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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

東京ガス 人材育成センター見学レポート【メンバー視察編】
ガス保安業務の研修で切磋琢磨し、現場での知識・技能を高める

2017年4月にスタートしたガス小売全面自由化後、ガス小売事業者とガス導管事業者は新制度に従い、それぞれの保安責任が義務づけられました。7カ月が経過した11月6日、ETTメンバーは神奈川県にある東京ガス 人材育成センターを訪れ、開栓・定期保安点検・緊急対応など、ガス事業の根幹を担う保安に関する研修施設を特別に見学する貴重な機会を得ました。

ガス小売り全面自由化後、ますます求められる保安水準の向上

東京ガス 人材育成センターは東京ガスグループ従業員および協力企業従業員を対象に、「ガスを安全に顧客の元に届ける/使ってもらう」ための保安業務研修を行っています。研修内容は、フィールド業務(安全点検・機器修理・ガス機器の設置、温水機器の設置・ガス工事)の品質を担保するための各技術研修のほか、ガスの基礎知識習得、資格取得支援、ビジネスマナーなど実に幅広く、2016年度は約60名のインストラクターにより約170コース(全1,333回)、延べ約3万人が履修。今回は関東に3カ所ある中でも最大規模の横浜市鶴見区にある施設を訪問し、当日研修が入っていない部屋のみ特別に見学する機会を設けていただきました。3階建ての施設には、教室23室と、戸建て住宅など実際の作業現場を再現して研修できるブースタイプの実習室23室を完備。エントランスには建築構造や最新のガス設備などを体験できる、2階建て住宅を再現したコンセプトハウスも設置されています。

まず教室で、日本ガス協会の伊藤広報室長に、ガスの小売全面自由化後のスイッチング(契約先の切り替え)状況や、顧客宅における保安責任区分が自由化前後でどう変わったかなどについてお話しいただきました。自由化前は、ガス事業者が顧客宅敷地内のガス管や消費機器の保安を一手に担っていましたが、自由化後の現在は、<ガス小売事業者→消費機器調査・周知(導管事業者などに委託可能)>、<一般ガス導管事業者→緊急保安と内管の漏えい検査>と、それぞれが保安責任を義務づけられています。2017年6月分の、家庭用と大口分野を含めた総販売量を見ると、すでに約1割を新規参入者が占め、新たに14社が家庭への供給を予定(10月23日時点)。そこで新規参入者を含めたガス業界全体としても、ガス事業の根幹である保安にしっかり取り組んでいこうとしているというお話でした。

ガス小売り全面自由化(2017年4月)後の需要家保安の責任区分(原則)

次に東京ガスお客さま保安部の花澤リーダーに「東京ガスの消費機器保安」について伺いました。首都圏に都市ガスを供給している東京ガスの需要家件数は約1,100万件。全国の需要家約3,000万件のうち約4割を担うリーディングカンパニーとして、保安に対して積極的な対策を進めています。その一つが、作業者の知識・技能の維持向上を図るための資格取得。開栓・定期保安点検など消費機器保安業務に関わる業界資格に加え、社内資格制度も設け、人材育成センターで資格取得研修も行っています。また、保安業務には「法令に基づくもの」、「過去の事故や経験を基に業界として自主的に行うもの」、「東京ガスが独自に実施しているもの」、さらに「全国のガス小売事業者が共通して取り組むもの(不完全燃焼防止装置の搭載されていない小型湯沸器の一酸化炭素(CO)濃度測定、接続具の確認、業務用換気警報器の設置促進など)」があり、定期保安点検(4年に1回)に約1,100人、開栓に約700人が日々従事しているとのこと。開栓は春の引っ越しシーズンには毎日約5,000人ものマンパワーが必要になるため、ほかの部所などからも応援を得て対応しているそうです。

さらに「ガスとガス機器の基礎」についても説明を受けました。現在、ガス機器やガス設備には多くの安全装置などが複合的に搭載され、重大な人身事故は大幅に減少しています。しかしながら、安全装置が搭載されていない旧型のガス機器、安全機構が組み込まれていないガス栓を使っている家庭や、誤った使用法により事故に至るケースも少なくないとのことです。そのため、ガス小売事業者による安全使用周知・危険発生防止周知が重要であるとのことでした。またガスの性質として都市ガスとLPガスでは比重が異なり(都市ガスは空気より軽く、LPガスは重い)、使用するガスとガス機器が適合していないと異常燃焼を起こし、火災や不完全燃焼を起こす恐れがあります。引っ越しや器具の買い替えの際には、業者に適合調査の依頼もできますが、こういった基本的な知識を私たち消費者がきちんと持つことも、安全への第一歩だと感じました。

