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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

関西電力大飯発電所見学&懇談会レポート
再稼動に向かう大飯発電所の現状と見守る住民の声

福井県には関西電力の原子力発電所が3つあり、1970年に運転開始の美浜、74年の高浜、そして79年の大飯と、計11基(うち4基は廃止予定)のプラントが若狭湾に面しています。2017年12月13日、神津カンナ氏(ETT代表)は大飯発電所を訪れ、おおい町と高浜町にお住まいの4名の方と共に視察しました。その後、立地地域の住民だからこその考えや思いについて、懇談の場を設けてお話を伺いました。

 

見学
想定外の想定を積み重ね、地域に信頼される発電所を目指して

大飯発電所は4基合わせた総出力が471万kWあり、設備容量としては関西電力最大、国内でも東京電力柏崎刈羽原子力発電所に次ぐ出力です。2011年の福島第一原子力発電所の事故により、全国の全ての原子力発電所が停止した後に再稼働した最初の発電所(3号機、4号機のみ)ですが、13カ月の安全・安定運転を経て2013年から定期検査のため停止。17年には地元の同意を得て、現在は使用前検査に入り、18年にまた再稼動する予定になっています。

見学の前に、発電所の方から概略や安全に対する考え方を伺いました。「原子力は使えば便利、けれども本質的に危険なものだからこそ、発電所にいる我々は皆、同じ船に乗るクルーという意識を持たなければなりません。誰か一人、何か一つの失敗ですべてが破綻すると考えています」。国内の原子力発電所では現在、新規制基準に基づき、事故発生防止・事故進展防止・事故拡大防止の3つの安全対策が進められています。「基本は地震や津波など自然災害による被害を最小限にすること、そして原子炉冷却のための電源と水の確保です。原子炉の核分裂を止めた後も燃料が発する崩壊熱を、冷やし続ける必要があるからです」

バスで敷地内を見学する時、VR(仮想現実)の技術を使ったCG映像で、発電所内部の設備などを疑似見学しました。全国の発電所でも初めて導入された見学ツールで、例えば実際に入れない原子炉格納容器やタービン建屋の中も、VRスコープを覗くと360度の映像を見ることができます。大飯発電所のPWR(加圧水型炉)は、原子炉で作られた熱水に加圧器で圧力をかけ、その熱水で別系統の水を蒸気にしてタービンを回し発電しています。PWRの原子炉格納容器は、BWR(沸騰水型炉)の7倍以上の容積があり、水素が充満しないので、福島のような水素爆発の可能性は極めて低いのですが、それでも100%の安全に近づけるために水素濃度低減装置を追加で設置しています。

また発電所の建設時、敷地内には破砕帯があることはわかっていましたが、最近、衛星写真による分析で活断層の存在が疑われると指摘されたため、横幅70m奥行50m深さ40mもの大きな穴を掘って確認したところ、現代までの地層がきれいに重なっていることが確認できたので、活断層は存在しないと証明されました。それでも地震に対しては基準地震動を856ガルにまで引き上げた想定で対策を講じています。津波対策については、もともと5mの高さがあった防波堤を3m嵩上げし、地面の下の岩盤上に直接建てています。また、原子炉冷却用の海水を供給する重要機器である海水ポンプのあるエリアは、風速100mの竜巻にも十分耐えられるよう厚さ4cmの鋼板を張り巡らせてあります。さらにもしもに備えて、安全上重要な機器を守る水密扉も設置。バスの中で、もし6.3mの津波が来たら、またはもし風速100mの竜巻が来たらどうなるかをVRスコープで擬似体験しました。

日の光が差したかと思うと、突然、冷たいみぞれが吹きつける天気になった敷地内では、作業員をより多く収容するための6階建の免震事務棟と、重大事故発生時に災害対策本部を設置する2階建の耐震型緊急時対策所を建設していました。屋内に入り、厚さ約25cmのガラス越しに見学したのは使用済み燃料プール。使用済み燃料からは崩壊熱が出ているので、12mの深さのプールに入れて冷却保管しています。また、中央制御室では人が違和感なく作業を進められ誤動作防止につながる工夫が随所に凝らされた操作盤などを見せてもらいました。

火力発電(LNG)は発電単価のうち燃料費の占める割合が約8割なのに対し、原子力発電は約1割と聞いて、一同から驚きの声が上がりました。つまり、原子力は燃料価格の変動に影響を受けにくいとのこと。残り9割は主にメンテナンス費で、これには安全対策にかかる費用も含まれます。また、大飯発電所では運転時に所内で働く2,000人(関西電力500人、協力会社1,500人)のうち、福井県出身者が54%、また地元おおい町の方が10%を占めています。「発電所で働く地元の人が安全性に自信を持てなければ、誰が安全性を信じてくれるでしょうか。発電所の門をくぐった時から、普通では考えられないほど厳しく、安全に対するモラルが要求されます。また、社員も協力会社社員も区別なく評価し、ときには厳しく注意もできる文化・環境を作っています」

“懇談会
停止から再稼働へ —— 地元に住む私たちが望むこと

見学後、一緒に見学したメンバーで改めて懇談しました。おおい町からは徳庄よし子さん、小林早苗さん、高浜町からは江上博子さん、角谷美佐子さんに参加いただきました。

神津 3.11の時、ニュース報道などを見て、どのように感じましたか?

