特集

エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

天然ガス〜未来をひらくエネルギーの最前線を見る

約1年前、CO2を排出しない水素をガソリンの代わりに使う燃料電池車の一般発売がスタート。また、5年後の東京オリンピックでは、選手村を水素エネルギーで電力などをまかなう“水素タウン”とする方針が決定しました。「水素社会」は、私たちが思っている以上に早く訪れるかもしれません。2015年10月16日、神津カンナ氏(ETT代表)をはじめとするETTメンバーは、燃料電池車に水素を補給する「とよたエコフルタウン水素ステーション」を見学。次に、今後ますます増大する天然ガス需要に対応するため、世界最大級の貯蔵容量となる地下式LNG(液化天然ガス)タンクを建設中の東邦ガス知多緑浜工場を見学しました。

 

街中に設置が進む「水素ステーション」

朝9時、名古屋駅に集合したETTメンバー。午前中に訪れたのは、環境モデル都市として国から選定された“クルマのまち豊田市”にある、最先端技術で低炭素社会が体感できる施設「とよたエコフルタウン」内の「水素ステーション」。ここは東邦ガスと岩谷産業の共同で運営が行われ、燃料電池車に水素を補給しています。市内中心部に位置しアクセスが良いので、燃料電池バスが毎日補給に来るほか、燃料電池自動車に乗った一般客も利用しているとのこと。 今回の視察時には、「水素ステーション」前に2014年12月に一般発売されたトヨタ自動車の「ミライ」が置かれ、ボンネットを開けると、中央に配置されたパワーコントロールユニット(電気の出し入れを制御)を見ることができました。以前、試用車のテスト走行を体験したETTメンバーの一人は「ボンネットいっぱいに入っていた装置類が、こんなコンパクトになったの!?」と、技術の進化にビックリ。開発当初と比べ、随分と軽量化が進んだそうです。

そもそも燃料電池車とは、水素と酸素を反応させて発電し、100%電気で動かすしくみ。電気自動車の一種です。CO2を一切排出しないため究極のエコカーと言われています。「とよたエコフルタウン水素ステーション」は水素製造装置を敷地内に持つオンサイト方式を採用し、都市ガス(天然ガス)から製造・圧縮・蓄圧した高圧水素を、燃料電池車の高圧水素タンクに約3分で満タン充填。ETTメンバーは水素製造装置や蓄圧器など、効率的に配置された各設備も扉を開けて見て回りました。


システムフロー


質疑応答では、「水素ステーションで火災が起きたら?」「水素を燃料として使うことで事故が起きたら?」と、安全性についての質問が相次ぎました。所員の方から、「水素ステーション」では自動安全停止システム、ガス・火災検知器、散水設備など、何重もの安全対策を取っている。また、燃料電池車の高圧水素タンクはガソリンタンクよりも強く、耐圧性に優れており、衝撃で破損することはまず無い。さらに日本の場合は使用する金属など、海外よりも厳しい基準で“絶対に事故を起こさない”という考え方で車を作っている。燃料電池本体も耐久性がある、といった答えをいただきました。

気になる燃費は、水素1kg/1,100円(2015年10月現在)。「ミライ」の場合、満タン約4kg(4,400円)で約650km走行でき、燃費はガソリン車と変わらないものの、新車価格723万円(補助金を受ければ約500万円)と聞き、思わず皆で顔を見合わせてしまいました。「水素ステーション」の建設費も4〜5億円かかるとのこと。しかし、トヨタに続きホンダが2016年3月、日産が3年後に発売予定、スズキもバイクを開発中なので、燃料電池車が世の中に増えてくればさまざまなコストがもっと安くなることでしょう。実際、「水素ステーション」は2015年までに4大都市圏で約100カ所建設予定。規制緩和でガソリンスタンドとの併設も可能となり、普及に拍車がかかっています。クリーンエネルギー水素がつくる車社会は、すぐそこまで来ている!と感じました。


