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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

沖縄 宮古島メガソーラー実証研究設備視察レポート
離島という特異性を活用した発電システムの検証実験

日本各地では、地域によって電力事情は大きく異なっています。2014年9月12日、神津カンナ氏(ETT代表)は沖縄県宮古島を訪れ、あまり知る機会のない離島の電力事業と、既存の電力系統に太陽光発電を組み入れて安定化を図るまでの実証研究を視察しました。

 

離島における電力供給の問題とは

沖縄県は、東西1,000km、南北400kmもの広大な海域にある、約160もの島でできています。最も面積の大きい沖縄本島以外にも、37の有人の離島が点在しており、それらすべての島に電気を届けているのが沖縄電力です。沖縄本島から南西へ約300kmのところにあり、那覇から飛行機で約50分という、宮古島(みやこじま)にある沖縄電力宮古支店を訪れました。

宮古支店は、宮古島以外に、伊良部(いらぶ)、池間(いけま)、大神(おおがみ)、来間(くりま)、下池(しもじ)、多良間(たらま)、水納(みんな)の7つの島を管轄しています。合計人口約58,000人の地域の主な産業は、農業、漁業と観光業です。離島における電力設備の概略などのお話を所員の方に伺ったところ、沖縄の離島では、それぞれ独立系統の発電所が設置され、そこから周辺の離島へと、橋に添架されたケーブルや海底ケーブル(写真)で電気が送られています。発電所への燃料輸送やケーブル架設、また修繕のためなど、発送電にコストがかかり、こうした問題を改善するために、2002年に沖縄電力では社内組織として「離島カンパニー」を設立し、ユニバーサルサービスの維持を前提に、日々の業務における効率化を積み重ねつつ、離島の赤字改善に取り組んでいます。

宮古支店の販売電力量は約25,800万kWhあり、発電設備としては、重油を燃料として内燃力機関(ディーゼル・エンジン)を動かし発電する宮古発電所(19,000kW)と宮古第二発電所(55,000kW)、そして重油を燃料としてガスタービンによる発電の宮古ガスタービン発電所(15,000kW)があり、合計89,000kWの電気がつくられています。また多良間島にも内燃力発電の新多良間発電所(1,860kW)があります。宮古支店に近接する第二発電所を訪れ、中央制御室で電力系統の説明を伺いました。宮古支店管内は人口も少なく、中には現在、住民2人という水納島もあり、産業形態からいっても必要とされる電力量が少ないそうですが、従来の系統発電に加え、自然を生かした風力発電5基で4,200kw、メガソーラーによる発電で4,000kW、他にも一般企業、個人などによる太陽光発電が導入されています。


メガソーラー+蓄電池による出力変動、周波数変動抑制の可能性

再生可能エネルギーは、環境に優しいエネルギーとして注目されていますが、天候によって発電出力が変動するため、実は電力系統に大量に導入されると電気の質に影響を及ぼします。本来、発電所が出力を細かく調整することで需要と供給を同程度に維持し、その結果、周波数が一定に保たれ安定供給される仕組みになっているのですが、もともと電力需要が少ない宮古島では、一般家庭からの太陽光発電が増加し、風力発電と合わせて、通常のディーゼルによる発電系統に付加されることで、需要と供給のバランスの調整が非常に難しくなっているとのお話でした。

2009年の経産省資源エネルギー庁による「離島独立型系統新エネルギー導入実証事業」の補助を受け、沖縄電力では、宮古島・与那国島(よなぐにじま)・北大東島(きただいとうじま)・多良間島という四つの離島において、太陽光発電設備を導入することで、これまでの電力系統に与える影響を調査しながら、太陽光発電と蓄電池を組み合わせて、どのようにしたら電力系統が安定化するのか、研究を行っています。宮古第二発電所から、車で宮古島を南下すると、東南端に宮古島メガソーラー実証研究設備があります。敷地面積は約10万㎡と東京ドーム2個分にあたり、海岸沿いに約1kmにわたり総出力4,000kWの太陽光発電(PV)設備が設置されており、年間の発電量は一般家庭ならば約1,200世帯分の電気使用量に相当します。加えて、PVの出力変動や宮古島系統の周波数変動を抑制するための4,000kWの蓄電池(NaS電池)が設置されています。

