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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

高輪変電所見学レポート
都市生活を足下から支える、東京都心の地下変電所

エネルギーを多く使う東京都内には400カ所程度の変電所があり、そのうちの約200カ所は地下変電所で、都会に電気を安定供給する大事な役割を果たしています。2019年2月28日、神津カンナ氏(ETT代表)は、地下深くにつくられた高輪変電所の中に入り、ふだんは目に触れることのないインフラの要所を見学する機会を得ました。

地下7階建ての地下変電所から東京都心に電気を供給

発電所でつくられる電気は送電ロスを考慮し、高い電圧にして送り出されます。その後、超高圧変電所〜一次変電所〜二次変電所〜配電用変電所の順に、各変電所の「変圧器」で徐々に電圧を下げ、家庭や工場などに合う電圧に調節していきます。さらに「遮断器」で電気の行き先を振り分け、落雷などで部分的に電気の流れが途絶えても停電を回避して送電します。このように変電所は、電気を安定供給する要所として“世界有数の商業都市”かつ“住宅密集地”の東京にも必要です。しかし都市部では土地が限られるため、オフィスビルの地下など約200カ所に地下変電所が設置されています。中でも大規模な「超高圧地下変電所」は都内に13カ所あり、高輪変電所は10番目、1989年に建設されました。地下7階建ての深さにおよびます。

見学に訪れたところ、外からは一見どこに変電所があるのかわかりません。上部建物のイメージを損なわないよう、吸気口は軒下を利用し、排気筒のデザインなどにも工夫が施されていたからです。変電所の地下へ降り、まず会議室にて、東京電力パワーグリッド㈱の担当者の方から概要説明を伺いました。都内南西部の電力需要に対応するためにつくられた高輪変電所は、川崎から池袋方面へ電気を送る中継地点でもあります。送電エリアは都内南西部の広範囲におよび、都心の需要に貢献しているのが特徴だそうです。

最初に見た「制御室」では、昔ながらの押しボタン式の制御盤が3台並び、それぞれに上から275kV(キロボルト)→66kV→22kVへと変圧していく過程が示されています。高輪変電所は主要変圧器などを各3台ずつ備えた3つのユニットで構成されており、この後、2号ユニットを見学させていただけるとのことでした。制御盤の前には、作業机が置かれています。以前は24時間365日、社員の方が作業をされていましたが、5年程前からは集中制御により所内の全てにおいて無人化され、別の場所にある集中監視室の制御盤で24時間監視し、運転制御や保守管理、トラブル対応などを行っているそうです。万が一、異常を検知すると制御盤で異常を知らせるランプが光り、制御室のほか所内各所に設置されているカメラを集中監視室で確認して駆けつけるとのお話でした。

防震・防音・防火対策を施し、縮小化された装置を採用

四方をコンクリートで覆われた広い通路を歩き、「275kV ガス絶縁開閉装置」を見学しました。ガス絶縁開閉装置は、無味無臭で不燃性のガスを使って電流の開閉を行う遮断器で、275kV型は変電所の電源および、電圧調整と電圧損失を軽減するための設備用に使われます。間近で見ると大がかりな装置ですが、これでも地下式変電所に適した縮小化を図ったものだそうです。基礎台には、開閉操作時に発生する振動を吸収する防振ゴムが使われています。また近くには、絶縁に油を使って送電効率を上げる「分路(ぶんろ)リアクトル」という装置も設置されていました。

エレベーターでさらに降り、「66kV ガス絶縁開閉装置」を見学しました。66kV型は、配電用変電所および特別高圧受電所への電力送電用に使われます。先程見た275kV型の装置よりも絶縁性能が低いため、つくりがコンパクトになっています。奥に進むと、さらにコンパクトで四角い形をした「22kV固体絶縁開閉設備(ミニクラッド)」が並んでいました。 ガスではなくエポキシ樹脂を固めたもので絶縁するのが特徴で、22kV型は特別高圧で受電する顧客への送電用に使われます。担当者の方によると「昔は22kV型でも天井まで付くほど大きかったのですが、相当小さくなりました」とのことで、こちらは開閉操作時にカン!と音はするものの振動はしないそうです。それぞれのミニクラッドには大きな字で「○○線1番」などの送電先名が書かれています。その近くには「○○連絡線」と書かれたミニクラッドもありますが、これは「○○線1番」が事故を起こした時に停電を回避するために使う線で、ふだんは使っていないとのこと。各送電先が停電しないように、予備の設備がちゃんと用意されていました。

