特集

エネルギー関連施設の見学レポートや各分野でご活躍の方へのインタビューなど、多彩な活動を紹介します

関西地方&福井県メンバー懇談会
“関西地方&福井県に暮らすメンバーたちと考えるエネルギー

ETTでは2020年に迎えた設立30年を機に、神津カンナ代表が各地域を訪問し、メンバーの皆さまとともに地域のエネルギーの歴史や課題などを議論・意見交換する懇談会を実施しています。第9回目は関西地方に暮らすメンバーと、関西地方に電気を供給する福井県美浜町に暮らすメンバーをお迎えして2022年6月9日に開催しました。



餌取 章男氏(京都府京都市在住)科学ジャーナリスト/京都先端科学大学客員教授
槇村 久子氏(奈良県奈良市在住)京都女子大学宗教・文化研究所特任教授
松田うめ子氏(福井県美浜町在住)ユーチューバー

小学生から科学の基礎を教えて自分で考える教育を

神津 まずは自己紹介とETTとのつながりからお話いただけますでしょうか。

餌取 ETT設立からのメンバーで、今年で32年目になります。最初10年位はアクティブに全国を回ってシンポジウムを開いたり、フランスやドイツなど海外の原子力施設へ見学に行ったりもしました。科学雑誌『サイエンス』を創刊して編集長をしていたことから、『ETTニュース』という冊子の編集長もやりました。その後ETTの活動はしばらく休止していたのですが、1年位前から復活し、今は楽しく参加させていただいています。

松田 私の住む福井県美浜町には関西電力美浜発電所があります。1,2号機は廃炉となり、3号機は定期検査中です。美浜発電所は原子力発電所のいわばパイオニアで、大阪万博(1970年)の会場に1号機が初めて送電した歴史があります。ETTには私も所属している「福井県女性エネの会」から推薦を受け、入会させていただきました。美浜町議会議員を5期20年、4年前の70歳まで務め上げ、美浜町の「原子力平和利用協議会」のメンバーとしても活動しています。

槇村 大学は農学部だったのですが、奈良新聞の新聞記者をしていた時、女性のまちづくりの場をつくろうといろいろなジャンルの女性を集めて「なら女性フォーラム」をつくって活動しました。その後、やはり専門的な道を目指したいと、10年位研究を続けてドクターになりました。1992年リオで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」に参加した後、関西電力の方と知り合い、「地球環境関西フォーラム」に参加させていただいたのをきっかけに、ETTにご紹介いただきました。

神津 餌取さんはジャーナリスト、松田さんは原子力発電所の立地住民、槇村さんは大学教授というお立場で、今までにエネルギーに対する思いも紆余曲折あったかと思いますが、今一番感じるのはどんなことですか?

餌取 私は現在大学で教えていて、1学期15回の講義中にエネルギーもテーマに入れていますが、学生は省エネにしかなかなか興味を持ってくれませんし、SDGs* の17項目を大事だと思う順に順位を付けさせてもエネルギーは上位に入ってきません。〝エネルギー問題の重要性を何とかして伝えたい〟と教壇に立っていますが、若い人の関心は薄いですね。一方で私も参加している「技術同友会」の会員は、引退された科学技術系の経営者が多いのですが、皆さんエネルギー問題、特に原子力に関心を持って非常に勉強されています。
*持続可能な開発目標。

松田 国を維持していくには、〝安全が脅かされないこと〟〝食の自給率〟〝エネルギー確保〟の3つが必要ですが、今の若い人たちは「戦争になったら逃げればいいし、食料もエネルギーも買えばいい。なんとかなる」と安易に考えます。「原子力がなくても電気は点いているし、再生可能エネルギーで賄える」と思っている人が多いように思います。とはいえ、このままでは原子力の技術者が育ってこないのも事実です。私は、原子力発電だけがベストではないと思います。クリーンで良いエネルギーがあれば一日も早く開発していただきたいが、それまで原子力はベストミックスに必要という考えです。あと、報道ではリスクばかり強調されるので若い人たちは流されてしまいます。〝何が本当なのか見極める力〟が重要と感じています。

