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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

中国地域<①隠岐諸島編> 見学レポート
隠岐諸島で実証中の「隠岐ハイブリッドプロジェクト」とは

電力事情は、地域 により大きく変わります。今回は2018年9月18日から2日間にわたり、鳥取・島根・岡山・広島・山口の5県(島しょ部含む)などに 電気を供給する中国電力の 施設を見学させていただきました。 1日目、神津カンナ氏(ETT代表)は、再生可能エネルギーを導入拡大し、エコアイランド化を目指す隠岐諸島へ。日本初のハイブリッド蓄電池システムを構築し、出力変動分を調整して電気の品質を保つ実証事業が進行中の「隠岐ハイブリッドプロジェクト」を、自然を体感しながら学びました。

 

潮風を生かした風力発電、島に適した内燃力(ディーゼル)発電

島根県の北東、40〜80kmの日本海に浮かぶ隠岐は、島民が住む4つの大きな島と、他の約180の小島から成る諸島です。最も大きな円形の島が、「島後(どうご)」(隠岐の島町)。西ノ島(西ノ島町)・中ノ島(海士町)・知夫里島(知夫村)の3島を合わせて「島前(どうぜん)」と呼びます。総面積は350km2、人口は約20,000人で、主産業は漁業・農林業と観光。絶景が広がる大自然、独自の生態系と文化から「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」にも認定されています。

隠岐諸島は本土と送電線がつながっていないため、電力は島内でまかなうしかありません。島前—島後を海底ケーブルでつなぎ、内燃力発電を行う西郷発電所(島後)と黒木発電所(島前)を中心に2カ所の水力発電所、県営の風力発電所、住宅用の太陽光発電などの設備でつくった電気を隠岐諸島全体に供給しています。

1日目の午前中は、島後の隠岐空港から車で40分、県営の「隠岐大峯山(おおみねさん)風力発電所」の見学からスタート。車を降りて緑一面ののどかな草原を上っていくと、豊かな風景が広がり、そこには放牧された牛や馬が草を食べている姿が見えました。山頂に着くと2基の風力発電機があり、周囲を取り囲む大海原からの潮風を受け、青空に白いブレードを回転させていました。当初、風太・風花・風丸と名付けられた3基の発電機があったそうですが、落雷などで故障が頻発して思うように発電できない中、新たに主要な機器が故障し採算が合わなくなった 1基を廃止撤去。最大出力は1,200kW(600kW×2基)で、標準家庭約720世帯分の発電能力があります。隠岐諸島ではこのほか、ESS(エネルギア・ソリューション・アンド・サービス:中国電力グループ)が中ノ島に海士風力発電所(1,990kW)を2018年2月から運転開始。さらに太陽光発電では、公募した発電事業者による旧隠岐空港メガソーラー(1,500kW×2基)が2015年に運転を開始し、既連系申込分メガソーラー約2,000kW、住宅太陽光発電増加分約500kWも新設。隠岐諸島の年間最小需要約10,000kWを上回る合計約11,000kWの再エネ受入を目指し、エコアイランド化を推進しています。

次に、内燃力発電の「西郷発電所」へ移動しました。内燃力発電は重油を燃料として内燃力機関(ディーゼル・エンジン)を動かし、接続している発電機を回して発電します。運転と停止が容易で、電力需要の変化に対応しやすく、発電設備もコンパクトで保守点検も容易であるため、島の発電所に適しているのです。西郷発電所は昭和51年(1976年)に運転を開始し 、出力は25,320kW。1983年に島前の黒木発電所(内燃力)と海底ケーブルがつながる前は、島前—島後で電気を融通できず、それぞれで島内の電気をまかなっていたそうです。6台の発電設備を備えた、それほど大きくない施設に入ると、1号機の内燃力機関が大きな音を響かせていました。職員の方は見当たりません。聞くと、「2009年から無人化され、運転制御・監視・保守は全て、松江制御所で集中管理しています」とのこと。外に出ると、発電設備に隣接していくつもの重油タンクが並んで置かれています。島で長く使われてきた内燃力発電、その取り扱いの容易さが垣間見えました。

