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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

電力中央研究所 我孫子地区見学レポート【メンバー視察編】
自然・環境科学研究の力で電力安定供給を支える

東京からほど近い千葉県我孫子市に、電気事業に関わる研究開発を60年以上にわたり行ってきた(一財)電力中央研究所(以下、電中研)我孫子地区があります。2018年6月4日、ETTメンバーは、いくつかある電中研の拠点の中でも、主に自然・環境科学研究を行う当地を訪問し、多様な分野の専門家が集う研究の現場を見学しました。

 

電気事業のさまざまな課題解決に向け、年間110の研究に取り組む

最初に会議室でビデオを見ながら組織の概要説明を受けました。電中研は1951年設立。発電所の建設が盛んだった当時は、立地地域周辺の環境に関する諸問題を解決するための研究を主に行っていたそうです。2018年度は電力設備の安全性向上や合理的な保守・運用に関する研究、エネルギー供給・利用に新たな価値を生み出す研究など、110の研究課題に取り組んでいます。電中研の拠点は東京の大手町地区など、関東地区に6カ所あり、我孫子地区は自然・環境科学研究に特化。17万m2(東京ドーム3.7個分)の広大な敷地に研究設備や装置を各種備え、258名の職員(協力会社等を含めると600名位)がいます(2018年6月1日現在)。地球工学研究所は、地質/地下水/地盤/地震/材料/構造/流体/気象を研究対象としており、電力施設に関わる土木技術や自然災害対策などの研究を行っています。環境科学研究所は、大気/海洋/河川/土壌/廃棄物/動植物/生態系/気候が守備範囲であり、地域から地球規模まで電気事業に関わる環境問題を幅広く研究。地球温暖化問題への対応として、実現性の高いCO2排出削減シナリオの検討や、効率的・科学的で信頼性の高い環境アセスメント(環境影響評価)手法の開発などの研究に取り組んでいます。


 専門分野と研究対象

“最新設備の実験結果と、数値解析を組み合わせ、より信頼できるデータへ

当日は数ある研究設備の中から6つを見学しました。1番目は「超長期遠心載荷岩盤模型実験装置」。高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究などに使われる大型装置です。処分場周辺の地層の小型模型を、直径6.4mの回転アームにより最大100Gの遠心力で加速することで、数千年かかって起きる現象を約1カ月で再現することができます。たとえば高レベル放射性廃棄物を入れた容器を覆う緩衝材や地下深部の岩盤の変形、地下水の非常に遅い流れなども、1,000年先にどうなるか予測できるそうです。この装置の特長は、最大6カ月にわたる長期連続運転や、温度環境の制御、また、大きな試験体の取り扱いができること。この日は使われていなかったので、50Gから100G(3回転/秒)へと回転しながら加速する映像を見せていただきました。この装置での実験と、コンピュータ解析を組み合わせて、データの精度を上げていくとのこと。説明の後、停止しているアームの下から装置を見学し、この大きな装置が回転するところを想像しました。

2番目の見学は、屋外に造られた「大型造波水路」。世界有数の長さ205m×幅4.3m×深さ6mの水路の中で、造波板を押したり引いたりして、最大2mの波を直立した壁にぶつける波力評価など、1/10程度の縮尺で模型実験ができます。また、1993年に発生した北海道南西沖地震による奥尻島の津波(最大遡上高31.7m)被害後から、約10cm(35m相当)の津波を発生させ、陸上に到達する津波の模型実験も可能に。ビデオで、大きく立ち上がった波が直立した壁にパーン!と激しくぶつかる実験を見て、あまりの迫力に驚きの声が上がりました。ここで得たデータは、防波堤が受ける津波波力の特性や、波消しブロックの安定性の評価などに活用されているそうです。

3番目の見学は、長さ40m×幅25m×高さ5.5mの「乱流輸送モデリング風洞」。設備の前で、模型を見ながら説明を受けました。風洞は大小2つの試験セクションから成り(同時使用可能)、発電所から出る排ガスがどう拡散していくかを評価できるので、環境アセスメントを合理的に実施できます。発電所周辺で起こる代表的な風の流れを再現するため、発電所や周辺の地形の模型を入れ、煙突部分からトレーサーガス(液体や流体の流れなどを追跡するために使われるガス)を放出し(最大風速20m/秒)、風下の部分で濃度を測定。大気中の気温分布・気流分布・気流乱れを精密に再現できるため、上空温度分布や複雑な地形、建屋の形状の影響など、数値計算では表現が難しい影響も再現できます。また、火力・原子力・地熱発電所の排ガス拡散に適用できる数値シミュレーション手法を開発し、多くの火力発電所に適用されているとのこと。周辺の地形データや排ガスの放出条件をパソコンに入力するだけで、3次元数値モデルによる排ガスの濃度計算ができ、拡散の予測がつくので、コストダウンと期間短縮になります。電中研では実験と計算、この二つを用いることで、より信頼性の高いデータを出しているそうです。

