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北海道電力 送電設備見学レポート 厳寒期の過酷な条件下でも、日々安定供給に挑み続ける

厳冬の北海道で、無くてはならない電気の安定供給を脅かす「雪」。積雪や寒冷といった過酷な気象条件の下で、広い大地のすみずみまで電気を届けるためには、送電設備の雪害対策が欠かせません。2017年2月27日、神津カンナ氏(ETT代表)は北海道電力の送電設備のパトロールに同行し、雪深い山間部でのまさに命がけの作業の模様を目の当たりにしました。

 

着雪を防ぐ器具の開発・取り付けなど、雪国ならではの停電防止対策

見学前にまず、北海道電力が長年実施してきた雪害対策について説明を受けました。北海道電力の送電線は、2015年度末で延べ8,359km(架空7,997km・地中362km)、支持物(電柱など)は46,631基におよび、広大な面積の電力をカバーしています。特に日本海側は降雪が多く、標高が高い所でなくても6月位まで降ることもあるそうです。電線への着雪は停電の原因になることがあり、厳寒期には停電を未然に防ぐためのさまざまな雪害対策が欠かせないというお話でした。

電線の上に付いた雪は、電線の溝に沿って回転しながら筒状に膨らんでいく。これが着雪のメカニズムです。こうして電線が重くなると、鉄塔にかかる負担が大きくなる上に、重みで電線が垂れ下がり、また、風で揺れやすくなり、電線同士が接触してショートし、停電する恐れがあります。北海道電力では電線着雪対策として、電線の溝に沿って回転してくる雪を遮る「難着雪リング」を開発し、「ねじれ防止ダンパー」と組み合わせた対策を行っています。電線への着雪状態を写した写真では、この二つを合わせて取り付けることで大きな着雪防止効果があると見て取れました。さらに、着雪した電線が風で上下に揺れて(ギャロッピング現象)、電線同士が接触するのを防ぐために、電線間の距離を保ち振動を抑制する「相間スペーサ」の取り付け作業も進めています。また、雪害対策は山間部だけにとどまりません。街中においては車や屋根などへの氷雪落下を防ぐため、鉄塔の上部にネットを設置し、ネット内に着雪を保持して下へ落とさない対策を施しているとのこと。北海道は街中にも着雪が多くなるため、厳寒期は道内全体で停電防止対策が必要になるのです。


着雪のメカニズム

写真:北海道電力より提供

“時に命がけの作業となる、保守運用面の取り組み

さらに、雪害事故や停電を予防するためには、鉄塔や電線の保守運用面の取り組みも不可欠です。年3回の巡視(うち2回はヘリコプター巡視)を行い、着雪を発見したら事務所に連絡。一般車両では立ち入ることのできない場所には雪上車で出動し、近くまで「ストー」で移動して地上確認をします。ストーとは、斜面を下る際はスキーのように滑り、上る際は裏面が滑り止めの構造で移動しやすい、スキーのような道具で、雪山での巡視に欠かせません。そして必要に応じて、鉄塔などに積もった雪をスコップで落とす「冠雪(かんせつ)落とし」の作業を行います。隣の鉄塔とは距離が離れているため、鉄塔ごとに山を上り下りする場合もあるそうです。このような巡視や地上確認のほかにも、気象分析や、定点カメラによる遠隔監視も合わせて行い、雪害対策の初動体制を確立しているとのことでした。

説明が終わると作業着・防寒着に着替え、国道230号線から雪上車に乗り、林道を30分程走り、道央西幹線という送電線の巡視・点検作業を見学しました。見学当日は天気に恵まれましたが、前々日は吹雪だったそうで、時にマイナス20℃以上にもなるという極寒の地です。雪上車は林道に積もったフカフカの新雪をかき分けながら進み、激しい揺れの中、鉄塔の手前までようやく到着しました。

