特集

エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

最新技術を駆使し、天然ガスへの期待に応える

愛知県知多市の伊勢湾に面する、東邦ガス知多緑浜工場。ETT企画委員企画として、建設中のNo.3地下式LNGタンク内部を見学できると聞き2015年10月15日、神津カンナ氏(ETT代表)ほかETT企画委員12名で工場を訪れました。見学後は東邦ガス副社長から、「日本初となるガスコージェネレーションと次世代型の電力貯蔵システム:NAS電池を組み合わせた都市再開発(みなとアクルス)」についてプレゼンテーションを受けるなど、今後のガス事業の目指す姿について活発な意見交換会を行いました。

 

地下52m、LNG(液化天然ガス)タンクの底で感嘆

東邦ガスは愛知・岐阜・三重の3県で240万件の顧客に40億㎥(LNGで300万トン)の都市ガスを供給しています(東京ガス150億㎥、大阪ガス80億㎥)。特徴は工業用販売量が約6割を占めること。

「ものづくり」や「くらし」を支え、供給安定性・環境性に優れた天然ガスの需要増大に対応するため、東邦ガスの主力工場である知多緑浜工場では、敷地内に3つ目となるNo.3地下式LNGタンクを建設中です。貯蔵容量22万klは世界最大級の規模。地上に出た屋根は高さ15m 、残りの50mは地中で外からは見えません。工事は4年前に地中の掘削から開始。側面の壁を作り、底で組み立てた屋根を空気の圧力で地上まで持ち上げたのが今年6月。10月現在は、側壁と底板に保冷材と、液密性・気密性を保つためのメンブレンと呼ばれるステンレス鋼を貼り付けている最終段階です。工事関係者以外で内部に人が入れるのは10月末までという、またとない機会を得ての見学となりました。

構内をバスで移動し、No.3地下式LNGタンク近くに到着。天井の端に取り付けられた作業用エレベーターに乗り、5人一組で50mを約5分かけてゆっくり下って行きます。底は、ソフトボールのグラウンドほどの広さ。天井を見上げると、65mもの高さに圧倒されます。ただ内部は撮影禁止とのこと。残念! 貯めるLNGの重さや周囲地盤の地下水圧に耐えるよう、壁は約2m、底は約6mの厚さにしているそうです。

22万klの貯蔵容量があるため、通常のLNGタンカー(容量13万kl)1隻分の中身そのままを入れることができます(ちなみに今一番大きいLNGタンカーはカタールの船で、容量は倍の26万kl。345mの全長に合わせて、桟橋も改造したそうです)。見学した企画委員から、「タンクのLNGはどのくらいで使い切るのですか?」と質問が出ました。答えは数日に1回。現在でも年間約130隻、3日に1回程度、LNGタンカーを受け入れているそうです。さらに、2016年夏のタンク完成から数年後には、アメリカからのシェールガスの受け入れも始まる予定です。コージェネレーションやエネファームの利用拡大、来たるべき水素社会やスマートタウンの実現に向け、環境に優しいエネルギーとして今後ますます役割が拡大していく天然ガス。その準備はソフト、ハードともに着々と進められていることに改めて気づかされた貴重な一日となりました。


企画委員メンバーの感想

秋庭悦子(NPO法人あすかエネルギーフォーラム理事長)
LNGタンクというと、地上にある球形のタンクを思い起こすが、今回見学させていただいたLNGの地下式タンクはまさに「地下に埋まっている巨大なステンレス製の魔法瓶」というイメージであった。名古屋城の天守閣がすっぽり入るぐらいの大きさがあり、一般家庭30万世帯の1年分が貯蔵できるとのこと。中東やカタールなどからはるばる船で運ばれてきたLNGをマイナス162℃にしっかり保つために、壁や底部には大量の断熱材が使われている。 化石燃料の中で最もCO2の少ない天然ガスは、温暖化対策等でますます需要増が予想されるため、今後、このような地下式タンクが増えるのではないだろうか。