“離島に導入拡大される再エネ。発電量の変動調整のため、システムを構築

午後は高速船で島前の西ノ島へ。別府港第2ターミナルビル2階の「隠岐ハイブリッドプロジェクト」PRホールで説明ビデオを見て、主旨や概要を学びました。天候や昼夜により発電量が大きく変動する再エネが増え過ぎると、需要と供給のバランスを保つのが難しくなる→周波数が乱れる→最悪の場合は停電が発生する事態になります。ほかの地域では揚水発電を利用して、余剰分を何とか吸収している様子も以前見学しましたが、電力の使用規模が小さな離島で、より多くの再エネを導入するためには「①自然条件の変化による発電量の変動を調整する対策」と「②昼間の余った電気を夜間に利用する対策」が必要なのです。中国電力では、環境省が公募した「平成26年度離島の再生可能エネルギー導入促進のための蓄電池実証実験」に応募し、採択され、2015年9月から3年半をかけて実証事業に取り組んでいます。

本プロジェクトが画期的なのは、特性の異なる2種類の蓄電池を組み合わせ、必要に応じて電気を貯め、放電するシステムを構築した点にあります。自然条件の変化による再エネ発電量の「速く小さな変動対策」には、小容量・高出力のリチウムイオン電池。昼間の余剰電力の吸収など「遅く大きな変動対策」には、大容量のNAS(ナトリウム・硫黄)電池。2つの異なる蓄電池を「協調制御」した日本初の取り組みにより、既存の約3,000kW→約11,000kWへと再エネの大幅な導入拡大が可能になるそうです。 このハイブリッドでは①諸島内の電力の供給安定性の向上、②地球環境負荷の低減(内燃力発電の発電量を軽減し、年間約1万トンのCO2削減)、③地域の活性化(視察による来島者の増加)、④蓄電池技術の他地域(国内外の離島)での活用の、4つの効果が期待されています。

付け加えて中国電力の担当の方が「再エネの発電量の変動に対し、内燃力発電の調整だけでは追いつかないのです。特に電力需要が少ない春と秋は、再エネの発電量の余剰分を、内燃力発電を絞って吸収するには限界があります。そこで蓄電池を導入しましたが、実証実験では導入以前よりも周波数が安定しているデータが得られています」と教えてくださいました。


隠岐ハイブリッドプロジェクト

別府港から10分ほど歩き、本プロジェクトのため新設された西ノ島変電所に到着。のどかな風景に、ごく自然に置かれた施設でした。入口に設置された音声付き案内板では、現在の諸島内の電気使用量、総発電量(再エネによる発電量/NAS・リチウムイオン電池の充放電量)がリアルタイムでデジタル表示され、今の電気の流れが一目でわかるしくみに感心しました。案内板を見ながら、担当の方がいろいろな質問に答えてくださいました。

「蓄電池の充放電の振り分けは?」との問いには「そこの制御室で、ハイブリッドシステムの頭脳と言えるEMS(エネルギー・マネジメント・システム)が24時間計算し、指示を出しています」。EMSは隠岐諸島内の電気の使用量と再エネの発電量を予測し、蓄電池による充放電と、電源のベースを担う内燃力発電機の発電量を監視・制御するソフトなのだそうです。また、導入後のコストについて伺うと、「現在は内燃力発電の燃料費がかなり負担になっているため、太陽光発電を増やすとその分、燃料費を抑えられると考えています」。また、蓄電池のバッテリーの交換時期も、「通常はリチウムイオン電池が10年、NAS電池が15年のところ、20年は使えるように運用の工夫をしています」。年間約1万トンを見込むCO2削減量について伺うと、「昨年度は3,000トン超でしたが、今後再エネが導入されるとさらに増えると見込んでいます」。一方、NAS電池は約300℃の高温を保持するためにヒーターが必要なので、その分CO2削減量が少なくなる 一面もあるようです。

