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九州電力川内原子力発電所見学レポート
新たな規制基準をふまえた安全対策の実施状況

2011年3月に起きた福島第一原子力発電所の事故を契機に、原子力発電所の安全対策が大きく見直されています。現在、各地の原子力発電所では、再稼働に向けて新しい規制基準をふまえたさまざまな安全対策を進めています。2014年6月4日、神津カンナ氏(ETT代表)が鹿児島県の九州電力川内(せんだい)原子力発電所を訪れ、安全対策の実施状況について視察しました。

 

川内原子力発電所の概要と現状

川内原子力発電所は、熊本県最南部から宮崎県南西部を経て、鹿児島県に流れる川内川が東シナ海に注ぐ河口の北側に位置します。敷地面積は約145万㎡、九州新幹線の停車駅である川内駅から車で30分ほどのところにあり、「新幹線が停車する市町村に立地する日本で唯一の原子力発電所」です。

発電設備は2基あり、1号機は1984年に営業運転を開始、2号機は翌85年の営業運転開始で、電気出力はそれぞれ89万kWです。2010年の発電電力量は、1号機が約71億kWh、2号機は約61億kWh、また設備利用率は1号機が約91%、2号機は約78%でしたが、現在は稼働停止しているため、発電所で使用する電力は、伊佐市にある南九州変電所から送られています。

原子炉の形式は、加圧水型軽水炉(PWR)で、展示館内では、高さ12mの実物大原子炉の模型を見ながら説明を受けました。加圧水型は、ウラン燃料の核分裂により発生した大量の熱で高温の熱水を作り、これを蒸気発生器に送り、そこで別の系統を流れている水を蒸気に変えてタービンに送り発電します。日本で使用している商業用原子炉のもう一つの形式である沸騰水型軽水炉(BWR)は、原子炉で発生した蒸気で直接、タービンを回して発電するという仕組みです。加圧水型の方は、蒸気発生器を介した蒸気が別系統でタービンに送られるため、タービンで使用する蒸気は放射性物資が含まれていないという違いがあります。また、制御棒については、沸騰水型は下から挿入しますが、加圧水型は上から挿入するという違いもあります。川内の2基と、九州電力管内にある玄海原子力発電所4基も同じ加圧水型で、ほかにも北海道電力、関西電力、四国電力の全原子力発電所と、日本原子力発電の敦賀発電所の2号機で使用されています。


原子炉容器や蒸気発生器などを収納する原子炉格納容器は、直径約40m、高さ約87m、厚さ約4cmの鋼板性の気密容器で、原子炉建屋は、厚さ約90cmの鉄筋コンクリート造りで外部と遮へいしています。また、川内原子力発電所の主要な設備、原子炉容器も使用済み燃料プールも、海抜13mの敷地より地下にあり、特に原子炉建屋は地上から約30m下の強固な岩盤を基礎として建てられています。

シビアアクシデントを想定した機器などの整備はどこまで進んでいるか

福島第一原子力発電所の事故から3年が経過し、ここ川内原子力発電所ではどのような安全対策が取られてきたのか、詳しく説明を伺いました。原子力発電所の安全確保のための最重要課題である、1. 原子炉を止める、2. 原子炉を冷やす、3. 放射性物質を閉じ込める、という3ステップが有効に機能するために、地震や津波などによって通常の設備が使えなくなった場合のバックアップとして、非常用電源、電源用燃料、冷却水、冷却水を送るためのポンプなどがまず整備されました。

具体的には、海水を取水し放射性物質の拡散抑制や原子炉格納容器内の圧力・温度を低下させることができる移動式大容量ポンプ車を配備、設置場所からケーブルを引いて、中央制御室からの遠隔起動により、発電所建屋内に電源を供給することができる大容量空冷式発電機の設置が完了しています。

それでも万が一、シビアアクシデント(重大事故)が起きた場合を想定し、「炉心損傷防止」「格納容器破損防止」「放射性物質の拡散抑制」「電源の確保」の観点から、多様・多重の対応を考慮した対策に取り組みながら、原子力規制委員会が策定した新規制基準に適合するような追加対策も進めています。

地震については、2004年に起こった北海道留萌支庁南部地震を参考に、さらに厳しい基準とし、最大加速度620ガルを想定した対応を考えています。津波については、川内原発から南東にある琉球海溝のプレート間地震(Mw/モーメントマグニチュード9.1)を考慮し、取水口付近での津波の高さを海抜4mから5mにアップして対策を行っています。また、竜巻による飛来物の衝突事故に備え、屋外タンクエリアに防護壁や防護ネットが設置され、火山については火砕流の評価や火山活動のモニタリングも行うそうです。