槇村 私は〝原子力についての正当な議論がない〟と、以前から思っていました。〝環境のためには再生可能エネルギー〟が大きな方向かもしれませんが、コロナ禍やウクライナ情勢など多様なエネルギー安全保障の観点から、原子力についてきちんと議論すべきかと思います。あと学生についてですが、エネルギーは目に見えないのでわかりにくいのです。私は、歯ブラシを使う、コーヒーを沸かすなど、朝起きてからの行動を学生に書いてもらって〝エネルギーが自分の生活にどう絡んでいるか〟を身近な問題として体感させた後、〝食料と水とエネルギーがどう絡んでいるか〟グローバルな全体像を考えてもらいます。さらに専門的なことはETTから先生に来てもらって話をしていただく。こうして続けていくと学生は変化していきます。

神津 なるほど。松田さんが報道のあり方について言及されましたが、餌取さんはジャーナリストしてどうお感じになりますか?

餌取 よく言われることですが報道は事件主義で、事故が起きた時ばかり報道します。報道も商売なので、多くの人の興味をひいて読まれなければならないからです。しかし新聞を読んでいる学生は50人中1、2人しかいませんし、テレビもあまり見ていません。見ているのはSNSかYouTubeです。これも教育の問題だと思います。

神津 餌取さんは、〝相手に伝える言葉が不足しているのではないか。科学技術についても、できるだけわかりやすく伝えることを怠っているのではないか〟といった思いもお書きになっていますよね。

餌取 人にわかりやすく伝えるためには、国語力も必要です。大学生に話をさせたり文章を書かせたりすると、はじめのうちは言葉遣いも幼稚で拙いです。表現を豊かにする訓練を中学校や高校で受けていないせいだと思いますが、教えると半年で随分変わります。

松田  ものを書くことは非常に難しくて、自分のフィーリングも大事だと思います。私は、議会だよりを発行していましたが、文章は話し言葉だと言われました。

槇村  理系と文系の学びの違いもあると思いますよ。理系の学生が学ぶ基礎的な科学知識の体系は時間がかかります。一方、広い視野でものごとを見て考える教養教育が弱くなっています。また、中学校や高校で理系をベースに学ぶ学生は少ないのではないでしょうか。エネルギーの話を誰でもわかるようにするためには、小学生から自然や科学の基礎をきっちり教えて、自分で考えられるようにしておくことが必要だと思います。

神津 どの地域へ行って懇談会を開いても、やはり教育の問題に帰結しますね。

槇村 日本の教育自体を真剣に考えないといけないと思います。

一般の方にどうわかりやすく伝えて考えてもらうか

神津 さて、皆さんはETTのメンバーとして長く活動されていらっしゃいますが、今後これだけはやっておきたいことはありますでしょうか?

松田 エネルギーと環境は密接につながっていますが、今のエネルギー環境教育は環境に特化しています。美浜町エネルギー環境教育体験館「きいぱす」* が2017年にできましたが、環境8割、エネルギー2割という内容なので、もう少し子どもの頃からのエネルギー教育が必要ではないかと感じます。「福井県女性エネの会」では「子どもとエネルギー」をテーマに年1回取り組んでいますので、ETTに賛同していただければと思います。
*日本で唯一、エネルギー環境教育に特化した体験館。丹生湾を挟んだ対岸には美浜原子力発電所が立地している。

神津 確かにエネルギーは環境や経済、食料をつくるにも、いろいろなところとリンクして国を動かす土台になりますから、エネルギーに興味がないのは一番の問題かもしれませんね。

槇村 松田さんにお伺いしたいのですが、美浜町の小学校ではエネルギーの施設へ見学に行きますか?

