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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

新宿新都心地域見学レポート 快適な都市生活を支える、ガスによるエネルギー供給システム

私たちは暮らしの中で、ガスや電気をいつでも使えることをあたり前に感じ、またガスはガス管を、電気は電線をつなげて供給されていることもあまり意識することなく生活しています。実は都市ガスを燃料にしてつくられる電気を蒸気と冷水とともに供給するシステムが、広大な地域でネットワーク化され、都市部の快適な空間を生み出していることを、知っている人は少ないのではないでしょうか。2013年2月1日、ETTのメンバーは、新宿新都心地域を訪れ、都市ガスを燃料にして電気と熱の二つのエネルギーを同時に取り出す、コージェネレーションシステムについて学び、見学しました。

エネルギー安定供給に貢献する都市ガス事業

初めに、「都市ガス事業の現状と今後の取り組み エネルギー環境分野における課題解決への貢献」というテーマで、日本ガス協会にお話を伺いました。都市ガス事業の歴史は明治時代のガス灯、つまり照明用から始まり、調理用や暖房用、給湯用といった用途で使用されるようになって発展し、現在では日本全国に供給されています。パイプライン網の敷設しやすい東京、名古屋、大阪といった都市圏への供給を得意としており、かつては家庭用が需要の大半を占めていましたが、現在では、たとえば金属を溶かすための工業炉や生産過程で使用する蒸気を生み出すボイラなど、産業用が販売量の半分を占めるようになったそうです。また都市ガスの原料はかつて石炭・石油でしたが、現在ではほとんどが天然ガスで、資源国からLNG(液化天然ガス)としてタンカーで日本に運ばれ貯蔵されています。そしてこの天然ガスは、都市ガス事業よりも、火力発電所などの電気事業で使用されている方が2倍も多いそうです。

日本ガス協会では、日本の一次エネルギーシェアにおいて、天然ガスの占める割合は欧米と比較して低く、安全性、安定供給、環境適合、経済効率性の観点から、化石燃料の有効活用を図りつつ、「天然ガスシフト」の推進が必要だとしています。そして、「天然ガスシフト」を進めるための課題として、大きく三つを掲げ、実現に向け取り組んでいるそうです。、一つ目は、省エネやエネルギーの安定供給におけるガスの貢献、二つ目は天然ガスを供給するための設備の整備と強化、三つ目はLNGの安定的な調達と価格の低廉化です。一つ目については、東日本大震災以前から、夏場の電気不足にガスが貢献できないかという考えがあり、そのためにガスによる空調設備や家庭用燃料電池、業務用にはコージェネレーションといった開発が進められてきました。原料の天然ガスは、石油・石炭と比較するとCO2排出が少ないため、環境にも利点があります。燃料電池については、内需拡大はもとより、高い技術力を海外市場へのアピールポイントにした販売増の結果、大量生産によるコストダウンも図れるのではないかということでした。またコージェネレーションは、病院などの防災拠点におけるバックアップ電源にもなるため注目されています。

二つ目については、これまでも取り組んできたマイコンメーター(自動遮断機能付)の普及や耐震性の高いガス管への入れ替えを促進しているということです。また、震災後の都市ガス事業者の皆さんは、津波対策を徹底する取り組みをしながら、天然ガスパイプラインのネットワークを整備し、より安定的に供給するために、新たな幹線パイプラインの敷設も計画、建設中ということです。

三つ目については、まず天然ガスの埋蔵量が問題になりますが、アメリカのシェールガスなど非在来型資源のガスを合わせると、可採埋蔵量は約230年分あるそうです。しかし、LNG価格は原油価格にリンクしているため、80 年代後半からおよそ20年は比較的安定していたものの、近年は新興国の需要増や不安定な中東情勢などによる原油価格上昇の影響から高騰しています。そのため調達先は中東に限らず、ブルネイ、マレーシア、オーストラリア、今後はアメリカ、カナダからの輸入を強化する予定で、調達先の分散化により価格交渉も優位になってきます。一方では、原油価格に連動しないLNG独自の新価格体系も模索していきたいとのことでした。

続いて見学した東京ガス新宿ショールームには、見慣れたガス調理器具もあれば、新しい機能を持ったさまざまな種類の暖房器具などもあり、最新のガスによる熱源機械やマイホーム発電のための設備について、スタッフの説明を伺いながら実際に見て触ることで、快適な暮らしと省エネでエコな暮らしの両立ができると納得しました。