世界最大級の規模を誇る地下式LNG(液化天然ガス)タンクを建設

午後はバスに乗り、東邦ガス知多緑浜工場(愛知県知多市)へ。クリーンなエネルギーとして注目され、増加する天然ガス需要に対応するため、愛知県知多市に東邦ガス3番目のLNG工場として2001年から操業を開始しました。現在、敷地内で3つ目となるNo.3地下式LNGタンクを建設中です。貯蔵容量22万klを誇る世界最大級の規模で、2016年夏に完成予定です。

工場に着くと、まず管理センターの事務所棟で所員の方から概要説明を伺い、施設紹介ビデオを見ました。海外で採掘された天然ガスはマイナス162℃まで冷却し、LNGとしてタンカーで輸送されます。桟橋に横付けされたタンカーからLNGをポンプで汲み上げ、マイナス162℃を保ったままタンクに貯蔵。その後、LNGをポンプで昇圧し、LNG気化器で海水と熱交換してガス化し、安全対策のために臭いを付けて都市ガスとして導管で供給します。また、導管が通っていない所には、タンクローリー車で輸送し供給をするそうです。

建物の外に出て、所員の方に、ガラス容器に入れたマイナス162℃のLNGを見せていただきました。無色透明のLNGからは、白くモヤモヤと煙(周りの水蒸気が冷やされて雲のようになったもの)が出ています。一人ずつ臭いをかいで無臭であることを確認。LNGはメタンを主成分としていますが、メタン自体は臭わないのだそうです。次に所員の方がLNGの中にゴムボールを入れると、瞬く間に沸騰しました。ゴムボールをトングで取り出して床に落とすと、パン!と大きな音を立てて粉々に。砕けたかけらを触ると冷たく硬く、体温で温めるとゴムの弾力が戻りました。この実験でわかるように、LNGタンクの中は普通の鉄だと冷えてもろくなるので、低温に強い材質を使用しているとのこと。最後に、LNGに火をつけると燃えることを確認して実験は終わりました。

次に管理センターの制御室棟へ行き、ガラス越しに運転員の方がモニターでプラントを監視している様子や、ミーティング風景を見学。万が一の際には対策本部が作れる広さを設けているのだそうです。廊下の壁には、LNGタンクの中に使う保冷材や、液密性・気密性を保つために張り付けられるメンブレンと呼ばれるステンレス鋼、LNG気化(熱交換)に使うパイプをカットした模型などが展示され、触ることもできました。

再び建物の外に出て「都市ガス製造モニュメント」を見学。大正時代に石炭からガスを作っていたれんが造りの設備や、1960年から30年間、石油からガスを作っていた設備の一部などが配置され、LNG以前のガス製造の歴史を垣間見ることができました。

その後、鳥や昆虫が生息するビオトープへ向かいました。知多緑浜工場は周辺に海岸や公園・緑地が多いことから「周辺環境との調和」をコンセプトに環境保全活動を推進しています。公道沿いには高さ10mの緑地盛土、その隣に池を作り、“トンボが暮らせる空間”を目指したビオトープを設けています。このような緑地化の試みは全国的にも珍しく、足を踏み入れるとまるで森の中にいるよう。池の上をトンボが飛び交い、ひっきりなしに聞こえる鳥のさえずりはBGMかと錯覚したほどでした。

次に、バスに乗って構内を視察。万が一の火災時に“海水のカーテン”を作る道路沿いの水幕パイプや、漂流物対策フェンス、消火用ポンプなど、LNG工場の防災対策も目視できました。

最後にバスから降り、現在稼働しているLNGタンクの屋根に上りました。タンクは周りの景観に溶け込み、ソフトな印象を与える地下式のため、地上に出ているのは15mだけ。残りの50mは地下に埋まっています。タンクの屋根から、年間130隻は来るという大きなLNGタンカーが桟橋に接岸している様子や、そこから今まさにLNGをタンクへ送り込んでいる配管橋を見て、エネルギー基地が生きている躍動感と、スケールの大きさを実感。今回は午前・午後と2カ所それぞれのエネルギー供給の最前線を見て、低炭素社会実現への期待が膨らむ視察となりました。


システムフロー

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