松田 ごみ焼却施設やリサイクル施設には行きますが、原子力発電所には行きません。今は「きいぱす」に行ってエネルギーについて学ぶことができるので、学校教育の一環に組み込まれています。

槇村 小学生位になると上・下水道施設に見学に行きますが、なぜ発電所には行かないんだろうと疑問に思います。私は現場主義で、子どもでも大人でも体感すると考えるチャンスができると思っています。あと、ETTでの勉強は専門性が高いので、その知識を一般の方にわかりやすく伝えるノウハウをつくって実践することが大切かと思います。一般市民とETT会員とのレベルが、だんだんとかい離してきているのですよ。例えばウクライナ情勢を通して、日本がどこからエネルギーを持ってきているか、原子力の必要性も含めてトータルに学ぶこともできますよね。そういったことをわかりやすくパッケージとして伝え、考えてもらう場をどうやってつくっていくか、最近悩んでいるところです。

神津 科学技術に詳しい人と、報道に流されやすい一般の人とのかい離を、もう少し融合させて話をする方策はあるのでしょうか?

餌取  2025年に開かれる大阪・関西万博で、楽しいエネルギー館をつくれば良いチャンスだと思うのですが…。

松田 今度の大阪・関西万博では、AI(人工知能)やメタバース(仮想空間)への移行がテーマの主流になるのではないでしょうか。

槇村 バーチャルへの関心はますます高まるでしょうが、水や食料、エネルギーがないと生身の人間は生きていけないことを、小さい時に生活の中で体感的に気づくことが大事だと思いますが、日本の教育はできていないと感じています。キャンプに行ってもトイレも焚き火もありますよね。そうではなくて、例えばスウェーデンやノルウェーなどは寒い国なので、暖を取る、食べるなど、自然の中でどうやって生きていけるかという生活体感を環境教育の中で重要視しています。

松田 玉ねぎやじゃがいもがすごく値上がりしています。 私は一反程、野菜や花をつくって自給自足できる生活を心がけていますが、こうした経験をしていない子どもたちも大人になって自給自足を経験する状況になるかもしれませんね。

神津 感染症が起きると人や物が移動できなくなり、ウクライナで戦争が起こりエネルギーや食料が買えず物価が上がりました。〝お金を出せば買えるものではない〟と若い人たちが気づいた瞬間を、エネルギーに関心を持たせるチャンスとして上手く捉えられるでしょうか?

餌取  今、ETTの活動としては、ある程度エネルギーに関心を持っている方に対して勉強会や見学会をしていますが、ETTの本来の使命はエネルギーに関心を持たない方にどうやって関心を持たせるかにあると思うのです。

神津 エネルギーに関心のあるメンバーの方たちに情報提供をして、一般の方たちに伝搬していただくというのが一番良い形なのですが…。

餌取 つまり、エネルギーの伝道師をできるだけたくさんつくるということですね。

槇村 食料生産にもたくさんのエネルギーを使っているなど、短い動画にして伝えていくのはどうでしょうか?

松田 国もYouTubeで配信すればいいのにと思います。私はYouTubeを2年前から配信しています。福井県内を中心とした良いところや、県外に行かれない人に喜んでいただきたいと始めたのですが、だんだんとこれは後世の人たちに日本の風景の美しさを伝えることになると思うようになり、今はその記録も兼ねて残していけたらいいと思っています。

餌取 やはり若い人たちがどう育つかが大きな問題だと思っているのです。今は大学で限られた人数の学生を教えていますが、できれば日本全国を巡回して、大学生より若い人たちの間に入って行って、エネルギーの大切さなどを語りかけられたらいいなあと。それが自分の夢です。すぐに効果が現れなくても、話を聞いていつか刺激を受けたことが将来に影響することもありますから。

槇村 講義を昨年で終えてしまったので学生と直接会う機会はなくなったのですが、先日、若者アイデアコンテストの発表会を見たら、高校生や大学生が自分たちでグループをつくってテーマを考え出し、ディスカッションをしてアクションを起こし、思いも寄らないような解決策を見出すということを熱心にやっていました。ETTでも、若い人たちにエネルギーへの興味や行動を引き出す活動ができたらおもしろいのではないかと思います。

琵琶湖の水には恩恵を感じるが福井の電気には?

神津  関西に来たので最後にお伺いしたいのですが、関西と関東とでは、やはり違いがありますか?