新宿新都心地下に広がる、環境に配慮した高効率のコージェネ

新宿地域冷暖房センター(以降、新宿地冷センター)は、冷暖房のための蒸気と冷水を供給する日本最大の地冷センターとして、淀橋浄水場移転後の1971年に東京ガスによって開設されました。20年後の1991年には、東京都庁の移転などに伴うエネルギー増大のため供給能力を増やし、現在の供給区域面積は33.2ha、供給対象ビルは22棟、そのうち超高層ビルは15棟あり、供給延床面積220万㎡と、世界最大級です。現在の運営は、東京ガスの100%出資子会社のエネルギーアドバンスが担当されており、見学の前に概要説明をいただきました。新宿地冷センターは、都市ガスを一次エネルギー、つまり燃料として、電気と熱を両方取り出すコージェネレーションシステムになっており、中央監視制御により各ビルへの供給量は負荷変動に対応して無駄なく調節されています。たとえば火力発電所で一次エネルギーのうち有効電力として使用されるのは約35%、残り約65%は廃棄してしまうところを、このシステムでは発電で約28%回収、廃熱でも約42%回収、つまりエネルギーロスは約30%にとどまります。そのため資源の節減やCO2の減少、また電力ピークカットといった利点があるということです。

2組のコージェネレーションシステムは、都市ガスを燃料とするガスタービンで発電し、発電時に出た廃熱をボイラーで蒸気にしたものを熱源として、冷暖房のどちらにも使っています。電力については、1号機による発電4,500kWは新宿パークタワーへ供給、2号機による発電4,000kWはこれまで地冷センターの設備用として消費されていましたが、電源の多元化と電力供給の安定性を向上したいという都からの要請によって、2012年12月より3,000kWを都庁舎に供給しています。

廃熱と水管式ボイラーで発生させた蒸気は、暖房・給湯用には温度と圧力を下げて供給し、加熱能力は17.3万kWあります。またこの蒸気を熱源とする吸収式冷凍機と蒸気タービン・ターボ冷凍機とを組み合わせてつくられた冷水は、冷房用に供給しており、冷凍能力は20.7万kW、ちなみに家庭用エアコンに換算すると約8.9万台に相当するそうです。地冷センターが供給している各施設から戻ってきた水(12℃と90℃)が循環する効率のいいシステムが導入されており、地域の配管は冷水の往復、蒸気、還水の4管、総延長は8,000mにも及びます。オフィスや飲食店、ショップなどのほか、ホテルも3軒ある新都心では、年間を通して24時間、快適な冷暖房と給湯が求められています。

電気をつくるガスタービンは、発電効率が高く、地下設備のため小型軽量で、NOx(窒素化合物)低減技術に優れており、また温熱源と冷凍機の駆動源として使われるボイラーも、NOx排出量を低減化させる機種が選定されています。もともとは、都市における公害対策のために開発が進められたという地冷システムのメリットを三つ上げていただきました。一つは、各ビルにそれぞれエネルギー機器を設置することなく集約するため、大気汚染や公害防止といった環境に配慮した設備であること。二つ目は、廃熱を再利用し、大型化による高効率な方式で、かつ省エネ型の分散電源であること。そして最後は、煙突や冷却塔がなく景観がすっきりと改善され、屋上など熱源設備用のスペースを有効利用でき、しかも24時間安定供給されるので個別の設備管理がいらない利便性がビル側にもあるということです。都市や施設などの、新規または再開発時に敷設され、現在では日本各地で81社、139カ所で稼働しているというお話でした。

この地域の配管が実際にどうなっているのか見るために、地下の洞道内を訪れました。直径5mほどの洞道の左右に直径約1.5mの冷水管の行きと帰りが並び、中央には作業員が点検できるようにスペースがあいており、上部には蒸気管、還水管が並んでいます。ここは安定した地盤の上に立てられていますが、各管は地震もしくは水滴による腐食にも強い素材が使用されています。想像したよりもコンパクトなボイラーやガスタービン、そして中央管理室を見学しながら、私たちが快適に活動できる都市は、目に見えないところでしっかり支えられていることを実感する貴重な機会になりました。

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