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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

JX日鉱日石エネルギー 根岸製油所見学レポート
日本の国土に適したエネルギーとは何か ── 石油の真価と有効活用を考える

3.11の東日本大震災以降、原子力発電所の停止を機に、私たちは国のエネルギー政策はどうあるべきなのかをあらためて考え、世界中から輸入されるエネルギー資源によって、どれほど私たちの社会や暮らしが支えられてきたのかを意識する現実を突きつけられました。また同様に個別のエネルギーについても注目するようになりました。
中でも最も身近なエネルギーである石油について、石油製品はどのように作られ私たちの元へ届けられているかなどを学ぶため、7月5日、ETTのメンバーは、JX日鉱日石エネルギー 根岸製油所を視察しました。

動力、熱源、原料として多様な用途を持った石油の力

根岸製油所は、横浜の根岸から本牧地区にかけての海沿いに位置し、敷地面積は220万㎡、東京ディズニーランドの約5倍もあります。一日の原油処理能力は国内最大級の27万バーレルで、300種類もの石油製品がここで作られ首都圏をはじめ日本各地へ運ばれています。

はじめに石油連盟広報グループ長の橋爪氏による講演「石油安定供給の取り組み」がありました。 海外から輸入された原油はそのままでは使用できないため、原油を精製して石油製品にするのが製油所の役割です。石油の用途は大きく分けて3つ。うち42%が動力、つまり自動車や飛行機、船舶の燃料です。そして37%がオフィス、家庭の給湯暖房や工場燃料、また火力発電、都市ガスなどの熱源になり、残りの21%がプラスチック、タイヤ、合成繊維といった化学製品の原料になっています。石油は食生活にも不可欠な存在であり、農林水産分野での使い方を見てみると、農機具や漁船用をはじめとし、果物や野菜のハウス栽培用の暖房燃料、生産地から消費地までの運搬用燃料、店頭に並べられるビニール袋やプラスチックトレイなどの石油化学製品原料として使用されています。


日本での石油の使われ方


原油の輸入先は中東が83%を占めていますが、片道約12,000km、20日もの航海日数がかかる中東への過度の依存は、たとえば経済制裁を受けたイランによるホルムズ海峡封鎖というリスクも懸念されています。近年日本に近い沿海州からの輸出で船賃が安いロシア産原油の輸入が増加しています。原油を運ぶ大型タンカーの全長は、東京タワーを横にした場合と同じ約330mで、幅は約60m、甲板の面積はサッカーコート3面分もの広さがあります。

日本到着後に陸揚げされた原油は、東京ドームのグラウンドとほぼ同じ大きさの直径80〜90m、高さ20〜25mの巨大な原油タンクに貯蔵され、製油所のさまざまな装置で精製されます。まず「原油蒸留装置」では、加熱炉で約360℃に加熱した原油を、含まれている成分の沸点の違いを利用して、LPガス、ガソリン/ナフサ、灯油、軽油、重油/アスファルト/潤滑油/硫黄といった、石油製品の元になる留分に分けます。

種々の装置で精製された石油製品は、鉄道輸送のタンク車や内航タンカーで中継基地まで送られ、そこからタンクローリーで工場やビル、ガソリンスタンドへ運ばれ、さらに家庭へというように、大きなネットワークの中で日本の隅々まで自在に動かせるのが特徴です。

需要減がもたらす供給リスクを回避するために

石油の需要は1999年度をピークに、2010年度には約20%減になり、今後も減少の見通しで、その原因には、省エネや「脱化石燃料」という燃料転換政策、少子高齢化、また若者の車離れなどがあります。需要減などにより給油所が減少し続け、とりわけ自動車に依存せざるを得ない山間僻地へのガソリン供給や、東北、北陸、北海道といった寒冷地域のライフラインである灯油の供給の拠点減少は社会問題になっています。さらに今年1月末には、消防法に基づく給油所の地下タンク改修・入れ替え規制が強化され、高額な負担から廃業を加速させているとのことです。

東日本大震災時には、太平洋側の石油施設も甚大な被害を受けましたが、石油は運搬も貯蔵もしやすいという利点を生かし、日本各地から被災地へ届けられ災害時対応に寄与しました。石油業界としては、今後のエネルギー政策における石油の重要性・有用性をアピールするとともに、現在、サプライチェーンの維持と強化に取り組んでいます。