構内で見学したさらなる安全性向上に向けた多重対策への取り組み

実際に構内を見学してみると、移動式大容量ポンプ車や可搬型ディーゼル注入ポンプ、直流電源用発電機などの大型設備は、敷地内の分散したエリアで保管されており、それらの設備機器のためのさまざまな部品などは、頑丈なコンテナに格納され整然と置かれています。「いざという時にはすぐに使えるよう、点検や訓練も怠らない」と所員の方はおっしゃっていました。たとえば設備の一つである移動式大容量ポンプに接続する放水砲は、角度調整により原子炉格納容器のある建屋の最上部にまで水が届き、放射性物質拡散の抑制ができるよう、角度をいろいろと調整しながら訓練を行うことも必要です。また展示館の目の前に広がる、有効貯水量約26万トンと豊富な水量の宮山(みやま)池を、非常用水源として取水することも可能だそうです。

電源車などの燃料も外部から補充できなくなると想定し、所内に配備したタンクローリーを使って運搬し補給する訓練も行います。タンクローリーやがれき撤去用重機などの運転免許、放射性物質が海洋に流出するのを防ぐため、海中にカーテンのようなシルトフェンスを設置する作業に必要な船舶免許も、発電所に勤務している社員の方が取得しているそうです。

現在、海抜30mの場所に3階建ての免震重要棟を建設するために敷地を造成中ですが、完成までの間は、代替緊急時対策所が司令所になります。内部を見せてもらったところ、停電時でも5時間使用可能な照明や、100人・一週間分の水と食料を完備し、放射線対策の防護服やマスクも用意されています。ここでは、取水口付近に取り付けられた津波監視カメラもモニタリングできます。

原子炉等を冷却する重要な海水ポンプを設置しているエリアは、海に最も近く、海抜5mの敷地にあります。津波が押し寄せたあとの引き波を考慮し、海水ポンプの運転に必要な海水を確保するため、取水口の海中には貯留堰を設けてあり、海水ポンプの前面には防護堤、ポンプの周囲には防護壁を建設中です。一方で、安全上重要な設備は海抜13m以上の敷地に設置されていることから、海側の防潮堤については不要と考えられています。

原子炉のある建屋に隣接した中間建屋にも入り、説明を伺いました。蒸気発生器で作られた蒸気で動くタービンは、1分間に1,800回転しながら電気をつくっています。中央制御室では、1、2号機の異常を含め、敷地内すべての異常を知らせる警報が約1,800個、計器類が約1,200個もあり、そのすべてを三交代のグループにより24時間体制で監視しています。放射線量については、発電所内はもとより、発電所から半径30km圏内の73カ所でモニタリングが行われ、リアルタイムの環境放射線量は、薩摩川内市や鹿児島県にも送られており、運転中も停止後も数値にほとんど変化は見られていません。ほかにも、津波による建屋内への浸水防止、防水対策として役立つ水密扉も設置されていました。

九州電力の社員約300名に加え、約2,500名もの協力会社従業員が働いている川内原子力発電所 ── バスで移動しながら構内を巡り、各所で丁寧に安全対策について説明を伺うことができました。原子力規制委員会による運転再開の前提となる適合性審査が優先的に進められている川内原子力発電所。規制要求された対策への対応はもちろんのこと、それ以上に安全性を高めるための多様な自助努力を重ねている現場を検証できた視察となりました。

視察を終えて

各社の原子力発電所はみな、新規制基準をふまえた、シビアアクシデント対策やその基準以上に高度な安全対策を施す作業に邁進している。その地道で必死な作業ぶりには頭が下がる思いだ。私は技術者ではないので数値的なことや詳細な対策項目を精査できるわけではないが、素人の目で見ていても驚くことがいくつもあった。

たとえば、暫定的に建設された仮の免震重要棟(代替緊急時対策所)。食料や水などの備蓄品は厳重に中二階に置かれているが階段がない。どうしてかと思ったら階段をつける場合にはその耐震精度も問題になるのであえてつけずに「はしご」を活用するという。建屋の屋根もテロ対策で雪下ろししやすいような鋭角な屋根に作り替えた。敷地内の山を削って造成して作った緊急電源装置を置くための場所も、コンクリートで固めた、いわゆる「のり面」は強度不足になる恐れがあるからと、設置場所を選定し直したそうだ。

「竹取物語」を思い出す。かぐや姫は求愛する五人の殿方に入手困難なものを勝ち得てくるように言い渡す。石先皇子には「仏の御石の鉢」、車持皇子には「蓬莱の玉の枝」、右大臣阿倍御主人には「火鼠の裘」、大納言大伴御行には「龍の首の珠」、中納言石上麻呂には「燕の産んだ子安貝」だ。

何の脈絡もなく、ただ、ふっと思い出しただけだ。しかし、一つ一つの作業を必死にこなす多くの人たちを見ていると、なぜか日本最古といわれる物語を思いだしてしまう。携わる人たちの懸命な努力が、どうか報われるようにと祈りたい気持ちでいっぱいだ。

神津 カンナ

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