歌代勝子(くらしをみつめる…柏桃の輪代表)
午前中の、企画委員会の活発な議論の充実感をもって、午後は東邦ガス(株)知多緑浜工場の、地下式LNGタンクの底部を見学する機会に恵まれる。世界最大級のタンクの底部へエレベーターで降下。広い・高い・大きい。マイナス162℃のLNG貯蔵の断熱性を保つ保冷材の使用にも納得。また防災対策は原子力に限らずエネルギーを扱う現場はいかなる災害にも耐えられる防災設備を設けていることに認識を新たにする。見学後のガスシステム改革を、電力との相互乗り入れを対比しながらの説明に、新しい知識をもらった。充実の〆は満足の懇親会であった。

大竹由紀子(総務省行政相談委員)
我が家の熱源として、ガスの占める割合は少なく「ガス」を考える機会もあまりない。以前、東邦ガスで、燃料電池自動車見学をしたが、今回は世界最大級220,000klのタンクの底部に行く体験をさせていただいた。 名古屋港内埋め立て地に名古屋城の天守閣一つがすっぽり入ってしまう大きさ、パネル等の工事工程を興奮ぎみに伝達する私に、友人から「LNGの組成成分は?」 「なぜマイナス162度に液化する?」「気化させるのになぜ海水か?」「ガスの自由化?」等基本的なことを尋ねられ正確に即答できなく、私はパソコンで検索をした。ある事柄について知ったかぶりをせず、まず基本を勉強せねばと思った見学であった。

上村正子(帯広大谷短期大学非常勤講師)
貴重な体験でした。巨大なタンクの内側・壁面のパネル張りは、一枚一枚が作業員の手で行われていました。日々のくらしを支えてくれる人たちの働く姿に、感動と感謝です。隣接する桟橋では大型のLNGタンカーが作業中でした。輸入に頼る天然ガスの調達を考えると、世界経済の動きも目が離せません。エネルギー問題は奥が深いことを再認識しました。町村で企画する学習会や担当教科「生活とリスクマネジメント」ではエネルギーと環境問題ははずせません。広い視点を持ち続けたいと思います。

小林 良子(エッセイスト/石川県教育文化財団理事)
天然ガスは石炭や石油に比べて地球温暖化原因のCO2が少ないエネルギーです。今後、産業や業務分野でも天然ガスへのシフトが進むと思います。それで心配するのはマイナス162℃まで冷却された液化天然ガスの貯蔵です。私の住む七尾市に国家備蓄を含むLPG基地があり、地上低温タンク方式で貯蔵しています。想像もできないマイナス温度と無臭が事故に繋がらないかが、素朴な疑問でした。今回、地下式タンクを見学し、タンク自体は勿論、周辺の地下水の凍結までを想定した施工で安堵しました。安全維持に大切な職場環境の美しさも心に残りました。

藤井宣恵(えひめエネルギーの会代表)
No.3地下式LNGタンク内の銀色に輝く美しさがとても印象的な視察会で、屋根の裏側、側面の溶接の様子や底面のまだメンブレンに覆われていない保冷材が見え、構造が良く分かり貴重な体験をすることができた。また、オープンラック式LNG気化器では、多くのアルミパイプの周りを大量の海水が流れているところを目視でき、プラント規模での熱交換を実感できてよかった。最後に、ガスの全面自由化に向けての取り組みや「みなとアクルス開発計画」などの紹介があり、今後のガス関連の展開を知ることができ有意義であった。

松村紅実子(オフィス計都代表/フリーアナウンサー/Think オーレ!主宰)
名古屋城を観る時間もなかったが世界最大級22万klの建設中の地下式LNGタンクの底に立ち、ここにすっぽり名古屋城の天守閣が入るのだと聞いて唖然。電気・水道・ガスと言えば生活の三種の神器。昭和44年に初導入されたLNGのおかげでどんなに暮らしが豊かになったことか。タンク屋根に立つと遠くカタールからのタンカーが見える。無事故が誇りのLNG輸送、万が一の防液提完備、津波時防護柵、管理センターの建築美、ビオトープの安らぎ。知多緑浜工場でLNGの多くを知り、何をかカタール、の視察であった。

