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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

第2回 インタビュー 急変する時代の中で、失敗を恐れず、一歩、踏み出すために

各界でご活躍の方をお招きし、神津カンナ氏(ETT代表)がお話を伺うインタビューの第2回ゲストは、坂東眞理子氏です。男女雇用格差、大学教育のあり方、そしてこれからの女性の生き方についてお話いただきました。

男女格差が大きかった雇用環境

神津 坂東さんが就職なさった頃と比較すると、雇用における男女の格差問題は大きく変化しましたね。

坂東 私の頃は大卒では試験さえ受けさせてもらえない企業がほとんどでした。その後1986年に男女雇用機会均等法が施行されて以来、建前としては平等な機会が与えられているようですが、実質はまだ男性優位ですね。1980〜81年にハーバード大学に留学した時には、公民権法第7編で性別を理由にした差別が禁止されて10数年たっており、アメリカの女性たちは平等な権利を手に入れようと必死でがんばっていました。当時、ボストン近辺の女性管理職にインタビューしたところ、仕事と家事の両立は大変だと言っていましたが、2005年近くに同様のグループに調査すると、家事、育児はパートナーがシェアしてくれるようになり、女性の負担が軽減されていました。日本でも女性の変化により社会も変わると思います。

神津 ご出身の富山県は比較的保守的なところですよね?

坂東 才能や実力があっても表に女性を立てないという暗黙のルールがあったように思います。

神津 東大に進まれ、卒業し、いざ就職というとき、現実的にはどのような感じだったのでしょう?

坂東 富山に限らず当時の東京での就職も、女子大や短大出身者の方が男性のアシスタントとして採用されていました。東大の同級生の女性たちは民間企業ではなく、勉強好きならば研究者や教育者。そうでなければ私のように公務員になるという選択ぐらいしかなかったように思います。

神津 実際に公務員を勤め上げられた坂東さんから見る「公務員」とは、どういうものでしょう?

坂東 一般企業より楽な職場だと思われがちですが、特に省庁の国家公務員は、朝早くから夜遅くまで残業手当もなく仕事をするのが当たり前でしたし、有給休暇は2ケタ取得したことはありませんでした。社会に貢献している自負を持って働いているのに、自分たちの権限のために働いていると見なされることが時としてあるのは残念です。ただ私は、女性、高齢者、青少年についてなど、社会生活の基本にかかわる問題を担当させてもらえた分だけ恵まれていたと思います。

神津 「第2次男女共同参画基本計画」では、2020年までに管理職などの指導的立場に占める女性の割合を30%程度にすることになっていますね。

坂東 私が局長の時に決定されたのですが、30%もそのような女性の人材などいらないといった反対の声が上がりました。でも、2003年当時で「あと17年あるので、今から採用して育てればできますよ」と説得した覚えがあります。

神津 数値を掲げることの是非はありますが、はっきりした目標を持てることは事実ですよね。

坂東 しがらみの中から選ばれるせいで自由にものを言えない男性とは異なり、女性はストレートに意見を言えるので、組織に新しい血が入って、活性化すると思います。

大学時代に築かれる、ものの見方や考え方の基本

神津 ブリスベン総領事になられた時に、海外から日本人を見て、気がつかれた点は何ですか?

坂東 高い教育を受け、マナーも良く、日本人一人ひとりは優れていると思います。ただエネルギーの多くを気遣いに費やしていて、意見があってもどうせ通らないからと、言わずにあきらめてしまうところもあります。日本の組織すべてに共通しますが、トップの人間以外が自分の意見を述べると、昇格できない傾向もあります。明治維新や戦後の混乱の中から新しい組織を作ってきた人たちは、強い個性とパワーの持ち主でした。しかし今のように平和な時代においては、若い世代に強烈なベンチャースピリットが感じられないように思います。

神津 大学の学生たちはいかがですか?

