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九州電力 中央給電指令所見学レポート
太陽光発電の急拡大が招く、安定供給の難しい舵取りと課題

電力はわずかしか貯めることができないため、刻一刻と変わる需要と供給のバランスを常に調整し、周波数を一定に保つ必要があります。九州では近年、出力が不安定な太陽光発電の導入が急拡大し、複雑なバランス調整に日々直面しています。2018年3月2日、神津カンナ氏(ETT代表)は九州電力の中央給電指令所(福岡市)を訪れ、その現状と課題をつぶさに見てきました。

中央給電指令所は、需要を予測し、供給を調整する“電力の頭脳”

九州電力の中央給電指令所は、電力の需要(消費量)と供給(発電量)のバランスをとることで周波数(西日本:60ヘルツ、東日本:50ヘルツ)を一定に保ち、九州全域約870万件の顧客に安定供給する“頭脳”の役目を24時間果たしています。主な業務は二つあり、一つは気象予報などを元に、刻一刻と変化する需要と供給を予測しながら経済的な発電計画を立て、各発電所へ調整指示を出す「需給運用業務」。もう一つは、発電所でつくられた電気を送電線、変電所、変圧器を経由して配電線へ送り届ける、電気の流れを監視・調整する「系統運用業務」です。

「需給運用業務」で重要なのが、周波数(1秒間に交流電気のプラスとマイナスが入れ替わる波の数)を一定に保つこと。60ヘルツでは1秒間に60回の波があります。需要と供給のバランスが崩れると、この周波数が変動して電気の質が悪くなり、工場の機械が正常に動作しないなどのダメージを受けるなど、産業に影響を与えます。最悪の場合は運転中の発電機が設備損壊を避けるため自動停止し、大規模な停電に至る恐れもあります。2003年、イタリア全土で起きた大停電がその例です。電力需要は季節、天候、時間帯によって絶えず変化します。九州では夏は冷房を使う午後2時台、冬は暖房を使う午前9時台と照明を点ける午後6時台が一番多い傾向です。春秋は天気の変化が大きいため電力需要や太陽光発電の出力予測が難しいです。それでも周波数60ヘルツ±0.2ヘルツ、わずか±0.3%の変動幅の中で運用しており、周波数は非常に高いクオリティです。

“需要<供給 をどう解消するか?緊迫する現場

日本で2012年に固定価格買取制度(FIT)が始まって以来、再生可能エネルギーの設備導入量は太陽光を中心に2016年度には約2.7倍に拡大し、年平均26%ずつ増えています。なかでも日射量が多く降雪の少ない九州では、太陽光が制度開始以来6年間で7倍に急拡大。この5カ月間でも月平均5万キロワット(1年で火力発電1基分出力に相当)のペースで増え続けています。2018年1月末時点で、すでに約50万件弱(住宅用から産業用まで)の太陽光発電事業者が参入し、774万キロワットが運転中。九州で最も多い夏の電力需要約1,600万キロワットの約半分相当の太陽光発電設備が運転しており、いかに太陽光が多くなっているかわかります。

*再生可能エネルギーで発電された電気を、国が定める固定価格で一定の期間、電力会社が買い取る制度。


 再生可能エネルギー電源の設備容量の推移(大規模水力は除く)

中央給電指令所では、エリアの発電コストを安くする、また出力が安定している地熱・水力・原子力をベースロード電源として24時間稼働させています。太陽光は地球環境にやさしいエネルギーである一方、夜間は全く発電できず、雨や曇りの日は出力の低下や乱高下するなど、不安定なため、その変化に対応して火力、揚水発電・揚水運転など他の電源の出力調整を細かく行う必要もあります。

昨年は、年間を通して特に需要が少ないゴールデンウイークの昼間に、電気の供給量が需要量を大きく上回る事態が発生(需要に対する太陽光発電出力は73%まで到達)。電気は余った場合には周波数が上昇することによる停電リスクがあるので、電力需要に応じた発電量とするため、太陽光の出力が最大となった13時台には火力発電の出力を下げるとともに、九州内の揚水発電をフル稼働して(水を汲み上げて)余剰な電力を吸収したものの、あとわずかでも太陽光の出力が増えたり、揚水発電所のトラブルが起きたりしたら、九州だけでは電気を吸収しきれない状況となり、緊迫した綱渡りの調整を行ったそうです。


 需給運用

揚水発電は発電所の上部と下部に池をつくり、電力需要の低い夜間に低コストの余剰電力を活用して水を汲み上げ、昼間の需要の多い時に水を流して発電するのが本来の役割でした。が、今は逆で、昼間に太陽光の余剰電力を吸収するために使われています。ちなみに、10年前は昼間の揚水稼働はゼロでしたが、昨年度はのべ969回行われ、今年はさらに頻度が増加。また火力発電も、稼働と停止を繰り返すと機器に負担がかかることを覚悟の上で出力調整や昼間の発電停止・起動を行い、より多くの太陽光を受け入れている状況です。