“作業現場を再現した実習室で、故障診断や修理の現場力を高める

その後メンバーは六つのグループに分かれて見学しました。「機器修理」の実習室では、機器修理の知識・技能を実践的に習得するため、東京ガスの温水システムであるTES(セントラルヒーティング)熱源機・風呂給湯器・大型湯沸器などとともにバスタブが幾つも並べられるなど、家庭の一部を再現して機器が設置されていました。インストラクターが事前に仕組んだ機材の故障・環境による異変、「お湯が出ない」「リモコンが利かない」などの状況に対し、研修生は故障診断シートのフローに沿って原因を追及し、部品交換などの修理を実習します。診断シートがあるとはいえ、湯沸し・床暖房・浴室乾燥など複数機能が付く最新式のTES熱源機などはいかにも複雑そうで、専門性の高さに研修の大変さが窺えました。

さらに、実際の現場では雨が降ったり、作業スペースが狭かったりと、さまざまな苦労があるそうです。依頼の電話を受けると基本的には作業者が一人で訪問し、故障診断や修理を行いますが、「機器が複雑化しているので、できればお湯が出るか、たまるかなど、依頼時に何か情報を伝えていただければ事前準備ができるのでありがたい」との言葉に、作業者の方々の日々の奮闘ぶりが目に浮かぶと同時に依頼する側としての心構えも学べました。

さまざまな実験を通して理論を目で見て学び、資格取得も

「設備点検」の実習室は、家庭用の調理機器・温水機器・マイコンメーターなどを設置したブースで設備点検の資格取得研修を行っています。ここでは研修内容にある実験を3種類見せていただきました。1番目は、ガス機器の安全装置の実験です。燃焼には酸素が必要なため、小型湯沸器などには排気口が開いていますが、年数が経つとサビでふさがれてくる場合もあります。その設定でインストラクターが排気口をふさいで点火すると、すぐ火が消えました。一酸化炭素(CO)を出さないための「不完全燃焼防止装置」が働いたからです。さらに同じ動作を繰り返すと、4回目で火が点かなくなりました。 これは「再点火防止装置」が働いたためです。修理して部品を取り換えないと、これ以上は使えません。「不完全燃焼防止装置」は1989年から搭載されたものの、何度も点火を繰り返して一酸化炭素(CO)事故が起きた事例もあったため、2008年から「再点火防止装置」も法規制されました。今なお旧型の機器を使っている家庭には、定期保安点検・開栓の際に注意喚起したり、不具合がないかダイレクトメールを出したりしているのだそうです。メンバーから「懐かしい!」と声が上がった小型湯沸器やガス炊飯器、70年代の赤外線ストーブなどの旧型の機器は、さまざまなパターンの台所を模したブースにも設置されていました。「若い人たちは古い器具を知らない。その故障診断や修理も必要なので集めている。新しいガス機器は簡単に購入できるが、古いガス機器を集めるのにはとても苦労している」とのことでした。

2番目は、ガス機器を使用する際の換気の重要性を知る実験です。小型湯沸器と換気扇がある室内を模したブースの壁に、上から下にロウソクが4本並べてあります。扉を閉め、換気扇を回さない密閉された空間の中で小型湯沸器を点火すると、どの順番でロウソクの火が消えるか考えます。結果は、燃焼して発生する排気ガスは、燃焼時の温度を伴って上昇し、天井面から徐々に下がってくるため、一番上のロウソクの火から順に消えていきました。教室で教わった換気の重要性、そして一酸化炭素(CO)中毒事故の怖さが、まさに目で見てわかる実験でした。

3番目は、マイコンメーターに関する実験です。マイコンメーターにはガス漏れや機器の消し忘れなどを判断し、ガス遮断や警報表示をする機能が付いています。インストラクターがマイコンメーターを地震のように揺らすと、教本に書いてある通りに赤ランプが点滅し、ガスが遮断されました。復帰方法は復帰ボタンを押し込めば誰でも簡単にできるので、覚えておけば災害の後などに役立つとのことでした。

技術の進歩によってガス機器はもとより、ガス栓・接続具・都市ガス警報器など、安全性や利便性を高めた最新型が続々と世に出ています。その一方で、高齢者を中心に、旧型を使い続けている家庭もあるため、保安業務に必要とされる知識・技能がますます幅広くなっている実態を今回の見学を通して知りました。ガスは身近で重要なライフラインである反面、生死に関わる事故に至るリスクもはらんでいます。だからこそ、ガス業界が最重要課題に挙げる「保安」の知識・技能の向上に、多くの作業者の方々が切磋琢磨し、保安業務に日々奮闘し、安全を支えてくれていることもよくわかりました。私たち消費者も、ガスやガス機器に対する正しい知識を持つことが安全につながるなど、ガス保安について改めて意識させられた、実りある一日でした。

 

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