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九州電力 八丁原(はっちょうばる)地熱発電所見学レポート
日本最大の地熱発電所に見る“地熱資源大国日本”の可能性

再生可能エネルギーの一つである地熱発電は、資源小国の日本にとって貴重な純国産エネルギー。国内での発電量はわずかながら、出力が安定しているので原子力同様ベースロード電源として使える大事な電源です。2018年3月3日、神津カンナ氏(ETT代表)は地熱発電所として国内最大出力の八丁原発電所(大分県)を見学し、地熱発電の基礎知識から発電の様子まで広く学ぶ機会を得ました。

九重(くじゅう)連山のマグマの熱で電気をつくる

見学に先立ちビデオを見ながら、地熱発電のしくみや、地熱開発の状況などについて、八丁原発電所長から説明を受けました。地熱発電はマグマの熱を利用して発電します。「蒸気でタービンを回して電気をつくる」しくみは、原子力発電や火力発電と同じ。火力発電が石炭などで水を熱した蒸気を使うのに対し、地熱発電はマグマ溜まりの熱で高温になった地熱貯留層の熱水+蒸気を、蒸気井(じょうきせい)と呼ばれる井戸を通して取り出し、蒸気だけを分離させて使います。そのため地熱発電には「純国産エネルギー」「発電時にCO2をほとんど排出しない」「24時間安定供給できるベースロード電源」といったメリットがあります。

国内の地熱発電所は東北と九州に集中していますが、火山があればよいわけではありません。地熱発電には地熱貯留層が不可欠で、しかも3つの条件①地下水②熱(マグマ溜まり)③地熱貯留層を覆って熱水や蒸気を閉じ込める帽岩(キャップロック)が揃う必要があります。

地熱発電は1904年にイタリアで始まり、九州配電(現九州電力)では1949年から調査研究に着手。八丁原発電所は大分県南西部にある九重連山の地熱を活用し、今から約40年前の1977年に運転を開始しました。地熱貯留層を適正に管理することで「長期安定運転」ができるのは地熱発電のメリットです。

一方で、地熱発電の調査・開発・運用には高度な技術を要し、資源調査や事業化のための掘削費の高さ、開発までの期間の長さが指摘されています。また、地熱資源が眠る地域には自然公園や温泉地が多いため、地域との共生を前提に、環境との調和を図り、温泉事業者の理解を得る必要もあります。このため、八丁原発電所では建造物をクリーム色に塗装するなどして、阿蘇くじゅう国立公園の景観に配慮していました。なお、発電開始後40年にわたりずっと、温泉への影響は見られていないそうです。


 地熱発電のしくみ  (フラッシュ方式)

“ダブルフラッシュ方式の蒸気発電+バイナリー発電で出力アップ

国内に38カ所ある地熱発電設備容量の合計は約52万キロワット(2015年度)で、日本の電力需要の約0.3%をまかなっています。そのうち八丁原発電所は11万キロワット(1号機55,000kW+2号機55,000kW)と国内最大で、「ダブルフラッシュ方式」を世界初採用。「シングルフラッシュ方式」では、蒸気井から取り出した熱水混じりの気体を気水分離器で蒸気と熱水に分離し、蒸気は蒸気タービンへ、熱水は還元井へ。一方、「ダブルフラッシュ方式」では、分離した熱水をフラッシャーで減圧してさらに蒸気を取り出し、高圧と低圧の蒸気でタービンを回します(3,600回転/分)。八丁原発電所ではこうして出力を約20%増加させているそうです。両方式ともに、残った熱水は還元井を通して再び地下へ戻して涵養し、安定して蒸気を取り出せるようにします。ちなみに年間の発電電力量は約8億7,000万キロワット時で、これは火力発電に使う石油約20万キロリットル(ドラム缶100万本)の節約に相当します。

 ダブルフラッシュ方式

広大な構内でまず足を運んだのは、タービンを回す音が鳴り響く建屋内。その隣の中央制御室には人の姿が見当たりません。地熱発電所は一定出力で連続運転しているため常時操作する必要がなく、約2km離れた大岳(おおたけ)発電所で24時間遠隔監視しているそうです。パネル表示を見ると、八丁原発電所では約85,000キロワットを発電中でした。冷却水・温水・蒸気・熱水管、フラッシャー、気水分離器等々の設備も実際に見て回りました。 特徴的だったのは地熱発電ならではの大規模な「冷却塔」で、シャワーのように水がダイナミックに降り注いでいました。原子力発電や火力発電では冷却水に海水を使いますが、地熱発電所は山間部にあるため、タービンを回した後の蒸気を復水器(冷却水)で温水にし、この冷却塔で冷却することで、また復水器に戻して再利用しているとのこと。