小林 水素爆発を見た時は、アメリカの同時多発テロを思い出してしまったほど驚きました。

徳庄 ショックでした。しばらくは発電所のことは何も喋れませんでした。

江上 でも、国内の発電所をすべて止めるのは、政治の早まった判断だったと思います。

神津 運転停止の前と後では、街に変化がありましたか? 経済的な変化とか。

徳庄 人の出入り、モノの動きが全く違いますね。

小林 稼働時は、街全体にエネルギーが湧いているような感じがします。

角谷 高浜の3、4号機は今年から稼働しましたが、各号機の定期点検サイクルが順調に機能しないと、街に本当の活気が戻ったとは言えません。スーパーに行けばわかるんですよね。カートが溢れるほど買い物をする民宿経営の人が増えるので。

江上 ただ、発電所勤務や民宿経営以外の町民は、発電所の停止や稼働で収入が大きく変わるわけではないと思います。発電所建設の頃は街全体に活気がありましたが、近年では高齢化もあり昔に戻っていくような感じがしています。

小林 この40年間、発電所は動いているのが当たり前でした。でももし、あの3.11がなかったら、今日見学してきたような徹底した安全対策、メンテナンスはされなかったかもしれないとも思いました。

***

神津 原子力発電所を誘致する時には賛成反対で町が二分されたと聞いています。再稼働を巡ってはどうでしたか?

江上 高浜ではあまりなかったですね。

徳庄 町民ではなく、よそから来た人たちが中心になって「再稼働反対」と騒いでいました。

角谷 高浜でも同じく外からの人たちが盛んに反対の声を上げていました。

小林 マスコミの人たちもいろいろ取材していましたが、再稼働に賛成する意見のビデオを撮っても、編集でカットされることが多かったように感じています。

神津 原子力は長い年月の中で、もう暮らしの一部になっていたと思いますが、3.11をきっかけに、産業や政策といった問題として、原子力や日本のエネルギーを考えることはありましたか?

小林 安全対策、メンテナンスには手間がかかると思うけれど、国内の原子力発電所は再稼働していくと思うし、そうなってほしい。電気があって当たり前の文化的な生活に慣れてしまっている以上、昔に戻るのはなかなかできないから。

徳庄 原子力のことを何も知らないで、怖いと言っている人は多いですよね。

神津 エネルギーのことも交付金のことも、地域の人たちは皆勉強しているからよく知っているけれど、全国の人はほとんど知らないと感じます。

江上 発電所誘致で町民がリッチな生活をしていると思い込んでいる方々も多いようですが、大きな誤解があります。こちらから送った電気を使ってリッチな生活をしているのは、むしろ都市部の人だと思います。

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神津 次のステップに進むためには、どのようなことが必要でしょうか?

徳庄 先日、福井工業大学の学生の話を聞きました。立地地域の出身で、3.11の後、「これからは自分たちの時代なのだから、電力や原子力の勉強をして立地町の役に立ちたいと思い大学を選んだ」と言うので、とても嬉しかったです。交付金を、維持費のかかる公共建築に使うよりも、こういう学生たちへの補助金として使えないのかしら。

小林 原子力について最低限の知識を、子供たちに判断材料として教えるのが大事だと思いますね。

江上 まずは教える側の教師を育てる必要がありますよね。

小林 学校の先生だけでなく、電力会社の社員の方が、易しく噛み砕いて話をするといいと思います。

神津 安全標語の中で、3H =「変化」「初めて」「久しぶり」には特段の注意が必要と言われていますが、発電所再稼動に関してはまさにこの3つが揃っていますよね。

小林 本当ですね。地元としては一生懸命発電所を支えていくから、とにかく安全に電気を送ってほしいです。

江上 それから消費地の都市部の人たちにも、原子力について一緒に考えてもらいたい。

徳庄 再稼働は望むけれど、一方で核のゴミ問題はどうするのかとも思っています。

角谷 高レベル放射性廃棄物を廃棄する場所をどこにするのか、調査だけでも早く始めてもらわないと。

神津 動いても動かなくても、すでに高レベルの放射性廃棄物はあるのだから、最終処分場問題の解決なくして再稼働だけ進んでいいのかということですね。

江上 もしも地元で引き受けるなら、安全性は末代まで保証してほしい。でも、できることなら処分場の負担は全国で配分してほしいです。

神津 きれいごとでは進まない —— つまり、戦争は嫌だと言っても戦争が自然に消えてなくなるわけではないのと同じように、ただ唱えるだけではなく、解決するためには、どんな選択をすれば良いのか、みんなで真剣に考えていかなければならないですね。

視察を終えて

福島第一原子力発電所の事故以来、とくに地震・津波などの自然災害に対しては厳しい規制基準のもとでさまざまな安全対策が講じられてきており、各所でその取り組みを見る度にいつも頭の下がる思いがする。今回の現地視察では、「発電所で働く地元の人が安全性に自信を持てなければ、誰が安全性を信じてくれるのか。社員も協力会社社員も区別なく評価し、ときには厳しく注意もできる文化・環境を作っている」という言葉が強く印象に残った。「技術的な安全」以上にその技術を扱う人間への信頼感がなければ「安心」にはつながらない。設備に向き合っている方々はそんな覚悟を持って立ち向かっているのだと痛感した。

神津 カンナ

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