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北海道電力 泊発電所見学レポート 北海道の電気の約4割を支えてきた泊発電所の安全対策

北海道の積丹(しゃこたん)半島の付け根にある泊発電所。現在、1〜3号機ともに新規制基準の審査中のため停止していますが、停止前は北海道で使われる電力量の約4割を担う原子力発電所として稼働していました。2017年2月28日、神津カンナ氏(ETT代表)は、再稼働に向けて安全性向上のさまざまな取り組みを進めている泊発電所の現状を見学しました。

 

福島第一原子力発電所の事故を踏まえた、多重・多様なハード対策

泊発電所は1〜3号機合計207万キロワットの出力で、停止前の2010年度には北海道の電気の約44%を担っていました(現在は火力発電で7割以上を担う)。全機停止から5年経った今、福島第一原子力発電所のような事故を二度と起こさないという強い決意のもと、ハード面とソフト面からさまざまな安全対策を積み重ねています。社員の方から概要の説明を受けた後、構内をバスで、それらの安全対策をつぶさに見て回りました。

まず「自然現象から発電所を守る」ための津波対策として、福島第一原子力発電所を襲った15m程度の津波が来ても敷地が浸水しないよう、盛土とコンクリートで防潮堤(高さ海抜16.5m×全長1,250m)が設置されている様子を、展望台がある高台へ上る途中に車中から見ることができました。さらに津波が敷地に侵入したとしても建屋が浸水しないよう、水密扉も設置したとのこと。地震対策としては、構内の設備に耐震補強を実施。森林火災対策も考慮し、発電所後方に広がる山の木を伐採し、全長約2,120mの防火帯を整備。さらに竜巻対策として重要機器の上に飛来物防護設備も新設し、あらゆる自然災害について対策を講じることで、発電所の重要な設備が影響を受けないようにしていることが見て取れました。

次に「燃料を冷やし続ける」ため、冷却用の水、その水を供給するポンプ、そのポンプを動かす電源、それぞれに多重化・多様化が進められている状況を見学。水源確保には、代替屋外給水タンクを海抜31mの高台に5基新設。さらに、電源が無くても高低差をうまく利用して水を送り込めるようにと、貯水設備(5,000トン×3基)を海抜81mの高台に設置する工事も進められていました。また、原子炉を冷却し続けるため、従来のポンプに加え、高圧ポンプやスプレイポンプも多重に新設。高台には、移動可能なポンプ車が分散配備されていました。電源確保としては、外部電源の受電ルートを増設。さらに高台には、中央制御室から遠隔操作できるという常設のバックアップ電源や、移動可能なバックアップ電源車が複数台配備されていました。これらの設備の多重化・多様化を一つひとつ見ながら説明を伺い、たとえ従来から設置している設備による冷却機能が失われたとしても、何としても炉心の損傷を防ぐという、現場の方々の熱い思いを感じました。

さらに「重大事故に備える」ため、原子炉格納容器内に水素爆発を防ぐ装置や、屋外に放射性物質の拡散を抑えるための放水砲の設置のほか、対策拠点となる緊急時対策所が整備されていました。「どんなに多重・多様な安全対策を講じていても重大事故は起こりうるとの考えに立ち、原子炉格納容器の破損や放射性物質の環境への放出などの重大事故に備えた対策を進めています」と、社員の方が真剣な眼差しで語る姿が印象に残りました。


 ■泊発電所の安全対策の現状(全体イメージ)

安全対策設備の配置イメージ図

北海道電力より提供

“SAT(シビアアクシデント対応チーム)訓練などのソフト対策

一方、泊発電所ならではのソフト対策として特筆すべきは、重大事故対応を専門に行う「SAT(シビアアクシデント対応チーム)」の創設が挙げられます。災害派遣などの経験を積んだ元自衛隊員や原子力発電の運転員などを含むベテラン7名(×5組)が、日頃から設備の点検や操作訓練などを実施し、再稼働後は24時間365日体制で発電所内に常駐し、万一の事態に備えるそうです。その訓練の様子を見せていただきました。原子炉建屋の使用済燃料ピットへの放水を想定し、高台に分散配備してある可搬型大型送水ポンプ車で、訓練用プールから水を汲み上げ、可搬型スプレイノズルにより、強い水圧で放水していきます。地面にはまだ雪が残る足元の悪いなか、作業開始から放水までわずか数分のスピーディーさに驚くと同時に、SAT一人ひとりのてきぱきとしたスムーズな動きに、日頃の訓練が生かされている頼もしさを感じました。
また、構内には災害対策支援要員や、災害時に重機を操作するがれき撤去要員、消火要員なども配置し、24時間待機体制を敷くとのこと。それぞれ専門に動ける人員が手厚く強化されていました。

“厳寒期の重大事故に対応できる能力も強化

泊発電所では厳寒期には積雪や寒冷といった過酷な条件下になることから、ほかの発電所とは違った、新たな強化策も必要になります。ハード対策として、除雪作業用重機や、雪上走行ができるクローラ車など、降雪に備えた車両を配備。また、凍結などから守るためにポンプ車などを保管する車庫も設置されていました。 一方、外にある常設のバックアップ電源は、積雪を防ぐため屋根が三角形になっているなど、随所に雪対策が施されていました。高台には緊急時対策所と、総合管理事務所の間を移動時間短縮のためにつなぐアクセスブリッジも新設され、緊急時の初動への対応もなされています。またソフト対策として、夜間・吹雪などの悪天候下における重大事故を想定し、交通ルートが遮断された場合でも寮・社宅から歩いてでも迅速に駆けつけられるよう、スノーシューで山を越え、発電所へ参集する訓練も継続的に実施しているとのこと。見学当日、昼とはいえ相当の寒さだったので、夜間に冬山を歩いて越える訓練の苦労は相当なものだろうと窺い知ることができました。

ハード対策、ソフト対策、さらに厳寒期対策と、泊発電所の実にさまざまな安全対策への真摯な取り組みを見て、これまで北海道の電気を担い続けてきた泊発電所の再稼働にかける現場の方々の熱意、福島第一原子力発電所のような事故を二度と起こしてはならないという使命感をひしひしと感じました。見学中に案内された3号機の中央制御室は、最新式のデジタル仕様。2009年12月に営業運転を開始した、日本国内で一番新しい原子炉ですが、わずか3年しか稼働しないまま停止中になっています。一日も早く火力発電への過度な依存を減らし、バランスのとれたエネルギーミックスがこの地で実現されることを願いながら、まだ寒い冬の北海道を後にしました。

視察を終えて

福島第一原子力発電所の事故以来、各地の原子力発電所は防災・安全対策の構築に全力を注いできている。久しぶりに訪れた泊発電所も、これまで以上に地震、津波、竜巻など自然災害に備えた様々な対策が講じられ、他の原子力発電所と同じように要塞のごとき堅牢さを感じた。しかし、何よりも印象的だったのは、万一の事故時に備えた緊急時対応要員の参集訓練である。原子力発電所の安全対策というとハード面での備えを中心に語られることが多いが、私は常々、ソフト面での対策とヒューマン系の問題とその対策もきわめて大切と考えていたからである。万一の時に社員や作業にあたる人たちが駆けつけ、臨機応変に対応できるかどうかを日頃から訓練を積み重ねていく。設備対策はもとより、泊発電所の現場に即したこのような実戦的な取り組みを見て、地域特性の意味をしみじみと感じ、そこに力を注いでいる姿に胸が熱くなった。

神津 カンナ

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