特集

エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

中部電力東清水変電所見学レポート
異なる周波数の東西日本の電力を結ぶ重要なポイント

発電所でつくられた電気が、どのような経路で私たちの元まで届いているのか、日常生活で意識することは少ないと思います。2014年7月28日、神津カンナ氏(ETT代表)は、送電・配電系統の中でも電気の安定供給に欠かせない変電設備と、東西日本の電力融通に大きな役割を果たしている周波数変換設備を兼ね備えた中部電力東清水変電所を視察しました。

 

川内東清水変電所の二つの役割とは

東清水変電所は、東名高速の清水インターチェンジから車で約10分、敷地面積は17.1ヘクタール、標高300mの山の斜面に建設されています。見学に先立ち、所長から詳しく説明を受けました。東清水変電所の役割は大きく二つあり、一つは中部電力エリアの家庭や工場などに送電するための「変電」と、もう一つは「周波数変換」です。一つ目の役割である「変電」は、送電に効率のよい電圧に変換することです。火力、水力、原子力などの発電所でつくられる数千~2万ボルトの電気は、15万4千~50万ボルトという高電圧にして送電線に送り出されます。東清水のような超高圧変電所や、一次変電所で電圧を下げて一部は大工場などに送り、さらに配電用変電所、配電線、柱上変圧器そして引込線を通じ、段階的に適切な電圧に下げて家庭に届けられています。変電を繰り返して徐々に電圧を下げるのは、できる限り高い電圧で送電することで発熱による送電ロスを少なくするためです。送電ロスが少なくなれば、長距離の区間を効率的に送電することができます。


日本の電気は静岡県富士川と新潟県糸魚川を境にして、西日本は60Hz 、東日本は 50Hz というように周波数が異なります。西と東の間で電気の融通を行うには「周波数変換」が必要となり、それが東清水変電所の二つ目の役割です。電気の歴史の中で、1890年代初期の欧米では、16Hzから133Hzまで、さまざまな周波数が存在していましたが、低い周波数は電燈にちらつきが出たり、高い周波数では長距離送電で電圧降下が大きかったりと不都合が多かったため、当時の発電機やタービンなどに最適な50Hzと60Hzに統一されていきました。日本では明治時代に初めて大型の発電機を輸入する際に、西日本の大阪電灯がアメリカから60Hzの発電機を、東日本の東京電灯はドイツから50Hzのものを導入し、供給エリア拡大とともに電力ネットワークが成長、東日本の50Hz、西日本の60Hzと、二つの周波数があるという現在のかたちになっています。

シビアアクシデントを想定した機器などの整備はどこまで進んでいるか

およそ120年かけて形成された日本の電力ネットワークですが、東西の周波数の統一は、莫大な費用と年月が必要になるといった問題があり、実現しませんでした。この問題を解決するために存在するのが、異なる周波数を融通し合う東清水のような周波数変換設備(Frequency Converting Equipment:略FC)です。電気には交流と直流があり、周波数が異なる交流同士を直接、接続できないため、周波数変換で、交流→直流→交流にします。日本最初のFCは、1965年に電源開発によって静岡県で運転開始した佐久間FC(30万kW)で、77年には東京電力により長野県で新信濃1号FC(30万kW)、92年には新信濃2号FC(30万kW)が運用開始しました。さらに2006年、中部電力が東清水FCを部分的(10万kW)に運用開始し、東日本大震災をきっかけとした需給の逼迫を受けて緊急対策を行い、能力を13.5万kWに強化、2013年には、30万kWで本格的な運用を開始しました。その結果、東西の電力融通は120万kW(原子力発電所の発電機一基分の発電容量に相当)に達しています。今後、2020年度を目標に、変換能力90万kWの東京中部間連系変換所(仮称)を設け、合計容量210万kWにする計画も進められています。しかし、周波数変換能力の強化は容易ではなく、送電線をはじめとする送変電設備の増強や改修、その先にある電力ネットワーク全体への影響を考慮する必要があるとのことです。


FC以外にも、交流から直流に変換し直流のまま送電した先で交流にするというHVDC(高電圧直流送電システム)としては、津軽海峡の海底送電線で北海道と本州の電力系統をつなげた北本連系(電源開発)や、四国・徳島県と本州・和歌山県をつなげた紀伊水道連系(関西電力・四国電力)があります。また同じ周波数の系統を直流で連系する、BTB(Back to Back 背中合わせの意)というシステムでは、富山県南砺市に南福光連系所(中部電力・北陸電力)があります。現在、日本国内の交流直流変換設備は合計6カ所ありますが、沖縄を除く9つの電力会社による地域間の連系線を強化する取り組みに対して、国の助成が決定しています。

