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エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

東京ガス供給指令センター見学レポート
巨大地震に備えた、都市ガス供給事業者の防災対策最前線

1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災など、近年の日本では巨大地震が発生しており、今後、大都市を襲うさらなる巨大地震も予測されています。電気とともに、私たちの生活を支えてくれている都市ガスは、災害時に被害を出さないようにするために、どのような緊急対応が準備されているのか、そして復旧までにどのような取り組みが考えられているのかなどを学習するために、2014年1月22日、ETTメンバーは、東京ガス供給指令センターを見学しました。

 

江戸庶民の暮らしから学ぶエコ・クッキング

見学会で初めに訪れたのは、皇居外苑にある「楠公レストハウス」。ここは、(財)国民公園協会皇居外苑と、エコ・クッキング推進委員会、東京ガスとの協働プロジェクトによって生まれました。江戸城のあった皇居外苑ですから、「江戸」という時代に注目し、創意工夫で編み出された江戸庶民の味を、エコ・クッキングを通じて再現し、食育と環境教育に貢献することを目的にしているそうです。たしかに、江戸時代は、燃料、水、食材とすべてが現代のように豊かではありませんでしたが、庶民の暮らしぶりからは、自然の恵みや限られた資源を無駄なく使い尽くすという、現代の循環型社会のお手本として学ぶことが多くあります。「楠公レストハウス」の料理長による、江戸の味を再現した「江戸エコ行楽重」というメニューの説明を受け、昼食としていただいた後、東京ガス食情報センターの方から、エコ・クッキングについて講演していただきました。

食とエネルギーは、私たちの生活の基本となるものです。東京ガスは100年前から料理教室を開催してきたそうですが、時代とともに暮らしが変わっていく中で、ガスを使って調理し、おいしくいただき、五感を育てることを目標に、調理の過程で、ガスコンロの炎をはみ出さないように弱める、水を大量に使わないで食器を洗う工夫など、ささいな積み重ねにより環境に配慮するエコロジーも両立するよう提案しています。

災害の経験データの集積により進化した地震対策の三本柱

東京ガス本社ビルに移動し、まず、都市ガス事業者の団体である日本ガス協会の方から、「東日本大震災後における安全に関する日本ガス協会の取り組み」と題したお話を伺いました。東日本大震災では、全国に209ある都市ガス事業者のうち、震度5弱以上が観測された事業者は77にもおよび、このうち、16の事業者、46.3万戸が供給停止になったそうです。ガス供給設備の被害状況は、海外から輸入した液化天然ガスを工場で気化して送り出す高圧パイプラインには被害がなく、地域の道路などを通じてガスを供給する中圧管もそれほどではありませんでしたが、さらにその先の各家庭などに供給する低圧管の中には、溶接ではなく、ねじ接合管であったり、地震に強いポリエチレン管を使用していなかったところに損傷が出たり、また地盤の液状化でガス管の中に土砂が入り使えなくなったそうです。

地震対策の基本的な考え方には、1.設備対策、2.緊急対策、3.復旧対策の三本柱があります。1については、変形しても伸縮性のある耐震性に強いポリエチレン管を普及させたり、ガス製造設備の耐震設計や維持管理などがあります。2については、地震の時に、被害状況を確認せず即停止する第一次緊急停止判断と、設備の安全確認を行った際に安全性が確認されない場合は、速やかに停止する第二次緊急停止判断があります。第一次緊急停止判断の基準になるのは、地震計のSI値が60カイン以上だそうですが、この基準は、阪神淡路大震災において、ガス供給の上流で供給停止をさせるまでに6時間を要したために見直され、今回は10〜40分で停止の判断が下されました。

※SI値(= Spectrum Intensity)とは、地震によって一般的な建物がどれだけ大きく揺れるかを数値化したもの。地震の揺れを表す「震度」、観測点での地震の大きさを加速度で表すガル gal が一般的だが、SI値カイン kain によって被害の大小を判断する方がより的確だともいわれている。3つを比較すると、震度6弱≒520~830ガル≒41~70カイン。

