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東海発電所・東海第二発電所見学レポート 原子力発電のパイオニアとして「廃止措置」に挑む

東日本大震災後に運転を停止している全国の原子力発電所は、再稼働に向けて着々と安全対策を進める一方、一部廃炉の選択をしています。すでに廃炉と決まった炉については、今後どのような廃止措置が行われていくのでしょうか? 2015年6月11日、神津カンナ氏(ETT代表)をはじめとするETTメンバーは放射性廃棄物や最終処分について東京で勉強会を開き、翌12日、商業用原子力発電所としては日本で初めての廃止措置に14年前から取り組んでいる日本原子力発電の「東海発電所」の現状を視察しました。

 

原子力の発祥の地で始まった、日本初の廃止措置

「廃止措置」とは、運転を終了した原子力発電所を安全に解体撤去し、跡地を有効利用できる状態に戻すこと。2015年6月現在、日本国内で57基ある原子力発電所のうち、すでに廃止措置工事中の日本原子力発電「東海発電所」および中部電力「浜岡原子力発電所1、2号機」の3基のほか、東京電力「福島第一原子力発電所」の6基、さらに日本原子力発電「敦賀発電所1号機」、関西電力「美浜発電所1、2号機」、中国電力「島根発電所1号機」、九州電力「玄海発電所1号機」の廃炉が決まっています。廃炉となる原子力発電所は今後さらに増えていくと考えられます。

「原子力の発祥の地」として海外にもその名を知られる茨城県東海村。東海発電所は日本初の商業用原子力発電所として1966年から32年にわたり運転を続けましたが、イギリスから輸入した国内唯一の炉型で出力が小さく、コストも割高なことから廃炉の対象となり、1998年に営業運転停止。2001年に使用済燃料の取り出しを完了し、廃止措置工事に着手しました。

視察会当日、午前中は発電所敷地内にある原子力館(東海テラパーク)にて、所員の方々から発電所の概要説明を受けました。「東海発電所の廃止措置計画」の廃止措置工事は、国の原子炉等規制法に基づいて行われ、最も放射能レベルが高い原子炉の領域は、放射能の減衰を待つ「安全貯蔵期間」が設けられています。その間は原子炉の周りにある巨大な熱交換器や、原子炉領域以外の解体撤去を順次進めているとのことです。

東海発電所の廃止措置に伴い発生する廃棄物は、約20万トン。そのうち、約65%は汚染されていない「一般の廃棄物」です。一方、原子炉施設の管理区域内から出る廃棄物は、「低レベル放射性廃棄物」(約14%)と、「クリアランス制度対象物:放射性物質として扱う必要のない廃棄物」(約21%)に分けられ、さらに低レベル放射性廃棄物は3つのレベルに分けて処理されます。


● 東海発電所の廃止措置に伴い発生する廃棄物


次に説明を受けたのは「東海第二発電所の使用済燃料乾式貯蔵施設」についてです。東海第二発電所は現在、新規制基準への適合性確認審査の申請中で、運転を停止しています。その敷地内に、使用済燃料を再処理するまでの間、安全に貯蔵管理する乾式貯蔵施設が設置されています。ここには「乾式キャスク」と呼ばれる全長5.7m×外径約2.4mの貯蔵容器が全部で24基、1基につき61体の燃料(計1464体)を収納でき、すでに現在15基(計915体)が収納済みです。原子炉から取り出した燃料は熱を持っているのでプールで7年程度冷やしてから、水中でキャスクに詰め、貯蔵施設に収納します。キャスクは3重構造で放射線を遮へいし、仮に表面に触れても線量は問題ないレベルです。また、貯蔵施設は外部から取り入れた空気の自然対流により冷却するしくみになっているので、万一電源がなくなっても冷却機能は失われないとのことでした。
この後、原子力館の展示ホールでは4分の1サイズのキャスクの模型を見ながら再び説明をしていただきました。その途中、クリアランス制度対象物を再利用したベンチやブロック(敷石)も見ることができました。


