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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

大阪ガス 岩崎地区スマートエネルギーネットワーク見学レポート【メンバー視察編】「防災」と「エコ」を両立、スマートエネルギーネットワーク

2016年4月の電力に次ぎ、2017年4月からガスの小売全面自由化が開始。また近年では都市ガスを使って電気と熱を同時に作り出すガスコージェネレーションシステ厶(以下、コージェネ)の普及が進み、国のエネルギー政策においても重要視されています。2016年10月21日、ETTメンバーは大阪ガス発祥の地・岩崎地区(大阪市)で行われているコージェネを核とした「スマートエネルギーネットワーク」を視察し、今後ますます注目される都市ガスの現状と可能性について知る機会を得ました。

 

LNG(液化天然ガス)をより安く安定供給し、ガス自由化を進める

大阪ガスの新しいショールーム、hu+g MUSEUM(ハグミュージアム)を訪れたメンバーは、見学前に都市ガス事業の現状について、一般社団法人 日本ガス協会の狭間企画部長にお話を伺いました。1970年代以降、クリーンで高カロリーな天然ガスへの転換、天然ガス自動車やコージェネの普及も進み、都市ガス利用量は大幅に増加。国はさらに安い価格で安定供給していくためには、ガス田からガスを液化して日本に輸入する上流分野を対象とする「LNG市場戦略」と、日本の受入基地で再ガス化してパイプラインで運び、販売・消費する下流分野を対象とする「ガスシステム改革(全面自由化)」を、車の両輪のごとく推し進めていく方針です。

「LNG市場戦略」とは、LNG市場の育成・発展を目的とした国の対応方針。日本は天然ガスの約98%を海外から輸入するLNGに頼っており、原子力発電所停止の影響で東日本大震災以前よりLNG輸入量が約25%も増えています。また日本へは輸送に伴い液化費用などがかかる上に、LNG市場は寡占化していて売主有利の価格になりがちなため、アメリカなど他国と比べてガス価格が高額です。その問題解消を図るため、LNGの取引窓口を集約し価格を決める拠点(ハブ)の地位を目指す取り組みを始めているそうです。

一方、2016年4月の電力に次ぐ「ガスシステム改革(全面自由化)」では、「つくる・送る・売る」のうち、「売る=ガス小売」の全面自由化が2017年4月からスタート。ガス販売の地域独占・料金規制が撤廃(競争が不十分な地域では経過措置として規制料金メニューを提供)され、私たち消費者はさまざまな小売事業者が提供するプランの中から選べるようになります。現在、都市ガスでは電力と異なり、ガス事業者がガス導管から家の中のガス機器まで全ての保安責任(定期検査・緊急対応)を負うことから、新規参入しにくいとの指摘があったため、新規参入する小売事業者が既存の導管事業者に円滑に保安業務を委託できるガイドラインも整備。さらに2022年からは大手3社(東京ガス・大阪ガス・東邦ガス)の「送る=ガス導管」部門が法的分離されるので中立性が向上します。このように現在はガス事業をめぐり、国を挙げてさまざまな取り組みが行われている最中だと理解しました。

ガスを安く安定供給していくための取り組み

“地域全体13施設で、エネルギーをムダなく融通し合う

続いて大阪ガスのスタッフの方に、コージェネを核とした「岩崎地区スマートエネルギーネットワーク」の概要を説明していただきました。コージェネとは、電気と熱を同時につくり出し供給するシステム。都市ガスを燃料として発電し、廃熱(発電時に生じる熱エネルギー)も冷暖房や給湯に有効利用するため、省エネ性に優れるとともに、停電時の非常用電源にもなります。スマートエネルギーネットワークは、コージェネに再生可能エネルギーを組み合わせ、情報通信技術で最適に制御しながら地域単位で電気と熱を融通する、次世代型のエネルギーシステムです。大阪市西区に位置する岩崎地区は、13施設でスマートエネルギーネットワークを構築しています。