「実際に役立ったことは?」と、メンバーから質問が出ました。これには、「発電所の新設や再稼働の際には国の審査があって、排ガス拡散のシミュレーション評価は必須なので、電力供給には不可欠の研究だと言えます」との答え。また、研究員の専門分野を尋ねる質問もあり、「主に建築・土木・機械学部出身で、流体力学の知識を持つ人が集まっている」とも答えていただきました。

4番目の見学は「大型水理模型」。水力施設における土砂問題解決のための実験を行っています。水力発電所の取水口や放水口に土砂がたまると埋没したり、土砂の流入で水車が摩耗したりして、発電効率が悪くなります。また、土砂をためるゲートを一度に開けると水がにごってしまうので、にごりを軽減する方策も必要です。土砂をどう外に移動させるのか、どうすれば有効利用できるのかなどを研究しています。

ビデオでは、川の水の流れや、堰にぶつかって土砂が巻き上がる様子を、3次元数値解析によるグラフィックでわかりやすく見ることができました。また、放水口閉塞問題の事例として、水力発電所の前の川を「大型水理模型」で再現し、放水口の前面をせばめて水の流れでたまった砂を軽減する解決法を提案したこともあるそうです。実際に水を流して、「ダム堰上流の移動床実験」のデモンストレーションを見せていただきました。上流側から水を流すと一瞬のうちに、ゲート近くの小さい砂が動いてどんどんたまっていきました。染料を流すことで、複雑な水の流れがわかるよう、工夫して見せていただきました。

5番目の見学は「ヘリカルX線CTスキャナー」を用いた断層模型実験。「原子力発電所や放射性廃棄物処分施設の安全な立地」などをテーマとして、医療用のCTスキャナーを、断層の構造や岩盤中の割れ方の調査などに活用しています。ビデオで、上下から圧力をかけたコンクリートの外見と内部の比較写真を見ました。外見からはわかりませんが、CTで透視した内部には約60度の角度で多くのヒビが入っていました。研究では断層の内部構造の調査や、堆積物に含まれるイベント堆積物の年代や特徴を解析して津波が来た年代を予測しているとのこと。「原子力発電所の安全な立地のための断層関連研究」として、日本各地の原子力発電所の敷地内破砕帯の活動性評価を実施しています。新規制基準では12〜13万年前までの活動を否定できない断層を「活断層」としているため、再稼働の審査には断層が最後に動いた年代の調査が必要です。CTで断層の内部構造を調べると、どの部分が一番動いたかよくわかるそうです。

また、電中研では、活断層から発電所をどのくらい離せば良いか、評価手法の確立のための活断層運動実験も行っています。CTの裏で、大型の土層実験を見学しました。畳ほどの大きさの土に上下左右から圧力を加えると部分的に土が盛り上がり、縦ずれ・斜めずれ・横ずれの断層がくっきりと発生します。地震の縦揺れ・横揺れによって地層がどうずれるか、模型に入れ、CTで断面を見て評価をしています。

最後6番目の見学は、飛行機の格納庫のような実験棟に設置された「津波・氾濫流水路」。津波に対する構造物・施設の強さを調べる実験ができる大型の設備です。東日本大震災後は、想定以上の津波が到達しても耐えうる原子力発電所の技術開発・評価技術が必要とされています。信頼性の高い頑強性評価試験を実施するには、陸上氾濫した津波の流れを忠実に再現することと、大規模な試験が重要です。そこで、長さ20m×幅4m×高さ2.5mの試験水路に、ヘッドタンクから高い位置エネルギーを持った650トンの水を放流できるよう設計し、2013年に完成しました。

まず、防潮堤を模した直立の壁に水圧がどう作用するかと、津波と一緒に軽自動車がぶつかるとどのくらいの力が加わるか、それぞれ評価試験の実験映像を見ました。その後、実際に水路に流水するデモンストレーションを見せていただきました。4,3,2,1の掛け声とともに、水がすごい勢いで流入し、あっという間に水かさが増して波打ち、津波の威力を思い知らされました。また、一瞬のうちに地下タンクへと水が引いて行き、水路が元通りカラになるのも驚きでした。

“研究により得られた知見の積み重ねが、安心の手がかりに

約3時間、間に国道を挟む広大な構内をバスで駆け巡り、それぞれの設備で研究に携わる専門家の方々にわかりやすく説明いただいたり実験を見せていただいた後、再び会議室に戻り、質疑応答となりました。メンバーからは、「電気事業のためにこのような研究設備があることを知らなかった」「津波や地層処分など、安心の裏付けになるデータや知見がこのようにして生まれていることがわかる見学会で、ありがたかった」などの声が上がり、「もっとたくさんの人に知ってもらいたい」と、一般公開に関する質問が多く出ました。電中研我孫子地区は2年に1回、無料で一般公開されます。また、小学生向けの工作教室や大人向けの講演会も隔年で開催されるとのこと。研究にも広報にも真摯に取り組む姿勢に感心しつつ、帰路につきました。

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