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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

沖縄 浦添市分散型エネルギー都市計画&アワセプロジェクト見学レポート
沖縄で新たに進む、省CO2と防災を兼ねたコージェネ基盤の街づくり

沖縄では近年、天然ガスを中心とするコージェネレーション(以下、コージェネ)を基盤に、環境性と防災機能を兼備した新しい街づくりが官民一体で進められています。2019年2月14日〜15日、神津カンナ氏(ETT代表)は沖縄を周り、分散型エネルギーを活用した都市計画として大規模な開発が進行中の「てだこ浦西駅周辺開発地区」(浦添(うらそえ)市)と、県内初ガスコージェネ導入による再開発の成功事例「アワセプロジェクト」(北中城(きたなかぐすく)村)および、そのコージェネを支える天然ガス供給センターを見学しました。

分散型エネルギーを導入し、県内初のスマートシティを開発

那覇空港〜首里駅を27分で結ぶ沖縄都市モノレール(ゆいレール)は、首里駅〜てだこ浦西駅が延伸され、2019年夏以降に開業予定です。未利用地が広がっていた新駅の周辺に、コージェネを基盤とした分散型エネルギー都市計画が進行中とのことで、1日目は那覇空港から車で国道58号線を約40分、今まさに開発工事が行われている現地へ向かいました。車中では、浦添市と協定して街づくりを進める関係者の方が概要を説明してくださいました。

「てだこ」とは沖縄の方言で「太陽の子」を意味します。てだこ浦西駅周辺の約20ヘクタールの地域は、国の「地域の特性を活かしたエネルギーの地産地消促進事業費補助金」を元に、自治体や民間企業、コージェネのノウハウを持つガス会社などのエネルギー事業者が一体となって開発を進めています。手本としたのがドイツ国内に約900社ある、自治体出資の都市公社「シュタットベルケ(英:City Works)」です。シュタットベルケは“地域エネルギーマネジメント会社”として機能し、インフラや公共サービスを総合提供して窓口を一本化することで、たとえば水道部門で赤字が出たら電力部門の利益で補填するなどして、経営の安定化を図ります。また日本の公益事業と異なり、独立した運営事業体として利益を確保し、地域の経済成長を促します。浦添市でもこれに倣い、まず市全体の街づくりを担う「浦添スマートシティ基盤整備㈱」を浦添市および県内銀行などと設立。さらに、てだこ浦西駅周辺開発地区のエネルギー事業に特化した「浦添分散型エネルギー㈱」を沖縄ガスや沖縄銀行などと設立し、財務基盤を強化しながらエネルギーの供給とマネジメントを担い、2019年度以降のオープンを目指して工事を進めています。

参入事業者の建設施設は、大規模商業施設、マンション、スマート戸建て住宅、調理師学校&幼稚園、スポーツフィットネス施設、沖縄県のパーク&ライド駐車場などが予定されています(2019年2月現在)。このほか、ホテルを含む複合施設の誘致など、現在進行形で計画が進められています。

*渋滞緩和や環境問題改善のため、駅近くの駐車場に車などを駐車させた後、公共交通機関に乗り換えて目的地まで移動する方式


てだこ浦西駅周辺地区の都市開発計画(参入内定事業者図)


新しい街は最新の「分散型エネルギーシステム」の導入により、街全体で電力の有効利用を図る環境都市「スマートシティ」となります。主力のエネルギー源は、都市ガスを燃料に電力をつくり、発生する排熱を冷暖房・給湯・蒸気などに活用するコージェネです。街のなかに「エネルギーセンター」を建設し、「地域エネルギー管理システム」をベースに各施設の需要・発電量をリアルタイムに予測し、電力・冷温熱・温泉を供給し、地域全体で省エネとCO2削減に取り組みます。さらに浦添市と防災協定を結び、災害時の電熱供給体制と、衣食住の機能を揃える「災害に強い街づくり」も目指しています。たとえばスポーツ施設では温浴施設の開放、調理師学校では食事の提供など、各施設が分担して機能を負うのだそうです。

