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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

沖縄 油濁防除資機材操作訓練・石油備蓄基地見学レポート
石油の流出災害に備える訓練と安定供給のための備蓄

石油は、私たちの生活を支えてくれる大切なエネルギーです。しかし石油を運ぶタンカーや数多くの船舶が世界中の海で航行しており、座礁や船舶同士の衝突などの事故が起こる確率がないとはいえません。そして流出する油は、海の生態系を破壊するリスクがあります。2014年9月11日、神津カンナ氏(ETT代表)は沖縄県を訪れ、万が一、広大な海原で油が流出した場合にどのようにして対応するのか、機材を使った操作訓練を見学しました。また、石油の安定供給に欠かせない備蓄基地も併せて視察しました。

 

タンカー座礁事故をきっかけに始まった油濁防除の大規模な取り組み

原油の輸入・精製や石油製品の全国的な販売を行っている企業の団体である石油連盟では、加盟各社を中心とした「海水油濁処理協力機構」を設立するなど、石油流出事故に対応できる体制を整えてきました。しかし1989年に起こったアラスカ湾のタンカー座礁事故をきっかけに、対応能力の強化や国際協力の必要性が世界中でも見直されたため、通産省(現・経産省)の補助を受けて「大規模石油災害対応体制整備事業」を推進しています。1996年までに国内6カ所、海外5カ所に、油濁防除の資機材を備蓄し、災害関係者に貸し出すための基地を設置しました。2010年には、サハリンⅡプロジェクトの原油供給開始に伴い、稚内分所も設置されています。

万が一、国内の石油流出事故が起こった場合、事故の原因者は対策本部を立ち上げ、作戦会議において様々な方法で流出油の状況を確認・予測し、その情報を防除チームと共有して、現場に適した資機材を選びます。また、その効果的な導入のためには、海上の風向き、潮の流れ、天候などを判断し、一定期間の予測が必要となります。そして洋上での油の流出は、できる限り早く、可能な限りの量を取り除き、被害が広がらないようにする必要があります。そのためには高性能の資機材の導入とともに、それらを迅速かつ正確に操作できる技術者の育成が重要になってくるため、石油連盟では国内外の各基地で、定期的に資機材の操作を習得する訓練を開催しています。

今回は、沖縄本島の中部にある平安座島(へんざじま)の石油連盟国内6号沖縄基地での訓練を視察することができました。

まず最初に金武湾(きんわん)の桟橋で、石油連盟の方から説明を受けました。油濁処理というと流出油を広範囲に拡散させないための大きな囲いのようなものをイメージしていましたが、今回の訓練で使用する資機材は流出した油を集めて回収するという装置だそうで、資機材はコンテナに入れられた状態で現場近くの桟橋まで運ばれ、その場でまず空気を充填されます。その「充気式オイルフェンス」には、1基あたりの長さが320m、250m、72m、60mなどがあり、船上で充填する場合もあるとのことです。

流出した油をどのように回収するのか

桟橋には、オイルフェンスを操作する船、油を洋上で回収する船、船舶や漁場の安全を守る監視船、そして今回、乗船させて頂いたサポートの船が待機していて、早速、操作船にフェンスがつながれ、湾内に出ていきました。2本のフェンスをお箸のような状態で曳航し、ポイント地点でY(ワイ)の字に開いて油を集め、その起点のプールにためて回収するという作業ですが、Yの字に開く操作や、海水が混じらないように油を回収するという操作は、熟練した操作技術が必要とのことで、訓練参加者は真剣そのものでした。また、油の種類によっても回収方法が異なり、揮発性の少ない重油の場合には、海岸線まで漂着すると、生物への致命的な害や油成分の回収不能が起こるため、可能な限り沖合での隔離回収に努めたいとのことでした。また、揮発性の高いガソリンなどが流出した場合は、船舶への引火等もあるため、周囲の船舶への退避要請が必要になる場合もあります。

石油連盟の保有する油濁防除のための資機材は、事故の原因者の要請に応じてすべて無償で貸与されています。さらに日本沿岸では、1997年のタンカーナホトカ号による流出事故以来、大規模な事故が起こっていないこともあり、回収作業の経験者が育っていないため、石油連盟では、実地訓練の体験を奨励しています。一方、国内のみならず国際的な会議に参加して、各国の対策状況を把握し、人的なネットワークの形成も進めているというお話でした。

備蓄基地が果たす石油輸送日数の短縮化とエネルギーセキュリティ向上

船上見学を終えて次に向かったのが、平安座島と宮城島(みやぎしま)の二つの島の間を埋め立てて作られた沖縄石油基地です。沖縄石油基地は1973年、石油の備蓄と中継基地として、現JX日鉱日石エネルギーと現コスモ石油との共同出資により設立されています。はじめに所員の方から、日本の石油備蓄の現状などについて説明を伺いました。石油を輸入に依存している日本では、石油精製業者等に義務づけている民間備蓄が1971年より行政指導にて、75年より「石油備蓄法」に基づき実施され、93年以降の備蓄義務量は70日となっています。一方、国による国家備蓄は78年から開始され、98年に目標の5,000万キロリットル(当時の90日分)を達成し、現在は約5,100万キロリットルの備蓄量を基本目標として設定されているそうです。2014年3月末現在、国家備蓄は110日分、民間備蓄は83日分、合計193日分、約8,400万キロリットルにも上ります。

