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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

JX日鉱日石エネルギー水島精油所&中国電力水島発電所 見学レポート
時代とともに進化するコンビナートにおけるエネルギー産業の現状

国土が狭く、資源が少ないというハンディキャップを抱えながら、創意と工夫によって経済成長を遂げた日本 ── 各地に作られたコンビナートは、鉱工業の大規模集約地として発展を支えてきましたが、今、急成長を遂げる途上国をはじめとした海外との競争が激化する中で、どのように変化しているのでしょうか? 2013年11月21日、ETTメンバーは、瀬戸内海にある水島コンビナートを訪れ、エネルギー産業の中核である、JX日鉱日石エネルギー水島製油所と中国電力水島発電所を見学しました。

「PCB廃棄物を完全に無害化する化学的な処理方法

JX日鉱日石エネルギー水島製油所は、瀬戸内海に面した水島コンビナートにあります。もともと、水島港をはさんで、新日石グループと新日鉱グループという2つの会社の製油所として、1961年に操業を開始しましたが、2010年、経営統合によりJXホールディングスが誕生し、傘下のJX日鉱日石エネルギーの水島製油所として、新日石の製油所がA工場、新日鉱の製油所がB工場になり、一体運営化し再スタートを切っています。

見学に先立って、概略のDVDを見た後、担当の方から詳しい説明を伺いました。水島製油所の敷地面積は、A工場、B工場を合わせて318万㎡あり、一日の原油処理能力は約34万5千バレルで、日本で最大の処理能力を誇るそうです。ここではガソリン、灯油、軽油、ジェット燃料といった燃料油はもとより、原油を材料にさまざまな工程で精製が可能な2次装置群が充実しているため、多彩な石油製品を製造できることが特徴です。たとえば、日本でトップクラスの生産量を誇る潤滑油は320種、700銘柄にもおよび、中国地方、阪神地方へ出荷されています。また、プロピレン(建材、容器、包装などに用いられるポリプロピレンの原料)、パラキシレン(ポリエステル繊維、樹脂の原料)、BTX(芳香族=ナイロンや各種溶剤など石油化学品の原料)なども生産できる、近代的な総合製油所になっています。

コンビナート内の企業が手をつなぎ「輪」になって高度な運営機能の融合を目指すRINGプロジェクトは、経済産業省の支援により、2000年にスタートしましたが、水島製油所も近隣の工場との密接な連携で、効率的な運営と地球環境に配慮した積極的な取り組みをしています。その一つが、水島港の海底下30mに直径4.5mの「パイプライン防護設備」(トンネル状の設備)を作り、22本のパイプラインを通し、近隣の石油化学会社などと必要な原料等を効率的にやりとりしています。また、「液化炭酸ガス製造装置」では、温暖化の原因となる炭酸ガスを液化して回収し、環境負担の軽減に取り組むと同時に、一部は食品メーカーに出荷していると聞き、メンバーからは驚きの声が上がりました。そして3つ目は「コンデンセート精製装置」。コンデンセートとは、随伴される天然のガソリンですが、石油・石化原料の多様化と得られた留分を両分野でより高効率に活用できるスキーム(体系)を構築しています。

連携による効率化が導く、国際競争力の強化

水島コンビナートは、戦前は漁業と干拓農業を営む農漁村地帯でしたが、1943年、三菱重工業水島航空機製作所の操業を皮切りに、1953年には、大型船入港を可能にするため水島港の浚渫に着手し、土砂で海面を埋め立て工場用地を造成しました。大規模な港湾である水島港と、倉敷平野を流れ水島灘に注ぐ高梁川(たかはしがわ)からも工業用水が確保できる利点があったため、工場誘致が盛んになり、産業構造は大きく変化しました。2012年には水島コンビナートの製造品出荷額は約3兆8,400億円に上り、岡山県全体の50%以上を占め、石油精製、石油化学、鉄鋼製造、自動車生産など多角的な産業の事業所数は約250、従業員数約24,000人と、鹿島、京葉、京浜、四日市に並ぶ国内有数のコンビナートとなっています。