その一番の特徴は、熱エネルギーの供給・融通にムダを出さない点。5階建てのハグミュージアムと隣のスーパービバホームでつくった熱エネルギーは、ハグミュージアム1階の「地域熱供給サブプラント(ジェネリンク)」へ供給され、使いきれなかった分は隣のドームシティガスビルにあるメインプラントへ送られ、地域全体で有効利用します。また、ハグミュージアムを含む岩崎南地区の5施設への電力供給は、大阪ガスグループの子会社で特定送配事業を営むOGCTSにより自動でデマンドレスポンス(需要応答)制御され、前日に電力需要を予測。大阪ガス泉北発電所からの電力をベースに、ムダな運転をしないよう太陽光発電やコージェネ・蓄電池(放電)の出力指令を出しているそうです。

屋上に出ると、再生可能エネルギーの設備が並んでいました。「太陽光発電パネル」のほか、ガラス真空管の中の水を温める「太陽熱集熱器」があり、つくられたお湯は1階の「地域熱供給サブプラント(ジェネリンク)」(3台)に集められ、夏は冷房/冬は給湯器へ。屋上からは正面に京セラドーム大阪、右手にイオンモール大阪ドームシティ、左手にスーパービバホームなどの建物が見え、スマートエネルギーネットワークを構築する地域の広さを感じました。

岩崎地区における熱供給エリア(13施設)


災害時に、建物内のエネルギーセキュリティを確保

ここ岩崎地区には、津波災害時の避難場所に指定されている京セラドーム大阪を中心に、行政機関や災害拠点病院など、防災上重要なエリアもあります。ハグミュージアムの屋上には、災害時でも建物内のエネルギーセキュリティを確保する設備もありました。通常は建物内の電力をまかなう「非常用発電機兼用ガスコージェネ」には、耐震性評価を受けた中圧ガス導管が採用され、災害時にはスプリンクラーなどを動かします。「停電対応型マイクロコージェネ」(7台)と「停電対応型ガス冷暖房GHPエクセルプラス」(2台)は、来館者の一時避難場所になる5階の照明・空調などの機能を維持。ほかに業務用個体酸化物型燃料電池(SOFC)も設置されて、フィールドテストが行われていました。

ハグミュージアムのエネルギーシステム


災害から地域を守る&省エネで地球環境を守る
「防災対応型スマートイオン」1号店

最後に、ハグミュージアムから通りを挟んだ5階建ての「イオンモール大阪ドームシティ」へ。東日本大震災の経験を教訓に、防災とエコの両立を目指した「防災対応型スマートイオン」の1号店で、一時避難場所(約13,000名収容)としての機能、食料品などの生活必需品確保、災害時でも店舗営業の継続・早期再開を図ります。屋上にはメインの設備となる、耐震性の高い中圧ガス導管を活用した「非常用発電機兼用ガスコージェネ」(815キロワット×2台)を設置。通常は建物契約電力の約1/3をまかない、発電時に発生する廃熱は5階の「ジェネリンク」へ送られ、店舗内の空調に有効利用します。使いきれなかった分は地域冷暖房プラントへ熱融通を行い、ムダなく活用。災害時には、スーパーマーケットエリアなど必要な場所の電源確保に使われるそうです。

ほかにも、さまざまな防災・省エネ対策が各階に導入されていました。太陽光とガスでW発電し、停電時にはフードコートの照明に使われる「ソーラーリンクエクセル」(15台)と「エクセルプラス」(1台)、「ソーラーリンクエクセル」と連係する「太陽光発電パネル」、太陽光を店舗内に取り込む「光ダクト」、浸水対策でかさ上げした「防災センター」、赤い色で識別させた「防災用コンセント」、充電器が使える「EV充電ステーション」、簡易医療キット内蔵の「ファーストエイドステーション」、地域へ防災を情報発信する「大型タッチパネルモニター」などを、一つひとつ見て回りました。

一連の見学を終え、コージェネを核とするスマートエネルギーネットワークの地域的規模の大きさに驚き、防災対応も考えられていることに感心すると同時に、日本における防災・省エネ社会実現のためには都市ガスの利用技術の研究・開発が不可欠だと、認識を新たにしました。

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