使用済燃料乾式貯蔵施設の概要図


試行錯誤と創意工夫で進む、廃止措置工事

いよいよ午後は4グループに分かれ、管理区域内の視察へ。構内をバスで走ると、元はイギリスで作られたという、珍しいピンク色のタービンのケーシングがモニュメントとして展示されているのが目に入りました。まず向かったのは、東海第二発電所の「使用済燃料乾式貯蔵施設」です。厳重な入場チェックを抜けると天井が高く、まるで体育館のよう。自然対流により冷却していると説明を受けた通り、天井を見上げると両側に排気口、足下の方には給気口があり、そばまで行くとヒンヤリした空気の流れを肌で感じました。奥に進むと、両側に整然と15基の燃料キャスクが設置。手で触ると60℃位だそうで、結構な熱がありました。一番奥に収納されている2001年から運用開始された分は、14年経過したことになりますが、最後に搬入された分とほとんど温度の差を感じませんでした。また、各所には温度計や圧力計やモニターが設置され、それらをつなぐケーブルが床や壁に整然と通っています。放射能レベルは、3.5マイクロシーベルト/時で安定しているとのことでした。

次に向かったのが、廃止措置工事中の東海発電所です。「クリアランス対象物測定エリア」では、コンテナに解体撤去物を載せ、MRI 検査のように専用測定器に通していく様子を見学。解体撤去物は厳重にナンバリングで管理され、万一の汚染防止のため、細かくビニール袋に入れられて運ばれて来ます。それを前後左右に何度も時間をかけて測定を行います。測定結果は赤・黄・緑ランプで表示されますが、今まで緑以外の結果は出たことがないとか。

次は約50年前に造られた「中央制御室」へ。今の時代では珍しい木のテーブルが置いてあり、パネルもレトロでまさに昭和のイメージ。ETTメンバーからは「ただ壊すのはもったいない。産業遺産として後世に残してほしい」との声が上がりました。

その後「遠隔切断装置操作室」へ。人間の関節のような機能を持つアームと磁石で操作し、原子炉の周りの熱交換器を切断します。熱交換器は高さ25m×直径6m、750トンもある巨大な鉄の固まり。スペースが無いので、強力なジャッキで上から吊り上げ、下から徐々に切断する工夫をしています。作業内容は設計図から工程を組み、コンピュータで入力するのにたいへんな苦労と時間がかかるそうですが「熱交換器は汚染レベルが低いので人が作業することもできるが、今後さらに放射能レベルが高い部分の解体工事を安全かつ合理的に行うための足がかりとして、あえて試験的に取り組んでいる」と、所員の方が話してくださいました。「なにしろ世界初の作業のため、トラブルや故障も起きるものの、いろいろな方法をトライしている。4基のうち1基はすでに解体撤去を終えたが、あと数年はかかるだろう」とのことで、気の遠くなるような作業だと驚きました。

最後に訪れたのは「タービン建屋」です。すでにタービンは撤去済みで、がらんとしており、東海第二発電所の定期検査等の作業置き場として活用されていました。この後、再び原子力館へ戻り、活発な質疑応答が行われました。

技術と経験を積んだ“廃止措置のパイオニア”へ

視察を終えたETTメンバーから出た「フランスやイギリスなど、世界で廃止措置が進んでいる国は?」との質問に、「海外でも商業炉の解体は本格的に進んでいない」と回答があったのは少し意外でした。だからこそ、ここ東海村で、試行錯誤、トライ&トライ、創意工夫を日々積み重ねているのでしょう。 「廃止措置の技術を所員自らが磨いて解体撤去を進めていかなければならない」 「海外で原子力を進める国に、廃止措置のノウハウで協力していきたい」 「これからは廃止措置技術のプラットフォーム会社を目指していく」 そう口々に目標を語る所員の方々には“廃止措置のパイオニア”としての誇りと気概があふれ、技術立国ニッポンの片鱗をかいま見た気がしました。今回はそのような熱い所員の方々のサポートにより、たいへん貴重な体験ができた有意義な視察会となりました。

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