坂東 最近の学生たちは、親の愛を一身に受けて育ち、ファッションや会話のセンスも良く、IT技術も身につけ、周囲への気配りもできます。ただ、がむしゃらに突き進むことはしないようですね。ささいな成功でも、あるいは失敗でさえ、大学で得られる貴重な体験ですから、昭和女子大学は背中を押すような、さまざまな取り組みをしています。たとえば区と連携して地域社会でボランティア活動を行うことで、教室の勉強では得られない自分の可能性を知る機会を得てもらう仕組みを作ったり、2013年4月にスタートする新たな取り組みでは、現場で多彩な仕事を経験した研究員の方と、学校でのみ研究をしてきた教員とがペアになって学生に指導する計画です。

神津 学生がチャレンジしやすい場を提供しているのですね。

坂東 大学時代は、人生とは、社会とは、といったことを考える大切な時間です。日本の企業は大学教育をあまり信頼していないせいか、大学4年間の成果をまとめる卒論を書き上げる前に採用の内定を出してしまい、入社してからは企業や組織に見合った人材育成をするため、視野が限定されるのです。

神津 社会が急激に変化している時代なればこそ、幅広い教養を身につけ、より大きな視野、俯瞰するようなものの見方が必要になってきますね。

常にリスクを意識していれば、どんな変化にも対応できる

神津 これからの女性の生き方はどうなっていくと思われますか?

坂東 近年、専業主婦の割合が減ってきている理由は、頼みの綱である夫が、減給やリストラに遭ったり、さらに病気になるなど、不確実な要素が増えてきたからで、90年超にもなる人生を夫だけに賭けるのはリスクが高すぎます。

神津 そうですね。しかし男女関係なく、これは大震災以降の感覚でもありますが、当然存在するリスクを意識しながら生活するというのは、頭では理解できますが、ストレスにもなりますね。

坂東 子どもの頃から変化に強い人間を育てるべきでしょう。親が、子どもがなるべく失敗しないよう傷つかないように育ててしまうと、たとえうまくいかなくても、また立ち上がれるという自信が持てなくなってしまうのではないでしょうか。社会もまた、リスクを恐れ、安全ばかりを優先して、立ちすくんでいるような気がします。人生の早い時期に失敗や挫折を経験した方がいいんですよ。私もつらい思いはたくさん経験しましたけれど、支えてくれる人にも恵まれましたし、傷は必ず癒やされるものですから。

神津 3.11以降、被災地で復興に向かって立ち上がる人もいれば、なかなか立ち上がれない人もいます。このETTというグループも、これまでエネルギーについて勉強してきましたが、自然の脅威や福島の事故のことなどで、心の均衡を失いかけたりもしました。化石燃料のリスク、自然エネルギーのリスク、そして当然、原子力の怖さ、リスクも実感して、果たしてこれからどのようなグランドデザインを考えたらいいのか、足が止まってしまったという思いの方も多いように思います。

坂東 大きな枠組みについて考えあぐねるよりも、楽観的かもしれませんが、まず足もとからできること、たとえば身近な省エネ、公共交通機関で移動するなどから始めるべきですし、その積み重ねによって新しい力がわいてくると思っています。

神津 なるほどそうですね。女性メンバーが多いから、暮らしの中からきっちり積み重ねれば、おのずと何かが見えてくるかもしれません。これまでも窮地に追い込まれた時こそ、日本の底力が発揮されてきたわけですから、これから10年が正念場ですね。

坂東 若い人たちは国内に閉じこもっていてはだめです。世界の中で自分に何ができるのか、挑戦すべきでしょう。

神津 坂東さんご自身は、これから何をしていかれたいですか?

坂東 やはり仕事を通して社会にかかわっていきたいです。女性の場合、子どもを通じてDNAを伝えることも大事ですが、仕事を通して、経験や志を若い世代に伝えることも大切だと思います。

神津 私たちも、そして私自身も、そのときどきの状況の中で、与えられた仕事や活動を自分なりに続けていくことが、まずは大事なことなのだと、あらためて教えられました。

坂東 眞理子(ばんどう まりこ)氏プロフィール

昭和女子大学学長
1946年富山県生まれ。69年東京大学卒業後、総理府入府。内閣総理大臣官房参事官、総理府男女共同参画室長を歴任し、95年に埼玉県副知事、98年在オーストラリア連邦ブリスベン総領事に就任。以後、総理府管理室長、内閣府男女共同参画局長、04年より昭和女子大学女性文化研究所所長、05年より副学長を経て、07年より現職。『米国きゃりあうーまん事情』(東洋経済新報社)、『新・家族の時代』(中公新書)、『男女共同参画社会へ』(集英社)、『女性の品格 装いから生き方まで』(PHP新書)等、著書多数。

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