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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

中国地域<②島根原子力発電所編>見学レポート
再稼働に向け安全対策に力を尽くす、中国電力島根原子力発電所

鳥取・島根・岡山・広島・山口の5県(島しょ部含む)などに電気を供給する、中国電力。隠岐諸島で再生可能エネルギーの大幅導入に対応する実証プロジェクトを見学した翌日の2018年9月19日、神津カンナ氏(ETT代表)は島根原子力発電所(松江市)を訪問。地域が抱える電力事情や、1〜3号機それぞれの現状などを教えていただくとともに、まだ燃料を装荷していない3号機の原子炉格納容器内に入って見学する貴重な機会も設けていただきました。

 

島根原子力発電所の停止後、火力発電に9割依存する中国地域

宍道湖岸に位置する“水の都”松江市の中心部から車で約20分。島根原子力発電所は日本海を臨むリアス式海岸に面し、残る三方を緑の山に囲まれた風光明媚な地にあります。発電所を見学する前に、海抜150mの高さに位置し、日本海や宍道湖を一望できる見晴らしの良い場所に建つ島根原子力館へ行き、発電所について説明を受けました。

中国電力の供給設備には現在、山陰側に島根原子力発電所と三隅発電所(石炭火力)、瀬戸内工業地域が広がる山陽側には火力発電所(8カ所)や太陽光発電所(2カ所)などがあります。震災以降2017年度の数値で、全国で使用される電力の約8割が火力発電に依存する中、中国電力ではすでに約9割にまで達しており、火力発電の比率の高さが際立っています。

島根原子力発電所の現状

島根原子力発電所は日本で唯一、県庁所在地にある原子力発電所です。1号機(46万kW、沸騰水型[BWR])は1974年3月、国産第1号として運転開始。15年後の1989年2月には2号機(82万kW、沸騰水型[BWR])が運転を開始し、現在、3号機(137.3万kW、改良沸騰水型[ABWR])が建設中。運転開始時期に間隔があいているためそれぞれの状況も異なり、1号機は運転開始から約41年経過した2015年3月に廃止を決定し、現在、廃炉作業を進めています。

2号機は、定期検査のため2012年に停止。東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け策定された新規制基準に対応するため、2013年に国へ適合性審査を申請し、現在、国の審査を受けるとともに安全対策工事を進めています。最高水位評価11.6mの津波に対し、海抜15mの防波壁で敷地の海側全域を囲む工事を完了。万が一、津波が越えても、建物の内外に水密扉を多重に設置し、重要設備への浸水を防ぎます。また、電源や冷却機能も多重化。さらに重大事故発生時の対応の拠点となる緊急時対策所や、放射性物質の放出量を低減させるフィルタ付ベント設備なども新たに設置します。

建設中の3号機は、2011年の東日本大震災発生時には完成の一歩手前でしたが、新規制基準への対応のため運転開始時期を見直しました。2018年8月に国へ新規制基準への適合性審査を申請し、現在、国の審査を受けるとともに、安全対策工事を進めています。

家族で楽しめる充実の原子力館

一連の説明を受けた後、原子力館内を見学して回りました。中には小さい子どもがハンドルを回して発電のしくみを学べるコーナーや、3号機の模型を使って原子力発電のしくみを上映するエネルギーシアターなども。また、安全対策については映像やジオラマのほか、1/20スケールの防波堤では、断面模型を用いて地下10mの岩盤まで杭を打ち込んである様子を示すなど、目に見えない所までわかるしくみになっており、思わず足を止めて見入ってしまいました。このほか、2号機の原子炉格納容器の一部を実物大に再現した展示では、実際に使われている直径51mmの太い鉄筋を手に取り、重さを実感できるなど、随所にわかりやすい説明がされています。女性のガイドさんの解説も的確で、子どもから大人まで楽しく学べる工夫が満載されていることに、ひとしきり感心しました。さらには、地元の商品販売や軽食など、商工会議所が運営している施設も併設するなどの工夫が凝らされ、見晴らしとともに、家族連れで一日中楽しめるスポットだと実感しました。


“新規制基準に対応する安全対策設備の造成で山を削り、新たな敷地を確保

原子力館を出て、バスで約10分の発電所へと向かいました。車が走るとすぐ、土砂が積み上げられた一角が目に入ります。「厳しい新規制基準に対応するべく、緊急時対策所などさまざまな安全対策設備を設置する計画ですが、三方を山に囲まれた平地が少ない島根原子力発電所では山を削って敷地を造成しなくてはなりません。その工事で出る土砂を捨てるための敷地確保に苦慮しています」とのこと。追加で安全対策設備をつくるためには、さらなる敷地造成工事が必要となってしまうそうです。

“いよいよ3号機の中へ!!

発電所構内にバスで入ると、正面には1、2号機と、中国電力の社員、約530名が勤務する建物が見えます。現在、協力会社と合わせると、約3、200名もの大勢の方々が発電所構内で働いているとのこと。さらに進み、5年前に設置を終えた海抜15mの高さの防波壁の横を通り、3号機の前でバスを降りました。建物外側の鉄製の防水扉は、万が一の津波の襲来に備えて震災後に設置したものだそうです。

3号機の改良型沸騰水型原子炉は、国・メーカー・電力会社が共同開発。鉄筋コンクリート製の原子炉格納容器などの最新技術を採用し、安全性・信頼性の一層の向上を図っているとのことですが、実際はどのようになっているのでしょうか?安全のためにヘルメットをかぶり、中へ入ります。現在、建物内には新品の燃料872体がすでに搬入されていますが、まだ原子炉に装荷しておらず核分裂反応も起きていないため、放射線の放出はありません。そのため、試運転が始まると人の立ち入りを制限する「放射線管理区域」となる場所まで、今回は入域を許可されました。社員の方ですら、生体認証など何重もの本人確認をしないと入れないとのことです。