取り組みの一つが、緊急時対応力の強化です。石油を出荷する製油所・中継基地、給油所などの災害時における対応力を強化し、災害時には石油会社が共同で設備を利用し、緊急配備ができるように情報を統合・共有するといった体制の整備を進めています。さらに政府との連携はもとより、13の地方自治体と情報共有に関する覚書を締結しています。二つ目は、安定供給の前提としての平時の安定需要の確保。たとえば震災時に活躍した灯油ストーブなど石油系暖房設備を平常時から公共施設などで使用することや、石油火力発電所も一定量の使用を継続していれば、災害時に必要な設備の維持につながります。

オイルショック以前の1973年度に電源別発電電力量の73%を占めていた石油は、2010年度には1/10の7.5%になり、2011年度は、原発停止のための特需で14.4%に上昇しています。今後のエネルギー政策を考えていく上では、それぞれのエネルギーの長所短所を考えるべきですが、石油は現在国内に約185日分備蓄されているように、貯蔵に適し緊急時に即座に対応できる利点があります。また、温暖化の原因といわれるCO2排出量を比較すると、実はガソリン自動車と電気自動車は走行距離当たりの排出量が同量で、天然ガス自動車は両者に比べ50%と高く、必ずしもガソリン自動車のみ環境に悪影響を及ぼすわけではありません。しかし、課税はガソリンに対してのみという不公平性があるとのことです。

講演後、石油連盟制作のDVD「製油所をゆく〜石油製品ができるまで〜」を見て、蒸留、脱硫、分解、改質、減圧蒸留といった石油精製の主なプロセスが、まるで製油所の構内を巡って見学しているようによくわかりました。「脱硫」というのは、酸性雨やぜんそくの原因になる硫黄酸化物を取り除く工程のことで、回収した硫黄は主に肥料や化学原料などとして利用されています。「分解」とは、需要が少ない重油を、触媒によってLPGやガソリン、軽油に分解する工程です。オクタン価を高める工程が「改質」と呼ばれるもので、高性能ガソリンの製造には欠かせません。「減圧蒸留」は、常圧蒸留の残油を減圧状態で再蒸留するものです。各地の製油所は、効率よく安価な石油製品を製造しながら、コンピュータ制御により省エネ化を図っています。また、精製段階におけるCO2排出原単位は1990年比15%削減に成功しており、環境にも配慮していることがよくわかりました。


石油製品ができるまで


環境と安全に配慮した製油所で効率よく生産される高品質な石油製品

構内施設では多くの人が働いており、製油所のようなエネルギー関連施設に対して厳しい安全管理が課せられています。見学バスの車窓から見えた原油タンクや蒸留装置など施設の外観の巨大さには驚嘆の声が上がりました。広大な敷地、巨大な設備といったスケールメリットを生かし、安価で供給できるように大量生産を行っている根岸製油所は、住宅地との境界部分には緑地帯があり、敷地全体の10%以上も緑が広がっています。

また、施設内には石油精製装置のみならず発電装置もあります。残渣油(アスファルト)を酸素と水蒸気を使ってガスに分解し、硫黄化合物などを取り除いた後のクリーンなガスをガスタービンの燃料とし、さらにガスタービンからの廃熱を利用し蒸気を発生させ、蒸気タービンによっても発電するという、残渣油燃料による日本初のガス化複合発電設備になっています。

安価で良質なエネルギーの石油が安定供給されてきたからこそ、日本の「くらし」と「ものづくり」が支えられ経済大国にまで発展したわけですが、オイルショック以降「脱石油」路線に変換し、また環境への負荷から「脱化石燃料」として需要が減少してきました。一方で、懸念されている埋蔵量と可採年数も、新たな油田の発見や採掘技術の進歩により増加しており、シェール革命のようなエネルギー市場を激変させる可能性もあります。だからこそ今、日本国内における需要減少に歯止めをかけないと、いざという時の頼みの綱にならないのではないか ── エネルギーのベストミックスにおける石油の重要性と有用性を深く考えさせられる視察となりました。

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