餌取 僕は84歳まで東京にいて、京都に来ました。京都はよそ者に厳しいところも確かにありますが、学生が多いので学生を大事にする街でもあります。

槇村 私は根っからの大阪人ですが、関西は同調性も高いので、関西で女性が新しいことをやるとなると東京の倍エネルギーがかかる感じがしますし、それが通説ですが、そのぶん、ここでできれば本物かと思います。それに関西は文化に深みがあります。

松田 私は元々岐阜県出身ですが、私から見ると大阪は住みやすくて庶民的、東京はお金があれば快適な生活ができるが、なければ一日も暮らせない街といったイメージです。しかしどこであれ、自分の周りの地域は自分がつくっていくものだと思っています。

神津 東京には原子力発電所はありません。東北電力管内の福島県や新潟県に東京電力が原子力発電所をつくり、東京に送っていますが、そこに住んでいる人の生活は東北電力の電気です。管轄はあくまでも東北電力です。ですから、東京の人も、東京に電気を送っている福島や新潟の人も、どこか他人事のような感覚がある気がするのです。けれども大阪は、関西地域に送る電気をつくっている原子力発電所が建ち並ぶ福井県の「嶺南地区」を関西電力管内としています。美浜発電所もしかり、高浜や大飯もそうですよね。そのため東京より原子力を「自分事」と感じるのではないかと思うのですが、実際はどうなのでしょう?

槇村 まず関西と関東との違いですが、関西圏は大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、和歌山県、滋賀県と、それぞれが独自で、首都圏のように一枚岩ではありません。また、福井県に原子力発電所が集まっていますが、そこから電気を送ってもらっているという意識は少ないのではないかと思います。普通に生活していて事故が起こらなければ、電気が来るのは当たり前と皆が思っていますから。それは残念だし、もっと知っていただかなければならないですね。

松田 私が残念に思うことが一つあります。滋賀県の琵琶湖の水が関西に供給されていることに関西の人はすごく恩恵を感じ、琵琶湖の浄化のためにいろいろな補助金も出しています。一方で、福井県の原子力発電所の電気は滋賀県にも供給されているのに恩恵どころか、「事故が起きたら伊吹山を越えて被害が起きるかもしれないので反対」という声が議会でも出て、それを聞いた時に残念だと思いました。

槇村 おっしゃる通りで身につまされます。琵琶湖に関しては、その水を直接飲むので関西の住民の意識も高く、たいへん注目されているのですが、電気に関しては福井県にこれだけの恩恵を受けているのに残念で、何か形になる手立てはないものかといつも思っています。

神津 そこは東京と同じなのですね。本日はお集まりいただき、ありがとうございました。


懇談を終えて

関西地域での懇談会には三人の方が参加した。このメンバーが非常に面白く、年を重ねてから京都に移住した方、奈良在住の方、原子力立地地域である福井県の美浜の方、つまり、大阪抜きの懇談会だったのだ。ETTに大阪のメンバーの方はいらっしゃるのだが、うまくスケジュールがやりくりできず、偶然にこうなってしまった。本当のことを言えば、消費地である大阪の方の意見も聞きたかったが、外郭から語るというのも、実に面白いものだと思った。渦中にいると、肝心なものが見えなくなってしまうことも往々にしてあるが、同じ地域にいながら、ちょっと外から見ると案外分かるものもある。もちろん大消費地の悲哀も聞きたいところだったが、こういう懇談会も良いものだと感じた。
それにしても、関西地域であらためて気づかされたのは、琵琶湖というものがある種の象徴になっているということ。琵琶湖は、東京ドームや富士山と並ぶのである。東京ドーム、幾つ分の敷地が必要。富士山が三つ沈んでしまうような深さ。琵琶湖の水のわずか何分の一。そんなふうに表されると正確には分からないが、何となく理解できるような気分になる。琵琶湖の水の話がそこここに出てくるのが面白かった。これが地域の色であり、面白さなんだと痛感した。
どんなに情報技術が進んでも、嗅覚や感触や空気感はなかなか掴めないのと同じように、そこの「象徴」は必ずある。それを知るのが地域懇談会であり、そして空気感を感じることができる唯一の機会が地域懇談会なのだと、ちょっと得した気分で自分の地元に戻った。同い年の東京タワーが輝く東京に。

神津 カンナ




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