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関東天然瓦斯開発・大多喜ガス見学レポート
地産地消と輸出向けと ──国産資源を同時に採取

資源が乏しい日本といわれていますが、首都圏の千葉県で天然ガスが採取され、しかも採取の際に、貴重な国産資源のヨードも採取されていることはあまり知られていないのではないでしょうか。
6月24日、神津カンナ代表は、国産の天然ガスはどのように採取され供給されているのか、千葉県ではなぜ天然ガス事業が盛んになったのか、ヨードはどのような用途で使われているのか、などの疑問を解明するため、千葉県茂原市にある日本初の天然ガス事業会社、関東天然瓦斯開発の茂原プラントとその販売会社である大多喜ガスを訪れました。

環境に優しく発熱量も高い効率的な千葉県産天然ガス

国土が狭く資源が少ない日本は、エネルギー自給率がわずか4%(原子力を除く)と低く、輸入に頼らざるをえません。しかし実は首都圏の地下には天然ガス層が広がっています。千葉県、茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県にまたがるこの南関東ガス田は、わが国で最大の水溶性天然ガス埋蔵地域で、中でも千葉県では、このガス田から天然ガスの採取が行われ、地元に供給されています。

1931年に日本初の天然ガス事業に着手した関東天然瓦斯開発は、茂原のほか県内数カ所にガスプラントを有し開発・生産を手掛け、創業の地、大多喜の名前を残した傘下の大多喜ガスでガスの販売が行われています。見学に先立ち、詳しい説明を伺いました。

天然ガスは石油や石炭と同じく、動植物等有機物が堆積し長い時間をかけ分解されて作られますが、千葉県の天然ガスは水溶性天然ガスと呼ばれ、約300〜40万年前に海に堆積した有機物が微生物により分解され、その当時の海水に溶解して存在しています。千葉県内で天然ガスが産出される地層は上総層群(かずさそうぐん)と呼ばれ、砂泥互層を形成しています。そして、東西方向で見れば、東京湾側より太平洋側の方がより浅くなるように傾斜した地層構造になっていて、太平洋側では500〜1,000mも井戸を掘れば生産できる地区もあるそうです。日本には、ほかにも新潟県、宮崎県、沖縄県などに水溶性天然ガス層があります。

南関東ガス田の可採埋蔵量は約3,700億㎥。千葉県では年間生産量が東京ドーム360杯分以上もあり、日本全国の生産シェアの20%を占めています。関東天然瓦斯開発でも可採埋蔵量が約1,000億㎥あり、同社の年間生産量から換算すると約600年分と聞き驚きました。

千葉県の天然ガスの特徴としては、メタンが約99%を占め、人体に有害な一酸化炭素や硫黄分をほとんど含まず、地球温暖化の原因となるCO2や大気汚染の元になる窒素酸化物などの燃焼時発生量が石油や石炭に比べて少ないので、人にも環境にも優しいということでした。比重も空気より軽いため、漏れても空中に放散し危険性が少なく、加えて発熱量も高いので、都市ガスにそのまま利用できる効率的なエネルギーだそうです。

天然ガスの採掘・生産方法は、地中500〜1,000mくらいのガス層に達するまで掘削して、その中にケーシングと呼ばれる管を挿入し、この管の中に地上のコンプレッサーから圧縮したガスを送り込み、天然ガスの溶け込んだ地層水であるかん水をくみ上げます。こうした採取方法を「ガスリフト方式」といい、そのほかに井戸内に水中ポンプを下ろしてくみ上げる「水中モーターポンプ式」もあります。


天然ガスの採取から供給まで


くみ上げられたガスとかん水はセパレーター(分離槽)に送られ、ガスは気体なので上部に上がり、パイプラインを通じて地域の送ガス基地に送られます。さらに供給先によっては熱量の変更が必要なので、その場合は熱量調整センターで熱量を調整してから供給されているのです。

人工的に作ることができない資源=ヨードは世界第2位の生産量

一方、ガスを採取した後のかん水の中にも大切な資源、ヨードが含まれています。ヨードは人体に必須な元素で人工的に作ることはできず、海に囲まれた日本では海藻や魚介類から摂取できますが、内陸などで海産物の摂取の少ない国々では、ヨード不足による子どもの発育不全や甲状腺腫などのヨード欠乏症が起こるため、食塩にヨードを添加して摂取することも行われています。ヨードは、身近なものではヨードチンキやうがい薬などの殺菌消毒剤、医薬用としてレントゲンの造影剤、工業用としてパソコンの液晶画面の偏光フィルムなど幅広く活用されています。

日本のヨード生産量は、南米チリに次いで世界第2位、約35%のシェアを誇り、国内の約80%が千葉県で生産されているそうです。しかし、チリ産は硝石から採取され生産コストが安いため、チリが増産すると値崩れが起きてしまうので、日本では付加価値をつけた二次製品作りのための研究を重ねています。