ここから先は雪上車が入れないので、3人の社員の方が「ストー」を使って、鉄塔の方へ一列になってスムーズに移動していきました。まず双眼鏡で鉄塔の上部の着雪状況を確認。その後、鉄塔の近くまで移動し、作業の手順を打ち合わせます。そして「上ります!」の声と同時に、2人で鉄塔に命綱を付けて途中まで上り、上部の設備状況を双眼鏡で詳しく確認する「点検作業」を行いました。

一旦、地上まで降りて、次は「冠雪落とし」の作業です。ここでも始めに、作業箇所の確認の打ち合わせをします。積もった雪で足が滑る危険があるため、全員で「足元注意よし!」と声を揃え、スコップを背負って一段ずつ鉄塔に上ります。着雪を見つけると、鉄塔にまたがったり、鉄塔の上に立ったままの体勢で、大きな雪の塊を手際よくどんどん落としていきます。下からその様子を見ていると、動きが制限される防寒着を着ての作業は相当の力仕事のように見えました。 場所によって大小のスコップを使い分け、丁寧に作業をしているとのこと。今年は雨が降って着雪の3分の2はすでに溶けたそうですが、例年は鉄塔の上部まで上り、水分を吸って氷のように固く重くなった手ごわい雪の塊を、時にはノコギリを使って「冠雪落とし」をしていると聞き、体力・根気・勇気のいる、まさに命がけの作業だと思いました。


北海道の電力供給の担い手であり続ける責任と自負

見学後、実際に「ストー」を試用させていただきましたが、ただでさえ身動きするのも大変な膝上までの新雪の中、これで移動するのも慣れと体力がかなり必要だと実感させられました。これらの一連の作業は大寒波の吹雪の中で行うことも当然あるわけです。また自然との戦いは冬ばかりでなく、雪が溶けた後には熊やスズメバチなどとの遭遇もあるとのこと。身を守るために熊除けスプレーなども携行し、時にハンターも同行させているそうですが、緊急時にはハンターが間に合わないこともあると伺いました。常に自然の脅威にさらされた中での作業という、想像を絶する過酷さに言葉を失いました。

「ほくでん」として道民に親しまれ、創立以来60年以上にわたり24時間365日、北海道の電力供給の担い手であり続けてきた北海道電力。いかに過酷な条件下でも、ハードとソフトの両面から果敢に挑む姿勢に、“北海道の電気は我々が守る”という責任と自負を感じました。広い大地をカバーする膨大な鉄塔や電柱、送電線…、その一つひとつが、使命感に満ちた人々が危険と隣り合わせで高所へ上り、細かい手作業によるメンテナンスをしてくれているおかげで、日々の役目を無事に果たせています。ふだん何気なく使っている電気、その大事なインフラは、実は多くの人々の懸命な努力があるからこそ守られているのだと改めて知ることができた、貴重な一日となりました。

視察を終えて

送電設備は発電所と消費地を繋ぐライフラインである。 その機能を担う鉄塔や送電線はさまざまな環境条件のなかに設置されているが、どれも発電所や変電所とは違って、剥き出しで常に自然の脅威に晒されている。今回北海道の雪深い山中に設置されている設備の保守点検の現場に出向き、その自然の脅威から設備を守り抜くために過酷な作業に従事している方々の姿を目の当たりにした。雪山では昇塔や鉄塔上での点検作業はもちろんのこと、雪上車やスノーモービルの運転、ストーによる歩行など、何でもこなせなければならない。着雪防止など様々な工夫と知恵をこらした設備対策も講じられている。技術進歩によりどんなに安全対策が高度化し、機械化・自動化が進んでも最後は人間の手が頼りなのだ。それも雨や風、雷、雪など、絶え間のない自然相手の闘いである。私たちの暮らしや産業を支えるエネルギーインフラは、こんな縁の下の力持ち、白鳥の水かきのような人達によって守られていることをあらためて認識させられた。

神津 カンナ

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