通路を歩くと、壁のあちこちに消火設備が設置されているのが目に付きます。また、天井には各所にカメラも設置されているそうです。エレベーターで一番下の地下7階まで降りた所は、地下4階まで吹き抜けのがらんとした空洞になっていました。大型変圧器などの重量物を搬入する際、クレーンで吊り下ろすためです。下ろした後は、圧縮空気で浮上させながら移動させる「エアーパレット」を用いて、所定の位置まで運搬するそうです。壁も、開口部として機器を搬入・搬出できる開閉可能な仕様になっていました。通路を見ると、所々にマンホールがあります。この下には冷却水などの水槽を備えているそうです。

少し歩いて扉を開けると、巨大な「主要変圧器(275kV/66kV/22kV)」(高さ6.5m×幅11.5m×奥行8m)が設置され、ブーンと音を立てて運転していました。壁一面には吸音材が貼られ、基礎台には防震対策が施されています。1台で家庭用コンセントの電圧の2,750倍に相当する最高電圧275,000V、一般家庭約10万軒分に相当する300,000 kVA(キロボルトアンペア)の容量を持ち、絶縁の油が入っているため、重さは293トンもあります。「主要変圧器」は、主に275kVから66kVに変圧するのが目的で、22kVは変電所内で使う電気用とのことです。裏に回ると、装置の上に油の入ったタンクが3つ設置され、上で1つにつながっているのが見えました。タンクの油は、装置に設置された冷却機の水を用い、熱くなった油と混ざらないようにしながら冷やす必要があります。油の熱で温まった水は地下1階の「大容量密閉型冷却塔」へ送り、循環して冷却水としてまた送られてきます。冷却塔は4台あり、常時3台、1台を予備として自動ローテーションで動かしているとのことです。また、この部屋で熱・煙感知器で火災を感知すると、不活性ガスで消火するしくみになっているほか、装置の上から水が霧状に噴き出し、油を冷却する機能も備えていると伺いました。

また別の部屋に入ると、22kVのための主要変圧器(高さ5.7m×幅7.9m×奥行5.1m、重さ80トン)が、ブーンと音を立てて運転中でした。こちらは一般家庭約2万軒分に相当する60,000 kVAの容量を持っています。装置の上には冷却用のタンクが設置されていました。

またほかの部屋に入ると、「分路リアクトル」という装置がブーンと音を立てて運転していました。周りの壁には防音シートが貼られています。「送電効率を上げるために無くてはならない装置」とのことで、促されて触ってみると熱さを感じました。最初に見た「275kV ガス絶縁開閉装置」の近くにあった「分路リアクトル」の5倍の容量があり、先程の主要変圧器は60%、こちらは100%の力で運転しているとのことで、その力の差を見た思いがしました。以上で、高輪変電所の第2ユニットを構成する設備の見学を終えましたが、随所に防震・防音、防火対策がしっかり施されていたことが印象に残りました。

ケーブルなどが敷設された地下トンネルの中へ

最後に地下トンネルにも特別に入らせていただく機会を得ました。通信ケーブル・ガス管・送電線などが敷設され、保守点検のために人が立ち入れるようになっています。高輪変電所の敷地内の地下トンネルにも、さまざまなケーブルや配管など色分けされ、狭い空間に何種類も張り巡らされていました。頭上と足下に気をつけながら進み、黒くて太い送電ケーブルがずっと遠くまで、左右に何本も通してある所にも少し入ることを許されました。さらに、この先は上下水道やガスなど各企業のケーブルや配管、地下鉄などを国の管理で立体的に整理している共同溝につながっているのだそうです。今回の見学では、ふだんは目に触れない地下変電所や地下トンネルという地下インフラを見せていただく機会に恵まれ、私たちの都市生活が、まさに足下から支えられていることを改めて実感させられました。

視察を終えて

高輪変電所は奥深い地下にある。私は長年、ここを見学させて貰いたいと思っていた。それは単に変電所が地下にあるということだけではなく、自分の暮らす東京の地下がどうなっているのか知る端緒にしたかったということと、見えないものを「ない」ものにしてしまう自分を戒める気持ちもあったからである。思った通り、私は変電所の役目と共に、見えないところが暮らしを支えているという実態を見せつけられたように感じた。自分の体と同じである。表面の美醜は分かりやすいが、体内には臓器、血管などさまざまなものが張り巡らされ、それで「私」が成り立っている。そのことをしみじみと思い知らされた。ともすると今の世の中、自分を支えているものを忘れてしまうことがある。足はどうして動いているのか、そしてそのことを脳はどう命令しているのか。大切なことを私は学んだ気持ちになった。世の中が進めば進むほど、私たちは心しなくてはいけない。進歩には支えるものがある。そしてそれは見えない。その見えないものを見る力こそ、私たちに最も重要なものである……と。

神津 カンナ

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