現地に降り立つと、辺りは一面どこもかしこも工事の真っ只中で、所々、盛土もされていました。担当者によると「通常は土地の整備が先ですが、こういう街をつくりたいと計画してから事業者を募集して選び、それから土地を整備しているため、完成まで時間がかからないし、理想の街づくりができるのです」とのことでした。コージェネでは発電量に応じて冷暖房や給湯に使える排熱が発生しますが、沖縄では冬に暖房をほとんど使わず、お風呂もシャワーが中心でお湯の使用量が少ないため、排熱を有効利用すべく、スポーツ施設やホテルなど熱需要の多い事業者を誘致したそうです。「エネルギーセンター」にはコージェネ4台(計3,600kW)を導入するほか、学校の屋根にはソーラーパネルを設置予定で、まだ未開封のNAS電池もコンテナに収納されています。街全体の年間のエネルギー需要予測が電力換算で3,390万kWh(キロワット時)、ピーク時には9,200〜9,300kWに対し、ピーク時の半分弱は従来通り沖縄電力から、半分強はコージェネを中心に地区内の発電設備で供給する方針です。これによりCO2の排出量を40 〜20%削減できる可能性があるほか、エネルギーコストを最大10%削減できるメリットも生まれます。また、電線などのインフラは災害に備え、地下化されるそうです。再び車に乗り、パーク&ライドの駐車場の工事現場を見に行きました。見上げると、モノレールの線路はすでに完成しています。あと何年かしたら、この辺りの景色は全く違っていることでしょう。

*那覇市の平均気温は16.9℃(2月)〜31.2℃(8月)〜気象庁2018年のデータより


年間CO2排出量の比較


スマートシティの開発整備には広大な土地が必要なため、新しい街づくりや大規模な再開発の機会に限られますが、基地返還が進む沖縄県では今後も検討余地がありそうです。「分散型エネルギーシステムを活用して、沖縄という地域に根ざした熱供給エネルギーのあり方を模索しています。この浦添市のスマートシティをモデルケースとして、ほかの地域でも根付いてくれることを期待したいです」と熱く語る担当者の言葉に、沖縄の未来が垣間見えた気がしました。

県内初、ガスコージェネを導入した街づくり「アワセプロジェクト」

沖縄県内で省CO2と防災機能を兼備したコージェネを官民一体で進めた成功事例が、コージェネ大賞2016で優秀賞を受賞した、北中城村の「アワセプロジェクト(アワセ再開発)」です。2日目は街の商業施設として2015年にオープンした、イオンモール沖縄ライカム(以下、イオンモール)のコージェネシステムを見学しました。初めに屋上に出て周辺施設を見渡しながら、沖縄電力グループの担当者の方から概要説明を伺いました。このエリアは在日米軍のアワセゴルフ場跡地で、2010年に村に返還後、沖縄本島中部の防災機能を兼備した官民一体型の街づくりを目指し「アワセプロジェクト」をスタートさせ、自治体・イオンモール・中部徳州会病院(以下、病院)・沖縄電力が一体となって街づくりチームを編成しました。災害時にはイオンモールが【物流・避難拠点】、病院が【災害医療拠点】、沖縄電力グループが【エネルギー供給拠点】、今後建設予定のアリーナ施設が【復旧・避難拠点】としての役割を担う計画です。


「アワセプロジェクト」コージェネの供給エリア


エネルギーに関しては、沖縄本島では都市ガスのインフラが南部の限られた地域しか整備されていないため、LNGサテライト(アワセ天然ガス供給センター)を近くに設置し、そこから導管で各施設に天然ガスを供給します。さらにコージェネの導入により、発電の際に出た排熱はジェネリンク(排熱投入型吸収式冷温水機)で利用し、空調に使うシステムを備えています。目の前に見えた病院にも、イオンモールと同じようなコージェネシステムがあるとのことでした。また、大規模災害時には、イオンモールで発電した電力を避難拠点のアリーナへ融通する計画です。

1階へ降りて機械室へ入り、コージェネを構成する機器を紹介していただきました。目の高さに設置されたモニターで、イオンモール全体の電力の需要と供給の数値をリアルタイムに確認できます。ここで空調をシステム管理しているとともに、データを集積して外部の専門家が運転パターンを解析しています。またそのデータを元に省エネと省コストを追求してより効率良く運転できるよう、専門家とイオンモールの間で定期的に会議を設け、意見交換も行っているそうです。大きな箱型の「ガスエンジン発電機」は、400kW×2台でイオンモールの約10%の電力をまかなっています。発電する際に出る排熱は排熱投入型吸収式冷温水機「ジェネリンク」に全て回収することで、コージェネの総合的な効率は約80%にもなります。また、災害時にはBCP(事業継続計画)電源として必要な電力をまかなえるほか、非常用ディーゼル発電機(400kW)も準備されているそうです。


