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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

中部電力東清水変電所&浜岡原子力発電所見学レポート【メンバー視察編】
要請の変化に確実に応え、電力の安定供給をめざす

全国の原子力発電所では、再稼働に向け、新規制基準の枠組みにとどまることなく、自主的・継続的に安全対策を進めているところです。2016年6月29日、神津カンナ氏(ETT代表)をはじめとするETTメンバーは中部電力浜岡原子力発電所を訪問しました。また前日には、2014年に神津代表が視察した中部電力東清水変電所(Vol.16参照)を、今回はメンバーとともに再訪。4月から始まった電力自由化に伴い、進化はしても変わらない大切な役割を持つ変電所について知る、貴重な機会となりました。

 

電力自由化で、ますます重要になる東清水変電所の役割

東清水変電所には2つの役割があります。1つは、中部電力エリアの発電所から送られてくる電気を静岡市方面に届けるのに適切な状態にする「変電」の役割。もう1つは、周波数の違う東西地域で電力を融通し合うのに不可欠な「周波数変換」の役割です。 見学前に神津代表が「変電所は普段目にすることはないが、発電した電力を届けるための非常に重要な施設。だからこそメンバーの皆さんに見ていただきたかった」と挨拶。所長からレクチャーを受けた後、高圧(=高い電圧)の電気を各設備に合わせた低圧(=低い電圧)の電気に変える「変圧器」や、周波数を変換する「サイリスタバルブ」など、建物内外のさまざまな装置を見学しました。

2年前の代表視察以降、運転システムは大きく変化していました。当時の融通指令は、運転員がFAXを確認し手動で操作するアナログ対応でしたが、電力自由化や、再生可能エネルギーなどを電源に持つ多種多様な事業者の参入により、市場取引が活発に行われるようになったため、全国大の電力融通を運営している「電力広域的運営推進機関」に新たなシステムが開発・導入され、電気信号により瞬時に自動調整する方式になっていたのです。

2020年4月からは発送電分離によって、さらに新規参入事業者の増加が予想されます。電圧と周波数の安定した品質の良い電気を私たちが使い続けるために、変電所は地味ながらも重要な役割を果たし続けるだろうと、改めて確信しました。

安全対策を積み重ねている浜岡原子力発電所

翌日の浜岡原子力発電所では、最初に発電所の概要についてレクチャーを受けました。浜岡原子力発電所は静岡県および御前崎市など4市ならびに周辺の5市2町と安全協定を結び、東日本大震災以降は特に、地域とのコミュニケーションを深めているそうです。

約160万㎡(ナゴヤドーム約33個分)の敷地の中、現在、3〜5号機は安全性向上対策を実施中、1・2号機は廃止措置中です。浜岡原子力発電所は想定される東海地震の震源域内に位置することから、自主的に耐震性を強化してきましたが、さらに大きな南海トラフ巨大地震に備え、さまざまな安全性向上対策工事を追加実施しています。福島の事故を徹底的に研究し、「津波を敷地内に入れない」「仮に津波が防波壁を越えても建屋内には入れない」「冷やす機能(電源供給/注水/除熱)を確保し、重大事故に至らせない」を主眼に置いています。

レクチャーの後、エレベーターで海抜62mの浜岡原子力館の展望台へ。展望台からは敷地が一望できます。1〜5号機の各建屋、建設中の耐震構造の「緊急時対策所」、海方面には設置が完了した防波壁と、堤防のようにその両脇を固める海抜22〜24mの改良盛土。津波の浸入を防ぐために敷地をぐるりと取り囲んでいる様は要塞さながらです。山側に目を移すと電源車やポンプ車を置く駐車場を整備するなど、発電所全体で、一丸となって安全性向上対策工事に邁進していることが見て取れました。


防波壁や改良盛土の設置イメージ


海抜22m×総延長1.6kmの防波壁で囲み、津波浸入を防ぐ

展望室を降りた後、館内の3号機原子炉圧力容器の実物大模型へ向かいました。ここでは原子炉を停止する際、核分裂を止めるために、原子炉圧力容器の中に制御棒を入れるしくみを模型で見ることができます。その隣には防波壁(海抜22m)の実物大模型があり、地下部分も含めた全容が展示されているため、見上げると首が痛いほどの高さ。国から発表された、この地域で想定される最大津波(19m)を防ぐために防波壁(海抜18m×厚さ2m)を4mかさ上げするとともに、全体の強度を高めたそうです。防波壁自体は基礎となる「地中壁」を岩盤に根入れする構造で、その深さは最大約30m。JIS規格最大のD51(直径51mm)の鉄筋をカゴ状に組んだ“鉄筋カゴ”にコンクリートを流し込み、頑丈な基礎を構築しています。その上に鉄筋・鉄骨コンクリート構造の「床版」と、鋼材が主体の「たて壁」をL型に組み合わせた壁部を結合させています。 模型を見た後は実際に構内をバスで走り、実物の防波壁を見学しました。