国家備蓄は北海道から沖縄まで10カ所の拠点、民間備蓄は全国で14カ所で行われていますが、ここ沖縄では、269万キロリットルと、民間借り上げ備蓄では北海道に次いで多く国家備蓄をしています。敷地面積は208万㎡、東京ドーム44個分の広さがあり、社員は59名、また、協力会社とあわせて約200名の方が構内で働いているそうです。沖縄本島中部の太平洋に面した位置にあり、日本全国に石油を供給するのみならず、東アジアの中心でもあることから、中継基地として極めていいポジションにあると所員の方はおっしゃいます。沖縄石油基地では、2011年から産油国共同備蓄事業が行われているそうで、この事業はエネルギー安全保障の政策の一環として、国の主導により日本とサウジアラビアとが協力して実施する共同プロジェクトで、日本の主要な原油輸入先であるサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコ社に対して、原油タンクを貸与し同社の原油を貯蔵しているそうです。平時はサウジアラムコ社の東アジア向けの供給・備蓄拠点として、当該タンク内の原油は商業的に活用される一方、緊急時には、タンク内の原油を日本の石油会社が優先購入できることで、日本の緊急時における備蓄の役割も担っているそうです。

敷地内には、45基の巨大なタンクがあり、貯油能力は450万キロリットルと、日本の原油消費量の約6日分に相当するそうです。JOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)を通じて国家備蓄用に貸し出す40基のうち11基がアラムコ事業に転貸されています。タンクは高さ22mあり、7階建てのビルに相当し、42基が直径80m、3基が直径61mあります。屋根が原油の液面に浮いている浮き屋根式になっているタンクは、屋根に降った雨水を排出するために原油の中を排出パイプが通っており、1時間に100mm程度の降水量であれば対応できるそうです。新しい技術基準に基づいて建設された屋外貯蔵タンクであるため、強度が高いですが、消防法に従い、8年に一度はタンクを空にして点検を行ったり、外側のコーティングも検査で欠陥がわかれば、補強をしているそうです。

真夏のような日差しが照りつける埠頭に出てみると、はるか遠くにシーバース(桟橋)が見えます。産油国から到着したタンカーが係留されると、海底のパイプラインを通ってタンクまで運ばれ、逆に出荷ポンプで原油をタンカーまで送り出します。なぜ基地から2.7キロメートルも離れていなければならないかというと、海岸沿いは浅瀬だからだそうです。全長585m、全幅120mというシーバースには、二つの桟橋があり、50万トン、30万トンのタンカーを同時に着桟させることも可能です。船が入港したら、万が一のために、オイルフェンスを巡らしてもいます。車で構内を案内して頂きましたが、タンクとタンク間の距離が広く取られており、外周は約7キロもあるそうです。構内では、最大のもので直径60インチ(約150cm)もある原油配管や、消火用配管、そして海底配管の実物大モニュメントも見えました。敷地の18%を緑地化するという沖縄県との協定により、構内は緑豊かに管理されていました。敷地のはずれにあった遊休地には、現在、JX日鉱日石エネルギーによるメガソーラー発電所の建設が進んでおり、2015年3月に送電開始予定で、県内最大規模になるそうです。

視察を終えて

「油断」「狂乱物価」などのことばが飛び交ったのは1970年代の石油危機の頃だった。トイレットペーパー騒動、デパートのエスカレーター中止、テレビの深夜放送休止、ガソリンスタンドの日曜休業など、生活の隅々にまで大きな影響が出たことを私も覚えている。この危機的な状況が非石油エネルギーの活用の模索、省エネルギー技術の開発促進、原子力の活用、そして、石油の備蓄体制を強化する契機になった。また、島根県沖日本海でのナホトカ号の重油流出事故はまだ記憶に新しいと思うが、タンカーによる輸送途上での石油の大規模流出事故も世界各地でしばしば起こっている。しかし流出事故の度に、タンカーの設計構造の改変、事故に備えた資機材の整備、防災訓練の強化が図られてきた。石油、ガス、石炭などのエネルギー資源は、そのサプライチェーンの至るところで供給途絶、異常な価格高騰、事故・トラブル、災害などのリスクを抱えている。しかし、それらこれまでのさまざまな経験、知見を教訓に、法的にも、ハード、ソフトにおいても多様な対応策が図られてきているのは事実だ。油濁回収訓練、石油備蓄基地の現場を目の当たりにして、一つ一つの事象から教訓を学び取り、安定供給と安全への手立てを重ねているさまをしみじみと感じ取った。

神津 カンナ

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