燃料供給システム


「ガスコージェネ」は5月〜9月の冷房需要に1日12時間計画運転し、基本的には「ジェネリンク(排熱専焼)」および「高効率ターボ冷凍機」3台だけでイオンモール全体の冷房をまかなえますが、大型連休などで来客が多く、排熱専焼では足りない場合はガスで追い焚きをして不足分を補うこともできます。見学時(2月)は稼働率が低い時期のため、機器を止めてメンテナンス作業が行われていました。さらに地下に降りると、商用電力で冷房を動かす「高効率ターボ冷凍機」が設置され、運転音が鳴り響いていました。主に定速式(1台)でベース運転を担い、負荷変動に応じてインバータ式(2台)を動かします。冷房はコストと効率を追求するため、①ジェネリンク(排熱専焼)②電力を使うターボ冷凍機③ジェネリンク(追い焚き)、の優先順位で運転しています。今まで①+②だけでまかなえなかった時は4回程度あったとのこと。担当者の方によると「コージェネはまだ始まって数年なので、これから実際のデータを積み重ねることで、さらにベストな運用を目指せる」のだそうです。費用について尋ねると、『エネルギーサービス契約』という15年契約のなかに初期投資やマネジメント料も含み、リース契約と同じように費用を平均化しているとの返答がありました。また、本プロジェクトは国の省CO2先導事業に採択され、大型機器の費用の約半分は助成金を利用しているとのお話でした。

コージェネの核となるLNGサテライト「アワセ天然ガス供給センター」

最後は、イオンモールから5分程歩き、㈱プログレッシブエナジー(沖電グループ)が「アワセプロジェクト」のためにLNGサテライトとして建設した「アワセ天然ガス供給センター」の見学です。構内にはLNGローリー車(8トン)が停められていました。約8km離れた沖縄電力吉の浦火力発電所からLNGローリー車より輸送されて来ます。コージェネシステム導入施設の近くに設置されたLNGサテライトは、まさにLNGの基地としての役割を果たす要所です。伺ったちょうどその時、構内でもひときわ大きい「LNG貯槽」(高さ13m/約24トン〈イオンモールなど各施設のコージェネなどで使う3日分のLNGを貯蔵可能〉)と、LNGローリー車を接続している、白く霜が付いていたフレキシブルホースにて、マイナス160℃に冷却されたLNGの受入作業中で、作業員の方々がテキパキと働いていらっしゃいました。魔法瓶と同じ構造の「LNG貯槽」のなかで冷却されたままのLNGは「温水式気化器」で温めて天然ガス(気体)にして、臭いを付け、減圧して導管へと送られ、イオンモールや病院のコージェネシステムなどで使用されます。構内にはたくさんのパイプが張り巡らされ、製造運転に必要な電源を3日分確保できる「非常用発電機」や、LNGを気化させるための「温水ボイラ、温水ポンプ」も設置されていました。駐在に加え、監視カメラを通して本社でも24時間見守られ、供給センターの保安を確保しているそうです。

今回は、沖縄ならではの地域性やエネルギー事情、今まさに進行中の新たな取り組みなど、学びや気づきの多かった貴重な2日間となりました。私たちは今後も、沖縄がどう変化していくのか注目していきたいと思います。

視察を終えて

私たちが沖縄に赴いたのは、ちょうど辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票の公示日だった。「てだこ浦西駅周辺開発地区」やコージェネ大賞2016で優秀賞を受賞した「アワセプロジェクト」など、新しい町作りを見学させてもらった私は、その後、琉球王朝時代の城跡、壕の中に作られた野戦病院跡、普天間飛行場や嘉手納基地などを見た。それらを通して痛感したのは沖縄には沖縄の歴史や考え方があるということだった。大所高所で考えることと、そこに住む人の歴史や文化、暮らしを慮ることは、どちらかに比重を置くべきではなく共に重要だ。しかし揺れていたら何も始まらない。沖縄や福島の再開発や新しい町作りはどうするべきなのか、それを私は深く考えた。いや、しかしこれは沖縄や福島だけの問題ではないのかもしれない。自分たちの暮らす場所をどのようにしていくのか。システムをどのように構築するのか。私たちは踊らされずにきちんと足元を見て考えるべきなのだろう。沖縄の人々の心を思いながら新しい町作りをゆっくり見た。そこに何かヒントがあるような気がして……。

神津 カンナ

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