急峻な地形に作られた、電力の安定供給を守るための基地

FCでは、たとえば東の50Hzの電気を西の60Hzの地域へ送る場合は、50Hzの「サイリスタバルブ」(周波数変換装置)で直流にし、それを60Hzのサイリスタバルブで受けて直流から交流に変換します。西から東へ送る場合は、その逆の手順で行います。発電所でつくられる電気は、3つのタイミングの異なる電気をひと組にした「三相交流」と呼ばれる電気で、家庭では3本のうち2本を取り出しています。サイリスタは光信号を受けて電気を流す半導体で、サイリスタバルブは、三相交流から必要な電気の波を取り出し直流に(または直流から三相交流に)変換するスイッチの役目があります。私たちがサイリスタバルブの設置されている建屋に入った時、ちょうど轟音とともに周波数変換が始まりました。サイリスタバルブは高さが約6m あり、50Hz 用と 60Hz 用が相対して設置してあります。そのほかにも、サイリスタバルブから発生する高調波を吸収し電力系統に流れ出さないようにする装置である交流フィルターや、バルブの構成部品の予備品などを、説明を受けながら見学しました。


急峻な地形に作られた、電力の安定供給を守るための基地

東清水変電所では、13名の所員が2名1組昼夜交替で勤務しています。電力の融通には二種類あり、私たちが見学したような「通常融通」では、基幹給電制御所から翌日24時間分の融通予定電力量について30分刻みで48個書かれた指令を受け取り、システムプログラムに入力し、プログラムが自動的に融通量を調整します。指令はファックスで確認するというアナログな操作方法ですが、現在でも変更指令が一日に10回程度はあり、今後、電力システム改革により、現在の方法では対応不可能なほどタイトなスケジュールで変更指令が送られると予想され、基幹給電制御所などからの遠隔制御化が必須だとのことです。 「緊急融通」は、系統の周波数を常時監視しながら、大規模電源が脱落した場合などにおいて、周波数0.4Hz低下を検知すると、FCが自動的に起動し、わずか数秒の間に融通できます。東日本大震災では、当日緊急融通を担当していた新信濃1号FCと佐久間FCが動作したそうです。周波数は、発電と需要(負荷)のバランスで決まります。発電に対して需要が多いと周波数は低下し、逆に需要が少なければ周波数は上昇するのですが、負荷の変化に対応して発電機の出力を調整する必要があり、プラスマイナス0.2〜0.3Hz以内に収めるための細かい調整は、火力や大規模水力発電所が担っているとのことでした。

急峻な地形に作られた、電力の安定供給を守るための基地

屋外に出ると、通路沿いには、まったく同じに見える50Hzと60Hzの変換用変圧器などが整然と並んでおり、二種類の周波数の機器はそれぞれ同一メーカーに統一されているため、メーカー名を見ればどちらの周波数の機器か瞬時に判別できます。また、見上げると、高圧送電線をつないでいる鉄塔がそびえていますが、このような架空送電線は、悪天候時にも確実に電気を送れるよう工夫がされています。都市部では、ビルや地下などに変電所を設け、地中送電することで自然現象の影響を受けないメリットがある一方で、建設費が高いというデメリットもあります。架空送電線引き込みの東清水変電所では、急峻な地形であったため、切り崩した土と盛り土とのバランスを考慮しながら、地中に人工岩盤を入れるなど三段造成手法が取られたと建設時の苦労をうかがいました。また尾根に囲まれて市街地からはほとんど見えませんが、景観保護のために、敷地周辺には桜などの広葉樹を植栽し、敷地内の建屋などは自然に溶け込むアースカラーになっています。

国内の原子力発電が停止している現在、原子力発電比率が高かった西日本の電力会社では、年間を通じて東日本からの電力融通が増えています。所員の方は、「最も心がけているのは、電力の安定供給であり、故障などが発生した時には早期回復によって影響を最小限にとどめること」とおっしゃっていました。今後、電力システム改革に伴う発送電分離や電力自由化が実現されるようになれば、新規参入事業者による自然エネルギーの発電所建設増加などが想定されますが、複雑な電力系統の正確な知識と精確な運用と管理がなければ、安全で、安定した電気の供給ができないということを痛感した視察になりました。

視察を終えて

東清水変電所・周波数変換設備は、周囲の山々と同化した佇まいの中で、山合いに静かに鎮座していた。発電所のようにタービンやモーターの回転音が、にぎやかな設備ではなく、目立たず、静かに、そこにある。変電システムも周波数変換システムも安定供給に欠かせないものだが、日本のように電気の周波数が異なる二つのエリアが存在する国は世界の中でも極めてまれで、それだけに高度な周波数変換技術は貴重な財産。現地で説明を伺い、あらためてその重要性に気づけば気づくほど、黙々と仕事をする職員の方、そして、これまた黙々と仕事をする装置の存在に、ただただ畏敬の念を抱くだけだった。安定供給の要として東清水に代表される周波数変換設備は、日々、東西連系の重要な役割を担う、もの言わぬ働き者である。静かな佇まいの中で、その重要性を声高に叫んだり、しゃしゃり出たりはしないが、その目立たぬ静かな存在こそがエネルギー供給の土台なのだ。それらを気にも止めずに暮らしている自分たちのことを省みて、何だか私は立ちすくむばかりだった。

神津 カンナ

ページトップへ