“日本初!ハイブリッド蓄電池システムを設置した、西ノ島変電所

ふだんは一般の立ち入りができない変電所内部に、特別に案内していただきました。500kWユニット×4セット(計2,000kW)で構成されたリチウムイオン電池設備の1つの扉を開けた途端、冷たい空気がふわっと顔をなでました。リチウムイオン電池は熱くなるため、空気を冷やして格納していると聞き、納得しました。奥に、リチウムイオン電池を格納する仕切り板の役目をするアクリル板が見えました。隣接するリチウムイオン電池用PCS(直流・交流変換装置)の扉を開けると、こちらはすごい騒音。盤の中に、電力を家庭などの環境で使用できるように直流を交流に変換する装置が入っているのだそうです。その隣には、蓄電池を22kVの送電線に接続するための変圧器などを揃えた、連系設備がありました。

向き合うように反対側には、1,200kWユニット×2セットと1,800kWユニット×1セット(計4,200kW)で構成されたNAS電池設備が並んでいます。その1つの扉を開けると、NAS電池が格納されている銀色の箱が、パズルのように隙間なくぎっしり積み上げられていました。「触っても大丈夫ですよ」と、担当の方が手で箱に触れました。4年前に沖縄 宮古島メガソーラー実証研究設備で見た、背丈よりも大きかったNAS電池設備と比べると、ずいぶんコンパクトになったことに驚かされ、「こんなに小さくなったの?進化してる!」の声が飛び交い、技術の進歩を感じずにはいられませんでした。

最後に、制御室に入りました。モニターが並び、さまざまなリアルデータが表示されています。通常は無人で、これと全く同じ子機が、島後、松江制御所、山陰電力所にも設置され、隠岐諸島全体の需給運用を実施しているとのこと。モニター画面を見ると、当日は太陽光発電が朝6時から立ち上がり、最大1,500kWまで発電。天候が悪くなった昼から発電量が落ち、NAS電池が対応して放電した様子が記録されていました。画面下の周波数を見ると、60ヘルツで安定しています。また、驚いたのは風力発電の変動を示す、激しいギザギザです。これだけ変動が大きいと対応が大変だろうと想像できました。

人口も電力需要も少ない小さな離島でも、安定かつ経済的に電気を届けるためには、やはり、それぞれの発電方式の特性を生かし、組み合わせる「エネルギーミックス」が必要なのだと、本プロジェクトを通して学び、1日目を終えました。

<②島根原子力発電所編に続く>

視察を終えて

隠岐は驚くほど自然豊かな島である。そして多くの景勝地が昔の姿のままに残されていて、まさに「ジオパーク」である。景勝地の一つ、摩天崖の上から一望したとき、私は言葉を失った。すばらしい。風力発電所も観光スポットの摩天崖も、そこに辿り着くまでの道は自然の放牧場。そこかしこに牛や馬が放たれ、彼らに挨拶しながら歩いて行くのだ。摩天崖でふと気づいた。そこには音もなく、売店もない。電気が来ていないのだ!電気がないゆえの自然の静けさと安らぎに抱かれて、風や波や木の葉が擦り合う音を聞き、私は不思議な感覚を味わった。いかに私は普段、電気のある世界にどっぷり浸かって暮らしているのか、思い知った気がした。
いま隠岐の島では、風力や太陽光の再生可能エネルギーを拡大導入しつつ、安定的に電気を送り続けるためにはどうするべきかと、さまざまなことに取り組んでいる。その一つである「ハイブリッド蓄電システム」の実証実験施設を視察し詳しい説明を聞いたが、安定供給のためには、蓄電技術はもとより、需給バランスを調整するシステムによって系統全体の電気の流れをコントロールする仕組みが不可欠だということがよくわかった。そして、このような再生可能エネルギーの大量導入を可能にする取り組みは、日本列島という島国自体がこれから向き合っていくべき重要な課題であることを痛感した。隠岐の島での取り組みは、実は日本列島全体の縮図なのだ。

神津 カンナ

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