水島コンビナートの中心に位置し、南北1.5キロ東西1キロあるA工場の敷地内をバスで回ると、「常圧蒸留装置」をはじめとした数々の巨大装置が見えました。中には、HS-FCC(高過酷度流動接触分解装置)という世界初のテストプラントもあります。これまでは原料油と触媒を下部から注入していたために重力に逆らって触媒の接触時間が不均一だったものを、タワーの上部からダウンフローすることで高収率の生産ができるという逆転の発想による装置で、実用化されると処理能力が約10倍もの大きさになるそうです。90%近くは中東産油国からという大型タンカーが桟橋で着桟した後、受け入れた原油をいったん貯蔵するための原油タンクはA工場で最も大きいものは、直径約80m高さ約25mあります。また、製油所内への設置は国内初というLNGタンクは、直径83m高さ52mあり、マイナス162℃で液化された天然ガスが貯蔵され、気化されてから発電所やガス会社などへ送られています。メンバーは、パイプラインの通っているこのパイプライン防護設備を、実際に歩く貴重な体験をしました。また、残念ながら今回は訪れることができなかったB工場の敷地内には、地下165m~189mのところに、高さ24m幅18m長さ488~640m の4本の洞窟が掘られ、LPG 40万トンの貯蔵能力を誇る「国家石油ガス備蓄基地」が、2013年に完成しています。

新たな技術開発や導入に積極的に取り組み、地域全体で国際競争力の強化を目指す一方で、広大な敷地内では24時間体制で遠隔操作カメラ等により監視を行ったり、プラントや配管のメンテナンスを行いながら、万一の災害においても周辺地域の安全を確保するための防災対策が進められていました。

エネルギー政策と環境保護に役立つ、時代に適した燃料転換

JX水島製油所に続いて訪れたのが、B工場に近接する中国電力水島発電所です。敷地面積は26万7千㎡と東京ドーム6個分あり、1号機から3号機までの合計出力は78万1千kWで、一般家庭26万戸分に相当します。1号機の運転開始は、水島製油所の操業と同じ1961年です。発電所の方のお話では、水島は「最も古く、最も新しい発電所」だということで、運転開始以来、1970年代のオイルショックといった時代のエネルギー情勢や、近年高まりつつある地球環境問題を配慮し、その時代に適した燃料への臨機応変な転換を繰り返していることが特徴です。中国電力管内では、もともと、火力発電の占める割合が約70%と大きく、また、石炭と天然ガスが燃料の水島発電所に近い玉島発電所は石油火力になっているので、一つの電力会社内で、電源をバランスよくキープできています。

1号機は、運転開始時の使用燃料は石炭、その後、石油、石炭と変遷し、現在は天然ガス。2号機は、1963年運転開始時は、石油、その後、石炭へと変遷。3号機は1973年に石油を燃料として運転開始し、現在は天然ガスに転換しています。1号機はまた、燃焼ガスでタービンを回転させ、この時に発生する排ガスの熱で蒸気を作り蒸気タービンを回転させるという、効率的な「コンバインドサイクル発電」方式になっていますが、既設装置の蒸気タービンと最新装置のガスタービンを組み合わせることで、熱効率を向上させることができました。CO2排出量が低い天然ガスによってつくられた電力は、一般のお客さまに配電するとともに、コンビナート内の企業へ直接送電しています。また2号機は石炭を燃料にしていますが、3号機の停止時には、LNGタンクから発生する気化ガスを燃焼させることもできるそうです。さらに、発生した高温蒸気を全長約2kmの蒸気供給導管を使って近隣の工場へ供給しています。

構内では、1号機の天然ガスコンバインドサイクル発電設備を見学するとともに、中央制御室も訪れました。コンピュータによる24時間の監視体制で、設備に異常が発生するとすぐに警報システムが作動する仕組みになっています。また、ボイラー内の様子を映し出すモニターでは、通常、石炭燃料の2号は赤く、天然ガス燃料の3号は青白く見えるため、正常な燃焼かどうか目視による監視も必要だということでした。

コンビナートが見渡せる高い場所に移動すると、昼間は、はるか向こうに瀬戸大橋も見える海に、沈んでいく夕陽が印象的でした。水島発電所や水島製油所も含めたコンビナート全体で、瀬戸内海の美しい環境を守るために最大限の努力を続けており、排水処理施設により環境基準をクリアにした水を海に戻したり、排煙の中のばいじん、窒素酸化物や硫黄酸化物を除去する電気集塵器、排煙脱硝装置や排煙脱硫装置を設置し、大気汚染防止を図っています。24時間眠らないコンビナートは、美しい夜景も有名だそうですが、その美しさは、人が作り上げ、人が動かしているわけです。また、高度経済成長期の日本では公害による健康被害が多くありましたが、排ガス・排水規制を厳しく設定したおかげで、経済成長と環境保全の両立を実現しており、現在、環境に対する取り組みが遅れている中国や東南アジアに対して、貴重なエネルギー資源を有効に活用しながら、かつ地球環境の保全のためにも、日本の優れたエネルギー効率技術が今後いっそう必要とされるのではないかと、あらためて考えさせられる視察会になりました。

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