、かつて石炭・重油を用いた新東京火力発電所跡地の一角に、スペースを確保できる地下に建設され、2000年に完成しました。

「新豊洲変電所」は、世界初の50万V円形地下式変電所です。50万V変電所は従来の27万5千V変電所工事と比べ大型となるため、従来の矩形建物で建設した場合には、掘削時に山留め壁の支え部材を大量に必要とします。そこで、支え部材ならびに関連工事が不要となる円形状の建物を採用し、約1年の工期短縮と約74億円の建設コスト削減を実現しました。建物は直径140m×深さ29m、東京国技館がすっぽり入る大きさです。それぞれの機器は複数ユニットシステムで構成され、ひとつのユニットが故障してもほかのユニットで送電して停電を回避します。変圧器などの大きな機器は地下へ搬入・設置するため、さまざまな新技術・新工法を取り入れたそうです。メンバーは4班に分かれ、各機器を見学しながら詳細を伺いました。

発電所から送られて来た50万Vの電気は、地下の「地中線洞道」に敷設された電源線で「電源ケーブル処理室」に引き込まれ、変電所内で電圧を下げた後、再び洞道を通して27万5千Vの超高圧変電所など各所へ送り出します。洞道に入ると、50万V電源線と27万V電源線が敷設されていました。50万V電源線は千葉県船橋市にある新京葉変電所との間を約40kmで結ぶ、世界初の長距離地中送電線のため、新たなケーブルの研究開発や接続部数の削減、敷設の新工法開発などで、約161億円のコストダウンを達成しました。洞道は直径が約8mあり、シールド工法でトンネルを掘り進めたそうです。電源線の断面が見られる模型や空撮写真を見て、その規模を実感できました。

「電源ケーブル処理室」に引き込まれた50万Vの電気は次に、送電ルートの切替スイッチの役割を持つ「50万V開閉設備」へと送られます。万一の電気事故時に流れる巨大な電流を遮断できるメインのスイッチ(遮断器)は、強力な油圧ピストンを用いて高速で開閉するしくみです。小型化されたとはいえ7トンもあるため、50万V開閉装置全体では150ユニットに分解して搬入後に現場で組み立て、建設工事の際に構内を運搬する台車も開発したそうです。「ガス遮断器の構造と特長」を表示したパネルの前で説明を伺うと、「50万V開閉設備」には先端の遮断・絶縁技術「一点切り遮断器」*が採用されたとのことです。「故障を検出し、別の回路を開くまでにかかる時間は?」とメンバーが問うと、「約0.1秒」とのことで、その速さに驚きました。

*従来の「50万V遮断器」が電気を遮断した際に発生する過電圧を考慮し、機器内の2カ所で遮断する方式をとっているのに対し、「一点切り」は1点で遮断可能とした先端技術で、コンパクト化、コストダウンを図ることができる。

「50万V開閉設備」に送られた電気は次に、電圧を27万5千Vに下げる「50万V変圧器」へと送られます。こちらも大きく重量があるため、搬入時は変圧器を構成する三相のコイルについて各1相分を4つのタンクに分割(60トン×4)する必要があり、これを現場で組み立て、運搬には新工法の搬送用機械を使用し、据付誤差3mm以下の精度で慎重に設置したそうです。ここで27万5千Vに下げられた電気は「27万V開閉設備」へと送られます。27万Vや6万Vの開閉設備も地下搬入のため、小型化された最新型が採用されたとのことです。そして最後に「地中線洞道」から送電されていきます。

変電所内を歩いて印象的だったのは、将来の電力需要の増大への備えがなされていたことです。今後、各所で再開発が進み、東京の電力需要が増えていっても、しっかり支えてくれるだろうと頼もしさを覚えました。今回は2カ所の施設を訪問しましたが、豊洲というホットなエリアを拠点に、都市の発展とともに拡張していくエネルギー供給の現場を見学する機会を得て、豊洲市場でもオリンピックでもない、豊洲埠頭地区の重要な一面を新たに知ることができた一日となりました。

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