“最新技術とマンパワーでしのぐ、複雑で迅速な需給調整

太陽光の急拡大により、複雑な調整に日々挑むこととなった九州電力では、通常の給電運用システムに加え、太陽光発電の高精度な予測を行うため「再生可能エネルギー運用システム」を他社に先がけて導入。“需給運用のプロ”が3名ずつ、さまざまなリアルタイムデータを24時間監視し、迅速な判断で安定供給を支えています。ガラス越しに見学すると、目前の大きなパネルには電気の流れを表示した「系統監視盤」、消費量と出力量を表示した「需給盤」、気象など各種情報などをマルチ表示した「情報表示盤」が横一面に並び、運用者の机にはタッチパネル式の「発電機制御装置」と「監視モニター」が置かれていました。

見学当日は早春の晴天。需要が少なく、昼間の太陽光による余剰電力を揚水発電の汲み上げなどで吸収している状況で、午後3時半、太陽光の実績値は「250万キロワット(火力発電5基分)」、3時間後(午後6時半)の予想値は「0キロワット」と表示。いわば「50万キロワットの火力発電5基分が3時間後になくなる」事態に備え、太陽光の余剰電力を吸収していた揚水を止めるとともに、止めていた火力発電を再起動させる準備を今から始めなくては、とのこと。揚水を停止指示する、まさにその瞬間を見る機会となりました。運用者が机の上の「発電機制御装置」のタッチパネルを操作してまもなく、「需給盤」に目を移すと、操作した発電機名の出力値が0にサッと変わりました。こうした給電運用の指示を迅速かつ的確に行うプロを育てる、訓練センターも見学させていただきました。

九州電力の太陽光の「30日等出力制御枠」は817万キロワット。すでに774万キロワットが運転中で、さらに参入が増えているので、接続可能量を超えるのは時間の問題です。その場合、国が定めた「優先給電ルール」に基づき、他の電源の出力調整や、他の地域に電気を引き取ってもらうなど、順番に対応を行います。それでも供給量が需要量を上回る場合は、最後の手段として太陽光・風力の出力制御に踏み切ることになっています。出力制御は公平中立に、必要最小限に算定することとしており、昨年には、太陽光事業者とともに出力制御の連絡訓練も実施しました。

*FIT制度において、30日(360時間(太陽光)、720時間(風力))の出力制御の上限を超えて出力制御を行わなければ追加的に受入不可能となる時の接続量。

一方で最近は、「送電線には空き容量があるから、もっと再生可能エネルギーを導入できるのでは?」といった意見もありますが、より多く導入するためには、設備増強や新設など多額の費用と時間を要します。しかし、欧州の事例を参考に、日本においても既存の電力系統を最大限活用して、一定の条件を付けた上でより多くの再生可能エネルギーを導入できるよう、技術面や運用面などを含めた検討が進められており、電力業界全体としても、積極的に協力するそうです。

国がまとめた「長期エネルギー需給見通し」では、再生可能エネルギーは2030年度の電力全体の22〜24%をまかなう目標です。九州電力は政府目標値に早くも近づいているトップバッターとして、系統運用部長さん曰く「再生可能エネルギー運用システムは、まだ導入したばかりですが、知見やデータを集積し、精度を高めているところ」と、新たな方策を模索しながら安定供給に取り組んでいました。再生可能エネルギーが拡大しても安定供給を続けるためには、さまざまな対応を迫られることは事実であり、九州以外の地域でも同じことが起こり得ます。九州電力の先駆的な取り組みに、多くの学びと気づきを得られた一日となりました。

視察を終えて

以前、電力会社の人に教えられたことを思い起こした。電気の流れをコントロールする中央給電指令所の大きな仕事は、電気の「使用量」を予測することにある。そしてその予測を左右するのはオリンピックや甲子園の高校野球など社会の動きもあるが、一番大きい要因は天気予報だということだった。季節を問わず、天候や気温などを基に電気の使用量を予測し、それに対して火力、原子力、水力などを組み合わせて発電量を調整し確保するというのが基本的な役割なのだ。ところが今回、中央給電指令所の仕事はもはやそれだけではなくなっていることを目の当たりにした。太陽光や風力などが大幅に増加したことにより、天候に左右されるこれら再生可能エネルギーの発電可能量を出来るだけ精度高く予測する必要に迫られている。電気の使用量を予測しながら、単に発電量を確保するという形だけではなく、天気予報に基づいて再エネの「発電量」を予測しながら需給のバランスをとるという、これまでとは違う複雑な難しい仕事になっているのだ。再エネの拡大と共に、中央給電指令所のシステムもその担い手の役割も著しく変わった。そしてこれからもますます変わって行くのだろう。そんな予感を抱いた視察だった。

神津 カンナ

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