3号機【改良型沸騰水型原子炉(ABWR)】の構造


コンクリートの壁や天井に銀色の配管が何本も通る通路を歩き、地下に降りると、ここにも水密扉が設置されていました。当初は防火扉だけでしたが、電力設備が浸水した福島第一原子力発電所の事故を受け、後から水密扉を追加設置したそうです。また、別の場所では、水密扉を一つ開けると、その奥にまた一つ水密扉がありました。何重もの水密扉が奥の方まで間隔をあけてずらりと設置されている様子は、まるで入れ子人形のマトリョーシカのようでした。これらの水密扉は銀行の金庫と同じメーカーのものとのこと。外部からだけでなく、建物中の配管が壊れて水害をおよぼす「内部溢水(ないぶいっすい)」防止の意味でも、水密扉は重要な安全対策となるそうです。

再び通路を歩き、中央制御室の前に着きました。改良沸騰水型原子炉の特長の一つとして、運転操作・監視のしやすさに優れた「改良型中央制御盤」の採用が挙げられます。運転員が目の前の大型表示盤で確認して、操作用ディスプレイでタッチパネル操作できるデジタル式です。見学用に設置された写真パネルを見ると、2号機の中央制御室はボタンやレバー式。その差は一目瞭然です。今はまだ設備はメーカーの所有で、中国電力に引き渡されていないため、制御室内にはメーカーの社員の方が、先々の運転に備えて調整を行っていました。

その後、蒸気タービンを見た後、原子炉建物の最上階に設置された見学ルームへ行きました。ガラス越しに大きな原子炉の上部や燃料プールが見えます。現在こちらの燃料プールには872体の使用前の燃料が貯蔵されているそうです。プールは12mの深さがあり、現在は水が入っていない状態ですが、運転開始後には水を張って、使用済燃料を移動させる際に、放射線を遮へいするために水中で移動させるそうです。また、最上階には福島第一原子力発電所の事故を踏まえた対策として、建物内の水素濃度を低減させるための装置も設置されていました。

いよいよ原子炉格納容器の中へと足を踏み入れます。格納容器は鉄筋コンクリート製で2mの厚さがあります。入口扉を通る際「これがまさに原子炉格納容器の厚みです」と、社員の方が両手を大きく広げました。扉は二重の気密構造で、放射性物質を外部に放出させないつくりになっています。格納容器の中は思ったより広く感じました。「作業上も広い方があらゆる面で良いので、全体の空間を広くとっているんです」と説明を受けました。次に格納容器内の圧力抑制プールへ移動しました。ここは原子炉の圧力が高くなった際にその圧力を逃がす設備で、その深さを見ると、足がすくむほどでした。 「改良沸騰水型原子炉は格納容器の形状が従来型とは違う」という説明がよくわかりました。

銀色にピカピカ光る真新しい階段をグルグルと下ると、なんと原子炉圧力容器の真下にたどり着きました。運転を開始すると、簡単には入れない所です。改良沸騰水型原子炉の特長の一つである、原子炉内蔵型再循環ポンプが圧力容器下部に取り付けられています。ポンプを原子炉圧力容器に内蔵することで、原子炉内の水を循環させる大口径の配管を無くすことができ、安全性を向上させているとのこと。また、炉心に制御棒を電動で出し入れしてウランの核分裂反応を制御する「改良型制御駆動機構」についても説明を受けました。

求められる「エネルギーミックス」を目指して

今回は、運転を開始すると簡単には入れない内部にまで足を踏み入れるという貴重な経験により、何重にも考慮された安全対策や、最新技術を使った設備の隅々まで見学できました。ベース電源を担う原子力発電。ここ中国地域において、来るべく稼働を目指して着実に工事が進められていました。 火力発電が約9割というアンバランスな状況から抜け出すには、それぞれの発電方式の特性を生かし、組み合わせる「エネルギーミックス」がやはり重要なのだと実感し、中国地域を後にしました。

視察を終えて

日本の電力会社としては美浜、福島第一に次いで三番目に開設した島根原子力発電所。ここはいま、大きな過渡期にあるようだ。
国産原子炉第1号の歴史がある1号機は40余年の稼働に終止符を打って廃止措置が決まり、2号機は安定したベース電源としてその出番を待ち続けている。また3号機は、燃料装荷前の段階で東日本大震災に遭遇しストップ。完成寸前で止まっている3号機は、普段は見ることができないのだが、稼働していない今は設備の隅々まで見学できるので、関係者に向けた最新鋭プラントの展示場のような任務も背負っている。
じっと止まっているその姿を見て私は、ふと世阿弥の「せぬ隙(ひま)の面白き」という言葉を思い出した。能の稽古では「謡は声を出している時ではなく、息継ぎの方が大事」、「仕舞は止まっている時間こそ重要」なのだという。「せぬ隙」とは雌伏の時である。飛ぶ鳥が飛翔する力をじっと溜めて、いつか空高く舞い上がる時を待っているのだ。展示場の裏側にはまさに「せぬ隙」を大事に温めている多くの人々、そしていつの日かの発電を担ったプラントそのものがあった。
今回の視察を終えて帰路についた時、島根原子力館で見た風景が甦った。展望コーナーからは目の前の島根原発、そして遠くに隠岐島も見渡せる。将来に向けて再生可能エネルギーの導入に取り組む離島のプロジェクト、かたや来るべく再稼働に備えて設備の安全対策に注力する大規模電源の原子力発電所。形は違うがどちらも電力の安定供給に懸命に取り組んでいるのだ。その二つの姿は、まさに日本の苦悩と可能性と、そして立ち向かう目標が何か……を教えていた。

神津 カンナ

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