向井麗子(青森県地域婦人団体連合会会長)
秋晴れのさわやかな伊勢湾岸にゆったりと構える液化天然ガスタンクの建設現場の威容に驚嘆した。ガスの保存形態を考案し用途に合わせた「変換」の技術を駆使して快適な社会の環境作りに役立てている。マイナス162℃の液化ガス保存のタンクの形状・構造、求められる安全性への配慮、企業としての必要な大きさなど、現実にタンクの中に足を踏み入れ、手で触っての視察に胸の高鳴りを感じた。東日本大震災による原子力発電所の事故後、ガスへの依存度は大きく、活用範囲拡大も期待されている。しかし、私たちは、労せず豊かさを求める人間の将来に多少の不安も覚えた。

山口博美(消費生活アドバイザー/消費生活専門相談員)
今回、「建設中の世界最大級のLNGタンクの内部に入る」という貴重な体験をしました。概要説明では「名古屋城の天守閣がすっぽり入る」といわれたものの、地下式タンクということで外周からは屋根部分しか見えずその大きさはわかりません。しかし、内部は巨大な空間で上から見ると作業中の人達がとても小さく見えました。当日は外から入熱を抑えるための断熱材や液密性・気密性を保つメンブレンを取り付ける工事が行われていました。タンク完成後、LNGが貯蔵されると人が入ることはできないということもわかりました。また、周辺環境に配慮し工場周辺の緑化に積極的に取り組んでいるという印象を持ちました。

吉冨崇子(山口県地域消費者団体連絡協議会会長)
エレベーターで地下式LNGタンクの下へ降りると、その大きさに驚いた。この容器にガスがとは、とても信じられない空間であった。壁はキラキラと輝き、一面格子模様で不思議な光景だった。“なぜ?” という問いに、ステンレスをこのように加工すると、使用量が削減でき、強度も保たれるとのことであった。“技術ってすごい” と思った。いろいろと工夫され、改善され、その結果現場で採用となるのであろう。このような素晴らしい技術は、大方知られないところである。“技術立国ニッポン!!” 誇りに感じると共に継承をと願った。

和田 英子(消費生活専門相談員)
東邦ガス知多緑浜工場の地下式LNGタンク底部見学という案内で、想像も出来ない世界を見学できる、ワクワク感が強かった。日常、地上部に出ている、丸いタンクしか目にしていなかった私にとって、地下式にすると、地震・津波に強いのかなと漠然とした思いと、どのような構造になっているのかなと思いながら参加しました。 宮城県に居住、2回も大きな地震を経験、電気・水道は1日~2日程で供給されましたが、都市ガスは点検の関係もあるのか仙台市内でも30日~40日かかり供給されましたが、地方によっては、3ヶ月、4ヶ月かかって復旧したとの話もあります。 レクチャーを受け実際にタンク底辺部に降り立ち、ドーム型のタンクの内部を見たとき、側壁の保冷材、側壁のステンレスの厚さを実際に見ることができ、このときは、すごく綺麗に見え、劇場内のようだと思い、遠路運ばれてきたLNGのつかの間の憩いの場所、静寂さを感じさせられ、情緒的な感想を持ってしまいました。 しかし展示室で、見た保冷材やステンレス材は、かなりの大きさ、ゴツさを感じ、やはり計算された材料で安全性を重視した物作りで守られていることが感じられ、ガス・電気等のエネルギーとして利用されている過程を理解、また広範囲に供給されているシステムを理解出来ました。

視察を終えて

ガスの貯蔵・輸送手段といえばガスタンクと パイプラインというイメージがすぐに頭に浮かんでしまう。しかし、国内のガス需要を海外からの大量輸入に依存する日本では、パイプラインではなく液化方式が主流を占め、そのためにLNGタンカーと貯蔵タンクの開発実用がすすめられてきた。
ここ知多半島の付け根に建設中の22万キロリットルという巨大なLNGタンクは、まさにその規模にも技術にも目を瞠るものがある。巨大な地下タンクの建設は、土木工事、機械工事はもとより、極低温の保温技術や、はたまた冷凍防止策など、高度な知見と品質管理のノウハウに支えられている、まさに総合力の賜物だ。日本のエネルギーの枢要を占める天然ガスの貯蔵大容量化も、保存技術の高度化も、並々ならぬ努力の積み重ねのうえに築かれてきたのだ。
ガス栓をひねるとすぐにガスが出てくる。その後ろには夥しいシステムや装置や人の力が存在することに改めて気づかされ、そこを忘れてあらゆる論議を展開することの恥ずかしさを痛感した。

神津 カンナ

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