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JX日鉱日石石油基地見学レポート 時代を経て変遷した、石油基地の使命と今後

日本の経済成長を支えてきた石油。その石油を安定供給してきた石油基地の役割は、時代とともに大きく変遷してきました。2015年4月2日、神津代表は鹿児島県喜入にあるJX日鉱日石石油基地を訪れ、鹿児島県在住のETTメンバー石窪奈穂美氏とともに、時代のニーズに応え進化し続けてきた石油基地の現状を視察。その後所長を交えた意見交換を行いました。また翌日地元喜入の公民館では、JX日鉱日石石油基地主催で神津代表の講演会が開催されました。

 

中継基地として活躍した高度経済成長期

鹿児島県喜入にあるJX日鉱日石石油基地は、1967年着工、1969年9月に10万Kℓ級原油タンク12基で操業を開始。敷地の広さは192万㎡、東京ドームの約40倍。雄大な桜島を背景に、錦江湾に面した美しい自然に恵まれた地に誕生しました。現在では合計57基のタンクに貯油能力735万Kℓと、世界最大級の原油中継基地となっています。

見学に先立って、概略のDVDを見た後、担当の方から詳しい説明を伺いました。我が国の石油の約90%は、中東からの輸入に頼っています。1960年代の高度経済成長期、日本では平均年率16%の急激な石油需要の増加が続いていました。当時の原油価格は、今では考えられないくらいの廉価でしたが、遠い中東の産油国からの輸送コストが、原油価格の25%を占めていて、このコストをいかに下げるかが石油各社にとって大きな課題となっていました。輸送コスト低減のために原油タンカーの大型化を進めることで、輸送コストの大幅削減が可能になり、購入原油価格の低減が実現し、競争力を持つことになります。しかし当時の製油所では、大型タンカーの接岸は難しく、新たな施設が必要でした。7つの製油所をもっていた当時の日本石油では、新たにCTS(原油中継基地)構想が検討され、日本初のCTS基地を建設することになりました。CTS構想とは、産油国から、25〜50万トン級の大型タンカーで原油を輸入・貯蔵し、4〜10万トン級の中型・小型タンカーで、全国各地の製油所へ二次輸送するという、原油輸送の合理化と原油貯油機能の集約化を目的とした、オイルロード上の重要な原油中継基地を作るという構想です。このCTS建設の基地候補地としては、何カ所か検討されましたが、CTSの条件として、穏やかな気象・海象で、超大型タンカー用桟橋のための深い水深がある、安価に埋立可能な浅い海岸があり、広大なタンク用地の確保が可能で本土の南部に位置し、製油所へ転送しやすい場所であるなどのさまざまな原油輸送ルート上のロケーションの条件があり、その条件に合った喜入が選ばれました。現在、日本の原油総輸入量の約13%、JX日鉱日石エネルギーグループの約4割の原油が喜入基地を経由し、関連製油所へと転送されています。

オイルショックを契機に、安定供給で貢献

原油中継基地として造られた喜入基地に、最初の転機が訪れるのが1970年代の2度のオイルショックです。これを機に不安定な中東の政情や紛争などによる価格変動や石油需給量の変化に備えて、国を挙げての石油備蓄のニーズが高まり、基地内のタンクを国に貸与する国家備蓄が始まります。現在は21基約260万Kℓ(日本の供給量の約一週間分)を国家備蓄に賃貸し、この内、産油国共同備蓄プロジェクトとしてアラブ首長国連邦(UAE)へ6基100万Kℓ政府支援の下賃貸されています。このUAE備蓄分ついては、緊急時に優先的に日本へ供給される取り決めになっています。

概要説明の後、バスに乗って構内を見学しました。敷地内には、地震や台風にびくともしないという巨大タンクが林立しています。15万Kℓクラスの原油タンク24基、10万Kℓクラス30基、5万Kℓクラス3基の合計57基。高さ23m、直径100mの最大15万Kℓタンク1基で、普通乗用車の約330万台分を満タンにすることができるそうです。すべてのタンクの屋根は浮屋根式で、貯油量によって屋根が上下する仕組みになっていて、臭いの発生や火災の原因となるガスの発生を防ぐことができます。側板は強固で、上部はウインドガーダーというリングで補強され、強風などに耐える設計になっています。また火災に対する冷却散水設備や泡消火装置、漏油検知器や二重の防油堤そして大型化学高所放水車の約21台分の放水能力を持つ大容量泡放射システムなど、万一の災害においても周辺地域の安全を確保するための防災対策が進められていました。

海側に移動すると基地自慢のシーバース(桟橋)が見えてきます。50万トン級の超大型タンカーが接岸できる桟橋は、安全性を考慮し、秒速20cmで接岸しても十分な強度を有していますが、実際には、高度な操船技術により秒速3cm程度のゆっくりした速度で接岸しているそうです。消防艇の役割も担った基地所有のタグボートでタンカーが安全に着岸すると、海底に沈んでいた浮沈式オイルフェンスが浮上し、タンカーの周囲を囲み、万一の漏油事故に備えます。タンカー内の原油はリモートコントロールで操作されるローディングアームで陸上配管と接続された後、国内最大級の60インチ(152cm)もあるパイプラインを経由し原油タンクへと輸送されます。基地内に張り巡らされたパイプラインは総延長37kmにもなるそうです。