宮古島メガソーラー実証研究設備で行われている研究は大きく分けて4つあります。「PV出力変動抑制効果の検証」、「周波数変動抑制効果の検証」、「PVのスケジュール運転の検証」、「模擬の配電線路における最適制御階層の検証」です。「PV出力変動抑制効果の検証」では、宮古島メガソーラーの出力変動が、NaS電池を充放電することで打ち消され、平滑化するという制御機能が確認されています。また、「周波数変動抑制効果の検証」では、宮古島メガソーラーの出力が変動することで起こる、周波数変動を、NaS電池の充放電で抑制するのみならず、島内にある他の再生可能エネルギーの出力変動起因とする周波数変動も抑制できるというお話でした。

「PVのスケジュール運転の検証」では、天候や気温などの気象予報によって、翌日のPVの発電量を予測し、あらかじめPVと蓄電池による発電計画を立てることで、PVをディーゼル発電機と同様に安定的かつ計画的な電源として活用できる可能性があることが確認されています。「模擬の配電線路における最適制御階層の検証」では、一般家庭100軒分や学校4軒分などにおける一日の電気の使い方をシミュレーションして、PVの出力変動を各家庭や変電所に設置した蓄電池で打ち消す模擬試験により、どのような影響があるのか、またPVが配電系統に大量導入された場合、適切な蓄電池設置場所はどこなのかを検証しているそうです。

系統の安定化以外にもある、再生可能エネルギー普及の課題

実際に蓄電池が高所まで配置された設備を見学しながら説明を伺うと、NaS電池=ナトリウム硫黄電池は、大容量化ができ、高出力で、かつ火力発電機では対応が遅い急激な出力変動を早く吸収して周波数制御ができるということでした。しかし、ナトリウムと硫黄を液体状態で使用するために、ヒーターを使って内部電池の温度を300℃程度に保持しなければならず、その運用のために消費電力が増えたり、建屋内も高温になるというデメリットもあります。その上、NaS電池を含め蓄電設備は高価なため、再生可能エネルギー導入に伴う系統安定化を目的とした導入は、電力会社独自の取組としては、厳しい状況であるともおっしゃっていました。

海岸沿いに並べられた太陽光パネルは、21,700枚あり、面積は約29,000㎡ にもなります。台風が頻繁に襲う宮古島なので、強風で倒れないように、パネルの設置角度は他地域より傾斜が低く5度になっています。また敷地内には、風力発電機2基がそびえていますが、メンテナンスが必要なため、高さ55mの内部を登って風車部まで点検に行かなくてはなりません。自然をエネルギーとして取り込むためには、自然と闘わなければならないことも実感しました。

再生可能エネルギーの利用を拡大していくために最優先される技術は、系統の安定化対策です。宮古島で行われた実証実験の結果を踏まえ、今後、国内の離島のみならず、海外への技術展開が望めるかもしれません。しかし、全国の平均的なメガソーラーの年間設備利用率(約13%)と比較すると、宮古島は約15%と高めですが、それでも火力発電所の設備利用率約80%と比べれば、効率が悪いという課題があります。また、現在、固定価格買取制度に基づく再生可能エネルギーの設備認定や電力系統への接続申し込みが全国で短期間に急増しています。これにより、需給のバランスが崩れ、安定供給に支障を来す恐れがあり、一部の電力会社では、再生可能エネルギー設備をどこまで受け入れることが可能かを見極めるため、接続申し込みに対し回答を保留する状況となっています。 そして、今後も再生可能エネルギーが増加し続ければ、火力発電などとの差額は、家庭や企業の電気代にさらに上乗せされ、私たちの負担が増加するといった問題もあります。

今回の視察では、都市圏に住んでいると想像もできないような離島の発送電設備の仕組みを学ぶことができました。そして電気が使われる地域、電気をつくる地域、それぞれの特性を生かして、安定した電気の供給に対する取り組みがなされていることを認識することができました、また併せて再生可能エネルギー普及のための課題についても考える機会になりました。

視察を終えて

太陽光も風力も、発電時に燃焼を伴わないのでCO2を排出しない。そしてまた燃料コストの変動影響も受けないから価格の安定性はあるし、どう考えてもイメージがことのほか良い。だから地球温暖化対策の切り札として開発普及が急速に進むのは当然である。

それ自体は重要なことに違いないが、厳しい自然環境のなかでその設備を作り、運営して安定供給を図ることは、決して容易なことではないということが痛いほど分かった。

「自然にやさしいクリーンエネルギー」という言葉がある。CO2などを排出しないという意味ではその通りだが、自然は人間や設備に対して必ずしもやさしいとは限らない。太陽光発電も風力発電も水力発電も、自然の中に晒された人工物はさまざまなリスクと絶えず対峙しているのだ。エネルギーを作り出すためのどんな方法も、いいとこ取りはできないし、人工物であることに変わりはない。そんなことをあらためて感じ取った取材だった。

神津 カンナ

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