ヨードは、かん水から砂や不純物を取り除き、酸化剤を加えて生産に適した分子状ヨードの形に変化させてから、分離・濃縮・精製します。かん水からのヨード分離には2つの方法があり、気化しやすいヨードの特性を利用して、かん水を放散させ気化したヨードを吸収液で吸収しヨードを濃縮する「追い出し法」は、大規模な工場で効率的に行えます。もう一つの「イオン交換樹脂法」は、かん水をくみ上げる井戸のそばにイオン交換樹脂の吸着塔を置き、かん水の中のヨードを吸着させてから工場に運びヨードを溶離するため、小規模設備で生産できます。今回は見学しませんでしたが、現地ではどちらの方法でも生産されているそうです。

説明後のビデオによってさらに理解が深まり、とりわけ天然ガスPRのために作られた1943年の8mm映像ベースのビデオは当時の貴重な記録であり、この地方独特の井戸掘削方法である「上総掘り(かずさぼり)」の作業風景も見られました。

自然環境と共存する理想的な資源開発

実際に天然ガス採取現場の一つに向かうと、想像していたよりコンパクトなガス井戸があり、需要が多い冬場は太い管から、少ない夏場は細い管からガスを含んだかん水をくみ上げています。触れるととても冷たい管の周囲には、何匹もの緑のカエルを見かけました。泥と砂の重なる層から水をくみ上げている井戸は数十年単位で使用するものもあるそうです。

ガスとかん水を分離させるセパレーターから出てくるかん水の味を確かめてみると塩辛く、もともと海水だったことがよくわかります。ヨードが豊富に含まれたかん水は、千葉県の有名な温泉、白子や養老などの源泉であり、肌に優しいと評判がいいそうですが、先に見ていた固体ヨードは光る黒色をしており、ヨードが液体、固体、さらには気体にもなる元素だと知りました。この特性を生かしたヨードの研究開発は今、日本の高い技術力により世界市場における価値を高める計画に産官学をあげて取り組んでいるそうです。

天然ガス採取や生産、供給に当たっての課題や苦労について、神津代表が幾つかの質問をした中に、地下水くみ上げに伴う地盤沈下はないかという問いかけがありましたが、千葉県との協定により年間の地上への排水量が設定されていることから、地上への排水量を減らすためにくみ上げたかん水を地下へ還元する還元井も利用しており、関東天然瓦斯開発では生産のための井戸と還元水を送るための井戸を合わせて400本超も保有しているそうです。還元水を地層に戻すときは、生産のための井戸と同じ深さの地層に戻すと地中のガス濃度が低くなる傾向があるので、試行錯誤しながら還元し、将来的にも採掘が続けられるようにしています。また、還元井は目詰まりしやすいので、還元井の維持・管理のために井戸用の高圧洗浄機を開発してもいるそうです。

私たちが何げなく使っているガス器具をよく見ると、ガスの発熱量や燃焼速度の各地域における適合規格(例:13Aや12A)が明記されています。都市ガス供給業者は一定の熱量で供給することを義務づけられており、そのため、採取した天然ガスの熱量を供給する地域に合わせてアップする場合もあるそうです。

最後に訪れたのは、天然ガスが自然発生している場所。ごく浅い水たまりでぶくぶくと泡が立っており、火を近づけると炎を上げて燃えます。ガス層から出て来たガスの一部が地上へ自噴しているそうで、この辺りの地域では昔からこうしたガスを利用している民家もあるとのことでした。

地元で採れたクリーンで環境に優しい天然ガスをベースとして、地域の一般家庭にガス供給を行っている大多喜ガスでは、エネルギーの地産地消ならぬ、「千産千消」をモットーにしています。 豊富な推定埋蔵量とはいえ、大規模な開発によって資源を枯渇させてしまったり、あるいは環境破壊を起こしてしまうと、もう元には戻せません。視察現場で目にした豊かな緑、耳にした鳥たちのさえずり ── 自然がはぐくんだ資源=天然ガスを人間のために生産しながら、豊かな自然環境と共存していることを強く感じた視察になりました 。

視察を終えて

エネルギー無資源国といわれる日本においても、天然ガスが産出されいる。しかも首都圏に近い千葉県において。そのうえ、副産物のヨードと共に、ガス供給事業が長い歴史を刻みながら営まれているという事実は、日本でもあまり知られていないことだと思う。

もちろん国産天然ガスの総量は、日本全体の需要量からすればわずかではある。そういう意味では確かに関東天然瓦斯開発や大多喜ガスの事業は「千産千消」、まさに地域に根ざした地場産業というべきものなのであろう。

しかし、やはり千葉産の天然ガスは貴重な国産エネルギーであり、ヨードは貴重な国産資源。その産出と安定供給に、長年、真摯に取り組んでいる事業者の姿とお話に接することができたのは大変、有意義だった。

神津 カンナ

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