近年に起こった巨大地震の被害状況や復旧までの経緯など、集積されたデータによって、地震対策は、年々、進化しています。その中の一つには、たとえば、地震の揺れを感じたら自動的にガスが止まるマイコンメーター設置の義務化(2001年より)があります。ガス供給の上流で供給停止してしまうと、損傷が軽度であっても全戸の安全確認など完全復旧までに時間がかかりますが、3の復旧対策について、東日本大震災においては、最も被害件数が多かった仙台市で36日、その後石巻市の復旧をもって5月3日に全ての地域で復旧が完了しました。最大時には全国から4,000名ものガス復旧応援隊が駆けつけ、一日でも早くガスを使えるように仮配管を設置したり、また、病院や避難所などで使えるような移動式ガス発生設備も活用されたそうです。今後は、地盤被害が想定される地域は含まず、供給管や建物などすべての耐震化率が90%以上の地域については、SI値を60カインから80カインに上げ、供給停止地区を極小化することで、安全で早期な復旧を図っていきたいとおっしゃっていました。


迅速な緊急対応を可能にした最新式地震防災システムとは

全国のガス事業者の中でも、東京ガスは契約数1,000万以上の最大規模の事業者であり、東京を中心とした首都圏一円にガス供給網が張り巡らされています。東京ガスの方から、災害時のガスによる大規模な二次災害をどのように防ぐのか、また、ガス供給指令センターの役割についても伺いましたが、平常時のガス供給指令センターは、一日の時間帯によってガスの需要が変化するため、供給とのバランスを図るようになっており、東京湾沿岸にある扇島、根岸、袖ヶ浦の3つの都市ガス製造工場や、ガスをためておく「ガスホルダー」などへ、遠隔制御で供給操作を行う、中枢機関です。

災害時のガスの供給停止には3ステップあります。第一のステップは、身近なマイコンメーターが震度5程度の揺れで安全装置が働き、供給を自動的に停止します。次のステップは、東京ガスの供給エリア内4,000カ所に取り付けられている、SI値を計測する「SIセンサー」がSI値を感知して、「地区ガバナ」と呼ばれるガス整圧機器の自動遮断装置と連動し、小さい範囲でガスを遮断する仕組みになっているそうです。地区ガバナは、およそ1㎢に一つの割合で設置され、自動遮断の情報は、供給指令センターに送られます。さらに供給を停止すべき地区ガバナに対しては、供給指令センターから遠隔操作で遮断作業を行うことも可能です。一方、都市ガス製造工場からの高圧ガスを減圧して中圧導管に送り出す「ガバナステーション」からも、ブロックごとにガス供給停止の遠隔操作ができます。



この大規模な地震防災システムが、2001年7月から運用が開始された「シュープリームSUPREME」です。阪神淡路大震災クラスの地震が起きた場合、従来のように従業員が一つずつ手作業で供給停止をしていくと、40時間もかかるところ、約10分にまで短縮されます。また地域をブロック化しておくことで、供給を停止する地域が最小限に抑えられるため、2020年を目安に、被害甚大地区を除いた30日以内の早期復旧ができるような流れを構築するそうです。

ETTのメンバーは、供給指令センターを実際に見せていただきました。4名×4チームが、交替で24時間365日、待機しているという指令室には、外部の情報をチェックするためにテレビモニターが常時つけられ、供給量に大きな影響をおよぼす気象情報の端末や、首相官邸からのテロ情報など緊急連絡網の端末、東京都の防災情報網の端末、内閣府の中央防災網の端末も装備されています。ここは、地震の時に、ビル内で揺れが最も小さい4階にあり床も免震化されているために、緊急時の防災拠点となりますが、万一の備えとしてバックアップ用のサブセンターもあるそうです。またセキュリティ面においては、操作を行うためには多重の暗号で管理されています。メンバーはモニター画面で巨大地震を想定したシュープリームのシミュレーションを見せていただき、またマイコンメーター停止後の復旧手順を実際に体験しました。

私たちは、便利で快適な生活を送りながら、安心で安全なエネルギー供給が事業者の方たちによる監視とコントロールによって守られていることをつい忘れがちです。関東大震災から91年、人口はほぼ4倍にふくれあがり、高層ビルが立ち並ぶ大都会に発展を遂げた東京と周辺部で、もし仮に巨大地震が起こったとしても、ガスによる二次災害を最小限に食い止める初動措置の最新システムや安全で迅速な復旧に向けての体制作りがなされていることを、初めて知る機会となりました。

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