さらに敷地の奥に進むと、タンカー排出ガス処理設備があります。この設備は、タンカーから排出されたガスを原油に吸収し、その回収されたエネルギーを再利用すると同時に臭気成分を分解することで臭いを除去するという日本初のシステムだそうです。また隣には5段階にわたる処理で、わずかな油漏れも見逃さないという排水処理設備があり、環境保全のためのさまざまな取り組みがされていました。


設備のプロセス概要


最後に訪れたのは基地の心臓部、コントロールハウスです。原油タンクのバルブ開閉・原油出荷ポンプの始動をボタンひとつでコントロールがきるそうで、最新のコンピューターが365日24時間稼働し、8人4班体制で管理しています。すべてのタンクの状況がディスプレイに表示され、異常事態に対しても迅速な対応が可能となっています。

敷地内で感じたのは、油の匂いもなくとても静寂な空間だということです。あちらこちらに桜の花が咲いた敷地には、景観にとけ込む薄緑色のタンクが整然とたたずんでいました。

時代のニーズに合わせ、進化する基地のありよう

1990年代になると、原油価格の上昇により国内の石油需要が減り始め、超大型タンカーによる輸送コスト削減のメリットがなくなり、製油所によっては中継基地を経由せず直接輸入することも可能になってきます。そこで喜入基地は、製油所の要望に対応しさまざまな原油のブレンドで応えることで、新たな活路を見いだします。たくさんのタンクがあるメリットを生かし、最近ではロシアや西アフリカなどからも、多種多様な性質の異なる原油を受け入れ、タイプ別に管理しています。新たに価格の安い原油を求め、成分を分析し、コストパフォーマンスの高い油をブレンド技術によって生み出していくのです。さまざまな製油所のニーズにこたえるために、今日も喜入基地では、トライ&チャレンジの精神で、ブレンドの試行錯誤が繰り返されています。東日本大震災以降、火力発電用の需要が増え、環境にやさしい原油を製品として、2013年度実績で292隻、計153万Kℓを電力会社向けに出荷したそうです。

見学後の丸岡所長と神津代表、石窪氏との意見交換では、まず神津代表の「構内を見学させていただいて、静かに整然としているように感じた」との感想に、丸岡所長は「騒音基準値には相当気を使っていて、音のする物や周りに迷惑をかける物は、海側の生活圏から離れた所に置くなどの工夫で、今は騒音に関してはクレームゼロです」と話されました。また地元有識者として基地の懇話会メンバーでもある石窪氏からは「他での事故や事象に対して、迅速に情報収集し、決して他人事としない真摯な対応を取っていることをいつも報告頂く中で感じ、それが安心につながっている」との意見も出されました。

地元との共生という点では、地元の官庁はじめ協力会社さんとは、腹を割って話せるいわゆるパートナーシップという関係を長い間をかけて築き、その中でいろいろなアイディアをお互いが生み出していけるような、そんな関係が築けているとのことでした。

「これからの基地のありようはどう変わると思いますか?」との神津代表からの質問には、丸岡所長が「今後は我々喜入基地でしかできないような、いわゆるアディショナルにできるサービスというのをつくっていきたい。ブレンド技術で、性質の悪い原油でも混ぜれば有効に使える。その結果コストを下げて製品が作れる。日本全国の製油所などでそのメリットを生かし、この喜入基地を上手に使っていただけるようになればと。また日本のエネルギー事情に24時間体制で即応できる喜入のメリットをさらに生かすためには、ここに居る人間が『こういう事ができますよ』ともっと積極的にアピールしていかなければならない。」と熱く語られました。そして最後に、地元喜入出身の丸岡所長の「事故だけは絶対におこせない。一番大切なのは事故をおこさないこと」との言葉は、何よりも心に響きました。

錦江湾の青い海と雄大な桜島、美しい自然あふれる鹿児島の地元、そして石油の安定供給を守り続けるというJX日鉱日石石油基地の使命を、一人一人の所員の方々が胸に秘め、熱い思いで行動されているのを肌で感じた視察となりました。

視察を終えて

石油備蓄基地は、時代の変化のなかでその時々の多様なニーズに応えその役割を果たしてきた。
かつては、右肩上がりの旺盛な石油需要に対して、大量に輸入する原油の貯油機能を集約化し製油所への中継基地としての機能を担った。そして今は、需要は低迷しているものの、産出国の不安定な政情や国際的紛争による「油断」への備えや、災害、事故トラブルなどによる供給不足への備えとして欠かすことができない存在だ。 また、アブダビ国営石油会社との共同備蓄プロジェクトなど、産油国との信頼関係と相互メリットを視野においた国際的取り組みをも進めている。
さらに、さまざまな油種の原油を各製油所のニーズに合わせてブレンドしたうえで送り届けるという新たな付加価値をも生み出しているのだ。
備蓄という基本的な機能を担いながら、供給途絶への備え、産油国との連携、ブレンド技術の高度化など、多様化するニーズに応えている喜入基地は、じっと佇んでいる単なる石油のストックヤードではない。その姿は実は……戦略的である。

神津 カンナ

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