車で坂を上り、標高1,100mの高台から構内一帯を見渡すと、約40年の間につくられた数多くの基地が見えました。地下約2,000mまで掘られた蒸気井から取り出す蒸気は、発電所全体(定格出力時)で毎時800トン程度にもなるそうです。

坂を下る途中で車を降り、構内にある八丁原バイナリー発電所(2,000kW)を見学。幅約16m×奥行約24m×高さ約8.5mのバイナリー発電設備のコンパクトなつくりに驚きました。バイナリー発電とは、地熱流体(蒸気・熱水)を熱源として、沸点が低い媒体(ここではペンタン。沸点36℃)を加熱・蒸発させ、タービンを回して発電する方式です。八丁原では国内初の実証実験を経て、2006年から運転を開始しています。が、この日は停止中。メンテナンスのために一旦止めたら、熱水が通る配管がマイナス10℃超の寒さで凍結してしまったそうです。冬には雪深くなる大自然にある発電所ならではです。

近くには、地域共生を目的とした温泉造成設備もありました。発電に利用できない熱水の熱で温泉を造成し、80℃の温水(150㎘/1時間)を地域に提供。浴用や農業用など多目的に活用されているそうです。

 バイナリーサイクル方式


“丁寧なメンテナンスから生まれる、設備利用率80%の高さ

年間4~5万人の見学者が訪れる展示館には、還元熱水が通る配管内にシリカ(不純物)がびっしりと付着した見本が置かれていました。これを定期的に除去しないと管が詰まってしまいます。また、現在15本稼働中の還元井も年に2〜3本程度、井戸の中の掃除をする浚渫(しゅんせつ)作業が必要とのこと。それでも詰まって使えなくなったら、新たに掘り直したりするそうです。蒸気タービンロータも定期的な交換・修理が必要です。天候や昼夜で出力が不安定な太陽光発電の設備利用率が13%であるのに対し、地熱発電は80%の高さが特長ですが、その裏にはどれだけ多くの地道なメンテナンス作業が日々行われていることか、安定供給を支えている人の努力がしのばれます。

エネルギー自給率の向上、地球温暖化防止の観点から国内外で期待が寄せられる地熱発電。国は、地熱発電の設備容量を現状の約3倍に増やすことを目指し、全国各地50カ所以上で調査が進められています。「九州電力グループは、地下調査から建設、運営まで一貫体制が強み。約60年前から学び、検証しながら実績を積み重ねてきました」と語る所長の顔には自信が満ちていました。さらに国内で培った地熱発電技術を海外に活かし、インドネシアのサルーラ地熱発電所においてプロジェクトを実施している由。今後のさらなる技術開発、そして地域や社会の理解により、“地熱資源大国日本”の可能性が広がることを感じさせる学びの機会となりました。

視察を終えて

地熱発電のメカニズムを初めてつぶさに見て、たくさんの発見をした。地熱は供給力のなかでもベース電源と位置づけされている。自然を相手にしているのに何故なのだろうと不思議に思っていたが、自然任せだからこそなのだと知った。同じ再エネでも、太陽光や風力のように自然任せだから、今はベース電源になり得ない発電もあるが、自然任せだからこそ、ベース電源にしかなり得ない地熱のようなものもあるのだ。人間が自然に向き合う時、そこには自然の偉大さがあることを肝に銘じておかなければならないことを痛感する。
日本で本格的な地熱発電所の運転が始まってから約50年、今や全国で38カ所、52万キロワットにまでなった。火山国である日本列島には、資源量では世界第3位の無尽蔵ともいえる地熱資源が眠っているという。同じ自然任せの発電システムでも、天候などに左右されない安定した再生可能エネルギーとして、地熱資源の利用はこれからも技術を積み重ね進んで行くだろう。しかしそこには自然の偉大さと共存しながらという、大きな命題もある。その苦労が良く理解できた視察だった。

神津 カンナ

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