防波壁の構造図


重大事故に備え、水と電源の代替手段を複数確保

仮に津波が防波壁を越えた場合でも、原子炉建屋内への浸水を防ぐために建屋の外側に「強化扉(厚さ1m・重さ40トン)」を設置し、津波やがれき、船舶が当たっても壊れないようにした上で、内側には水を浸入させない「水密扉(厚さ80cm・重さ20トン)」を設置し、2重の構造で対策を強化しているそうです。

それでも原子炉建屋に水が入った場合に備えて、原子炉を冷やす機能(電源供給と注水)を確保し重大事故に至らせないための安全対策を実施しているとのこと。再び構内バスに乗り山側へ向かいました。斜面を平らに造成した海抜40mの高台には、電源を確保するため免震建屋に「ガスタービン発電機」(3,200キロワット)を6機設置、燃料は地下タンク構造として備蓄しており、1週間フル出力で発電し続けられます。さらに、ガスタービン発電機が使えない場合に備えて「交流電源車」も配備しています。また海抜30mの高台には5日間分の淡水を確保している「地下水槽」があり、このほか敷地内の貯水タンクを合わせると2週間分の貯水をしています。また電源が無くなった場合に備えて、「可搬型の注水ポンプ」を使って原子炉につながる配管へ注水する対策も講じるなど、 幾重もの対策を実施していることがよくわかりました。

「緊急時対策所」には万が一の時に備えた専用の会議室も設置しており、本店と衛星回線を使って会議をすることができます。全社防災訓練をはじめとした発電所内での日頃からの訓練で、いざという時に適切に動けるよう現場対応力の向上にも注力していることもわかりました。加えて、国や自治体が行う訓練にも積極的に参加するなど、連携を強化しているそうです。

また、隣接した「環境分析室」では、周辺環境の放射線を調査する「環境モニタリング」の様子を見学。たとえば、海産物などの試料を場合によっては10kg以上用意することもあり、ヒラメなら可食部分を測定するため、骨を取り除いて乾燥させ、灰にしてから検出作業をしていると伺い、その大変さに驚きました。

後輩社員への技術伝承の場「失敗に学ぶ回廊」

最後に見学した「原子力研修センター」には、浜岡原子力発電所で過去に起こった事故を風化させないために設けたという「失敗に学ぶ回廊」がありました。事故で破断した配管などが、事故概要のパネルや当時の新聞記事などとともに展示され、事故対応に関わったOBからのメッセージコーナーのほか、膝を突き合わせてグループディスカッションができる「車座の間」も設置。「失敗を忘れてはいけない。後輩たちに伝えて、考えさせたい」と語る所員の方の言葉に、一同深くうなずきました。

安全対策費は、日本経済にとって必要な投資

2時間にわたる見学後、会議室で質疑応答が活発に行われました。安全対策のコストを懸念する質問もありましたが、「原子力発電所が停止した分、古い火力発電所を稼働させるなどして追加となった燃料費は2014年度で見ると全国で年間3.7兆円(1日100億円)にもなり、国富が産油国に流れてしまっている」との説明。原子力発電所の安全対策コストも安くはないものの、この国富の流出に比べてみると必要な投資と言えるのかもしれません。

メンバーから「模型やパネルなどで見学しやすく、丁寧な説明で感心した。今後も続けて地域住民と信頼を築いてほしい」との声が上がると、「ありがとうございます。1人でも多くの方に見ていただきたいと、1年に約3万人ものお客さまを発電所構内へご案内し、一生懸命説明に努めています」と応えてくれました。

今回の訪問を通して、「いかなる状況下でも水と電気を切らさないため、厳しい目で継続的な安全対策を行っている」という所長の言葉を実感しました。再稼働の是非を語る前に、原子力発電所がいかに安全性を高めたのか、まず自分の目で見て確かめることが大事なのではないかと思えた一日となりました。

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